80 / 137
売名後の売名?①
しおりを挟む3月14日は、ホワイトデー。
だからか知らないけれど、目の前には大きな箱が鎮座している。
中には、美味しそうなお菓子の詰め合わせが入っていた。
そして、いつものように手書きのコメントも添えられている。
「……どうする?それも返すの?」
私を誘惑してくる美味しそうな焼き菓子達を前に生唾を飲み込み、箱の蓋を閉じた。
「………勿論です。要らないので」
箱を自分から遠ざけ、ふいと背を向けた。
「こういう事されても迷惑でしかないって、ちゃんと伝えてくれてますよね?」
語尾を荒めに川瀬さんに問うと、彼女は溜め息混じりに「えぇ…」と頷く。
「本人に受け取る気はないって伝えてるんだけど、向こうはどうしてもって聞かないのよ」
「…………」
むくれる私に、川瀬さんが宥めるように言う。
「ねぇ、森川……いい加減、受け取ってあげたら?忍足さん、可哀想よ?」
「…………」
「この前は舞台のチケット、その前は花。またその前はスイーツの差し入れ……彼、あんたと仲直りしたいのよ」
仲直りと言われた所で、私と彼は、仲直りする程仲が良かった訳じゃない。
「………彼は、私を物で釣れる程の安い人間だと認識してるんでしょうね…」
「森川……あんたは、どうしてそうひねくれた風に捉えるの?忍足さんなりに誠意を示してくれているんだと思うけど?」
「誠意?笑わせないで下さいよ。こんな貢ぎ物………ただの彼の自己満足でしょうよ」
刺々しく言い放つと、川瀬さんは深過ぎる溜め息を吐いた。
それには、苛立ちが微かに含まれている。
「こういうやり取りに巻き込まれる私の身になって欲しいわ」
「…………」
それもマネージャーの仕事の一つでもあるんじゃないですか?と、言いたい所を、必死に我慢。
怒りかかっている川瀬さんに、火に油を注ぐ事になりかねないから。
「大体、迷惑だっていうなら、自分ではっきり断んなさいよ」
「嫌です」
「あのね、森川……いつまでこのやり取り続けるつもりよ?」
「さぁ……彼が諦めるまでですかね」
冷めた素振りで言う私に、川瀬さんがまた一つ溜め息を吐く。
「とにかく、一度会って話してみたら?そうすれば、彼も気が済むだろうし……」
「い・や・です!!」
「せめて、着信は無理でも、ショートメールの受信拒否くらいは解除してあげなさいよ」
「嫌ですってば」
忍足さんから、何度かショートメールが送られてきた。
毎回、謝罪の文面と、話がしたいとの要求。
その都度、言葉を微妙に変えながらも、用件はいつも同じ。
何度メールを送り付けられても、彼の謝罪は受け入れられないし、要求にも応えたくない。
ガン無視を決め込んでいたら、次第に着信まで入れてくるようになって……
問答無用で、着拒、メール受信拒否を設定させて貰った。
「もう、軽いストーカーですよね」
吐き捨てるように言うと、川瀬さんが「森川!」と、声を荒げる。
「逃げてないで、一度彼と向き合いなさい!」
それに対して、私も声を大にして言う。
「嫌なものは嫌なんです!大っ嫌いです、あんな人!」
「そんなに嫌う事ないでしょ!彼があんたを騙したのは、仕事としてやっていただけなんだから!」
「分かってますよ!でも、人を騙す仕事を受けた時点で最低の人間ですよ!」
「そこまで言うか!誰のお陰で今のあんたがあると思ってんの?!」
激しい言葉の応酬。
と、ここで、今の今まで静かにBLアンソロジー本を読んでいた間宮が「あ……」と、声を挙げた。
「渦中の彼じゃん」
間宮の言葉に、私と川瀬さんは、彼女が視線を送る先へと顔を向ける。
0
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる