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売名計画浮上③
しおりを挟む忍足さんの顔は、正直言ってタイプじゃない。
どちらかと言えば、涼しげな塩顔より甘ったるい系統が好みだ。
だけど、今こうして目の前に居る彼を見て、格好良いかもなぁ………なんて、思っている自分が居る。
きっと、彼の纏う落ち着いた雰囲気が私にそう思わせているのだろう。
「この揚げ出し豆腐、美味しいですね」
塩顔の割りに声が甘い。
声質は低いけれど、優しくて聞き取り易い。
声優としても通じそうだなって、密かに思った。
「えーっと………それで、忍足さんがここにいらしたのは何故ですか?」
川瀬さんの言う、救世主の意味が知りたくて、早々に話を切り出す。
忍足さんは、静かに箸を置いた。
それに合わせたように、川瀬さんが徐に立ち上がる。
「えっ?」と思い、彼女を見上げると、その手には携帯が握られていた。
「ちょっと席外すわ。間宮に電話してくる。明日のロケの事で話があるし……」
「えっ………ちょ…」
ちょ、待てよ………と、某国民的アイドル兼俳優の有名な台詞が口から出そうになった。
川瀬さんに目で「困るんですけど~」と必死に訴えてみたけれど、残念ながら彼女には伝わらなかったようで…
「すぐ戻るから」
たった一言残して、部屋を出て行ってしまった。
途端に、しんと静まりかえる室内。
一気に気まずさが漂う。
電話なんか後で良いじゃん!
急に初対面の人間と二人にしないでよ!!
てゆーか、二人きりにされたら、どこ見てれば良いか分かんないじゃん!!
只でさえ、目が泳いじゃってんのに………等々。
川瀬さんが出て行った扉を睨みながら心の中で不満をぶちまけていると、忍足さんが「さて……」と、切り出してきた。
その声に、姿勢が勝手に正しくなる。
背中に定規を差し込まれているみたいに、真っ直ぐと。
「マネージャーさんが居ない間に、サクッと話しちゃいましょう」
「は、はぁ……サクッと、ですか…」
多分、彼は川瀬さんと示し合わせていたのだろう。
タイミングが良過ぎる。
信頼している川瀬さんが居なくなり、心細い事この上ない。
ましてや、よく知りもしない相手と密室で……となると、不安で不安で…
川瀬さんは、救世主と言っていたけれど、そこまで信頼の置ける相手なのだろうか?
いきなり、変な書類を呈示してきてサインしろだとか脅してきたりしないだろうか?
謎の白い粉と注射器を取り出して、ヤバい事をさせられたらどうしようか……
色々と考えている内に、冷や汗が背中を伝う。
身を固くする私を見て、忍足さんが苦笑う。
「そんなに警戒しないで下さい」
そうは言っても、この状況で警戒するなという方が無理だと思う。
生憎、能天気な性格をしていないもので。
恐らく、表情を強張らせているであろう私に、彼は優しく微笑みながら言う。
「今日は貴女にお願いがあってここへ来ました」
と。
「お願い、ですか……?」
「はい」
忍足さんは「単刀直入に言います」と、やや前のめった。
「貴女の名前を僕に貸して下さい。悪いようにはしませんので」
突拍子もない申し出に、私は当然「…………は?」と、なる訳で。
……名前を貸す?
意味が分からず、私は無駄に瞬きの回数を増やした。
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