売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
73 / 137

衝撃的オチ⑤

しおりを挟む


「もう、本当に私って馬鹿。忍足さんみたいな人が、私なんかをまともに相手する訳ないのに……思い上がりも甚だしいですよね」


考えてみればすぐ分かる事だ。

忍足さんみたいな、イケメン俳優という括りの人が

女性に不自由していなそうな人が、女芸人として馬鹿やってる私なんかに好意を寄せる筈ないのに。

それを、何で勘違いしちゃったんだろう……

騙されてるだけなのに、一人で勝手に舞い上がって、ドキドキ胸を踊らせたり、弾ませたり……

恋に落ちている自分に酔っていただけかもしれない。


「物凄く良い笑いのネタになりましたよ。今後暫くは今回のドッキリネタで食べて行けそうです。ありがとうございました」


喉の奥から、何かが込み上げてきた。

それをぐっと飲み込む。


「忙しい合間を縫ってでも会いたい好きな人が、ほんの一瞬で顔も見たくない程大嫌いになるって事………あるんですもんね」

「……」


ふと、コートの裾から控えめに覗き出た、お気に入りのワンピースが視界に入り込んだ。

落とし穴に落ちた拍子にどこかに引っ掛けたのだろう。

裾の一部がスリットみたく裂けていた。


「あの、森川さん………今度改めて、話す機会を頂けませんか?」

「……」


頬を抓るのをやめ、代わりに今度はワンピースの裾を摘まみ上げる。


「お忙しいのは承知です。でも、何とか時間を作ってーーー…」
「このワンピース……」


忍足さんの言葉を遮るように口にした言葉に、彼が「……え?」と聞き返して来る。


「………可愛くてお気に入りだったのに……結構高かったのにな……破けちゃった…」

「え、そんな……俺、弁償しますよ」


忍足さんの申し出を無視して「残念だな……」と呟く。


「落ちた衝撃でお団子もグチャグチャ………あーもう、最悪…」


殆ど涙声になりつつあるのに、これでもかってくらい明るく言う。


「良かったですね、きっとこのドッキリは芸能界を揺るがす大きな話題になりますよ。そしたら、またお仕事増えますね」

「いや、その前に森川さん……ワンピースをーーー…」


忍足さんが言い切る前に、勇気を出して体を反転させた。

照明の乏しさが、私の表情を誤魔化してくれるんじゃないかと信じて。

眉間に皺、顎に梅干しを拵えながら、私を陥れた仕返しとばかりに、悪意をふんだんに込めて言ってやる。


「私………すっごく、良い踏み台になったでしょ?さぞかし踏み心地良かったでしょ?」


予想外に忍足さんが私のすぐ傍に居た事に驚いたけれど、ここでブレちゃいけない。

これが最後だって分かってるから、言いたい事を思う存分ぶつけてやりたい。


「恋愛経験はないのに、ビジネスキスの回数だけは無駄に増えてく一方で……次こそは、ちゃんとしたキスを経験したいです」

「っ、…」


何を思ったのか、忍足さんが私の腕を掴んだ。


「森川さん、あれは……」


もう何も言わせないとばかりに、私は「あ、因みに……」と割り込む。


「私、忍足さんみたいな人、正直、タイプじゃないです。どっちかと言えば、芹沢さんの方が好みですから」


誰がどう聞いても、ただの負け惜しみにしか聞こえないだろうけれど、はっきり言い切ってやった。

それから、痛い程腕に食い込む彼の手を強く振り解く。


「忍足さん、素晴らしい演技でした。今後のご活躍を楽しみにしてます」

「待って森川さん、話をーーー…」


詐欺師の言葉に聞き耳なんか持ちたくない。

もう騙されたくない、傷付きたくないと嘆く心が、既に強固なシールドを築き始めている。


「もう話す事は何もありません!お疲れ様でしたっ!!」


最後の最後で堪えていた涙を塞き止め切れず、大粒の滴をボタボタ落として、私は逃げるようにその場を去った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...