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本編
【第4話】甘みの差
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それから四十分くらいが経過した頃。ダイニングテーブルの椅子に座り、ノートパソコンで仕事をしていた宗一郎が腕を高く上げてぐぐっと伸びをした。
腕時計に目をやり、「そろそろか」と呟きくと、ソファーにかけてあったスーツの上着を手に取り、それを羽織った。
上着のボタンを留め、台所に立ち、ヤカンを火にかける。お湯が沸くまでの間、またノートパソコンの前に戻り、画面とのにらめっこを再開させた。何度も内容を確認し、作成中の企画書にミスが無いかをチェックしていると、お湯の沸ける音が聞こえてきたので宗一郎は急いで台所へ戻り、火を止めた。
「沸かし過ぎたな…… 」
出来れば沸騰する直前で止めたかったんだが、と少しぼやきながら、ティーポットの蓋を開けて紅茶の葉を入れ、お湯を注いだ。
なんとか茶葉をジャンピングさせるには十分な範囲でお湯を沸かせられていた事に少し安堵し、蓋をする。ティーポットもトレーにのせ、蒸らしている間に買って来たロールケーキを切る。食事も近い時間だ、少しでいいだろうと気持ち薄めに。
十分蒸らした事を確認して、カップに紅茶を注ぎいれると、リラックスできるいい香りが部屋に広がった。
いつか…… 彼女と共にラベンダー畑でも見に行きたいななど考えながら、トレーを手に持ち、宗一郎が二階へ上がる。
ドアを二回ほどノックすると、中から宗太の「なんだよ」という不機嫌な声が返ってきた。
「お茶持って来たんだが、いらないのか?」
「…… それを先に言えよ」
中から開く気配はないので、自分でドアを開け、宗一郎が中に入った。
「いい香りですね、ラベンダーですか?」
座る椅子を回し、みどりが宗一郎に問い掛けた。
「だろう?宗太と居るとイライラするだろうからね、リラックス出来る様、これにしたんだ」
「アニキは一言多いなぁ…… 早く置いて出てけよ」
「わかってるよ、勉強の邪魔はしない」
先程液体を落とした方のカップをみどりの前に置き、隣にロールケーキを並べる。彼女の顔がパァッと嬉しそうな表情になり、宗一郎の心がドキッとした。
(か、可愛すぎる…… )
にやけてしまいそうになるのを、口を結んで宗一郎は必死に堪えた。
宗太の前にも紅茶とロールケーキを出し「あと少し頑張れよ」と、見下ろすような視線で言うと、宗一郎は宗太の部屋を出た。
「いただきまーす」
宗一郎の淹れた紅茶に、みどりが真っ先に口をつける。
鼻腔をくすぐる香しい匂いをすぅっと吸い込みながら、口に入る紅茶をコクンッと飲み込んだ。
宗太は紅茶に少し砂糖を入れてから一口飲み、頷く。
「甘党?」
「ラベンダーの紅茶だけね。アニキが好んで買うヤツさ、少し甘さ少なくない?」
「そう?お茶受けある時はこのくらいの甘さで十分だと思うけど」
「んー…… そうかぁ。俺が甘いの好きなのかなぁ」
互いの紅茶の味が、砂糖を加える前から少し違うなど全く思ってもいない二人は、紅茶のカップをソーサーに置き、ロールケーキを口に運んだ。
終了時間となり、再び宗太の部屋のドアがノックされた。
「時間だぞ」と、ドア越しに聞こえる宗一郎のくぐもった声。
「はーい!お知らせ下さって、ありがとうございます」
みどりが返事をすると「いちいち五月蝿いなぁ…… 」と宗太がぼやいた。
「親切で教えてくれているんだから、感謝しないと駄目よ」
鞄に参考書をしまいながらみどりが注意する。
「わかってるけどさぁ…… 」
宗一郎が絡んだ途端、素直になれない宗太が教科書を閉じながら言った。
「飯、温めてるから早く食べろよ」
宗一郎はそう言い、階段を下へと降りていく。荷物を全てしまい終えたみどりも、宗太の部屋を出て、一階へと降りて行った。
「今日は俺が送って行こうか?」
みどりの後ろを歩く宗太が彼女に訊くが「ご飯、冷めたらどうするの」と遠まわしに断る。男性だとはいえ、相手は年下だ。年下の男の子に送ってもらわねばならない程、この辺りの治安は悪くない。
「でもさ、ほら前回みたいに急に具合悪くなったら困るだろう?」
「そうだな、じゃあ俺が車で送って行こう」
居間のドアの前でに寄りかかりながら、宗一郎が言う。
「アニキは留守番!」
(うう…… 宗一郎さんと二人っきりになるいいチャンスだけど、宗太君に悪いもんなぁ…… )
「いえ、大丈夫ですよ。悪いですし」
本心を隠しつつ、みどりが宗一郎の方をチラッと上目遣いで見ながら、少し頬を染めつつ断った。
「DVD借りにも行きたいから、ついでだよ」
「そうなんですか?…… じゃあ、お願いしようかな」
ホッとした表情でそう言うみどりだが、宗太の表情は明かに不機嫌だ。
宗一郎は少し勝ち誇った気持ちになるも、表には出さずに居間に置いてある鞄を取りに行った。
(彼女の顔が少し赤い。もしかしたら、多少はもうアレが効き始めたかな?)
紅茶を飲んでからまだ三十分も経ってはいないが、効果が出るまでの時間は体調と個人差もあると、瓶をくれた奴が言っていた事を宗一郎は思い出した。
腕時計に目をやり、「そろそろか」と呟きくと、ソファーにかけてあったスーツの上着を手に取り、それを羽織った。
上着のボタンを留め、台所に立ち、ヤカンを火にかける。お湯が沸くまでの間、またノートパソコンの前に戻り、画面とのにらめっこを再開させた。何度も内容を確認し、作成中の企画書にミスが無いかをチェックしていると、お湯の沸ける音が聞こえてきたので宗一郎は急いで台所へ戻り、火を止めた。
「沸かし過ぎたな…… 」
出来れば沸騰する直前で止めたかったんだが、と少しぼやきながら、ティーポットの蓋を開けて紅茶の葉を入れ、お湯を注いだ。
なんとか茶葉をジャンピングさせるには十分な範囲でお湯を沸かせられていた事に少し安堵し、蓋をする。ティーポットもトレーにのせ、蒸らしている間に買って来たロールケーキを切る。食事も近い時間だ、少しでいいだろうと気持ち薄めに。
十分蒸らした事を確認して、カップに紅茶を注ぎいれると、リラックスできるいい香りが部屋に広がった。
いつか…… 彼女と共にラベンダー畑でも見に行きたいななど考えながら、トレーを手に持ち、宗一郎が二階へ上がる。
ドアを二回ほどノックすると、中から宗太の「なんだよ」という不機嫌な声が返ってきた。
「お茶持って来たんだが、いらないのか?」
「…… それを先に言えよ」
中から開く気配はないので、自分でドアを開け、宗一郎が中に入った。
「いい香りですね、ラベンダーですか?」
座る椅子を回し、みどりが宗一郎に問い掛けた。
「だろう?宗太と居るとイライラするだろうからね、リラックス出来る様、これにしたんだ」
「アニキは一言多いなぁ…… 早く置いて出てけよ」
「わかってるよ、勉強の邪魔はしない」
先程液体を落とした方のカップをみどりの前に置き、隣にロールケーキを並べる。彼女の顔がパァッと嬉しそうな表情になり、宗一郎の心がドキッとした。
(か、可愛すぎる…… )
にやけてしまいそうになるのを、口を結んで宗一郎は必死に堪えた。
宗太の前にも紅茶とロールケーキを出し「あと少し頑張れよ」と、見下ろすような視線で言うと、宗一郎は宗太の部屋を出た。
「いただきまーす」
宗一郎の淹れた紅茶に、みどりが真っ先に口をつける。
鼻腔をくすぐる香しい匂いをすぅっと吸い込みながら、口に入る紅茶をコクンッと飲み込んだ。
宗太は紅茶に少し砂糖を入れてから一口飲み、頷く。
「甘党?」
「ラベンダーの紅茶だけね。アニキが好んで買うヤツさ、少し甘さ少なくない?」
「そう?お茶受けある時はこのくらいの甘さで十分だと思うけど」
「んー…… そうかぁ。俺が甘いの好きなのかなぁ」
互いの紅茶の味が、砂糖を加える前から少し違うなど全く思ってもいない二人は、紅茶のカップをソーサーに置き、ロールケーキを口に運んだ。
終了時間となり、再び宗太の部屋のドアがノックされた。
「時間だぞ」と、ドア越しに聞こえる宗一郎のくぐもった声。
「はーい!お知らせ下さって、ありがとうございます」
みどりが返事をすると「いちいち五月蝿いなぁ…… 」と宗太がぼやいた。
「親切で教えてくれているんだから、感謝しないと駄目よ」
鞄に参考書をしまいながらみどりが注意する。
「わかってるけどさぁ…… 」
宗一郎が絡んだ途端、素直になれない宗太が教科書を閉じながら言った。
「飯、温めてるから早く食べろよ」
宗一郎はそう言い、階段を下へと降りていく。荷物を全てしまい終えたみどりも、宗太の部屋を出て、一階へと降りて行った。
「今日は俺が送って行こうか?」
みどりの後ろを歩く宗太が彼女に訊くが「ご飯、冷めたらどうするの」と遠まわしに断る。男性だとはいえ、相手は年下だ。年下の男の子に送ってもらわねばならない程、この辺りの治安は悪くない。
「でもさ、ほら前回みたいに急に具合悪くなったら困るだろう?」
「そうだな、じゃあ俺が車で送って行こう」
居間のドアの前でに寄りかかりながら、宗一郎が言う。
「アニキは留守番!」
(うう…… 宗一郎さんと二人っきりになるいいチャンスだけど、宗太君に悪いもんなぁ…… )
「いえ、大丈夫ですよ。悪いですし」
本心を隠しつつ、みどりが宗一郎の方をチラッと上目遣いで見ながら、少し頬を染めつつ断った。
「DVD借りにも行きたいから、ついでだよ」
「そうなんですか?…… じゃあ、お願いしようかな」
ホッとした表情でそう言うみどりだが、宗太の表情は明かに不機嫌だ。
宗一郎は少し勝ち誇った気持ちになるも、表には出さずに居間に置いてある鞄を取りに行った。
(彼女の顔が少し赤い。もしかしたら、多少はもうアレが効き始めたかな?)
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