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第二章

【第三話】『瀬田浩二』という名の災難③ (ウルカ・談)

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『…… はい』
 押したチャイムに応じ、インターフォン越しに瀬田さんがワタシへ声を発してくれた。同僚の女性や生徒達に向ける声より低い気がするのは、機械越しだからだろうか。
「瀬田様ですよね、お届け物でーす」
 そう言って、ワタシは花束をカメラと思わしき部分に突き出した。開けてもらわねば、出て来てもらえないと話にならない。これでダメなら、さぁどうしようか。
『——今出ます』
 本当に?
 自分で呼んでおいて、ビックリした顔になってしまった。

 ドアの奥で、瀬田さんが歩く音が微かに聞こえる。一歩、また一歩。段々と縮まる距離に心が弾む。何度も何度も心の中で、言おうと思っていた言葉を繰り返す。

 下手はしないよう。警戒させずに、部屋の中へどうにかして入れてもらわねば。入ってさえしまえば、残った魔力を全振りして魅了チャームの魔法でイチコロよ!そのせいで空っぽになろうが、結婚さえしてしまえば補充し放題なのだし。

 んー完璧!ワタシすごい!

 冷静になって考えたら色々と穴だらけ——いや、穴しか無い欠点のみの計画なのに、初めての恋心で煮詰まった脳味噌はワタシから完全に冷静さを失わせてしまっている。もう行動の全てが正解のような気がしてならない。


 玄関ドアが開き、瀬田さんが顔を出した。思っていたよりも背が高く、軽く見上げる感じなる。スーツの中に着ていたグレーのシャツにスーツのズボン姿で、髪が少しはねているから、もしかしたら今までソファーでうたた寝でもしていたのかもしれない。

 コレが…… 本物の瀬田浩二さん!

 真正面から、至近距離で見た彼の姿に頭の中が真っ白になる。段階を踏んで、とにかく中に侵入!と思っていた計画がすっ飛び、ワタシは今はまだ、一番言っちゃいけない一言を口にしてしまった。

「好きです!結婚して下さい!」

 彼の年齢と同じ数、二十八本の真っ赤な花束を瀬田さんの前に突き出し、しっかりと目を見詰める。でも咄嗟のことで、魅了の魔法を使うのをすっかり忘れていた。

「帰れ!」

 即答され、勢いよくドアが閉まった。
 顔や姿は見てくれていたはずなのに…… 何故?。『いや、当然だよね?いきなり何言ってるの?』と普段の自分ならわかるだろうに、不思議と今は納得出来ない。大人好きする完璧な容姿と花束を持ってして墜とせない雄などいるはずが無いのに。

 あ、もしかして瀬田さんって、同性愛者なのか⁈そうなの?

 男性体でリトライ…… いや、同じ手を使ってもドアを再び開けてくれるとは思えないわ。それにもう魔力を使い過ぎていて、再び姿を変える事は出来ない。
 どうする?
 また出直して——そうなるとまた、魔力を同じだけ貯めるには何十年以上もかかってしまう。無理だ、そんな事をしている間に瀬田さんが寿命で死んでしまうわ。

「よ、よし。もう最後の手よ」

 花束をギュッと抱き締め、決意を更に固める。
 コレはもう、いつも通り不法侵入するしか無いわ。
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