秘書は蜜愛に濡れる

吉良龍美

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秘書は蜜愛に濡れる

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 高平奈緒は目前の光景に息を呑んだ。
「…社長?」
 会社関連のCM撮影に起用した、新人俳優の青年と、撮影現場の視察に来た細川大樹が、抱き合いキスをしていたからだ。
「…奈緒」
 驚愕に歪んだ大樹の顔と、頬を染める青年、柏木陽斗が大樹の胸にしがみ付いている。
 奈緒は何処か冴えた頭の中で、二人を睥睨した。
「お二人ともお立場をお考え下さい。陽斗君にスキャンダルでも起きたら、我が社の影響にも響きます」
「奈緒!!」
 踵を返して楽屋から出て、背後で大樹が奈緒を呼ぶ声を聞いたが、ドアでその声を遮った。
 何故こんな事になったのか、奈緒は混乱する頭を左右に振り、その場から逃げるように駆け出した。
 事の起こりは二時間前。
 奈緒は早朝から、スケジュール帳を片手にT撮影現場に居た。傍らには大樹が眠そうに欠伸を堪え、CM撮影を眺めている。
 細川製薬会社は薬の開発だけでなく、ダイエット食品や飲料水をも手掛けており、今日は飲料水の新しいCM撮影の下見に、奈緒は大樹とやって来ていた。
「細川社長、高平さんおはようございます」
 監督と話していたマネージャーの草壁が、奈緒達の方へやって来る。
 長身で人懐こそうな、穏やかな雰囲気の草壁に、奈緒はお辞儀をした。 
「おはようございます。草壁さん。今日は下見に来ました、新しく担当する子って、あの子ですか? 確か新人俳優の」
 スポットライトを浴びた青年が、監督の指示を聞きながらポーズを取る。
 華奢で童顔の彼の名は、柏木陽斗。二十二歳だが、あどけない笑顔が主婦層やOLに人気があり、今や弟にしたいナンバーワンだと、雑誌で取り沙汰されている。
「まだ駆け出しですが、わがアクティブ・プロダクションのいち押しですよ」「へえ、元気があって良いな。新発売の飲料水にぴったりのイメージじゃないか」
 大樹が褒めると、前方から柏木陽斗が駆けて来た。
「草壁さん、休憩だって! って…こんにちは」
 大樹と奈緒に、陽斗は大人しくお辞儀をする。と、大樹を見上げた刹那、頬を染めて見詰めた。
「陽斗、此方が昨日話しておいた細川社長さんだ」
 草壁が説明すると、陽斗は眼を輝かせて頷く。
「マネジメントって雑誌で見た! うわあ、やっぱり写真より本物の方が格好いいです!!」
 褒められて悪い気はしないなと、大樹は嬉しそうだ。
「陽斗、休憩終了! さっさと持ち場に着け」
 草壁に促され、陽斗はがっかりした様子で大樹を見上げた。
「後でサイン下さいね?」
「ははっ。アイドルからサインを強請られるとは思わなかったな」
「そんな事ないです!! 俺、細川さんのファンなんですから…後で楽屋に来て頂けますか?」
「構わないよ」
「やった! 約束ですよ!? 絶対ですからね?」
 二人のやり取りに、奈緒は呆気に取られ、駆け出して行く陽斗の背を見詰めると、大樹を一瞥した。
「…社長」
 大樹は漸く不機嫌な奈緒に気付くと、口に手を当てた。
「すまんつい…この後の予定は?」
「十四時まで有りませんが、予定が入っていたらいかがなさるおつもりでしたか?」
「あぁ…すまん…楽屋に行って待っていよう。サインを済ませたら……奈緒、二人で食事をしないか」
 草壁に聞こえないように、大樹が囁く。
 どうやら奈緒のご機嫌取りにも聞こえなくもないが、奈緒はやれやれと吐息を吐いて微笑した。
「次からはお気を付けて下さい」
 大樹は華奢な奈緒の背を軽く叩くと、草壁に断りを入れて楽屋へ向かった。「六畳間ぐらいかな?」
 楽屋は殺風景としていて、和式部屋の真ん中にテーブルと、部屋の角に鏡台が三つが設置されていた。
 ーーーこれで布団でも在れば…。
 大樹は妄想をフル回転させて目尻を下げる。
『社長、いけません! 誰か来たら』
 柔らかな布団の上に大樹は奈緒を押し倒す。
『誰も来ないさ…奈緒、その柔らかな肌に私の者だという証しを刻みたい。キスをしても良い?』
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