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まんぼうライダー⑦
しおりを挟む「んじゃ、もっかい自己紹介やり直させて」
「いいけど、今度はちゃんとやってよ?」
私は、わざと見せパンが見えるようにクルクル回転し、そのままパッと、可愛くポーズをとる。
「森の妖精、川の精霊、お空の上のご先祖様達のアイドル、森川 素良でーす!」
「何かスケール大きくなったな!てか、ご先祖様て………怖いわっ!!」
笑い声が一気に沸き起こった。
間宮さんが嬉しそうに目を細める。
私も嬉しくなった。
「最近、何か食べ行きませんか?って声を掛けられる事が多くってぇ~…」
「何?モテ自慢?そんなの私だってあるわよ」
「えぇ~嘘~」
「嘘じゃないって!この前、街を歩いていたら、見知らぬ人から何か食べさせて下さいって声掛けられて~…」
「それ、ただの物乞いですから!」
少しずつ、吹っ切れ、緊張も解れた私は、ぶりっ子喋りでモテ自慢する間宮さんに対抗しては、ぶった切られるブスを必死に演じる。
「街を歩いてると、すぐナンパされちゃうんだぁ~」
「何?またモテ自慢?それなら私だって……」
「嘘ぉ~」
「嘘じゃないって。この前ね、がっしりした男前に一緒に気持ち良く汗をかきませんか?って声掛けられちゃって~…いやぁ~私、高校生なのにハレンチ~…」
「うん……素良ちゃん、現実を見よう!ただのスポーツジムの勧誘だから!ダイエットしろって事だからっ!」
持ち時間は5分。
短いようで長く、長いようで短い時間だった。
「それじゃ、最後に、ショートコント【校内のマドンナ】いきます」
ウケているのか、ウケていないか気にしている余裕もない程、必死に勘違いブスを演じていれば、結構あっという間で。
「「ありがとうございましたー!」」
気付けば、ネタを全てやり遂げ、二人で声を合わせてお辞儀していた。
客観的に見て、大して面白いネタではなかったと思う。
けれども、学園祭という大イベントの雰囲気が皆の気を緩ませ、笑いのツボを浅くしてくれたらしく、体育館は大きな笑いと拍手で満たされた。
「まんぼうライダー!面白かったぞー!」
「森川ー!ナイスキャラ!」
拍手喝采と沢山の歓声を浴びて、気持ちが高まり、とてつもない充実感が押し寄せてきた。
18年生きて来て、初めて得た感覚に戸惑いを覚えつつ、同時に快感も味わった。
「………こんなの、初めてだ…」
不意に呟いた言葉に、間宮さんが「え?」と聞き返してきた。
「こんな風に、大勢の人を笑顔にする事が出来るなんて………勿論、間宮さんの力が殆どだけど、それでも……」
言葉に詰まる私に代わり、間宮さんが気持ちを代弁してくれる。
「うん………嬉しいよね…」
と。
ステージに出た時は、体育館天井の照明が眩しくて堪らなかったのに、今はそれがぼやけている。
終わった……という解放感も相俟ってか、目に涙が溜まりつつあるらしい。
「次の人が出るから、早く引っ込んで!」
いつまでも歓声を浴びる事は許されず、実行委員に急かされながらステージの袖に引っ込んだ。
すると、間宮さんがポケットからハンカチを取り出し、私に差し出す。
「今日はありがとう。森川さんのお陰で、高校最後の学園祭が記念すべきものになったよ。これ、使って」
ハンカチを受け取り、目頭に当てる。
「ううん……私は間宮さんの言う通りにしただけだから。寧ろ、足引っ張ってごめん」
「そんな事ないよ。森川さんは、よくやってくれた。本当にありがとう」
間宮さんが私の巨体を包むように、細い腕を回した。
「本当にありがとう………」
そう繰り返す間宮さんの声は涙声で、更に私の涙を引き出す。
「何か………この感覚、癖になりそう…」
「分かる……こんなに気持ちが良いものだと思わなかった」
端から見れば、ヤバイ薬でもやったのか……というような口振り。
でも、他に今の充実感を表現する言葉がない。
それくらい、全身が高揚感で満ち溢れていた。
学園祭の日から、私は一躍人気者になった。
校内を歩けば、名前も知らない生徒に声を掛けられたり、握手を求められたり……
すぐにブームは去ったけれど、それでも私の価値観を変えるには、絶大な効果があった。
学園祭での高揚感と充実感が忘れられない私は、ずっと提出出来ずにいた進路調査表をやっと提出した。
志望欄に【お笑い芸人】と、大きく記入して。
担任は、散々私に提出するよう催促しておきながら、提出したらしたで「ふざけてんのか?!」と、目を吊り上げて説教してきた。
更には、親まで呼び出して、緊急三者面談まで行われる始末。
高校三年間、模範的で真面目な生徒で通して来たから余計に、問題視されてしまったらしい。
担任と両親を説得するのに、かなり時間を使い、労力も費やした。
父は怒り、母は泣いた。
それでも、私は、私の道を行く。
やっと見付けた、夢だから……
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