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最終章
【第二話】答え探し・後編(華・談)
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“魔女の部屋”で呪いの解除方法を探し始めてから数ヶ月が経過した。
もうクリスマス・イブだなんて恋人達のテンションが最高潮に上がりそうな日が来てしまった。学校は今日が終業式だったので、授業自体は午後一で終わってくれたから、いつもよりも早い時間からこの部屋に来られている。
夜にはカシュと共に『ウチで何か美味しい物でも食べようか』と話していたため、彼は珍しくもう先に帰宅している。ご馳走でも作って待っていてくれているのではないかと思うと、なんだかちょっとくすぐったい気持ちに。年甲斐もなく、心が乙女っぽい反応をしてしまっているが、生まれてこの方二十八年。彼氏なんて存在がいたためしがないので仕方ないだろう。
「次は……そうね、今日はちょっと机の引き出しでも見てみようかしら」
前にぱっと見た時は文房具くらいしかない印象だったのだが、もしかしたらメモの一枚でもあるかもしれない。仕掛けを解除すると、なんら変哲もない筒の中にヒントがあったりみたいな映画的展開もあるかも、と思いつつ、引き出しを開けて中を確認してみる。
……残念ながら前と一切変わっていない。当然だ、自分しか基本的にはこの部屋には入れないのだから。
「全部出してみましょうか。中の整頓もしたいし」
だた開けて、このまま閉めるだけでは能がない。——そう思って引き出しの中身を全てごっそり出してみる。どれもこれも中世辺りの時代を感じさせるデザインではあるものの、基本的には自分の机の中身と変わらない。筆記具や白紙のメモの束、ペーパーナイフなどといったものばかりだ。
「こういう時ってあれよね。ドラマや漫画だと、引き出しを抜いたその裏板に何かあったり、机の裏側に何か貼り付けてあったりするけど……」
『まさかね』と思いながらも、慎重に引き出しを机から抜き取ってみる。残念ながら、抜いた引き出しをひっくり返してみたが何もない。『そう上手くいく話ではないわよね』何て考えながらも、それでも諦めきれず、机の裏側をダメ元で覗いてみる。壁のランタンの数は多くとも、所詮はロウソクのみに頼った室内はどうしたって薄暗く、そのせいで中身は真っ黒にしか見えない。手元を何か灯りで照らさないと無理だろうかとも思ったが、目を凝らし、暗さに慣れるのを待ってみて——
「嘘……何かあるわ」
驚きが隠せず、ぽつりと呟く。
恐る恐る手を伸ばし、天板の真裏側に貼られた紙をそっと剥がしてみる。するとそれは、薄汚れた“封筒”だった。厚みはほとんどなくて、中身が入っているのかも怪しい。だけどこんな場所に隠すくらいだ、何か意味のある物には違いないだろうと、どうしたって思ってしまう。そのせいで段々と緊張してきた。
手の平には汗がにじみ、心臓がドクンドクンと早鐘を打ち、封筒を掴む指先がプルプルと震えている。これで中身が空っぽだったら机を蹴り上げてしまいそうだ。
「……よかった、何か入ってるわ」
封を開け、中から薄っぺらい紙を一枚見付け、安堵の息をつく。よかった……ひとまず“何か”が入っていたという事実だけでほっとする。今までの流れ的にどうせ空振りだろうとは感じつつも、それでもその紙を中から出す手の震えが止まらない。
「走り書きね。慌てて書いた感じだけど……」
紙のサイズの割に文字数がぎっしりと書かれていて、しかも、いつもの走り書き以上に雑なのでかなり読み解き難い。イメージとしては、“電話をしながらテキトウに書いたメモ”といった感じだ。
「『後悔は、無いけど……』『自分も愛を知って、少し……』?……えっと——」
目を細めても意味がないけど、そうしながら少しづつ読んでいく。なんとなく受け止められた内容としては、『淫魔達を、見せしめに呪った事に後悔はしていない』という事。だけど『自分も、“魔女狩りの神父”と“禁忌の恋”に堕ちてみて愛を知った事』などが簡単に書かれていた。
「ちょっと待って⁉︎——どんな経緯でそんな相手と恋仲になれるのか、もっと書いておいて欲しかったわ!」
ドラマチックな展開が絶対にあったであろうに、それらがたったの一行程度で済まされていて、恋愛作品を愛読する身として非常に残念だ。かなり、すごく、とっても!!!
「……えっと、気を取り直してっと。『——いつかあの淫魔達も、深い愛を知った時には、呪いが解けるように……』って、ん?」
紙を掴む手に力が入り、少しシワが入ってしまった。
これはまさかの大正解なのでは?
ずっと何日も、何ヶ月も、何十時間以上をもかけて探し求めていた物をやっと見付ける事が出来たみたいだ。
「あ、あ、あったわ、見付けた。……“クリスマスの奇跡”とかってやつかしらね。サンタクロースって本当に居るんだわ……ふふふ」
今日が十二月の二十四日だった事もあり、そんなロマンチックな事をつい思ってしまう。
続きが気になり、逸る気持ちを抱えながら、メモへと目を走らせる。間違いない、この先には“呪いの解除”の方法が詳細に書かれていた。
書かれて……いたが……どうやらサンタクロースは、どんなにカシュが“いい子”にしていようとも、彼が“悪魔”だという時点で優しくしてはくれないようだ……。
もうクリスマス・イブだなんて恋人達のテンションが最高潮に上がりそうな日が来てしまった。学校は今日が終業式だったので、授業自体は午後一で終わってくれたから、いつもよりも早い時間からこの部屋に来られている。
夜にはカシュと共に『ウチで何か美味しい物でも食べようか』と話していたため、彼は珍しくもう先に帰宅している。ご馳走でも作って待っていてくれているのではないかと思うと、なんだかちょっとくすぐったい気持ちに。年甲斐もなく、心が乙女っぽい反応をしてしまっているが、生まれてこの方二十八年。彼氏なんて存在がいたためしがないので仕方ないだろう。
「次は……そうね、今日はちょっと机の引き出しでも見てみようかしら」
前にぱっと見た時は文房具くらいしかない印象だったのだが、もしかしたらメモの一枚でもあるかもしれない。仕掛けを解除すると、なんら変哲もない筒の中にヒントがあったりみたいな映画的展開もあるかも、と思いつつ、引き出しを開けて中を確認してみる。
……残念ながら前と一切変わっていない。当然だ、自分しか基本的にはこの部屋には入れないのだから。
「全部出してみましょうか。中の整頓もしたいし」
だた開けて、このまま閉めるだけでは能がない。——そう思って引き出しの中身を全てごっそり出してみる。どれもこれも中世辺りの時代を感じさせるデザインではあるものの、基本的には自分の机の中身と変わらない。筆記具や白紙のメモの束、ペーパーナイフなどといったものばかりだ。
「こういう時ってあれよね。ドラマや漫画だと、引き出しを抜いたその裏板に何かあったり、机の裏側に何か貼り付けてあったりするけど……」
『まさかね』と思いながらも、慎重に引き出しを机から抜き取ってみる。残念ながら、抜いた引き出しをひっくり返してみたが何もない。『そう上手くいく話ではないわよね』何て考えながらも、それでも諦めきれず、机の裏側をダメ元で覗いてみる。壁のランタンの数は多くとも、所詮はロウソクのみに頼った室内はどうしたって薄暗く、そのせいで中身は真っ黒にしか見えない。手元を何か灯りで照らさないと無理だろうかとも思ったが、目を凝らし、暗さに慣れるのを待ってみて——
「嘘……何かあるわ」
驚きが隠せず、ぽつりと呟く。
恐る恐る手を伸ばし、天板の真裏側に貼られた紙をそっと剥がしてみる。するとそれは、薄汚れた“封筒”だった。厚みはほとんどなくて、中身が入っているのかも怪しい。だけどこんな場所に隠すくらいだ、何か意味のある物には違いないだろうと、どうしたって思ってしまう。そのせいで段々と緊張してきた。
手の平には汗がにじみ、心臓がドクンドクンと早鐘を打ち、封筒を掴む指先がプルプルと震えている。これで中身が空っぽだったら机を蹴り上げてしまいそうだ。
「……よかった、何か入ってるわ」
封を開け、中から薄っぺらい紙を一枚見付け、安堵の息をつく。よかった……ひとまず“何か”が入っていたという事実だけでほっとする。今までの流れ的にどうせ空振りだろうとは感じつつも、それでもその紙を中から出す手の震えが止まらない。
「走り書きね。慌てて書いた感じだけど……」
紙のサイズの割に文字数がぎっしりと書かれていて、しかも、いつもの走り書き以上に雑なのでかなり読み解き難い。イメージとしては、“電話をしながらテキトウに書いたメモ”といった感じだ。
「『後悔は、無いけど……』『自分も愛を知って、少し……』?……えっと——」
目を細めても意味がないけど、そうしながら少しづつ読んでいく。なんとなく受け止められた内容としては、『淫魔達を、見せしめに呪った事に後悔はしていない』という事。だけど『自分も、“魔女狩りの神父”と“禁忌の恋”に堕ちてみて愛を知った事』などが簡単に書かれていた。
「ちょっと待って⁉︎——どんな経緯でそんな相手と恋仲になれるのか、もっと書いておいて欲しかったわ!」
ドラマチックな展開が絶対にあったであろうに、それらがたったの一行程度で済まされていて、恋愛作品を愛読する身として非常に残念だ。かなり、すごく、とっても!!!
「……えっと、気を取り直してっと。『——いつかあの淫魔達も、深い愛を知った時には、呪いが解けるように……』って、ん?」
紙を掴む手に力が入り、少しシワが入ってしまった。
これはまさかの大正解なのでは?
ずっと何日も、何ヶ月も、何十時間以上をもかけて探し求めていた物をやっと見付ける事が出来たみたいだ。
「あ、あ、あったわ、見付けた。……“クリスマスの奇跡”とかってやつかしらね。サンタクロースって本当に居るんだわ……ふふふ」
今日が十二月の二十四日だった事もあり、そんなロマンチックな事をつい思ってしまう。
続きが気になり、逸る気持ちを抱えながら、メモへと目を走らせる。間違いない、この先には“呪いの解除”の方法が詳細に書かれていた。
書かれて……いたが……どうやらサンタクロースは、どんなにカシュが“いい子”にしていようとも、彼が“悪魔”だという時点で優しくしてはくれないようだ……。
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