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売名後の売名?③
しおりを挟む「間宮~森川~今日、一杯付き合えよ」
番組の収録が終わると、先輩芸人から飲みに誘われる事が増えた。
以前は、私をスルーして間宮だけが誘われていたというのに。
「すみません、兄さん………今日は先約が……また誘って下さい」
「何だよ、俺より大事な用なんか?」
同時に、軽い飲みと称した合コンの誘いも増加。
断っても断ってもきりがない。
「本当にすみません、小久保姐さんからの誘いで……」
「マジか……小久保姐さんからの誘いとなりゃ、断れないわな」
「すみません…」
飲みは増えても、比較的先輩芸人が奢ってくれるから財布に痛手はない。
でも、精神的にも肉体的にも負担は大きい。
先輩を立てる事は絶対だし、他にも色々と気を使う。
翌朝に仕事が控えているとなると、テンション的に最悪だ。
本当なら、合コンなんか気が重過ぎて行きたくない。
ドッキリの所為で、男性不信どころか、人間不信になった私にとっては、多数の人間が集う場は地獄。
ストレスが半端ない。
けれども、先輩芸人からの誘いを断るなんて無粋な事は出来ないし……
特に、機嫌を損ねると後々まで引き摺る小久保姐さんの誘いは絶対だ。
「前回の合コンはハズレだったけど、今回は期待出来るからね」
嬉しそうに頬を染める小久保姐さんは、三度の飯より合コンが好きなのでは……と思える程の、合コン好き。
というか、男好き。
「前回のは、ITの起業家の癖に、ケチでしたものね」
私と同じく、合コンに乗り気じゃない筈の間宮。
それを上手く隠しながらもしっかりと姐さんを立てている。
「………てか、森川?さっきから何やってんの?」
姐さんの声に、条件反射でビクつく。
そして、然り気無く伸ばし掛けていた手を引っ込めた。
「あ、いえ……この部屋の壁紙の材質が気になったもので…」
「あはは……」と、口元をひくつかせながら笑う私に、小久保姐さんは怪訝そうに眉を顰める。
「は?壁紙の材質ぅ?…………相変わらず、あんたは変なコね」
「はは………気にしないで下さい」
本当の所、壁の材質なんか興味ない。
ドッキリの所為で、全てにおいて疑って掛かる性質になってしまった私は、仕事でもプライベートでも……
いつでもどこでも、隠しカメラやマイクが仕掛けられていないかチェックする癖がついてしまった。
無意識の内に、室内をあちこち探ってしまう悲しい習性に、一緒に居る人は皆大抵ドン引く。
実は、この先の展開でドッキリが待ち構えているんじゃないか……とか、誰かが別室でモニタリングしていたりするんじゃないか……とか。
疑心暗鬼から、何か行動するにも、常に一歩引いて警戒している状態。
とんだトラウマを植え付けられてしまって、非常に迷惑だ。
程なくして、男性陣がやって来た。
姐さん好みのガチムチ系から、甘口、辛口……と、タイプが違えど、顔面偏差値が高めの男性三人。
彼等を見て姐さんが「あら?」と、声を挙げる。
「一人足りないんじゃない?」
女性側は、小久保姐さんに、私と間宮……それと、ピン芸人の梅原の四人。
それに対して男性陣は三人と、数が合わない。
と、姐さん好みのガチムチ系男性が眉を下げながら言う。
「すみません、来る予定の奴が急に来れなくなっちまって……急遽、別の奴を呼んだんですけど、少し遅れるみたいです」
小久保姐さんは「あらそ」と、笑う。
「なら、先に始めてましょ」
「そうですね」
簡単な自己紹介から始まり、小久保姐さんの音頭からの乾杯を経て、料理を突っつく。
小久保姐さんが親しい劇団員と、その仲間達だという三人。
ガチムチ系以外は、まだ駆け出しの役者らしく、その内の一人が私に声を掛けてくる。
「森川さんと一度話してみたかったんですよ」
にっこりと、柔らかい微笑み付きで。
それに「ありがとうございます」と、無難に返し、ビールを煽る。
私に興味を示してくれている様子の彼だけれど、実際には女として見られている訳ではない。
狙いは、きっと別の所にある。
「例のドッキリの話……聞かせて貰えませんか?」
ほら見たことか。
合コンや飲みの誘いが増えたのは、私に女としての魅力があるからではなく、単にドッキリに引っ掛かったお馬鹿な話を聞きたいが為。
私の事を知りたいのではなく、私が引っ掛かったドッキリの内容について詳しく知りたいだけなのだ。
「何も……そんなに面白い話じゃありませんよ?」
「良いじゃないですか、聞かせて下さいよ」
「………それじゃあ…」
自棄になって、ドッキリの顛末を事細かに話せば、爆笑の渦が湧く。
けれども、それと共に、私の虚しさのバロメーターは、激しく上昇。
泣きたくなってくる程、惨めな気持ちが込み上げてくる。
疲れて嫌気も差した私は、グラスを静かに置いた。
「………すみません、少し外します」
早く帰りたい……と切に願いながら、逃げるようにトイレに立つ。
「………ふぅ」
部屋から一歩出た所で、溜め息が一つ漏れ出した。
と、そこで、男性が一人こちらに向かって来るのに気付く。
遅れて来るという、四人目の男性だろうか?
気怠そうに首の後ろ辺りを擦りながらゆっくり歩いてくる彼は、顔を上げるなり、その場に立ち止まった。
「おぉっ?」
同じタイミングで私も「あ……」と、声を漏らした。
お互いに見知った顔を前に、自然と頬が緩む。
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