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売名計画浮上⑤
しおりを挟む忍足さんが話を切り出してから、箸が止まったまま。
ビールもあまり進まず……
なのに、室内の暖房で温くなり掛けているそれには、どうしてか手が伸びずにいる。
「……ブレイブ役での苦い経験と悔しさをバネに、演技について一から本格的に学びましたよ」
苦笑する忍足さん。
私は黙って彼の言葉に耳を傾ける。
「舞台やミュージカルをやらせて貰い、とても良い経験になりました。特に舞台での経験が僕に自信を与えてくれて……」
ブレイブ役以降、暫くテレビで忍足さんの姿を見る事はなかった。
彼が出始めの頃は、この人は売れそうだな………と勝手に思っていたのだけれど……
なるほど、舞台を中心に活動されていたとは。
「演技に自信がついた所為か、少しずつ俳優としての僕の力が認められつつありまして……ここ一、二年でちょいちょい地上波のドラマに出させて貰えるようになったのですが……」
ここで忍足さんが困ったように眉を下げた。
「何分、僕の世間的な認知度はかなり低い」
「え………そうでしょうか?」
忍足さんは苦悩する人みたく、額に手を置く。
「あの人俳優の人だよね?でも名前何だっけ?………ドラマに良く出てるけど、名前までは知らない……等、街中を歩いていて良く言われます」
忍足さんが深い溜め息を吐く。
憂いを込めて。
「森川さんのように、僕の名をフルネームで知ってくれている人は数少ない…………嫌なんですよ、顔は分かるけど名前までは知らないと言われるのが」
忍足さんは「恐らく……10人中、9人は僕の名を知らないと思います」と悲しげに嘆いた。
「……いや、これからですよ!これからきっと有名になれますよ!」
忍足さんは、私の意味の分からない励ましを笑顔でかわして言う。
「更に欲を言えば………知名度だけでなく、主演も欲しい」
「主演も、ですか……?」
「えぇ」
忍足さんは「あまりこういった事を言うのは良くないのですが……」と前置いてから言う。
「昨今のドラマのキャスティングは、話題性重視で実力は二の次………勿論、事務所のゴリ押し等で決められる事もあります」
それに思わず頷く。
「…………確かに。主役を張る人って、大体いつも同じような人ばかりですね」
「デビューしてすぐに重要な役をやらせて頂いた僕が言うのも説得力はありませんが……腑に落ちないんですよ。大した実力もない癖にって。僕ならもっと上手く演じられるのに……って…」
また忍足さんが小さく溜め息を吐く。
「………けれど、これがこの世界の常識とならば、僕もそれに乗ずるしかない……」
「…………」
「とにかく、話題が欲しい」
忍足さんの怖いくらい真剣な眼差し。
「森川さん」
彼の強い視線は、真っ直ぐに私を捉えて離さない。
緊張から、私の喉がゴクッ……と鳴った。
「きっと、貴女の今後の為にもなる筈です」
「わ、私の今後?」
突然話題の矛先を向けられ、焦る私に忍足さんが静かに問う。
「一般人と変わらないような今の生活を変えようと思いませんか?」
「え………」
その問いに、私の胸が鈍く痛んだ。
同時に恥ずかしさが込み上げてくる。
あぁ………私の現状をちゃんと把握してるんだ……と。
「売名が成功して話題になれば、貴女にも仕事が舞い込んで来る筈です」
「っ、」
ぎゅっとニットの裾を掴む私に、忍足さんが再度申し出る。
「お互いの為に、協力し合いませんか?」
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