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本編
【第3話】私にって、悲劇でしかない来訪者の襲撃③
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「雪乃の人形が、僕は欲しいんだ」
耳に入ってきた言葉に対し、私は『あぁやっぱりな…… 』としか思えなかった。
だって、彼は実の妹である雪乃の事を、とても愛しているのだから——
ロイさんが妹想いである事は、会う機会の無かった二十年の間、雑誌やテレビで彼を観ていてるだけでもすぐに分かった。実際に彼等の家で二人のやり取りを見ていた時も、子供ながらにそう感じていた。
雪乃からのメールでも、兄である彼の事はよく話題になっていたから、余計にだ。
内容が常軌を逸している事が多く、メール内容の九割が兄の愚痴なのだが、ロイさんが本当に雪乃の事を好きなのだという事がイヤでも伝わってきた。
彼女の方はそうでも無い様だったが、ロイさんの方は、兄が妹を想う気持ちよりももっと深い気持ちが見え隠れして、ザワッと背筋に寒気を感じる事もしばしばあったくらいだ。
「実妹の人形が欲しいなんて、気持ち悪い」
布団の中で、私はぼそっと呟いた。
「気持ち悪いだなんて、僕がそうお願いする事は分かっていただろうに。芙弓ちゃんは言葉がキツイなぁ」
聞えたんだ。布団越しだし、声なんてくぐもっていて聞えないと思ったのに——と、私は心の中で呟いた。
「造ってくれるよね?僕の頼みなんだから」
何処から来るの?その自信は!
「イヤだって、もう何度言ったかも分からないくらいに、断ってますよね?」
「うん。でもその言葉は受け入れられないな。だって、ずっと欲しかったんだもん。芙弓ちゃんの造った人形が」
この人の言うことは、発想が子どもと一緒だ。
“欲しい”しか考えていない。
「何度でもお願いするよ、芙弓ちゃんが造ってくれるまでね」
「何度言われても、造る気はないです」
布団の中で私は、彼にも分かる様に大きく首を横に振った。
「じゃあ、首を縦に振ってくれるまで僕はずっと芙弓ちゃんの家に居るけど、いいよね?」
「——は!?」
私は大きな声を上げながら布団の中から顔を出し、驚きに見開いた目でロイさんの顔を見た。
仕事で毎日毎日忙しいくせに、何を言ってるんだこの人は。
「造ってもらえるまで、芙弓ちゃんの傍にずっと居るよって言ったんだよ。布団越しで聞えなかったのかな?」
「無理に決まってますよね!?」
家族でも無ければ、付き合ってもいないのにずっと傍にとか…… 何を言っているのか理解出来ない。第一、仕事はどうする気だ!
「この為だけに、数年ぶりの長期休暇も取ったんだよ?何か手伝える事があるんじゃないかなって思ってね」
「この為だけにって…… 人形は造らないんだから、仕事に戻ってもらえませんか!?」
「無理だよー。雪乃の人形を造ってもらえるまで、僕は君から一生かかろうとも離れないつもりだからね!」
「なっ…… さっきからアンタ、自分の発言の意味解っててしゃべってんの!?」
信じられない言葉に、思わず素が出てしまった。
「あははは!自分の発言の意味が解らないほど、僕はお馬鹿さんじゃないよー」
楽しそうに笑うロイさんとは間逆に、私の顔は一気に蒼白に変わっていく。
「全っ然解ってない!絶対にアンタは何もかも解ってないって!!一生傍にって…… 付き合ってもいない女に言っていい言葉じゃないですよ!ばっかじゃないの!?」
「言葉遣いがぐちゃぐちゃになってるよー。芙弓ちゃんは、意外と面白い子だったんだね」
叫び声をあげる私の頭を、子供をあやすかのような仕草でロイさんが撫でる。その手を勢い任せに、私は払い除けた。
「返事になってないって!」
「返事が欲しいのかい?解った!じゃあ僕達付き合っちゃおうか。それなら一生傍に居ても問題ないだろう?いや、結婚しないと一生は世間体があるか…… 。よし、じゃあ僕達結婚しよう!」
私にとっては重い発言を、軽いノリでロイさんが楽しそうに笑いながら言った。
それを聞いた瞬間、火山噴火を彷彿させる程の沸き立つ怒りで一気に私の頭には血が上り、部屋の中にバチーンッという大きな音が響いた。
その弾みで彼のかけていた眼鏡が外れ、ベットへと落ちる。
「ふざけるなぁ!!」
怒りが爆発し、頭で考えるよりも先に、私はロイさんの頬を平手で叩いてしまっていた。苛立ちからそれ以上声も出せず、肩を震わせていると、彼は少しだけ驚いた顔で、徐々に赤くなっていく自分の頬をゆっくりとした仕草で押さえた。
耳に入ってきた言葉に対し、私は『あぁやっぱりな…… 』としか思えなかった。
だって、彼は実の妹である雪乃の事を、とても愛しているのだから——
ロイさんが妹想いである事は、会う機会の無かった二十年の間、雑誌やテレビで彼を観ていてるだけでもすぐに分かった。実際に彼等の家で二人のやり取りを見ていた時も、子供ながらにそう感じていた。
雪乃からのメールでも、兄である彼の事はよく話題になっていたから、余計にだ。
内容が常軌を逸している事が多く、メール内容の九割が兄の愚痴なのだが、ロイさんが本当に雪乃の事を好きなのだという事がイヤでも伝わってきた。
彼女の方はそうでも無い様だったが、ロイさんの方は、兄が妹を想う気持ちよりももっと深い気持ちが見え隠れして、ザワッと背筋に寒気を感じる事もしばしばあったくらいだ。
「実妹の人形が欲しいなんて、気持ち悪い」
布団の中で、私はぼそっと呟いた。
「気持ち悪いだなんて、僕がそうお願いする事は分かっていただろうに。芙弓ちゃんは言葉がキツイなぁ」
聞えたんだ。布団越しだし、声なんてくぐもっていて聞えないと思ったのに——と、私は心の中で呟いた。
「造ってくれるよね?僕の頼みなんだから」
何処から来るの?その自信は!
「イヤだって、もう何度言ったかも分からないくらいに、断ってますよね?」
「うん。でもその言葉は受け入れられないな。だって、ずっと欲しかったんだもん。芙弓ちゃんの造った人形が」
この人の言うことは、発想が子どもと一緒だ。
“欲しい”しか考えていない。
「何度でもお願いするよ、芙弓ちゃんが造ってくれるまでね」
「何度言われても、造る気はないです」
布団の中で私は、彼にも分かる様に大きく首を横に振った。
「じゃあ、首を縦に振ってくれるまで僕はずっと芙弓ちゃんの家に居るけど、いいよね?」
「——は!?」
私は大きな声を上げながら布団の中から顔を出し、驚きに見開いた目でロイさんの顔を見た。
仕事で毎日毎日忙しいくせに、何を言ってるんだこの人は。
「造ってもらえるまで、芙弓ちゃんの傍にずっと居るよって言ったんだよ。布団越しで聞えなかったのかな?」
「無理に決まってますよね!?」
家族でも無ければ、付き合ってもいないのにずっと傍にとか…… 何を言っているのか理解出来ない。第一、仕事はどうする気だ!
「この為だけに、数年ぶりの長期休暇も取ったんだよ?何か手伝える事があるんじゃないかなって思ってね」
「この為だけにって…… 人形は造らないんだから、仕事に戻ってもらえませんか!?」
「無理だよー。雪乃の人形を造ってもらえるまで、僕は君から一生かかろうとも離れないつもりだからね!」
「なっ…… さっきからアンタ、自分の発言の意味解っててしゃべってんの!?」
信じられない言葉に、思わず素が出てしまった。
「あははは!自分の発言の意味が解らないほど、僕はお馬鹿さんじゃないよー」
楽しそうに笑うロイさんとは間逆に、私の顔は一気に蒼白に変わっていく。
「全っ然解ってない!絶対にアンタは何もかも解ってないって!!一生傍にって…… 付き合ってもいない女に言っていい言葉じゃないですよ!ばっかじゃないの!?」
「言葉遣いがぐちゃぐちゃになってるよー。芙弓ちゃんは、意外と面白い子だったんだね」
叫び声をあげる私の頭を、子供をあやすかのような仕草でロイさんが撫でる。その手を勢い任せに、私は払い除けた。
「返事になってないって!」
「返事が欲しいのかい?解った!じゃあ僕達付き合っちゃおうか。それなら一生傍に居ても問題ないだろう?いや、結婚しないと一生は世間体があるか…… 。よし、じゃあ僕達結婚しよう!」
私にとっては重い発言を、軽いノリでロイさんが楽しそうに笑いながら言った。
それを聞いた瞬間、火山噴火を彷彿させる程の沸き立つ怒りで一気に私の頭には血が上り、部屋の中にバチーンッという大きな音が響いた。
その弾みで彼のかけていた眼鏡が外れ、ベットへと落ちる。
「ふざけるなぁ!!」
怒りが爆発し、頭で考えるよりも先に、私はロイさんの頬を平手で叩いてしまっていた。苛立ちからそれ以上声も出せず、肩を震わせていると、彼は少しだけ驚いた顔で、徐々に赤くなっていく自分の頬をゆっくりとした仕草で押さえた。
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