売名恋愛

江上蒼羽

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裏切り②

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「実はさ……」


川瀬さんが席を外し、二人っきりになった途端、間宮が言いにくそうに切り出してきた。


「森川には隠し事をしたくないから、正直に白状するけど……出来たんだよね…」


言いながら頬を染める間宮。

私は「えっ?」と、聞き返す。


「出来たって……何が?痔?」

「そうそう、さくらんぼ大のが出来て………って、んな訳あるかっ!!」


ばっちーん、と、間宮が私の背中を勢い良く叩いた。


「彼氏だって、彼氏」

「えっ、えーっ?!やっぱり?」


間宮の告白に少なからず衝撃を受けたものの……


「……で?何のアニメのキャラ?」


腐女子の間宮の事だ、アニメのキャラクターに一方的に恋している可能性も否定出来なかったりする。


「いや、違うよ。架空の存在じゃなくて、リアルに存在する人だって」

「そ、そうなの?」


興味の対象が二次元(主にBL )に偏っているあの間宮に、まさかのリアル彼氏の存在有り……

これは、とんでもない事件だ。


「いつから…?」


恐る恐るといった具合に聞くと、間宮は照れ臭そうにはにかみながら言う。


「えっと、半月前位から。仕事で一緒になって………そこからなんだ」


間宮は、嬉しそうに「イエイ、付き合いたて~」と、Vサインを作った。


「へぇ……またどういう心境の変化?現実なんてクソ食らえだって言ってたくせに…」

「えっへへ…」


顔を真っ赤にしながらも、間宮の表情は幸せに満ちている。


「ずっと彼の事が気になってたんだ……向こうも私のファンだったって言ってくれて……こりゃあ、もう、付き合うしかないって感じ?」

「へぇ……どんな人?」


私が話題を掘り下げると、間宮が「むふふ…」と、込み上げてくる笑いを堪える素振りをみせた。


「えー…と、真面目で優しくて……尚且つ、癒し系?あはっ、恥ずかしいな」

「恥ずかしいって……自分から言ってきたくせに…」


相方とはいえども、ノロケ話は少々鬱陶しい。


「森川も知ってる人だよ」

「えっ、私も知ってる人?」


間宮の口振りからして、同じ業界の人だというのは分かる。

そして、彼女がその相手にかなり心酔している事も。


「今度、改めて紹介するね」

「う、うん」


二次元オンリーで、現実の男を全否定していたあの間宮を骨抜きにする人物がどのような人なのか、非常に興味がある。

と、同時に、羨ましくも思えた。


「…………いいなぁ…」


溜め息混じりに吐き出した本音。


「いいなぁ……間宮は。仕事もプライベートも順風満帆で…」

「え、森川……?」


心の中で言うつもりが、うっかり声に出してしまっていた。


「………私なんか、なーんにもないよ?仕事の方は何とか持ち直せたけど、プライベートは全然……というか、散々だし」


自嘲気味に言うと、それまでお花畑真っ盛りだった間宮の顔が曇り始める。


「……森川……もしかしなくても……引き摺ってるの?忍足さんとの事…」


おおよその事情を知っている間宮が出した、聞くだけで口の中が苦くなりそうな名前。

思わず顔を歪めそうになった所を、表情筋に力を入れ、醜く歪みそうになるのを精一杯堪えながら首を左右に振る。


「………別に。もう、平気だよ」


一つ、鉛玉のように重い溜め息を吐き出してから「ただ……」と続ける。


「もう、何もかも、どうでも良くなっちゃってさ………」

「……森川…」

「あっちは人気者、私は笑い者………まぁ、芸人だから仕方ないんだけど…」


複雑そうな顔でいる間宮に「何だか疲れちゃった……」と、無理矢理笑ってみせた。

負のオーラ全開で俯く私の背に、間宮がそっと手を置いた。


「………強がってるように見えるけど、実はまだ好きなんじゃないの?」


その問いに、再度首を振る。


「好きじゃない。嫌いだよ、あんな人…」

「……森川」


忍足さんなんか好きじゃない。

寧ろ、二度と会いたくない、口も利きたくない程大嫌いだ。

彼の所為で、何もかも辛くなった。

特に、この世界で生きていく事が。


「……今はまだ仕事は沢山あるけど、いずれ、また世間に飽きられる日が来るだろうし………そうなる前に、この業界からフェードアウトしようかな………なんて」

「えっ……」


ずっと心に留めていた気持ちを初めて相方にさらけ出して、気持ちが少し楽になった。

けれども、すぐに「……嘘、でしょ?」と、声を震わせて言った間宮の表情にハッとさせられる。
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