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闇に咲く華
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「…はい」
自分の将来を決められる、周りの友人達が羨ましい。律は病室を出て行く和也の後ろ姿を見送り、人工呼吸器を余儀なくされた浩一の姿を見やる。
律は窓のカーテンを閉めて病室を出て行く。浩一の指が微かに動いたが、律は気付かなかった。
大っ嫌いな雨は深夜から降り続き、今朝にはからりと晴れて晴天だ。
ノックの音に目が覚めた律は、ベッドの上で大きく伸びをする。家政婦がドアの向こうに置いて行った食事には、もう慣れた。この家の女主人は律を『生きた人間』と認めていない。それでもいいと律は思えた。例え冷めた料理でも、こうして食べられるのだから。それに自分を見ていてくれる人が他に居る。
「って、別にあんな奴」
大きくて律をすっぽりと包んでくれる。優しい香りがして、竹塚の逞しい体軀。思い出した律は自分の身体を抱き締めた。
「あいつ、なんか香水でも着けてんのかな?」
律はうーんと唸ってプルプルと頭を振った。考えたらキリが無い。律はベッドから出ると、朝食の載ったワゴンを、扉の向こう側から受け取った。
食事を済ませ、制服に着替えるといつものように学校へ向かう。正門に近付くにつれて、竹塚が生徒会メンバーと登校する生徒の身嗜みをチェックする姿が視界に飛び込んできた。
「あれ? 今日だっけ?」
平川が「おはよう」と云いながら律の肩に顎を載せた。
「抜き打ちじゃないか?」
「うわ、幼気な子供を騙し討ちにするなんて、大人ってのは」
「……何処が幼気だ?」
「うわ、酷い律ちゃん」
腰をくねらせて鳴き真似をする平川に、律が苦笑する。すると二人のはしゃぐ声が届いたのか、竹塚の視線が律を捉えた。律の視界に竹塚がこちらを見ているのが映る。
「ほら行くぞ、遅刻する」
律が平川を伴って正門に近づいた。じっと見詰める竹塚の視線に、律は息苦しさを覚えた。
ーーー見られているぐらいで、なんだよ心臓煩いっ。
ドクドクと早鐘を打つ心臓に、首元まで紅くなる。
鞄の中身と服装チェックが終わると、次々と生徒達が校舎へ向かっていく。律も早々に済ませると歩き出そうとしたその刹那、竹塚が律の腕を掴んだ。律が驚いて竹塚を見上げる。咄嗟に律の腕を掴んだ竹塚も驚愕し、息を呑んだ。
「あ、いや…進路希望の紙、お前まだ出してなかっただろう。後で数学準備室に居るから届けに来なさい」
律はキュッと唇を結んで眼を逸らした。
「はい」
ーーー馬鹿みたいだ。俺ばっかりドキドキして。
悔しくて竹塚の手から逃れると、平川と昇降口へ脚を向けた。
ーーーあいつ、腕が細くなってるじゃないか。飯食ってんのか? そういえば他の男子と比べて、細すぎる。
竹塚は律の腕を掴んでいた掌を見詰め、眉間に皺を寄せた。抱いていた頃はもう少し肉付きが良かったと思っていたが、この夏の間に痩せたとみて竹塚は考え込んだ。あの生活環境では仕方がないのだろうとは思うが、育ち盛りの男子が女子よりも細いとなると問題がある。竹塚は唸った。
律は席に着くと、鞄から進路希望の紙を取り出した。几帳面な律は、大切な物はファイルに入れて鞄に入れている。
自分の将来を決められる、周りの友人達が羨ましい。律は病室を出て行く和也の後ろ姿を見送り、人工呼吸器を余儀なくされた浩一の姿を見やる。
律は窓のカーテンを閉めて病室を出て行く。浩一の指が微かに動いたが、律は気付かなかった。
大っ嫌いな雨は深夜から降り続き、今朝にはからりと晴れて晴天だ。
ノックの音に目が覚めた律は、ベッドの上で大きく伸びをする。家政婦がドアの向こうに置いて行った食事には、もう慣れた。この家の女主人は律を『生きた人間』と認めていない。それでもいいと律は思えた。例え冷めた料理でも、こうして食べられるのだから。それに自分を見ていてくれる人が他に居る。
「って、別にあんな奴」
大きくて律をすっぽりと包んでくれる。優しい香りがして、竹塚の逞しい体軀。思い出した律は自分の身体を抱き締めた。
「あいつ、なんか香水でも着けてんのかな?」
律はうーんと唸ってプルプルと頭を振った。考えたらキリが無い。律はベッドから出ると、朝食の載ったワゴンを、扉の向こう側から受け取った。
食事を済ませ、制服に着替えるといつものように学校へ向かう。正門に近付くにつれて、竹塚が生徒会メンバーと登校する生徒の身嗜みをチェックする姿が視界に飛び込んできた。
「あれ? 今日だっけ?」
平川が「おはよう」と云いながら律の肩に顎を載せた。
「抜き打ちじゃないか?」
「うわ、幼気な子供を騙し討ちにするなんて、大人ってのは」
「……何処が幼気だ?」
「うわ、酷い律ちゃん」
腰をくねらせて鳴き真似をする平川に、律が苦笑する。すると二人のはしゃぐ声が届いたのか、竹塚の視線が律を捉えた。律の視界に竹塚がこちらを見ているのが映る。
「ほら行くぞ、遅刻する」
律が平川を伴って正門に近づいた。じっと見詰める竹塚の視線に、律は息苦しさを覚えた。
ーーー見られているぐらいで、なんだよ心臓煩いっ。
ドクドクと早鐘を打つ心臓に、首元まで紅くなる。
鞄の中身と服装チェックが終わると、次々と生徒達が校舎へ向かっていく。律も早々に済ませると歩き出そうとしたその刹那、竹塚が律の腕を掴んだ。律が驚いて竹塚を見上げる。咄嗟に律の腕を掴んだ竹塚も驚愕し、息を呑んだ。
「あ、いや…進路希望の紙、お前まだ出してなかっただろう。後で数学準備室に居るから届けに来なさい」
律はキュッと唇を結んで眼を逸らした。
「はい」
ーーー馬鹿みたいだ。俺ばっかりドキドキして。
悔しくて竹塚の手から逃れると、平川と昇降口へ脚を向けた。
ーーーあいつ、腕が細くなってるじゃないか。飯食ってんのか? そういえば他の男子と比べて、細すぎる。
竹塚は律の腕を掴んでいた掌を見詰め、眉間に皺を寄せた。抱いていた頃はもう少し肉付きが良かったと思っていたが、この夏の間に痩せたとみて竹塚は考え込んだ。あの生活環境では仕方がないのだろうとは思うが、育ち盛りの男子が女子よりも細いとなると問題がある。竹塚は唸った。
律は席に着くと、鞄から進路希望の紙を取り出した。几帳面な律は、大切な物はファイルに入れて鞄に入れている。
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