天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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 平片が鈴の細い腰を抱き寄せる。
「おま、ちょっ」
 鈴は慌てて仏間を見る。襖はしっかりと閉まっていた。
「俺も味見させてくれよ」 
 平片が顔を近付けて、鈴の唇を貪った。
「んっ…」
 離れては塞がれ、また角度を変えては唇が重なる。
「も。う、裕太っせっかくの紅茶が冷めちゃう」
 鈴は喘ぎながら、平片の胸に頬を当てた。
「このままじゃ恵の所行くの遅れる。罰として、これ持ってって」
 鈴が恨めし気に見上げるが、平片からにしてみたら、誘惑してるとしか思えない。
「鈴、その顔他の奴に見せるなよ?」
「え?」
 鈴は首を傾げた。
「マジでこのチョコ美味いな」
 平片がにやりと笑う。鈴は真っ赤になって早く行けと背中を押す。平片が笑いながら仏間へ行った。まったくと、鈴は溜息を吐いて振り返り、今度こそ固まった。
「…お前もか、鈴」
「お、お、お、伯父さんっ!? いつからそこに!?」
「母さんと入れ違いにだ。それより、俺は弟に顔向け出来ん…」
 ーーーしなくて良いです。僕ひとり息子だし…。
 二人は違う意味で溜息を吐いた。

「お帰りなさいお父さん」
 太一と鈴は複雑な顔。恵が太一の帰宅に、顔を向けて首を傾げた。
「鈴、具合い悪いの? 顔が紅いよ?」
「何!?」
 平片が振り返る。
「違う違うっ」
 鈴が慌てて両手を顔の前で、フルフルと振る。
「違うなら良いけど。お父さん早かったね?」
「あぁ? あぁ! お父さんの勘違いで、今日から仕事休みだった、うん」
「…そう?」
 恵が双眸を見開き、太一がスーツの上着を洋服箪笥にしまう。
「大丈夫か?」
 平片が鈴に訊く。お茶を飲む準備に、小さな丸いテーブルを平片が出す。その上にさっきの盆に載った紅茶を置いた。
「え? うん…後でね?」
「?」
 何気に太一が平片を見て、溜息を吐く。
「お、伊吹寝てんのか? 部屋に運ぼうか」
「うん。お願いお父さん」
 恵がチョコをひとつ手に取った。

 十和子と入れ違いに鈴と平片が帰って行く。結局鈴と平片は食事をしないで帰宅した。
「それじゃあね? 良いお年を」
「良いお年を」
 鈴と平片が同時に云うと、恵と伊吹は仏間から同じ言葉を返し、十和子と太一が、二人を玄関で見送って云う。平片は近くのコンビニに入った。
「さっき鈴、どうしたんだよ? 顔が紅かったって、恵が…」
「キスしてた場面を伯父さんにバッチリ見られてたんだよ」
 鈴が買い物籠に飲料水を入れる。
「そうか見られてたのか、なんだなんだ。そうかふ~ん………え!?」
「馬鹿」
 固まる平片に、鈴が溜息を吐く。
「あれぇ? 細川じゃん」
 後方から鈴のクラスメイトで、鈴と同じ時期生徒会に入る上村が、何故か二人に偶然だとばかりに出くわした。
「珍しいじゃんっ平片」
「…そうですね。上村先輩」
「あぁ。本屋に辞書を買いにね」
 ーーーほう。線路の反対側からかよ? 見え透いてる。絶対この人鈴狙いだな。
「相変わらず勉強熱心だね?」
「勿論。今度こそ学年試験テスト、鈴を追い越して、一位になる為だよ」
 それを聞いた平片は驚いた。
「鈴、トップだったのか!?」
「あれ? 知らなかったの?」
 嫌味たっぷりに上村が平片を鼻で笑う。平片はムッとして鈴の腕を掴んだ。
「裕太?」
「急ぐんだろ? 早く行こう」
「平片君、いくら幼馴染でも、先輩を呼び捨てなんて可笑しいな」
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