売名恋愛

江上蒼羽

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まんぼうライダー⑥

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学園祭当日。


ステージ横の準備室で、間宮さんが用意してくれた衣装に着替える。


「パツパツなんだけど………しかもミニスカって…」


パツパツの白いTシャツに、チェックのミニスカ衣装に文句を言う私に、間宮さんがサラリと言う。


「森川さん、巨乳だから仕方ないよ」


間宮さんの慰めに「巨乳じゃなくて、ただのデブだから」と言い返すと、彼女はそれをスルーして私の髪を高い位置で括り上げた。


「よっし、出来た!」


鏡に映るのは、頭の天辺に大きなお団子を乗せてリボンを飾られた私の間抜け面。

頬には、わざとらしくピンクのチークを濃い目に塗ったくられている。

いかにもボケ担当な形に、何の言葉も浮かばず、ただ込み上げてくる笑いを堪えるばかり。


「似合ってんの?これ……」

「似合うよ~!とっても!」


顔が引き攣るのを感じる。

どうせなら、似合わないと言われた方がマシだった。


「次、間宮さん達の出番だよ!」


学園祭実行委員から呼び出しが掛かる。

促されるままステージの袖にスタンバると同時に、極度の緊張から心臓が尋常じゃない程、鼓動を早めた。

手の震えを抑える為に握った手。

それをそっと開くと、じっとりと滲んでいる汗。

滴り落ちそうな程の量の多さに、更に緊張が増した。

観客は、大勢の生徒達と教師+保護者や他校生等の来場者。

体育館に入り切らない程、詰め掛けている。

大勢の前に出て喋るなんて大それた事をした経験がない私には、かなり荷が重い。



………逃げ出したい。


本気で、そう思った。

けれど、足が竦んで言う事を聞かなくて、それも叶わない。



簡単に引き受けるんじゃなかった……


今になって後悔しても、もう遅い。

土壇場になって逃げ出したら、私は間宮ファンの男子からシメられる。

間宮さんにまた泣かれてしまう。



…でも……やっぱり、怖い…


ぐっと下唇を噛み締める私の心情を察してか、間宮さんが優しく背中を擦ってくる。


「………巻き込んでごめん……終わったら、ケーキバイキング奢るから」


眩しい笑顔で「練習の通りに頑張ろう」と言った間宮さんの声は、微かに震えていた。

恐らく彼女も私と同じように緊張しているのだろう。



……いや、この状況で緊張しない方がおかしいか。


「大丈夫、大丈夫。私達ならやれる」


それはまるで、何かの呪文のようだった。

そして、自分に言い聞かせるみたいに彼女は続ける。


「私達は一日限りのお笑いコンビ、まんぼうライダー。皆を笑顔にする為に精一杯頑張ろう」


その言葉に、私は大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。


「間宮さん、森川さん、ステージ出て!」


覚悟は決まった。

ステージ袖から、走って一気にマイクがある中央へ向かう。

と、その途中………




ーーービッターン!!




緊張のあまり、足が縺れて派手に転んでしまった。

スカートが捲れ上がり、中の黒い見せパンが全開。

腹部と顔面を強打し、すぐには起き上がれない。

始まる前から滑ってどうする……と、自分にツッコミを入れたはいいけれど、やらかしたからにはどうする事も出来ない。

出鼻を挫いてしまい、今すぐここから消えたいと思っていると、間宮さんが機転を利かせる。


「ちょっとぉー!いきなり滑んないでよ!幸先悪いなぁ!」


ここでドッと笑いが起こった。


「てゆーか、スッゴい音したけど、ステージに穴開けてない?凹ませてない?用務員さーん!後で修繕お願いしまーす!」

「 「あははははっ!!」 」


体育館中に響く笑い声。

緊張から引き起こしてしまったハプニングにヒヤリとしたものの、掴みはバッチリなようだ。

間宮さんの機転に感謝しながら、痛みを堪えて起き上がる。

マイクの前に立ち、二人で「せーの」と目で合図し合った。


「「どーもー!まんぼうライダーでーす!」」


腹の底から出した声は、マイクを通じて体育館に響いた。


「ツッコミ担当、普通科のアイドル、間宮 志保でーす!」


間宮さんがペコリと挨拶すると、男子からの野太い歓声が上がった。

彼女の人気の高さを窺える。


「同じく、進学科のアイドル、森川 素良でーす!」


私が挨拶しても、何の反応もない。

分かりきっていた事だけれど。


「ちょっと!同じくって、アンタはボケ担当でしょ?それに、その形でアイドルって……」

「何よ?アイドルでしょうが。見るからに」


頬を膨らませながら、その場でクルッと回ってみせた。


「いやぁ~ないわ。こんな形でアイドルって図々しいにも程があるって。あと、アンタの名前何なの?森、川、空!……大自然かっ!」


練習の時より、間宮さんのツッコミにはキレがある。
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