売名恋愛

江上蒼羽

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売名計画浮上⑥

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忍足さんの申し出は、起死回生の大きな一歩となるだろう。

でも私は、 どうしても売名という言葉に抵抗を感じて仕方がない。


「………折角の申し出なのですが……売名行為っていうのは、ちょっと抵抗が……」

「と言いますと?」


忍足さんからの問いに、これを言葉にしていいのだろうか?と自問しながら、躊躇いがちに言葉を発する。


「なんてゆーか………やり口汚くないですか?売名なんて、私…」


今まで散々色んな企画をやらされてきた。

お茶の間にみっともない姿も晒してきた。

でも、一丁前にプライドだけは持ってた。

なのに、売名行為って……

プライドを溝に捨てるような真似はしたくないし、出来ない。


「非常に申し訳ないんですけど…」


丁重にお断りの姿勢を見せた時、忍足さんの表情が変わる。


「売名行為に抵抗を感じているのは僕も同じです。けれど、他に方法はありますか?この厳しい業界で生き残る方法が」


冷酷さを孕んだ冷笑。

今までとは違うその表情に私は言葉を紡げなくなった。


「森川さんは、ご自分の今の立場を理解していらっしゃいますか?」

「…っ、」


心臓を乱暴に鷲掴まれたそうな錯覚がして、急に鼓動が早くなる。

心なしか、呼吸も苦しい気がする。


「貴女は崖っぷちに立たされているんですよ?それなのに……売名は嫌だなんて甘い事を悠長に言えるんですね」


川瀬さんは、忍足さんを救世主と呼んでいた。

でも、今目の前にいる彼は、救世主ではなく悪魔に見える。


「売名が嫌なら、枕営業でもしますか?」

「やっ、そんな……」


枕営業……

売名より、嫌な響きだ。


「体を汚して仕事を獲ります?以前の太っていた頃の貴女では問題外ですが、現在の貴女ならいくらでもやり様はありますよ」


初めの頃とは別人のように残酷な言葉を吐く忍足さんは「それとも……」と続ける。


「相方の間宮さんとの格差を埋められないまま、一人寂しく消えますか?」


忍足さんの口から出てくるのは、どれもこれもエグい事ばかり。

確かに、このままでは、静かに消えていくだけ。

そして、何年かして『あの人は今…』なんて追跡番組にひょこっと顔出して、こんな奴もいたな…と、懐かしがられるようになって……


「ふ………っ、」


突如溢れ出てきた涙。

泣くつもりなんかなかったのに……

厳しい現実を突き付けられ、これ以上ないってくらい、ドン底に叩き付けられた。

泣いても、現状が変わる訳ないのに。


「……っ…うっ、」


お絞りを目元に押し当て、声を圧し殺して泣く私に、何か温かい物が触れる。

それが忍足さんの大きな手だと、すぐに気付いた。


「………すみません……泣かせるつもりはなかったんですが…」

「ひぅっ、っ……」


優しく頬を撫でるゴツめの指。


「すみません…」

「……っ、う……違っ、忍足さんの所為じゃ、ないです……っ」


彼は悪くない。

彼の言う事は尤もだ。

ただ、私が心のどこかでいつかきっと……と甘い考えを抱いていただけ。

ただ、私がつまらないプライドを掲げて意固地になっているだけ。


いつかまた私にも光は当たる………いつかまた……


そんな風に思っているだけで、何の行動も出来ずに、現状に不満を抱えているだけの私。

こんな風に初対面の人の前で泣いて、より一層惨めさを演出して……

凄く、馬鹿みたいだ。

間宮と同じ光輝く場所に立つには、何らかのアクションが必要で……

実力があっても生き残る事が厳しい世界で、私みたいな何も持たない奴が輝きを放つのは困難を窮める。

今の私に何が出来るのか、何をすべきか……

泣きながら自らに必死に問い掛け、答えを探る。


「………」

「………森川さん…」


一頻り泣いて落ち着きを取り戻し、涙に濡れたお絞りを置いた。

そして、心配そうに私の様子を窺っている忍足さんを真っ直ぐに見る。


「…………ご協力します」


崖っぷちに立たされている自分。

崖が崩れ落ちるのを待つのも、自ら崖下に飛び降りるのも嫌だ。

それなら、羽根を生やして飛び立つのみ。

たとえ、その羽根が鶏の羽根であっても、飛べると信じて、地面を蹴ろうと思う。
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