売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
6 / 137

まんぼうライダー⑥

しおりを挟む
学園祭当日。


ステージ横の準備室で、間宮さんが用意してくれた衣装に着替える。


「パツパツなんだけど………しかもミニスカって…」


パツパツの白いTシャツに、チェックのミニスカ衣装に文句を言う私に、間宮さんがサラリと言う。


「森川さん、巨乳だから仕方ないよ」


間宮さんの慰めに「巨乳じゃなくて、ただのデブだから」と言い返すと、彼女はそれをスルーして私の髪を高い位置で括り上げた。


「よっし、出来た!」


鏡に映るのは、頭の天辺に大きなお団子を乗せてリボンを飾られた私の間抜け面。

頬には、わざとらしくピンクのチークを濃い目に塗ったくられている。

いかにもボケ担当な形に、何の言葉も浮かばず、ただ込み上げてくる笑いを堪えるばかり。


「似合ってんの?これ……」

「似合うよ~!とっても!」


顔が引き攣るのを感じる。

どうせなら、似合わないと言われた方がマシだった。


「次、間宮さん達の出番だよ!」


学園祭実行委員から呼び出しが掛かる。

促されるままステージの袖にスタンバると同時に、極度の緊張から心臓が尋常じゃない程、鼓動を早めた。

手の震えを抑える為に握った手。

それをそっと開くと、じっとりと滲んでいる汗。

滴り落ちそうな程の量の多さに、更に緊張が増した。

観客は、大勢の生徒達と教師+保護者や他校生等の来場者。

体育館に入り切らない程、詰め掛けている。

大勢の前に出て喋るなんて大それた事をした経験がない私には、かなり荷が重い。



………逃げ出したい。


本気で、そう思った。

けれど、足が竦んで言う事を聞かなくて、それも叶わない。



簡単に引き受けるんじゃなかった……


今になって後悔しても、もう遅い。

土壇場になって逃げ出したら、私は間宮ファンの男子からシメられる。

間宮さんにまた泣かれてしまう。



…でも……やっぱり、怖い…


ぐっと下唇を噛み締める私の心情を察してか、間宮さんが優しく背中を擦ってくる。


「………巻き込んでごめん……終わったら、ケーキバイキング奢るから」


眩しい笑顔で「練習の通りに頑張ろう」と言った間宮さんの声は、微かに震えていた。

恐らく彼女も私と同じように緊張しているのだろう。



……いや、この状況で緊張しない方がおかしいか。


「大丈夫、大丈夫。私達ならやれる」


それはまるで、何かの呪文のようだった。

そして、自分に言い聞かせるみたいに彼女は続ける。


「私達は一日限りのお笑いコンビ、まんぼうライダー。皆を笑顔にする為に精一杯頑張ろう」


その言葉に、私は大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。


「間宮さん、森川さん、ステージ出て!」


覚悟は決まった。

ステージ袖から、走って一気にマイクがある中央へ向かう。

と、その途中………




ーーービッターン!!




緊張のあまり、足が縺れて派手に転んでしまった。

スカートが捲れ上がり、中の黒い見せパンが全開。

腹部と顔面を強打し、すぐには起き上がれない。

始まる前から滑ってどうする……と、自分にツッコミを入れたはいいけれど、やらかしたからにはどうする事も出来ない。

出鼻を挫いてしまい、今すぐここから消えたいと思っていると、間宮さんが機転を利かせる。


「ちょっとぉー!いきなり滑んないでよ!幸先悪いなぁ!」


ここでドッと笑いが起こった。


「てゆーか、スッゴい音したけど、ステージに穴開けてない?凹ませてない?用務員さーん!後で修繕お願いしまーす!」

「 「あははははっ!!」 」


体育館中に響く笑い声。

緊張から引き起こしてしまったハプニングにヒヤリとしたものの、掴みはバッチリなようだ。

間宮さんの機転に感謝しながら、痛みを堪えて起き上がる。

マイクの前に立ち、二人で「せーの」と目で合図し合った。


「「どーもー!まんぼうライダーでーす!」」


腹の底から出した声は、マイクを通じて体育館に響いた。


「ツッコミ担当、普通科のアイドル、間宮 志保でーす!」


間宮さんがペコリと挨拶すると、男子からの野太い歓声が上がった。

彼女の人気の高さを窺える。


「同じく、進学科のアイドル、森川 素良でーす!」


私が挨拶しても、何の反応もない。

分かりきっていた事だけれど。


「ちょっと!同じくって、アンタはボケ担当でしょ?それに、その形でアイドルって……」

「何よ?アイドルでしょうが。見るからに」


頬を膨らませながら、その場でクルッと回ってみせた。


「いやぁ~ないわ。こんな形でアイドルって図々しいにも程があるって。あと、アンタの名前何なの?森、川、空!……大自然かっ!」


練習の時より、間宮さんのツッコミにはキレがある。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...