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天使は甘いキスが好き
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『俺も』
かおるは困って首を傾げていた。
「お母さん…?」
懐かしい夢を見た。恵は触り心地の良いシーツに、手を滑らせた。
「え?」
何かに腕を引っ張られた。枕許を見上げれば、ベッドの柵に紐が括り付けられている。服等は脱がされて、恵は全裸だ。
「な、何!?」
恵は、恐怖で部屋の中を見渡した。ログハウスのゲストルーム。
ーーー何処かで見た。何処だろう?
左手のギブスは辛うじて外されてはいなかった。服は何処だろうと眼で捜す。そこで初めて、恵は胸に在る筈のペンダントと、指輪が無いのに気付いた。米髪がズキリとした。荷物は見渡しても何処にも見当たらない。勿論着替えもだ。
「あれ、もう起きたんだ」
恵は肩をビクッと震わせて、ドアの開いた方へ振り返った。男の顔に恐怖を覚え、ベッドの上で後退る。背後は壁だ。一種の防衛手段だ。けれど右手だけが、ベッドの柵に繋がれて、恵は逃げる事が出来なかった。
「恵君。お腹空いただろう?」
男はワゴンに、パンとシチューを載せて運んで来る。
「……あの、どなたですか? 俺、なんでこんな事に」
すると男は恵の問いに笑い出す。
「なる程、…美加が恵って子が可笑しいって云ってたが、そうか。記憶喪失か」
恵はベッドに腰を下ろした男を凝視する。
美加は龍之介の元カノだ。先日喫茶店で恵に因縁をふっ掛けて来た。
「俺は崎山俊彦。君の恋人だよ」
「嘘! 俺の恋人は龍之介さんだけだ!」
「誰が云ったの?」
恵は黙り込んだ。太一が、それに龍之介が云ったのだ。
「そんなのあなたに関係無い」
刹那、パンッと頬を叩かれた。
ーーー…な…に? 殴られた? 前にもこんな事…?
「兎に角、君は俺の『恋人』だからね。あぁ、君の綺麗なその姿を携帯電話のカメラモードで撮って、龍之介に送っておいたからね」
目眩がした。
「なんで? どうして? 俺あなたに何かしたの!? どうしてこんな事するの?」
「なんで?」
俊彦が恵に近付く。
「決まってる。あいつのせいで、俺は一族から破門され、財産分与からも外された」
恵は息を呑んで壁に背を押し付ける。
「逃げないでよ。恵君だけなんだよ? 俺を優しい眼で見てくれたのは」
狂気を孕んだ眼が、恵を捕らえる。
ーーー怖い…怖いよ! 龍之介さん、お父さん!
不意に龍之介の笑顔が、脳裏に過ぎる。
「いや…だ! たすけてっ」
恵は顔を横に振る。俊彦の手が、恵の身体を引き寄せて、仰向けに覆い被さって来た。
「震えているね? 可愛いな。あんな奴にこんな可愛い子は勿体無い」
俊彦の唇が恵の鎖骨に滑り、悪寒に震えながら恵は顔を逸らした。
「…いつまで保つかな? 君の甘い泣き声をいっぱい聞かせてよ」
俊彦が恵の胸の尖りを吸う。
「いつかみたいにさ」
「やだ! 龍之介さんっ龍之介さん!」
「…っ!」
また頬を叩かれた。意識が朦朧として、恵は涙で霞む天井をぼんやりと眺めていた。
「恵君のお父さんちょっと」
待ち合わせに呼び出された龍之介の携帯電話に、俊彦からの写メールが届き、太一を外へ連れ出した。
龍之介の携帯に恵の写真が送られて来たのだ。見ればベッドに、全裸で眠る恵の身体にキスマークを付けられている。喫茶店の外で太一は頭に血が上る思いで唇を噛み締めた。
「あの変態野郎、俺の息子になんて事してくれるんだ!?」
「この部屋はクリスマスで使った別荘ですよ」
「って事は那須高原?」
「おじさん! 恵から連絡があったのかよ!」
喫茶店で蚊帳の外にされた裕太が、血相をかいて飛び出して来た。
背後から、料金を済ませた鈴が追い掛けて来る。
「裕太! もう少し察してよ! 恵からの連絡なら、南川さんがわざわざ伯父さんを、喫茶店の外に連れ出さないって。南川さん、恵に何か遭ったんでしょう?」
龍之介が頷く。外は夜のネオンで、キラキラ輝いて眩しい。
かおるは困って首を傾げていた。
「お母さん…?」
懐かしい夢を見た。恵は触り心地の良いシーツに、手を滑らせた。
「え?」
何かに腕を引っ張られた。枕許を見上げれば、ベッドの柵に紐が括り付けられている。服等は脱がされて、恵は全裸だ。
「な、何!?」
恵は、恐怖で部屋の中を見渡した。ログハウスのゲストルーム。
ーーー何処かで見た。何処だろう?
左手のギブスは辛うじて外されてはいなかった。服は何処だろうと眼で捜す。そこで初めて、恵は胸に在る筈のペンダントと、指輪が無いのに気付いた。米髪がズキリとした。荷物は見渡しても何処にも見当たらない。勿論着替えもだ。
「あれ、もう起きたんだ」
恵は肩をビクッと震わせて、ドアの開いた方へ振り返った。男の顔に恐怖を覚え、ベッドの上で後退る。背後は壁だ。一種の防衛手段だ。けれど右手だけが、ベッドの柵に繋がれて、恵は逃げる事が出来なかった。
「恵君。お腹空いただろう?」
男はワゴンに、パンとシチューを載せて運んで来る。
「……あの、どなたですか? 俺、なんでこんな事に」
すると男は恵の問いに笑い出す。
「なる程、…美加が恵って子が可笑しいって云ってたが、そうか。記憶喪失か」
恵はベッドに腰を下ろした男を凝視する。
美加は龍之介の元カノだ。先日喫茶店で恵に因縁をふっ掛けて来た。
「俺は崎山俊彦。君の恋人だよ」
「嘘! 俺の恋人は龍之介さんだけだ!」
「誰が云ったの?」
恵は黙り込んだ。太一が、それに龍之介が云ったのだ。
「そんなのあなたに関係無い」
刹那、パンッと頬を叩かれた。
ーーー…な…に? 殴られた? 前にもこんな事…?
「兎に角、君は俺の『恋人』だからね。あぁ、君の綺麗なその姿を携帯電話のカメラモードで撮って、龍之介に送っておいたからね」
目眩がした。
「なんで? どうして? 俺あなたに何かしたの!? どうしてこんな事するの?」
「なんで?」
俊彦が恵に近付く。
「決まってる。あいつのせいで、俺は一族から破門され、財産分与からも外された」
恵は息を呑んで壁に背を押し付ける。
「逃げないでよ。恵君だけなんだよ? 俺を優しい眼で見てくれたのは」
狂気を孕んだ眼が、恵を捕らえる。
ーーー怖い…怖いよ! 龍之介さん、お父さん!
不意に龍之介の笑顔が、脳裏に過ぎる。
「いや…だ! たすけてっ」
恵は顔を横に振る。俊彦の手が、恵の身体を引き寄せて、仰向けに覆い被さって来た。
「震えているね? 可愛いな。あんな奴にこんな可愛い子は勿体無い」
俊彦の唇が恵の鎖骨に滑り、悪寒に震えながら恵は顔を逸らした。
「…いつまで保つかな? 君の甘い泣き声をいっぱい聞かせてよ」
俊彦が恵の胸の尖りを吸う。
「いつかみたいにさ」
「やだ! 龍之介さんっ龍之介さん!」
「…っ!」
また頬を叩かれた。意識が朦朧として、恵は涙で霞む天井をぼんやりと眺めていた。
「恵君のお父さんちょっと」
待ち合わせに呼び出された龍之介の携帯電話に、俊彦からの写メールが届き、太一を外へ連れ出した。
龍之介の携帯に恵の写真が送られて来たのだ。見ればベッドに、全裸で眠る恵の身体にキスマークを付けられている。喫茶店の外で太一は頭に血が上る思いで唇を噛み締めた。
「あの変態野郎、俺の息子になんて事してくれるんだ!?」
「この部屋はクリスマスで使った別荘ですよ」
「って事は那須高原?」
「おじさん! 恵から連絡があったのかよ!」
喫茶店で蚊帳の外にされた裕太が、血相をかいて飛び出して来た。
背後から、料金を済ませた鈴が追い掛けて来る。
「裕太! もう少し察してよ! 恵からの連絡なら、南川さんがわざわざ伯父さんを、喫茶店の外に連れ出さないって。南川さん、恵に何か遭ったんでしょう?」
龍之介が頷く。外は夜のネオンで、キラキラ輝いて眩しい。
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