売名恋愛

江上蒼羽

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売名後の売名?②

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情報番組の最新芸能ニュースのコーナーに、デカデカと顔写真で登場した例の詐欺師。


『人気コミックが実写映画化する事がこの度正式発表されました。原作は累計売上300万部の女子高生と教師のラブストーリー』


芸能コーナー担当のアナウンサーがやや高めのテンションで説明を続ける。


『ネット上では、早くから映画化の情報が憶測で飛び交っていましたが、関係者側からの正式な発表はこれが初。キャスティングも併せて発表されました』


うずうずと、テレビのチャンネルを変えたい衝動に駆られる。


『天真爛漫な女子高生役は、一万人のオーディションを勝ち抜いた17歳のシンデレラガール。彼女が想いを寄せるクールな数学教師役に、先月芸能界の話題をかっさらった、俳優忍足 慧史。その他、豪華俳優陣が脇を固めます。クランクインは来月。映画の公開はーーー…』




「へぇ………忍足さん、大出世じゃん」

「…………」


間宮の言葉に反応しないでいる私に代わり、川瀬さんが「そうよね」と、大きく頷く。


「彼は華があるし、演技力の高さも評価されているみたいよ」

「ふぅん……卓ミュの時は、やや棒演技で、顔だけの役者かと思ってたけど……今は違うみたいだし……人は成長するのね」


不快感で苛立つ私を他所に、間宮と川瀬さんは詐欺師の話題で盛り上がる。


「クールな教師役なんて、彼にピッタリなんじゃない?」

「そうですよね、スーツに眼鏡に教鞭……似合いそう」

「あら、良いわね~女子のハート鷲掴み!」

「狙ってますよね~!人気漫画の実写化って大体コケるけど、今回のは期待出来るんじゃないですか?ね、そう思わない?森川」


不意に、間宮が私に話を振ってくる。


「また、彼の人気上がっちゃいそうだよね」

「…………」


私にとっては、全く興味のない話題。

寧ろ、不快指数だけが上昇していくばかりで、ちっとも面白くない。


「………教師ってか、詐欺師の役のがピッタリだと思うけどね。てゆーか、映画なんか大コケしちまえって感じ」


ボソボソ恨み言を吐くと、川瀬さんは溜め息を吐き、間宮は顔を歪めた。

私と忍足さんの関係がドッキリによる紛い物である事が世に広く知られてから、忍足さんは、良くも悪くも世間にその存在を大きく知らしめた。

ドッキリ放送直後は、悪どいドッキリを仕掛た非情さに、一部の人間からバッシングを受けていた。

彼以上に、ホンコンシューズのフトシは、大バッシングを受けていたけれど。

その一方で、高い演技力に注目が集まり、業界で彼の争奪戦が繰り広げられているのだとか。

まぁ、私には一切関係のない話だ。

良かったね~と、心の中で嘲っていたりする。

一人の女を傷付けて、勝ち取った名声と役…

彼は、私を踏み台にして、役者として一段も二段も高い所へ昇った。

さぞかし、良い気分でいるだろう。


「とにかく、今の自分があるのが誰のお陰か……ちゃんと考えなさい」


ピシャリと言い放つ川瀬さんに私は何も答えず、そっぽを向いた。

忍足さんも忍足さんだけれど、川瀬さんも川瀬さんだ。

端からドッキリだと知りながら、私と忍足さんを引き合わせた張本人故に、彼の肩を持ちたがる。

まるで自分の罪を上手く正当化しようとしているみたいに。

彼女の態度は、結果的に仕事が増えたんだから文句はないでしょ?と言わんばかりだ。

私の心の痛みに、何の配慮もしてくれない。

この業界からの撤退に先駆けて、徐々に仕事の量をセーブしてくれるように頼んだにも拘わらず、仕事を減らしてくれない。

寧ろ、入ってくる仕事を片っ端から受けた上で、更に仕事をバンバン取ってくる。

それが社長の命令か、彼女の自己判断によるものかは分からないけれど、常軌を逸しているような気がする。

きっと、使えるものは使える内に最大限に利用し、さっさと使い切ってしまおうとの魂胆なのだろう。

芸人は、使い捨ての消耗品と扱いが同じ。

化粧水を染み込ますコットンパフのように使えなくなれば捨てられ、すぐに補充されるけれど、逆に利用価値のある内は、辞めたくても辞めさせて貰えない……

実に闇が深い世界だと、現在身をもって体験している。
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