恋は媚薬が連れてくる

月咲やまな

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本編

【第19話】部屋での一夜①

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 宗一郎に抱きかかえられるようにして、みどりは部屋へと戻った。
 真っ暗な部屋の中、宗一郎がみどりをベットへと寝かせる。鍵を開けたりなどはみどりがなんとかやったが、そこで力尽き、すっかり体も心も媚薬に支配されているみたいだ。
 理性の欠片もなく、移動の為に宗一郎に抱きかかえられるだけでも気持ちがいい。ベットの冷たい感触に心地よさを感じながら、枕元に座る宗一郎をみどりが上目遣いで見詰めた。
 目が合って、宗一郎の咽がゴクリと鳴る。
(…… 初日よりもずっと効いているんじゃないのか?)
「みどりさん…… 」
 名を呼びながら、宗一郎が軽くみどりの顔の方へと近づく。
 すると、みどりがネクタイをグイッと掴み、自らの方へと引っ張った。
「宗一郎さ…… 」と、名前を呼ぶ小さな声が、言い終える前に重なる唇の中に消える。深く、深く唇を重ね、互いの舌の感触にみどりが酔いしれた。
 彼女からの口付けに宗一郎は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに快楽へと堕ちていった。

 ゆっくりと宗一郎が離れ、みどりの顔を愛しそうにじっと見詰める。
 頬を優しく撫でると、みどりが撫でられて喜ぶ猫の様に、うっとりとした表情になった。
(あぁ…… もうダメだ。可愛過ぎる…… )
 宗一郎が早々に降参し、服の上から胸元にそっと触れると、みどりの体が少しビクッとした。
「みどりさ——みどりは、俺の事は好きかい?」
 改まった表情で、宗一郎が訊く。
「…… ドキドキするし、好きなんらと思いますよ」
 薬で高揚状態のみどりは、あまり考える事無く、少しろれつの回らぬ舌で答えた。
「そう…… 。じゃあ、俺が君の全てを望むのは、悪い事じゃないよね?」
 みどりの左胸の上に、宗一郎が手をそっと置く。

「みどりの全てが欲しいんだ、身も心も…… 」

 囁くように宗一郎が言った。
「その為だったら、何だってするけど…… みどりは許してくれるか?」
 眼鏡の奥に見える眼に、欲しいモノを望む、執着心を抱える冷めた色が浮かぶ。
 愛情を通り越し、手に入れる事そのものが目的となり、手段を選ぶ気のない、相手を気遣う事も考えぬ、冷めた感情で宗一郎が言った。
 ぼーっとする頭では宗一郎の言いたい事の真意が理解出来ず、みどりが微笑みだけを返す。
 暗い微笑みを浮かべ、宗一郎が「よかった…… 」と呟くと、みどりの服の胸元を少し下げ、谷間にきつく吸い付いた。

 薔薇の様に赤い跡が白い肌につき、宗一郎は満足そうな顔で自分の付けた跡を舌で舐めてみせた。
「どんな事があっても、君がこの先何を知ろうとも、俺はみどりを放さない。それでも本当にいいんだね?」
 みどりの耳元で、魅惑的とも感じられる低音で宗一郎が囁く。
 何かの契約でもさせたいかのような言葉に一瞬疑問を感じはしたが、みどりは深く考えずにコクッと頷いた。

(今この瞬間、宗一郎さんが触れてくれるなら…… もう何を犠牲にしてもいい…… )

 心までも媚薬に支配されたかのように、考える力も失われ、宗一郎の言葉の表面的な部分のみに酔い、自らの腕を彼の方へと伸ばした。

「俺を選んでよかったと、すぐにみどりもわかるよ。だって…… 俺がそう思うんだから」

 不自然ともとれる程優しく微笑み、みどりの頬へ宗一郎が口付けると、うっとりとした表情でみどりはそれを受けとった。

 宗一郎がみどりの頬からそっと離れると、着ていたスーツのジャケットのボタンを外し、投げるようにして脱ぎ捨てる。ネクタイを少し緩め、ベットへと横になるみどりの足の上に跨り、体へと覆い被さる。
 みどりの柔かい髪を優しく撫でながら、おでこへと唇をおとすと、閉じる瞼を軽く舐め、少しずつ下へ…… 下へと、キスを落としながら移動していく。首にはきつく所有の証を残し、鎖骨のラインや胸の膨らみにも、優しくキスをする。夢見ごこち状態のみどりの服に手をかけると、少しだけずらしてブラジャーをした胸を露わにさせた。
「は…… 恥ずかしいです…… 」
「何故?部屋は暗いから、別に気にならないだろう?」
「…… 宗一郎さんが近いから」
「近づかないと、何もできないよ」と、宗一郎が軽く笑う。
 ネクタイに目がいき、宗一郎がそれを解きながら「じゃあ、見えなければいいのか。そしたら側に居ないみたいなものだよね」とみどりへ言った。

「え、あ——?」

 解いたネクタイをみどりの頭にクルッと巻きつけると、それを目隠し代わりにし、解けぬ強さで縛った。
「ほら、これで見えない」
「わ、私が見えないだけじゃないですか」
 目が隠れていてもわかるくらい、困った顔を真っ赤にさせて、みどりが力なく言う。
「でも、ちょっとは恥ずかしさ半減しない?」
「…… わからない分、余計に恥ずかしいです」
「残念だなぁ」
 そう言いながら、みどりの履くズボンのファスナーに宗一郎が手をかける。
「これ、解いては…… 」
 みどりがネクタイへ手を伸ばしたが、宗一郎がその手を掴んだ。
「あげないよ、僕的にはちょっと楽しいから」
 眼鏡ごしにニヤッと宗一郎が微笑む。
「手も縛る?」
「い、いえ!普通が…… 」
「そう…… 残念。みどりの為なら、何でもしてあげるのに」
 みどりの脚から降り、彼女の履いていたズボンを引っ張って脱がせると、ショーツだけになった下半身を、宗一郎が嬉しそうに見詰めた。
 自分の履いていたズボンが脱がされた事は理解でき、頬を真っ赤にしながらみどりが恥ずかしそうに顔をそむける。足の先に触れ、ツツッと軽く触れながら指で脚のラインを宗一郎が上へ上へと撫で上げると、みどりが「んぁっ」と声を洩らしながらのけぞらせた。
「とても綺麗な脚をしていたんだね、知らなかったよ」
「そ、そんな事は——」
 みどりが口元を両手で隠しながら、粗い呼吸で答えた。
「僕以外には見せないでね、スカートとかも履いては欲しくないなぁ」
「む、無理ですよそんな…… 」
「…… じゃあ、閉じ込めちゃおうか」
「…… え?」
 とても冗談だとは取れぬ声色でそう言われ、みどりの体が硬直した。媚薬で火照る体すらも一瞬冷め、みどりは言葉が出なくなる。

(宗太君の言ってた『泣かされた子』って話、まさか…… )

「嘘だよ、そんな事が出来ないくらい——俺だってわかってるさ」
 ふくらはぎを撫でながら、みどりの白い足の甲に宗一郎がキスを落とす。
「わかってる…… そんな事は出来ないってぐらい」
 宗一郎がボソッと呟く。

(要は、犯罪にならなければいいのだろう?)

 僕は彼女を傷付けはしない。
 閉じ込めたりもしないさ、監禁罪で掴まるなんて馬鹿馬鹿しい。
 閉じ込めて、捕まえて、放さないのは——心だけだ。
 心を手に入れる為なら手段は選ばない。
 ——快楽を与え、虜にするんだ——

 既成事実を作った程度で心など手には入らないだろう。
『…… ドキドキするし、好きなんらと思いますよ』
 みどりの言葉が、頭の中で残響の様に聞こえる。
 だが、僕無しでは耐えられない体にしてしまえば…… きっとみどりは離れられなくなるはずだ。
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