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衝撃的オチ④
しおりを挟む午後11時、収録が終了。
フトシが他の出演者を引き連れて打ち上げへと繰り出して行き、翌日に早朝ロケを控えた間宮は、川瀬マネージャーと共に現場を後にした。
一部スタッフは、編集作業に取り掛かる為に撤収。
残りは、機材の後片付けや、公園内に仕掛けた落とし穴の修繕作業に明け暮れている。
徐々に閑散としていく現場。
私は、そこからずっと動けずにいた。
どうしてこうなってしまったのだろう……
そんな自らへの問いを繰り返しながら、その場に一人佇む。
照明の数が一つ減る毎に、現場は暗くなっていき……
最終的には、公園内の街灯の光のみとなった。
夜の公園に不気味に浮かぶ影……なんて都市伝説になりそうなくらい、幽霊に近いオーラを放ちながら立ち尽くす私は、涙が出てこないよう必死に耐えていた。
会いたくて会いたくて震える……という歌詞に良く似た、泣きたくて泣きたくて震える状態の私。
一歩でも足を前に出したら、堰を切ったように涙が溢れ出てくる気配を感じている。
家に帰るまでが遠足じゃないけれど、家に帰るまでが収録だ。
誰に見られているか分からないから、下手な所で涙を流す訳にはいかない。
だから、泣きたい衝動が一旦落ち着くまでここから動けそうもない。
2月の夜の凍えるような寒さが容赦なく、体温を奪っていく。
指先から冷えてきて、感覚も少しずつ遠退く。
いっそ、このまま氷柱になるのも悪くないかな……なんて考えていると、背後に人の気配を感じた。
「………あの、森川さん…」
その低い声は、私の心を惨たらしく引き裂いた相手のものだった。
「森川さん……」
名前を呼ばれても、振り返る事が出来ない。
こんな、泣く寸前のみっともないクシャクシャな顔を彼に見せたくなくて。
「………この度は……本当に、すみませんでした」
申し訳なさそうに声を震わせる彼。
生憎、振り返る事が儘ならない所為で、彼の表情を確認出来ない。
真摯に謝っているのか、謝る演技なのかすら判断がつかない。
「仕事とはいえ、騙すような事を………申し訳なく思っています。あの、俺……」
彼の言葉が途中で詰まったのを皮切りに、嫌な沈黙が数秒続く。
風の流れる音がやたらと耳に響いて、気まずさに拍車を掛けた。
私は一度大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
それから、努めて明るく言う。
「謝る必要ないですよ。忍足さんは、お仕事だったんですから」
………そう、彼はあくまで、自分の仕事をきちんとやり遂げただけ。
諸悪の根元は、この企画を考えた人間だ。
そして、ドッキリを見抜けなかった私自身にも非はある。
忍足さんは一切悪くない。
自然な演技で、見事に私や世間を欺いてみせた彼には何の落ち度はなく、謝られる筋合いもない。
だから、彼に当たるのは相当なお門違いだ……と、心に一生懸命言い聞かせるけれど。
頭では、十分に理解しているのだけれど……
ギリギリまで心を磨り減らした今の私は、何かに八つ当たらないと立っていられそうもなくて……
つい、毒を吐いてしまう。
「………逆にこちらからお礼を言いたいくらいですよ」
「え………?」
「今回の、凄く良い勉強になりましたから」
じわっ……と涙が滲み出てくるのを感じて、気を引き締める為に頬を抓る。
「人を簡単に信じたら馬鹿を見るという事を学べました。もう少し賢くならないといけないなって、自分を省みる良い機会になりました」
「………森川さん…」
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