売名恋愛

江上蒼羽

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裏切り①

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過去に雑誌で連載していたコラムを纏めたエッセイ本が漸く完成し、この度発売となった。

その名も【まんぼう解体書】

自分で言うのもなんだけれど、全くセンスがない。


「森川さーん、こっちに目線お願いしまーす」


わざわざ私なんかの為に、詰めかけた報道陣達からの眩しいフラッシュを浴びる。

目をチカチカさせながら、本を片手にカメラの前でニコニコ笑ってみせた。

自分が必死で書き上げたものが素敵な表紙をつけられて本になった。

嬉しい筈なのに、どこか心は晴れない。


「その本は誰に読んで貰いたいですか?」

「噂になった彼には、読んで貰いましたか?」


報道陣からの不粋な質問に、懸命に作り上げていた笑顔が崩れそうになる。


「噂の彼とは、その後どうですか?」

「最後に会ったのはいつ頃ですか?」


彼等が言う噂の彼というのは、芹沢さんの事だろうけれど…

私の脳内にちらついたのは、別の彼の顔だったりする。


「………一番読んで貰いたいのは、相方ですかね…」


無難な人間の名を出してその場を凌ぎながら、胸の痛みに気付かない振りをした。


「………はぁ」


サイン、握手会を兼ねた書籍即売のイベントを無事に終わらせ、疲労感をたっぷり含んだ溜め息を吐き出した。


「森川、お疲れ。次の仕事までまだ時間があるから、ゆっくり休んでて。後から間宮も合流するから」


川瀬さんが運転する車の後部座席にだらしなく体を預けた。

忍足さんと最後に会った日から、既に一ヶ月が経過しようとしている。

仕事は変わらず順調。

正確には、全盛期に比べて少しだけ落ち着いた。

でも、忙しさはほとんど変わらない。


「森川、顔色が優れないようだけど……少し寝てたら?」


川瀬さんの労りに、満面の笑みで「大丈夫です」と、取り繕う。


「そう?無理しないでよ」

「………はい」


体は疲れていない。

心が、疲労困憊なだけだ。




程なくして、相方間宮と合流。


「お疲れ、森川~」


車内が一気に賑やかになる。


「久し振りのいわし師匠の番組だね」

「………うん、また沢山弄って貰えるといいな」

「だね~」


声を弾ませる間宮の様子から、芸人としての仕事を心底楽しんでいる事を察知した。

いつ見ても、間宮は太陽のように明るい。

常に前向きで、ひたむき。

仮に、ドッキリに仕掛けられたとしても、私みたいにいつまでも引き摺ったりしないのだろう。


「いわし師匠、お喋りだから、また収録長引きそうだよね~」

「……うん、だね」


私は、彼女の性格が羨ましい。

自分がジトジトと湿り気を帯びた性格をしているだけに。


「間宮、ここの所、特に溌剌としてるわね。何か良い事でもあった?」


ハンドルを握る川瀬さんからの指摘に、間宮の表情が一瞬固まったのを、私は見逃さなかった。


「え………そんな事ないですよ~いつも通りの私です」

「そう?ずっと上機嫌だし、肌艶も良くなった気がするから」


「えぇ~?」とか言いつつ、嬉しそうに自分の頬を押さえる間宮。

そんな彼女を眺めながら、言われてみれば……と頷く。


「ツッコミのキレがいいし、やたらテンション高めだし……プライベートで何か変化あったとか?」

「やだぁ~森川まで。な~んもないよ」


とか言いつつ、間宮の顔面は崩壊している。


「あっ……さては、彼氏が出来たな?」

「っ、」


川瀬さんの探りに、間宮の肩が大きく揺れた。


「な、な~に言ってんですか?!そんな訳ある筈ないじゃないですか~」


間宮は、明らかに動揺している。

これは図星と見て、間違いなさそうだ。


「間宮ったらいつの間に?詳しく教えなさいよ」

「いやいや、そんな………違いますって。あはははは~」


笑って誤魔化そうとする間宮。

川瀬さんの目が光る。


「プライベートまで干渉するつもりはないけど、大御所や不倫はやめてよ?後が大変なんだから」


その言葉に対して、間宮が「は~い」と、間延びした返事をする。


「ご心配なく。現実の男になんて興味ないですから、私は」


なんて、キッパリ明言していた間宮だったけれど……
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