オトコの娘が私を好きだと言う

月咲やまな

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本編

【第4話】飲み会

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 あの突然の再会の日から、あっさりと一年程は経過したある日の事。
 私がいつもの様に学校へと行き、教室の前の方の席を陣取った瞬間、クラスメイトの小牧さんが待ってましたと言わんばかりの勢いで私の方へと駆け寄ってきた。
「おはよー!ねぇ、今日こ・そ・は・暇!?」
 彼氏と別れ、別れた原因を彼自身の口から周囲にバラされた日以来、何故か随分と私に声をかけてくるようになった小牧さんを筆頭とした、クラスメイト達。
「おはよう。悪いが、今日は先約があるから無理だ」
 クラスメイトに声をかけられる事に対して悪い気はしないのだが、懐かれた理由がちょっと分からない。
「違ーう!『今日も』でしょ!?うわぁー、朝一だったら絶対にいけると思ってたのに。マジ悔しいんだけど」
「ご、ごめん…… 」
 そっぽを向いて穿き捨てる様に言われ、私は咄嗟に謝罪の言葉を口にした。
「違う違う!青鬼は悪くないの!んでもぉ、青鬼ってバイトしてないって言ってたよね?何でそんなにいっつも用事あるの?」
「あぁ。それは、友達と会う約束があるんだ」
「友達?えぇー!じゃあ私とも買い物の約束とかしてよっ」
 威圧的に言われ、少し引いた。
 だって、君はただのクラスメイトだし……と私は思ったが、彼女にとっては私は既に、友人認定をされているのかもしれない事に今更気が付き、少しすまない気持ちに。
「んでも意外。青鬼って案外友達多いんだね」
「そんな事は無い、かなり少ないと思うぞ。最近会ってる友人は一人だけだしな」
「…… 一人!?え?待って、だってここ一年近くずっと断られてきたのに、まさか先約っていつもその人なの?」

 …… あれ?

「そういえば、そうだな」
 少し天井を見て考えたが、全ての約束が椿原とのものだったので、事実を伝える為に私はコクッと頷いて答えた。
「え?何ぃ?実は彼氏?元彼にバレたくないから皆には黙ってるとか?」
 私の肩を抱き寄せると、小牧さんが小声で訊いてくる。
「ちっ、違う!そういうんじゃないんだ、本当に」
「だって、最近なんかほぼ毎日断られてて、その理由が友達との先約って——待って!もしかして私、青鬼に嫌われてる!?」
 最初は小声だった声が、最後の方だけ大きくなり、その声に驚いた周囲が私達の方を見てきた。
「違う!嫌う理由が無いだろ!そこまで付き合いが無いんだし」
「そうだよねぇ、付き合いが無いからこそ、遊ぼって誘ってる訳だしねぇ」
「だろう?」
 頷きあう私達。事実の確認を出来たからか、互いにちょっと安堵した顔になった。

「——嘘でしょ!?ちょっと、待ってよ!今日だけは絶対に困るって言ってたじゃない!」

 教室の隅の方でスマートフォンを片手に話しをしていたクラスメイトの佐藤さんが急に大きな声で叫び、周囲の注目も、私達の視線も一気に彼女の方へと集まった。
「お母さんが?いや、それは分かるけど…… 誰か他に呼べないの?無理って…… こっちだって困るんだって、や、待って!切らないで!…… あっ」
 佐藤さんは画面を不機嫌顔で見詰めると、通話の終了したスマートフォンを机の上に置き、勢いよく側にあった椅子に座った。
「行こ」
 小牧さんに腕を掴まれ、無理に引っ張られる。小牧さんの友人である佐藤さんの緊急事態っぽい雰囲気に、居ても立ってもいられなくなったのだろうが、無関係な私を連行するのはどうかと思う。だが、反論出来る雰囲気ではなかった。


「どうしたの?」
 小牧さんが尋ねると「マキィー。約束今日だってのに、どうしよう?ミチ来れないんだって。お母さん倒れたらしくって、今から病院に行くからって」と、泣きそうな声で言った。
「それなら仕方ないんじゃない?倒れたのは、ミチのせいじゃないんだし」
「そうなんだけどぉ…… 代理も出せないって。探して頼んでる時間も無いから無理って言うんだよ?ただでさえ、今日空いてる子全然居なくてギリの人数だったのに——」
 佐藤さんの言葉が途切れ、彼女がすごい勢いで私の顔を見上げてきた。
「居た!ここに暇そうな人が!!」
 失礼にも顔を指差し、佐藤さんが叫んだ。
「お願い!お母さんが倒れちゃった友達の代わりに今日参加して!!」
 その場に立ち上がり、私の手を取ると、佐藤さんが懇願する目で私を見てくる。
「…… 倒れた?それは大変だが、今日は先約が——」
「そんなに大事な用事なの?こっちは凄く大事な用なの!!何ヶ月も前からずっとお願いしてた約束が流れてしまいそうな危機的状態なの!お願い!その約束の方…… 延期できない?」
「小牧さんじゃ、駄目なのか?私じゃなく」
 助けを求めるような目で彼女を見たが、首を横に振られてしまった。
「ごめん。私はもう今晩の面子に入ってるから、代理にはなれない」
「おーねーがーいー!ホント、私今日だけはホント、マジで人数足りないと困るの!」
 先約を断るという行為には気が引けるが、こうもお願いされては断りにくく、私は仕方なく頷いてみせた。
「わ、分かった。訊くだけ訊いてみるから。返事はそれからで」
 なのにだ、「ありがとう!ホント助かる!!青鬼やっさしー!」と大喜びされてしまい、彼女の中では私が代理で何かに参加する事が、確定事項となってしまったようだった。
「いや、あの——」
「場所は『火の屋』で、時間は十九時からね。学校終わってからちょっと時間あるから、駅前で三十分前に待ち合わせしよ。あ、服装はちょっとオシャレにね。約束だよ!」
 鞄からメモ帳を取り出し、言った言葉をメモまでして渡してくれた佐藤さんの親切はありがたいのだが、「あの、確定した訳じゃないぞ?」と言う私の言葉は、始業のチャイムに掻き消されてしまった。


       ◇


 バタバタと授業時間が過ぎていき、あっという間にきてしまった放課後の時間。
 私は休憩所の辺りまで移動して鞄からスマートフォンを取り出すと、すっかり習慣になってしまった未確認メールのチェックを始めた。
 彼氏と別れた日に『これでもうメール地獄からは開放された』なんてちょっと思っていたのに、それはたった一日で終わり、椿原から大量にくるメールに返事をする事に放課後は追われてしまっている。
『すぐに会うから返事なんかいいのに』と椿原は言うが、くれた言葉をそのまま放置するのはどうも私には気が引けて出来ず、一つ一つに対して返事をするよう努力している。どうしても出来なかった時は謝ったり、電話で伝えたりと。
 椿原と正式に友人関係となった日以来、週末は必ず一緒に出かけ、メールや電話は毎日必ずあり、最近では平日の放課後までもが椿原との約束で埋まっている。
 これでは、肉体関係が無いだけで、付き合っているのと変わらないんじゃないかと思った事があり、本人に直接疑問点を訊いたりもしたのだが『友達だし、コレくらい普通だよ』と丸め込まれてしまった。
 仲のよい友人、親友といった類の存在が居ない私ではそれに対して反論が浮かばず、これといってこの関係に不満があった訳でもなかったので、何となくこの一年間現状を受け入れている。友人間でこれは何ががオカシイとわかってはいるのに、だ。

「…… 今日の返事は、電話ですればいいか」
 椿原の名前でいっぱいの着信履歴を呼び出し、通話マークを押す。奴との約束を反故にするのは始めての事で、不思議とスマートフォンを持つ手が少し震えた。
「——もしもし?」
 ワンコールの後、すぐに椿原の声が受話器越しに聞えた。
「今は、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
 椿原の可愛い声が、明るく返ってきた。
 会っている時にも思うのだが、電話での声は普段以上に声が可愛らしく、女友達と話している様な錯覚に陥る。
「今日はもう学校終わったの?こっちはまだ少し残って作業があるから、家で待っていてくれたら迎えに行くよ」
「あ、いや、それが…… 今日はちょっと別の用事が入って」
「…… 何?別の用って」
 ハッキリ分かる程、椿原の声が不機嫌になる。
 予想済みだったとはいえ、やはりこの不機嫌な声は少し怖く、私は額を軽く押さえた。
「母親が倒れて」
「明ちゃんの!?待って!僕もお見舞いに行くよ」
 一転して聞える、椿原の心配そうな声。
「違うんだ、私のじゃない。クラスメイトの友人の、だ。それで、随分前からの約束にその子が来られなくなったらしくて、えっと、それでどうしてもと無理に言われて…… 」
 状況を自分でも完璧に把握できている訳ではないせいか、上手く説明が出来ない。
「つまり、代理を頼まれたって事?」
 椿原は話が早くて助かる。
「そうなんだ!とても困っていて、どうしてもと懇願されて」
「断れなかった訳だ」
「あぁ」
 頷きながら答えると、受話器の向こうから溜息が聞えてきた。
「で?用件は訊いたの?ボクとの約束を蹴ってまで行かないといけない、用件は何?」
「あ…… そういえば」
 場所や時間は聞いていたが、肝心の用件を聞いていなかった事に今更気が付いた。だが、佐藤さん達は用意があるからと、早々に帰ってしまっているので訊けそうにない。
 彼女達の連絡先など私は知らないし、他の参加者の名前も分からないので、確認のしようが無かった。
「ばっかだなぁ、もう」
 再び聞える椿原の溜息。
「すまない、本当に。でも、彼女はとても困っていたから、きっと何かとても大事な用件だとは思うんだ」
「ボクらの年代の大事な用件なんか、たかが知れてると思うけど」
 少し開き直った私だったが、冷たい声でバッサリ切り捨てられてしまった。
「そ、そうなのか?」
「そうだよ」
「そうか…… 」
 肩を落とし、少し困った声で呟く。
「いいよ、今日くらい。でも、もう約束は破らないでね」
 優しい声が聞え、私は一気に笑顔になった。
「もちろんだ!金輪際は、絶対に!」
「えへへ、弱みげっとぉー」
「…… 何か言ったか?」
「いや?何も?まぁ、せいぜい気を付けて行ってきてね。これは友人からの、警告だよ」
 改めて何かを警告されるような事態など浮かばないのだが、私は深く考えぬままに「あぁ、分かった。じゃあまた今度」と言って、椿原との電話を切った。

「さて…… 」
 スマートフォンを鞄に戻し、佐藤さん直筆のメモを取り出す。
 時間を確認して、まだたっぷり時間が有る事が分かり安堵したのだが、小さく書かれた走り書きに目が留まった。
「——『オシャレな服で』?お洒落な服、か。…… どこまでがお洒落って事になるんだ?」
 その言葉の真意などほとんど考える事無く、私は一旦家路に着く事にした。


       ◇


「…… 騙された」
「言ったら絶対に来なかったでしょ?」
 俯き、ボソッと呟いた一言に、すぐ隣に座る小牧さんが耳打ちしてきた。
「この集まりは何なんだ?あの人達は誰だ?これから何が起こるんだ!?」
 珍しくおどおどしている私を、小牧さんが楽しそうな顔で見てくる。
「知らないの?これだから青鬼って好きー!無知で超可愛いぃ!——あのね、これは合コン。彼等は医者の卵で、彼らに気に入ってもらおうと私達は集まってるのよ!」

 今、サラッとバカにしなかったか?

「私は、彼氏なんか別に——」
 欲しくないという言葉は、小牧さんに口を手で塞がれ、言えない。
「人数合わせよ!同じ人数じゃないとイヤだっていうのが、向こうの条件だったの!むしろ興味ないのは大歓迎!私達が釣れる確立が上がるってもんよ」
 小牧さんはそう私に耳打ちすると、肉食獣の様な眼差しで目の前に並ぶ男子学生達を見渡した。
「そ、そうか。ならいいんだが。それにしても——」
 続けたい言葉を飲み込み、小牧さんに続いて私も室内を軽く見渡す。
 火の屋という和風造りの焼き鳥屋の個室の中に入る、男女各五名・合計十名の学生達。年上の者も混じっているのか、私達よりも少し大人びて見える人もおり、医者を目指しているだけあって知的な雰囲気を持つ男性陣がずらっと前に並んでいる。
 それに対して私達女性陣の方はどうかと言えば、同性の私でも軽く引いてしまう程気合が入り過ぎているのが二名と、こ慣れた感じでシックにきめている小牧さんと佐藤さん。
 それと、椿原が前に選んでくれた服を何となく選んで着てきた私とが並び、とてもちぐはぐな状態だった。
 いいのか?こんな集まりで交際相手が見つかるものなのか?と、心底不思議でならなかった。

「えっと…… 」
 掘りごたつに全員が脚を入れて座り、少しの静寂が場を包んだ時、対面に座る男性の一人が軽く手を上げて声を発した。
「こういうのって僕等正直慣れて無くって、まずは自己紹介からでいいんですかね?」
「うん!じゃあそうしようか!えっと、そしたら私から自己紹介いこうかな」
 一番端に座る、面識のない派手な子が手を高らかに上げて叫んだ。
「んじゃぁ、そっち側から順番にいきますか」
「りょーかい。あ、でも先に飲み物頼まない?」
 小牧さんが、開けられたままの襖の側で待機していた店員の方を気にしながら言った。
「そうだね。あ、これメニューそっちに回して」
「ありがと。えっと…… 私ねぇ——」
 個室の一番奥端の席で、場慣れしていない私は何をどうしていいのか分からずにただ黙って皆の様子を見ていると、すぐ目の前に座る男性が「これどうぞ。何にする?君、名前は?」と声をかけてきた。
「…… 自己紹介はこの後では?」
 キョトン顔でそう返すと、テーブルに乗そうな勢いで彼が近づき、私の方へとメニューを見せてくる。
「あはは、真面だねぇ。でもこれくらいいいんじゃないかな。んで、何頼む?お酒は平気?」
「お酒はあまり好きでは——」
 声をかけてきた彼に向かい答えようとした時、「明ちゃん!」と聞き慣れた声が不意に聞えた。
「やっぱり明ちゃんだぁ!ねえねえ、ここで何してるの?」
 大声で私の名を呼ぶ、聞き慣れた声。

 この声はいったい!?

 不審感たっぷりに声の方へ目をやると、開いたままになっている襖の奥に、何故か今日約束を断ったはずの椿原の姿があった。
「何?誰、あの子」
「誰かの知り合い?」
 顔を見合わせ、『知らない』と言いたげに首を横に振る室内のメンバー達。
「ねぇ青鬼。今名前呼ばれたけど、知ってる子?」
 小牧に訊かれ、自分が驚きに声も出ないでいた事に気が付いた。
「え?あ、あぁ。友人で…… あの、朝に話した一番仲の良い奴だ」
「あ、君の知り合いの子なんだ」
 対面の男子は私に向かいそう言うと、「一緒にどうだい?」と椿原の方へ気さくに声をかけながら手を上げて誘い始める。
「は!?ちょ、ちょっと!人数合わなくなるじゃないですかぁ」
 自己紹介一番手を宣言した女子が、少し怒り気味に異論を唱えた。
「ひょっとして合コン中でしたか?あ、ボクの事はお構いなく!明ちゃんの隣で大人しくしてますんで、ボク狙いは無しって事でどうです?」
 いつも以上に愛らしい声で、椿原が提案しだした。
「わかってんなら帰ってよ…… 」
 ボソッと派手目の子が呟く声が聞えても、椿原は笑顔を崩さずに「どうでしょ?」と男性陣の方へと返事を求める。
「い、いいんじゃないか?ほら、華は多い方が、ね?」
「そうだな、俺等は別に——」
 軽く照れ笑いをしながら次々に男性陣が了承していく中、女性陣は相変わらず不満げな顔をしたままだ。
「じゃあ、お邪魔しまーす!」
 それなのに、履いていた女性物の靴を脱ぎ、椿原は堂々と個室に入って来ると、即座に私のすぐ隣に座り、ぴたっと腕をすり寄せてきた。
「偶然だね!」
 えへへっと、椿原が私に向かい可愛く笑いかけてくる。
『本当にそうなのか!?』と、言いそうになったが、奴に今日ここで集まりがある事を私は伝えてはいなかったので、「そう…… だな?」とだけ返しておく。

 飲み物の注文が終わり、予定通り自己紹介が始まったのだが、椿原だけは「ボクの存在は、明ちゃんのオマケ程度なので。座敷童とかその程度に思っていて下さい」と、微笑み混じりに言うだけで名乗る事すらしなかった。
 談笑が始まり、誰かに「何食べる?焼き鳥は好き?」と声をかけられても、「小牧さんは? 佐藤さん食べる?焼き鳥」といった具合に、話を他に回してしまうので、途中からはすっかり誰も椿原には声をかけようとはしなくなっていった。
 まぁ、私以外は。
「…… どうしてここに?」
 皆が楽しそうに談笑する中、当然の様に声をかけられるような雰囲気では無くなった私は、椿原の耳元近くで囁く様な声で訊いた。
「んあっ」
 椿原の背が不自然に反れ、可笑しな声が漏れる。
「え!?」
「ごめ…… 耳弱くて」
 驚き、私までもが身体をビクつかせると、真っ赤な顔をしながら椿原が呟いた。
「い、いや…… 。私こそ、すまない」
「ぐ、偶然だよ、ホント。このお店の店員さんとボク知り合いでね、今度暇な時にでもおいでって言われてたから今日来てみてたの。明ちゃんにフラれて、丁度暇だったからね」
 椿原の可愛さに頬を赤くしていると、可愛らしく微笑みながら教えてくれる。
「そうなのか。それはホント、すごい偶然だな」
 どこまで信じていいのかは分からないが、ここである事を調べる手段が思い当たらぬ以上、疑うのも可笑しい。なので私は、椿原の言葉をそのまま信じてみる事にした。

「お飲み物の追加、お持ちいたしました!」
 威勢のいい、でも少し可愛らしさの混じる店員さんの声が個室の中に響く。
「あ、明ちゃん。あの人だよ、“ひむかゆい”って名札のお姉さん。彼女がボクの知り合い」
 椿原の指をさす方を私が見ると、店員の女性がヤツの方へ微笑返しているのが見えた。即座に椿原を見ると、店員に向かい柔かに手を振っている。
「ね?本当でしょ?」
「別に、疑っていた訳じゃ——」
「嘘!絶対に疑ってたでしょ。でも、同じ立場ならボクも疑うからいいよ。まぁ、ボクの場合は疑う気持ちより、見付けてくれて嬉しいって方が上にきちゃうけどね」
 椿原が私の腕にしな垂れながら、私を見上げてニッと笑う。
「そ、そうか…… 」
 何が嬉しいのか分からず、返事の困る言葉を言われて戸惑っていると、対面に座る彼が「これ、青鬼の分の飲み物だったよね?」と声をかけてきた。
「あぁ、ありがとう。えっと——」
 彼の名前が口から出ずに困っていると、「大森、君」と椿原が耳打ちしてきた。
「ありがとう、大森君」
「大森って呼び捨てでいいよ、俺なんて既に呼び捨てだし。ところで、青鬼達はちゃんと飲んでるかい?ペース遅くない?」
 一瞬、気のせいかもしれないと思う程の一瞬だけ、椿原は不機嫌そうな顔をしたが、すぐさま明るい笑顔で「飲んでますよ、明ちゃんのを」と答えた。
「自分の分も頼めばいいのに。ほら」
 大森君にメニューを差し出され、渋々椿原がそれを受け取る。
「うーん…… お酒はあんまり好きじゃないんだけどなぁ」
 受け取ったメニューを、眉間にシワをよせながら睨んでいる椿原に対し、私が「飲み放題の人数にお前も入ってるだろうから、飲んだ方が特だぞ?」と声をかけると、椿原は急に態度を一転させて「んじゃ、カシスオレンジで!」と叫んだ。
「はいはい。青鬼はどうする?追加で何か飲む?俺ビール頼むから、ついでにどう?」
 大森と椿原のやり取りにソワソワしながら飲み物を飲んでいたせいか、持って来てもらったばかりのグラスはもう半分以下にまで減っていた。
「あ…… えっと、そしたらピーチサワーで」
 少し恥かしい気持ちになりながら答えると、大森が微笑みながらそれらのメニューを店員に頼んでくれる。
 苦笑しながらその様子を見ていると、椿原は不機嫌な顔で私の腕にしがみついてきた。
「アイツ嫌い…… 」と、呟いた椿原の嫉妬に染まった声は、聞えなかった事にした。
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