売名恋愛

江上蒼羽

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売名計画浮上②

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「失礼します」


入って来たのは、細身のパンツにジャケットをさらりと羽織った若い男性だった。


「遅れてしまって大変申し訳ございません。ドラマの撮影が長引いてしまって……」


男性は、申し訳なさそうに眉を下げた。

キリッとした涼しげな目元。

高い鼻は筋が通り、厚くも薄くもない唇がキュッと口角を引き上げている。

好みがはっきり別れそうな塩顔のこの男性……


私は見覚えがあった。


「あ…………嘘…」


驚きと衝撃であわあわする私に、彼は優しく微笑み掛けてきた。


「こんばんは」


クールな面立ちからは想像出来ない程、甘い微笑み。

それにドキッとしながら、絞り出すように声を発する。


「お、忍足 慧史おしだり けいし……さん、ですよね?」


うっかり呼び捨てにするところだった。

彼は、一瞬目を見開いたかと思えば、またすぐに細める。


「驚いた………僕の名前をご存知なんですね」


意外そうな口振りながらも、声は至って冷静。

驚いたと言いつつ、さほど動じていないように思える。


「そりゃあ勿論。覆面ライダージャスティスで、ブレイブ役で出てましたよね?」


やや興奮気味に問う私に、彼は「えぇ」と、控え目に頷いた。


「よくご存知ですね。何年も前の出演作なのに……しかもほんの一時しか出番のない脇役ですよ?」

「あ、いや…………覆面ライダーオタクなもので…」


確か、今から7年位前だったと思う。

覆面ライダーシリーズ35作目の、覆面ライダージャスティス。


“正義の名の元に悪を裁く

悪には天の裁きを”


………というキャッチフレーズで人気を博したライダーだ。

主人公がダメダメな弁護士見習いという設定が斬新だったのをよく覚えている。

その主人公に反発するブレイブという名のライダーを忍足さんが演じていた事から、偶々私は彼の名を知っていたのだ。

勇敢な……という名に反して、ブレイブは敵味方どっち付かずの嫌な奴で、主人公ジャスティスと度々対立して、彼の邪魔をしていた。

けれど、作中でその目的が一切語られる事なく、いつの間にか敵にやっつけられた事にされてフェードアウトしていた。

当時は、モヤモヤが残ったのを記憶している。

というか、あの演出は未だに納得出来ない。

当時の事を思い出して悶々としていると、私の向かいの席に座った忍足さんが姿勢を正す。


「改めまして、忍足 慧史です」


彼はニッコリ笑って続ける。


「お会い出来て嬉しいです、森川 素良さん」


そう言って差し出された右手。

どうして良いか分からず、ポカン……と呆けている私の背中を川瀬さんがどつく。


「なーにボサッとしてんの。握手求められてんのよ!」

「えっ?!あ、はいぃ………」


恐る恐る彼の手を取る。

触れた瞬間、心地好い体温が伝わってきた。

線の細い体つきの割りに意外とゴツゴツした大きな手。

太いけど長い指、血管の浮き出た甲……

ドキドキしながらも、細部まで観察する余裕は何故かあって。

あぁ………男の人の手だぁ……と、密かに感動を覚えた。

まずは乾杯という事で


「お疲れ様です」


其々グラスを手に取り、掲げた。

カチッと軽くぶつけ合い、きめ細やかな泡を口内に迎え入れた。

中身を2/3程減らした所でグラスを口から離す。


「ぷはっ………おいしー…」


うっかり零したそれに、忍足さんがクスッと笑った。


「………す、すみません…つい……」



…やっちまった………


火照った頬を隠すように俯くと、忍足さんは「森川さん」と、私の名を呼んだ。

それに弾かれたように顔を上げれば、彼は口角を引き上げながら、自らの鼻と上唇の間をなぞってみせる。


「泡、付いてます」

「っ、!!」


恥ずかしい指摘を受け、更に顔が火照る。

慌ててお絞りで口元を拭った。
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