売名恋愛

江上蒼羽

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売名計画浮上④

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「えーっと………それって、どういう意味ですか?」


理解し難い申し出に、頭は軽く混乱中。


「名前を貸すというのは、つまり………何かの保証人になれという事ですか?だとしたら、無理です。お金ないんで。サインはしませんよ」


今度は、忍足さんの方が瞬きを増やした。

それから少し考える素振りを見せてから「そういう事ではないです」と、笑う。


「すみません、もう少し分かり易く言うべきでしたね」

「あ、いや………理解力なくてすみません…」


忍足さんがグラスを手にした。

その中身で喉を潤してから、気をとり直して……とばかりに微笑み掛けてくる。


「言葉を変えて言わせて頂くと………売名の為に貴女の名前をお借りしたいんですよ」

「ば、売名……?」




【売名】



非常に嫌な響きの言葉だ。

この言葉が、目の前で柔らかく微笑む俳優さんの口からサラリと出てくるなんて思ってもみなかった。

忍足さんは一体どういうつもりなのだろうか……


「貴女がご存知の通り、僕は覆面ライダーシリーズで俳優デビューしました」


淡々と語り始めた忍足さんの顔から笑みが消える。


「元々俳優になる気はなく、演技に関してはド素人………お陰でデビュー作のブレイブ役は散々なものでした」

「え、俳優志望ではなかったのですか?」

「えぇ。街でスカウトされて、何となく……」


元から俳優志望の人が聞いたら怒りそうなデビューの動機に「へぇ……」と間の抜けた返しをしていると、忍足さんが更に淡々と続ける。


「初めの頃は、演じるという事に照れを感じていました。ですが、やっていく内に魅了され、演技について真剣に考えるようになりました」


ここでまた忍足さんは、グラスを傾ける。


「面白いものですよ、自分とは別の人格を演じるというのは」

「あぁ……何となく分かる気がします」


私もコントで別人格になりきっているから。

芝居とコントを一緒にするのはちょっと失礼かもしれないけれど。


「森川さんの勘違いキャラは、中々強烈で印象強いですからね」

「あ、いや………そんな…」


褒められてはいないのに、何故か照れてしまう、アホな自分。

それに対して、忍足さんは優しく目を細めた。


「実はブレイブは、最後まで出番のある役だったんですよ」

「えっ?!そうだったんですか?」


思わず身を乗り出した私に、忍足さんは少し驚いたように僅かに仰け反った。

その様子にハッとして「す、すみません……」と、背を丸める。

思いがけなく耳にした事実に、つい我を忘れて興奮してしまった。

まさか、ブレイブにそんな重大な秘密があったなんて……

これは、覆面ライダーシリーズファンの私にとって由々しき問題だ。


「当初、ブレイブは物語の鍵を握る重要なキャラクターだったんです」

「やっぱり!そうじゃないかと思っていたんです!」


物語序盤から張られた伏線、ブレイブの意味深な言葉と行動の数々……

それ等の事柄から、私はブレイブが重要な存在だと睨んでいたのだけれど……

私の期待とは裏腹に、ブレイブは途中で呆気なく消えて行った。


「終盤にジャスティスと和解して、彼と共に戦う筈だったのですが………恥ずかしい話、僕の演技が未熟過ぎて……急遽脚本を書き替えられてしまったんですよ」

「え……そうだったんですか………?」


意外な真実に呆然とする私を前に、忍足さんは力なく笑ってみせた。

それから、すぐに悲しげに目を伏せる。


「………演じる事が楽しくなって来た矢先の出来事です。非常に悔しかったですよ」

「……一視聴者としても、悔しいです」


忍足さんの無念が犇々と伝わってくる。

私も悔しい。


「……確かに…」

「ん?」


私が呟くと、忍足さんが興味深そうにこちらを見る。


「仰る通り、ブレイブの演技はぎこちなかった………滑舌が鈍って台詞が聞き取り難い時もありました……けど、ブレイブを演じるんだという熱意は、ちゃんと伝わってきましたよ?」

「……………」


忍足さんの言うように、確かに演技は未熟だった。

でも……


「私には、未熟さ以上に、視聴者に感じさせるものがきちんとあったように思えます」

「…………」

「本当に納得出来ません。悔しいです」


ブレイブが最後まで活躍する様を観たかった。

ジャスティスとどんな風に和解するのかも気になるし。


「もう一度やって欲しいな……覆面ライダージャスティス…」


私が譫言のように呟いた言葉をどう思ったのだろうか……

忍足さんは、微かに聞き取れる位の小さな声で「………ありがとう」と言った。

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