101 / 137
裏切り②
しおりを挟む「実はさ……」
川瀬さんが席を外し、二人っきりになった途端、間宮が言いにくそうに切り出してきた。
「森川には隠し事をしたくないから、正直に白状するけど……出来たんだよね…」
言いながら頬を染める間宮。
私は「えっ?」と、聞き返す。
「出来たって……何が?痔?」
「そうそう、さくらんぼ大のが出来て………って、んな訳あるかっ!!」
ばっちーん、と、間宮が私の背中を勢い良く叩いた。
「彼氏だって、彼氏」
「えっ、えーっ?!やっぱり?」
間宮の告白に少なからず衝撃を受けたものの……
「……で?何のアニメのキャラ?」
腐女子の間宮の事だ、アニメのキャラクターに一方的に恋している可能性も否定出来なかったりする。
「いや、違うよ。架空の存在じゃなくて、リアルに存在する人だって」
「そ、そうなの?」
興味の対象が二次元(主にBL )に偏っているあの間宮に、まさかのリアル彼氏の存在有り……
これは、とんでもない事件だ。
「いつから…?」
恐る恐るといった具合に聞くと、間宮は照れ臭そうにはにかみながら言う。
「えっと、半月前位から。仕事で一緒になって………そこからなんだ」
間宮は、嬉しそうに「イエイ、付き合いたて~」と、Vサインを作った。
「へぇ……またどういう心境の変化?現実なんてクソ食らえだって言ってたくせに…」
「えっへへ…」
顔を真っ赤にしながらも、間宮の表情は幸せに満ちている。
「ずっと彼の事が気になってたんだ……向こうも私のファンだったって言ってくれて……こりゃあ、もう、付き合うしかないって感じ?」
「へぇ……どんな人?」
私が話題を掘り下げると、間宮が「むふふ…」と、込み上げてくる笑いを堪える素振りをみせた。
「えー…と、真面目で優しくて……尚且つ、癒し系?あはっ、恥ずかしいな」
「恥ずかしいって……自分から言ってきたくせに…」
相方とはいえども、ノロケ話は少々鬱陶しい。
「森川も知ってる人だよ」
「えっ、私も知ってる人?」
間宮の口振りからして、同じ業界の人だというのは分かる。
そして、彼女がその相手にかなり心酔している事も。
「今度、改めて紹介するね」
「う、うん」
二次元オンリーで、現実の男を全否定していたあの間宮を骨抜きにする人物がどのような人なのか、非常に興味がある。
と、同時に、羨ましくも思えた。
「…………いいなぁ…」
溜め息混じりに吐き出した本音。
「いいなぁ……間宮は。仕事もプライベートも順風満帆で…」
「え、森川……?」
心の中で言うつもりが、うっかり声に出してしまっていた。
「………私なんか、なーんにもないよ?仕事の方は何とか持ち直せたけど、プライベートは全然……というか、散々だし」
自嘲気味に言うと、それまでお花畑真っ盛りだった間宮の顔が曇り始める。
「……森川……もしかしなくても……引き摺ってるの?忍足さんとの事…」
おおよその事情を知っている間宮が出した、聞くだけで口の中が苦くなりそうな名前。
思わず顔を歪めそうになった所を、表情筋に力を入れ、醜く歪みそうになるのを精一杯堪えながら首を左右に振る。
「………別に。もう、平気だよ」
一つ、鉛玉のように重い溜め息を吐き出してから「ただ……」と続ける。
「もう、何もかも、どうでも良くなっちゃってさ………」
「……森川…」
「あっちは人気者、私は笑い者………まぁ、芸人だから仕方ないんだけど…」
複雑そうな顔でいる間宮に「何だか疲れちゃった……」と、無理矢理笑ってみせた。
負のオーラ全開で俯く私の背に、間宮がそっと手を置いた。
「………強がってるように見えるけど、実はまだ好きなんじゃないの?」
その問いに、再度首を振る。
「好きじゃない。嫌いだよ、あんな人…」
「……森川」
忍足さんなんか好きじゃない。
寧ろ、二度と会いたくない、口も利きたくない程大嫌いだ。
彼の所為で、何もかも辛くなった。
特に、この世界で生きていく事が。
「……今はまだ仕事は沢山あるけど、いずれ、また世間に飽きられる日が来るだろうし………そうなる前に、この業界からフェードアウトしようかな………なんて」
「えっ……」
ずっと心に留めていた気持ちを初めて相方にさらけ出して、気持ちが少し楽になった。
けれども、すぐに「……嘘、でしょ?」と、声を震わせて言った間宮の表情にハッとさせられる。
0
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる