恋は媚薬が連れてくる

月咲やまな

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本編

【第17話】伝えたい気持ち⑦

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「よかったんですか?あんなふうに言って」
 一階へ向って降りるエレベーターの中、宗一郎の腕にしがみ付きながらみどりが彼に声をかけた。口では気遣うふうは事を言いはしたが、内心ちょっとすっきりした気分だ。

 今回勝ち誇った顔をするのは私の番だって、意地の悪い事を思ってしまう。
 彼女が欲しかった場所は、私の居場所。
 ——そう感じるのは…… ひとえに宗一郎への感情のせい、だよね?

 ちょっと自信無くそんな事を考えていると、宗一郎がみどりの前髪を軽くよけて、おでこにキスをしてくれる。ゾクッと走る快感を抑えようと、みどりが俯く。しがみ付く手が、寒いわけでもないのに震えるていた。
「いいんだよ。一緒に居た時間が長かっただけで好意を持たれるのは迷惑だったからね」
 同じプロジェクトを任されてからというもの、何かにつけて纏わり付き、正直存在そのものを迷惑に感じていたので宗一郎は切り離せた事にとても満足していた。仕事は……正直少しやりずらくなるかもしれないが、彼女に対して自分から期待させるような事や発言をしていないのは、皆が知っている。杉野が誇張表現する性格なのも周知の事実なので、彼女が腹いせにどんな噂を流そうとも、自分の立場を揺るがすものではないと宗一郎には確信があった。
(むしろ、月曜日が楽しみだよ。さぁ、どんな噂が流れるかな?)
 やり返す自信に満ちた、余裕にたっぷりの表情でクスクスと笑う宗一郎を、みどりが不思議そうに見上げる。
 見た事のない表情に、多少の戸惑いの感じながら。

       ◇

「…… ねぇ、みどりさんの部屋に、行きたいと言ったら迷惑?」
 七階建ての施設から出て、駐車場の方へ向う途中で宗一郎がみどりに訊いてきた。
「へっ…… 部屋に、ですか⁈」
 みどりの口から、上擦った声が出た。動揺から更に心拍数が上がる。
(今から?私の部屋って…… それって、あの…… まさか——)
 宗一郎のスーツを掴むみどりの手に、汗がにじむ。困ったままみどりが答えずにいると、彼が諦めた表情をしてふうと息を吐いた。
「…… ごめん、急過ぎたよね」
(悪い事したかな…… )
 そう思うも、今この状態で部屋に二人っきりなんかになっては、自分が抑えられる自信がない。スーツを着こなしている彼を、下手したら玄関先で押し倒しそうだ。今さっき付き合うと話したばかりだというのに、その日のうちに事に及ぶような軽い奴に思われたくないと、みどりは必死に理性にしがみ付いた。
(…… ガードが固いな。薬に慣れてきたか?会う度に多用するのは、やっぱりマズかったか)
 チッと宗一郎が舌打ちしそうになり、咄嗟に堪える。
 逸る気持ちを抑えながら、宗一郎はみどりを連れて、駐車場へと歩いて行った。
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