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天使は甘いキスが好き
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「部長? 部長じゃないですか?」
本屋の中に置かれたベンチに座っていた太一は、倉木の声に顔を上げた。
「くら、き?」
お腹を見れば妊婦姿で、お腹を擦っている。太一は驚愕で立ち上がった。
「そんなに慌てないで下さいよ? 結局奥様命の部長に、私かないませんから」
「しかし、その子供は…」
「私結婚するんです」
太一は「え? 」と、固まる。
「幼馴染が、構わないから結婚しようって云ってくれたんです。それでこれから彼と実家へ」
彼女は幸せになるのだ。太一はホッとした。
「そうか。…君を巻き込んで悪かった」
太一は深く詫びた。 倉木を私情で振り回したのだから。倉木が振り返って、レジに並ぶ婚約者に手を振る。相手が太一にお辞儀をした。太一もつられてお辞儀をし、おめでとうと云う。
「あら。別に気になさらないで下さい。カッコイイ部長のDNAが欲しかった。それだけです。前に恵君を見た時、奥様似ですけど、やっぱり部長にも似てると感じたんです。だから誘惑したの。ね? だから気になさらないで? それじゃあ。失礼します」
そこで別れた太一は、倉木の残り香に困って急遽、タバコを数本吸い捲くった。
「気を使うのも楽じゃないな…あれ? 鈴?」
遠くで鈴と平片が改札口へ向かって、駅構内へ向かって歩いて行く姿が見えた。
「……忘れてた…何故此処で思い出す? 俺は弟になんていや良いんだ? はぁぁぁっ」
恋愛は自由。自分も身の上で犯した罪だって消えない。が、問題が二つある。ひとつは倉木が産む、もうひとりの兄弟になるだろう恵の弟か妹。人と人の繋がり。だから余計に恵を龍之介から引き離せなかった。それは罪滅ぼしなのか。今の太一には解らない。そして二つ目は、鈴と平片だ。
「お父さん」
恵が呼ぶ。約束通り龍之介が恵を太一の許に連れて来た。太一は軽く手を上げて立ち上がる。クンクンと、倉木の香水が残っていないか確かめた。
「どうしたの?」
「あ? いや…なんでも」
恵は首を傾げ、頬を染めながら太一を見上げた。
「…お父さんずるい。ビックリするじゃないか」
「すまん。こうでもしなきゃ、恵はお祖母ちゃんに気を使って会えないだろう?」
龍之介が畏まって太一にお辞儀をする。
「本当にすみません。本当なら反対されて当然なのに、許して貰えただけでも感謝しています」
太一に男同士の龍之介との付き合いが知られてしまっているのだ。
「お父さん…」
「恵に寂しい思いをさせて来たからね。父親としては本当なら反対すべきだが…南川さん、あなたの恵を想う心に嘘偽りが無い事を祈りますよ」
「はい。恵の事は責任を持って」
「ちょっちょっと!」
恵はさすがにストップを掛けた。
「これじゃ、俺嫁に行くみたいじゃんか!!」
ーーー云った自分が恥ずかしいっ。
太一と龍之介は顔を見合わせ、噴出した。
「なんだかなぁ。恥ずかしいのは俺もなんだけどな?」
龍之介がそう云って恥ずかしそうに微笑する。恵の真っ赤になって両頬が膨れた。
ーーー恵が娘なら。
太一は想う。
ーーー母さんも反対しなかったかもな。
龍之介は恵の背中を押す。
「またメールを送るから」
「……うん」
二人の間には、複雑な壁が在る。龍之介の後姿を見送る恵を、太一は優しく静かに見守った。
「…鈴が夕方来るって」
「それじゃ、お父さんが飲み物でも奮発するか」
恵はいくつかリクエストしながら、太一の後を連いて行った。
白い白い羽。
空からゆっくりと舞い落ちる。
ーーーあれは天使の羽? そうか。またあの夢を見ているんだ。
恵は那須高原の別荘で、二階の窓から落ちた秋から此処四か月分の記憶を失った。その日から度々出て来る白い羽。
本屋の中に置かれたベンチに座っていた太一は、倉木の声に顔を上げた。
「くら、き?」
お腹を見れば妊婦姿で、お腹を擦っている。太一は驚愕で立ち上がった。
「そんなに慌てないで下さいよ? 結局奥様命の部長に、私かないませんから」
「しかし、その子供は…」
「私結婚するんです」
太一は「え? 」と、固まる。
「幼馴染が、構わないから結婚しようって云ってくれたんです。それでこれから彼と実家へ」
彼女は幸せになるのだ。太一はホッとした。
「そうか。…君を巻き込んで悪かった」
太一は深く詫びた。 倉木を私情で振り回したのだから。倉木が振り返って、レジに並ぶ婚約者に手を振る。相手が太一にお辞儀をした。太一もつられてお辞儀をし、おめでとうと云う。
「あら。別に気になさらないで下さい。カッコイイ部長のDNAが欲しかった。それだけです。前に恵君を見た時、奥様似ですけど、やっぱり部長にも似てると感じたんです。だから誘惑したの。ね? だから気になさらないで? それじゃあ。失礼します」
そこで別れた太一は、倉木の残り香に困って急遽、タバコを数本吸い捲くった。
「気を使うのも楽じゃないな…あれ? 鈴?」
遠くで鈴と平片が改札口へ向かって、駅構内へ向かって歩いて行く姿が見えた。
「……忘れてた…何故此処で思い出す? 俺は弟になんていや良いんだ? はぁぁぁっ」
恋愛は自由。自分も身の上で犯した罪だって消えない。が、問題が二つある。ひとつは倉木が産む、もうひとりの兄弟になるだろう恵の弟か妹。人と人の繋がり。だから余計に恵を龍之介から引き離せなかった。それは罪滅ぼしなのか。今の太一には解らない。そして二つ目は、鈴と平片だ。
「お父さん」
恵が呼ぶ。約束通り龍之介が恵を太一の許に連れて来た。太一は軽く手を上げて立ち上がる。クンクンと、倉木の香水が残っていないか確かめた。
「どうしたの?」
「あ? いや…なんでも」
恵は首を傾げ、頬を染めながら太一を見上げた。
「…お父さんずるい。ビックリするじゃないか」
「すまん。こうでもしなきゃ、恵はお祖母ちゃんに気を使って会えないだろう?」
龍之介が畏まって太一にお辞儀をする。
「本当にすみません。本当なら反対されて当然なのに、許して貰えただけでも感謝しています」
太一に男同士の龍之介との付き合いが知られてしまっているのだ。
「お父さん…」
「恵に寂しい思いをさせて来たからね。父親としては本当なら反対すべきだが…南川さん、あなたの恵を想う心に嘘偽りが無い事を祈りますよ」
「はい。恵の事は責任を持って」
「ちょっちょっと!」
恵はさすがにストップを掛けた。
「これじゃ、俺嫁に行くみたいじゃんか!!」
ーーー云った自分が恥ずかしいっ。
太一と龍之介は顔を見合わせ、噴出した。
「なんだかなぁ。恥ずかしいのは俺もなんだけどな?」
龍之介がそう云って恥ずかしそうに微笑する。恵の真っ赤になって両頬が膨れた。
ーーー恵が娘なら。
太一は想う。
ーーー母さんも反対しなかったかもな。
龍之介は恵の背中を押す。
「またメールを送るから」
「……うん」
二人の間には、複雑な壁が在る。龍之介の後姿を見送る恵を、太一は優しく静かに見守った。
「…鈴が夕方来るって」
「それじゃ、お父さんが飲み物でも奮発するか」
恵はいくつかリクエストしながら、太一の後を連いて行った。
白い白い羽。
空からゆっくりと舞い落ちる。
ーーーあれは天使の羽? そうか。またあの夢を見ているんだ。
恵は那須高原の別荘で、二階の窓から落ちた秋から此処四か月分の記憶を失った。その日から度々出て来る白い羽。
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