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最終章
【第一話】答え探し・前編(華・談)
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歳月は刻一刻と容赦なく流れ、文化祭やら球技大会などといった、生徒達が交流を深められるイベントが、激流が如くサクサクと終わっていってしまう。
そんな中でも学生の頃は『暇だ』『みんなと一緒で楽しい』なんて思う隙が、勉強だ部活だとにも追われながらも多少はあったのに、今はどうだ。気が付いたら、いとも簡単に一日が終わっているではないか。
言い方は違うにしろ、『先生かまってー!もう授業終わったから暇でしょ?』やら『先生って夏休みとか長くていいよねぇ』だなんて学生視点からしか“先生達の日常”を見ていなかった自分をグーで殴ってしまいたくなる。ホント、教師の仕事量の多さを当時は全く気が付いていなかったな、と。
ふとした瞬間に、担任だった先生の疲れた顔を思い出し、ちょっと遠い目になる事もあるくらいだ。でもまぁ、私の場合はカシュがいるおかげでまともな生活環境や食事内容を維持出来ているが……保護者対応だ、授業の準備だなんだとやる事が多くて、一日が四十八時間になってしまえばいいのにと、常々ずっと、こっそりだけれど思っていた。
それがどうだ。
実際そういう環境を手に入れてしまってみると、今度は体力が持たないわ……。
“黒魔術研究会”なんていう他に類をみないくらいに怪しい部活動の顧問代理を引き受け、その流れで理事長から図書館の奥に存在していた“魔女の部屋(と、今後の都合上勝手に命名した)”を“遺産”として引き受けて以来、その部屋の“何時間居ようとも現実時間が五分しか経過しない”という特性を活かし、私は毎日のようにこの部屋に入り浸っている。
何も、『暇な時間を確保するため』ではない。
……無いのよ?違うの、ただ、カシュ達の呪いを解いてあげる術が何かここにヒントでもあったりはしないかと思い、コレは純粋に担任として、そして彼の“仮初の保護者”として——
なんて頭の中で色々と言い訳をしながら、今日も今日とて、もうかれこれ五時間程、魔女の部屋に引き篭もり中だ。
この部屋は、実に面白い。
並べてある実験器具の使い方を調べる事から始め、薬草についての知識や生活の知恵など、“魔女”という言葉から連想するような、“黒魔術”とは程遠い物ばかりだ。巨大な大鍋や、いかにもな大きい帽子、ヤモリの黒焼きや、歪んだ形の木で作った杖などといった“いかにもな物”はごく一部で、むしろ殆ど見当たらない。
「……無いわ」
そう全然見当たらないのだ。残念ながら、図鑑や歴史書といった物ばかりで『魔女の書物』っぽい本が、全く無い。あれから何ヶ月も真剣に探し、毎日仮眠を挟みつつ、探しに探しているのに、室内には馬鹿みたいに物が多いせいもあってか、全然“呪い”を解く算段につながりそうな物が見当たらない。さっさと見付けて、カシュの気持ちを早く楽にしてあげたいのに……残念だわ。
(それにしたって、こんなに必死になるなんて……どうしちゃったのかしらね、私も)
この部屋を引き継ぎ、“青年の姿”をしたカシュを初めて見て、『貴女は魔女だけど、それでも好きだ』みたいなことを言われて以来、ずっと心の中がぐっちゃぐちゃだ。落ち葉が散り、テレビの中ではもう雪景色を見かける日まであるというのに、全然落ち着いてくれない。あんなに熱心に励んでいた婚活だって完全に休止状態になってしまっている。『苗字が嫌い』だなんてくだらない理由でも、自分にとっては切実な気持ちから始めた行為だったのに。
正直……あそこまで言われて、心が動かないはずがない。
『天敵だ』と言っている対象でしかないはずの“魔女”相手でも、『それでも好きだ』と言い、ベランダで逢ったあの日からずっと、いや……あの頃よりも一層明るく、彼は一心に愛情を投げかけてくれ続けている。見た目が少年のままでいてくれるならまだ庇護欲をくすぐられるだけで済んだのに、帰り道での一件以来、何故か『この姿で押せばイケる!』とカシュは確信を持ってしまったみたいで、学校以外ではすっかり“青年の姿”のままになってしまった。
共に生活をし、休日を過ごし、外に出かけ、すっかり魅惑的な“馴染みの同居人”と化している。気遣いの塊なので一緒にいて楽だし、インキュバスなので当然見目は麗しいし、学校生活も共に過ごしているので話題にも事欠かない。もうこのまま流されてしまいそうになる瞬間があちこちに点在してしまう程に、カシュとの生活は快適そのものと言えるだろう。
(だからこそ、あの子を……いや、実際には年上なあの人を、呪いなんてものから解放してあげたいわ)
今のカシュは、“禁忌の恋”に熱をあげているだけかもしれない。“魔女の呪い”から解放され、それでもなお『貴女が好きだ』なんて言われてたら……ワタシの心は難なく淫魔の手に堕ちる気がする。
「……次は、隣の棚ね」
部屋の手前から順々に本を開いては中身を調べ、やっと全体の三分の二程度が終わった気がする。パッと見で違うとわかる書物でも、どこにヒントが眠っているのかわからないので、目を通すようにした。幸いにして、館長である本多さんの“魔法”とやらのおかげで『何て書いてあるのか読めないわ!』という災難も排除されているので、ミミズが這ったようなメモ書きだろうが、異国の文字だろうが難無く読めている。
「コレも……違うわねぇ」
一冊、二冊と次々に今日のノルマを消化していく。机の上に置かれた、この部屋専用の時計で経過時間を確認しつつ、目を通し、目薬で疲労を誤魔化しながら私は、ひたすら今日も“魔女の呪い”の解除方法を探し続けた。
そんな中でも学生の頃は『暇だ』『みんなと一緒で楽しい』なんて思う隙が、勉強だ部活だとにも追われながらも多少はあったのに、今はどうだ。気が付いたら、いとも簡単に一日が終わっているではないか。
言い方は違うにしろ、『先生かまってー!もう授業終わったから暇でしょ?』やら『先生って夏休みとか長くていいよねぇ』だなんて学生視点からしか“先生達の日常”を見ていなかった自分をグーで殴ってしまいたくなる。ホント、教師の仕事量の多さを当時は全く気が付いていなかったな、と。
ふとした瞬間に、担任だった先生の疲れた顔を思い出し、ちょっと遠い目になる事もあるくらいだ。でもまぁ、私の場合はカシュがいるおかげでまともな生活環境や食事内容を維持出来ているが……保護者対応だ、授業の準備だなんだとやる事が多くて、一日が四十八時間になってしまえばいいのにと、常々ずっと、こっそりだけれど思っていた。
それがどうだ。
実際そういう環境を手に入れてしまってみると、今度は体力が持たないわ……。
“黒魔術研究会”なんていう他に類をみないくらいに怪しい部活動の顧問代理を引き受け、その流れで理事長から図書館の奥に存在していた“魔女の部屋(と、今後の都合上勝手に命名した)”を“遺産”として引き受けて以来、その部屋の“何時間居ようとも現実時間が五分しか経過しない”という特性を活かし、私は毎日のようにこの部屋に入り浸っている。
何も、『暇な時間を確保するため』ではない。
……無いのよ?違うの、ただ、カシュ達の呪いを解いてあげる術が何かここにヒントでもあったりはしないかと思い、コレは純粋に担任として、そして彼の“仮初の保護者”として——
なんて頭の中で色々と言い訳をしながら、今日も今日とて、もうかれこれ五時間程、魔女の部屋に引き篭もり中だ。
この部屋は、実に面白い。
並べてある実験器具の使い方を調べる事から始め、薬草についての知識や生活の知恵など、“魔女”という言葉から連想するような、“黒魔術”とは程遠い物ばかりだ。巨大な大鍋や、いかにもな大きい帽子、ヤモリの黒焼きや、歪んだ形の木で作った杖などといった“いかにもな物”はごく一部で、むしろ殆ど見当たらない。
「……無いわ」
そう全然見当たらないのだ。残念ながら、図鑑や歴史書といった物ばかりで『魔女の書物』っぽい本が、全く無い。あれから何ヶ月も真剣に探し、毎日仮眠を挟みつつ、探しに探しているのに、室内には馬鹿みたいに物が多いせいもあってか、全然“呪い”を解く算段につながりそうな物が見当たらない。さっさと見付けて、カシュの気持ちを早く楽にしてあげたいのに……残念だわ。
(それにしたって、こんなに必死になるなんて……どうしちゃったのかしらね、私も)
この部屋を引き継ぎ、“青年の姿”をしたカシュを初めて見て、『貴女は魔女だけど、それでも好きだ』みたいなことを言われて以来、ずっと心の中がぐっちゃぐちゃだ。落ち葉が散り、テレビの中ではもう雪景色を見かける日まであるというのに、全然落ち着いてくれない。あんなに熱心に励んでいた婚活だって完全に休止状態になってしまっている。『苗字が嫌い』だなんてくだらない理由でも、自分にとっては切実な気持ちから始めた行為だったのに。
正直……あそこまで言われて、心が動かないはずがない。
『天敵だ』と言っている対象でしかないはずの“魔女”相手でも、『それでも好きだ』と言い、ベランダで逢ったあの日からずっと、いや……あの頃よりも一層明るく、彼は一心に愛情を投げかけてくれ続けている。見た目が少年のままでいてくれるならまだ庇護欲をくすぐられるだけで済んだのに、帰り道での一件以来、何故か『この姿で押せばイケる!』とカシュは確信を持ってしまったみたいで、学校以外ではすっかり“青年の姿”のままになってしまった。
共に生活をし、休日を過ごし、外に出かけ、すっかり魅惑的な“馴染みの同居人”と化している。気遣いの塊なので一緒にいて楽だし、インキュバスなので当然見目は麗しいし、学校生活も共に過ごしているので話題にも事欠かない。もうこのまま流されてしまいそうになる瞬間があちこちに点在してしまう程に、カシュとの生活は快適そのものと言えるだろう。
(だからこそ、あの子を……いや、実際には年上なあの人を、呪いなんてものから解放してあげたいわ)
今のカシュは、“禁忌の恋”に熱をあげているだけかもしれない。“魔女の呪い”から解放され、それでもなお『貴女が好きだ』なんて言われてたら……ワタシの心は難なく淫魔の手に堕ちる気がする。
「……次は、隣の棚ね」
部屋の手前から順々に本を開いては中身を調べ、やっと全体の三分の二程度が終わった気がする。パッと見で違うとわかる書物でも、どこにヒントが眠っているのかわからないので、目を通すようにした。幸いにして、館長である本多さんの“魔法”とやらのおかげで『何て書いてあるのか読めないわ!』という災難も排除されているので、ミミズが這ったようなメモ書きだろうが、異国の文字だろうが難無く読めている。
「コレも……違うわねぇ」
一冊、二冊と次々に今日のノルマを消化していく。机の上に置かれた、この部屋専用の時計で経過時間を確認しつつ、目を通し、目薬で疲労を誤魔化しながら私は、ひたすら今日も“魔女の呪い”の解除方法を探し続けた。
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