秘書は蜜愛に濡れる

吉良龍美

文字の大きさ
2 / 16

秘書は蜜愛に濡れる

しおりを挟む
 赤坂に最近オープンしたと、雑誌で紹介された割烹料理。毎年恒例の暑気払いに、その料亭にしようと云い出したのは、細川製薬会社社長、細川大樹だ。
 薬品研究者も交えての飲み会を前に、大樹はネクタイを締めながら鼻歌を歌う。
 此処は大樹のお気に入りの社長室。寛げるようにと観葉植物や、花々が活けられている。
 愛しい専属秘書、高平奈緒が大樹の為にコーディネートした空間だ。
「社長、お支度は整いましたか?」
 ドアをノックして入って来たのは、高平奈緒だ。大樹はにっこりと微笑して振り返る。
 淡いグレーのスーツに身を包んだ奈緒は、華奢なラインを美しく見せていた。
「どうだい? イタリアで買った物なんだが」
 ストライブの入ったシルバーのネクタイを、歩み寄って来た奈緒が指先に触れる。
 大樹はドクンと胸を震わせ、両手で奈緒を優しく抱き締める。
「……曲がったネクタイを直せませんよ?」
 見上げて来る奈緒の双眸は濡れ、桜色の唇から紅い舌が怪しく覗く。
「奈緒…愛しい奈緒、キスをする事を許してくれるかい?」
 問えば奈緒ははんなりと微笑して、爪先立ちすると大樹の唇の端に刹那的なキスをした。
「な…お?」
「愛しています…社長…あぁ大樹、私をあなたの者にして下さい」
 双眸を閉じて唇を開いた奈緒へ、大樹が歓極まって覆い被さった。
「ん…ふっ」
 ぬちゅりと濡れた水音を響かせて、舌を絡め合わせて互いの唾液を吸い合う。
 大樹はまだ足りないと、深いキスを仕掛ければ、奈緒も負けじと大樹の頭を抱き寄せた。
 華奢なラインの背を撫でられて、奈緒は熱い吐息を吐きながら大樹に縋り付く。
「あぁ…大樹、なんだかとても身体が熱いです…脱いでも宜しいですか?」 
 云いながら、奈緒の右手がワイシャツの釦に向かい、それを見詰めていた大樹はゴクリと息を呑んだ。
「…私が脱がしてあげよう、ああなんて白い肌なんだ! しっとりとしていて、胸の飾りが可愛いピンク色だ。此処にキスをしても良いかい?」
 興奮した大樹が息を弾ませ、右手の人差し指で乳首をくにっと押し上げた。「あぁんっ、あなたの好きなようにして…」
 全裸になった奈緒がソファーに横たわる。
「もう我慢出来ない! 止めてと泣いても止めてあげないよ!?」
「大樹…」
 艶やかな吐息と共に奈緒が囁く。
「起きて下さい社長」
「…ん…?」
 新人社員の有沢が大樹を揺り起こす。が、奈緒と勘違いされた有沢が抱き付かれ、びっくりして暴れた。
「奈緒? まだ可愛がっていないよ…? ベッドから逃げちゃダ…ふご!?」
 奈緒が投げたお手拭きが、大樹の顔面直撃。
「~~面白い冗談はお止めなさい? 後でお仕置きしますからねっ?」
 畳から上半身を起こした大樹が辺りを見回し…暑気払いでやって来た料亭内だと思い出す。
 部下達は見なかった事にして明後日の方向へ流し見る。
「さあ~皆さん、今夜は無礼講ですよ? 楽しんで下さいね?」
 天使の微笑で奈緒が云うと、総勢百人ほどの役員達が惚けた。
「あれえ?……夢かよ」
 大きな溜め息を吐いた大樹を、こっそり奈緒が熱い視線を送ったのは内緒だ。
 後日談。
「奈緒…あぁ、もう無理だよ…私も体力の限界だ…」
「私はまだ平気ですっ」
 汗を流す大樹に、奈緒は潤んだ瞳で見上げる。大樹はゴクリと息を呑み……。
「我が家の芝生は広いですから、社長が手伝ってくれて助かります」
「……どうせ身体を動かすなら、ベッドの上が良かったんだが」
「何かおっしゃいましたか?」
 笑顔の奈緒に大樹は黙る。
「終わったらご褒美をあげますからね?」
「褒美!?」
「社長室に残っていたサインする書類、お持ちしてあります。良かったですね? 社長。お仕事出来て」
「………はい」
 逆らうのは止めようと思った大樹であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ダメリーマンにダメにされちゃう高校生の話

タタミ
BL
高校3年生の古賀栄智は、同じシェアハウスに住む会社員・宮城旭に恋している。 ギャンブル好きで特定の恋人を作らないダメ男の旭に、栄智は実らない想いを募らせていくが── ダメリーマンにダメにされる男子高校生の話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...