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二人のお仕事
後編(烏丸・談)
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烏丸透、二十五歳。
職業は漫画家。電子書籍版から数字を伸ばし、最近やっと本を出せたような新参者だ。
今までは好き勝手にしか描いていなかったので毎月締め切りに追われる生活は未だに慣れないが、それでも好きな事をやって食っていける幸運に何とかしがみついて日々を生きている。
「ふっふっふぅーん!私って天才かもぉぉぉ!」
ソファーの上で体育座りをし、膝にのせたタブレットでせっせと漫画を描いているフリをしていると、この部屋の主である綾瀬奈々美がハイテンションになりながら奇声に近い声をあげた。防音のしっかりしている部屋で良かったな。そうでなければ今頃違う意味での壁ドンを隣接している部屋からされている所だ。
カタカタと鳴り続けているキーボードを叩く音はほとんど途切れる事がない。さっきまでは『スランプだ』と嘆いていたはずだが、どうやら無事に脱する事が出来た様だ。
良かった、役に立てて。
その事をとても嬉しく思うし、困った時に俺を頼ってくれたという事実で顔が自然とニヤける。ついうっかり、ここ一年近く隠し通してきた俺の職業がバレてしまったのは大失敗だったが、幼馴染である綾瀬に隠し続けるのも心苦しかったので、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。
「あぁ、そうかもな」
一応返事はしたが、筆が乗っている彼女の耳には届いていないだろう。
綾瀬の真剣な瞳にはパソコンの画面しか映っていない。俺はそんな彼女をじっくりねっとりと細部まで観察し、タブレットの中に入れてあるイラストソフトを使って、せっせとデッザンを描きまくっている。
人生の中でこの時間が一番楽しい。
綾瀬は机に向かって座っているだけなのでずっと同じ構図ばかりだが、他の構図を描きたい時はもう妄想で充分補えるから何も問題は無い。ってか、そんなのいつもの事なので慣れている。今の自分はめちゃくちゃ真剣な顔で作業をし続けている自覚はあるが、頭ん中はスンゲェ楽しくってテンションが上がりっぱなしだ。だって好きな女性の絵を、本人を目の前にして好き放題に描けるのだ、これ以上の幸せがこの世にあるだろうか?
——いや、無い!
大きめの白い無地Tシャツにジーンズという、俺を安心させてやまない微塵もモテる気の無いコーディネート。楽だからと適当に結っただけの腰まで伸びるさらさらとした長い黒髪。自宅で仕事をする関係で外にはほとんど出ないせいで色白のままでいる肌には化粧もしておらず、職業柄猫背で、座り続けているせいなのか下半身が比較的ぽっちゃりとしている綾瀬の姿が、俺のツボ過ぎて描く手が止まらない。
裏を返せば、んな格好で俺に会うということは『お前なんぞ私の恋愛対象として眼中に無い』と言われているも同義なのだが、そんな事実からは意識を背けつつ、ひたすら描く描く描く。
コレは画力向上の為に必要な行為だ。
延いては作品をより良くする事につながり、もっといい絵を描く事が出来れば、俺に関わる皆が幸せになれるのだから。
そんなふうに自分に言い訳をしつつ、とにかく描く。ついポロッと締め切り前であると話してしまうくらいにガチで切羽詰まっているのだがウチに帰る気になんかなれるはずが無く、もういっそここに住まわせて欲しいくらいだ。…… 非常におこがましいが、出来れば綾瀬の夫という立ち位置で。
だが、そんな事は無理だって事を俺は知っている。
自分の中で長年燻っていた感情の正体が“恋心”ってやつだと気が付けた中学時代に、既に十分思い知ったからだ。
綾瀬は中学の頃には既に、ボーイズラブが大好きな少女だった。
推しカプが何だと、雑誌や本を片手に俺に対して熱弁する姿はあの当時からもう、すごく、とても、かなり可愛かったが、『自分自身の恋愛には興味が無い』と、俺に何度も突き付けてきているみたいでいつもモヤモヤとした気持ちになっていた。口を開けば二次元キャラクターの話しかせず、完成度の高い者達に囲まれているせいで目が過剰に肥えた綾瀬に、『画面の向こうの奴なんかよりも、俺なんてどう?付き合ってみる気ない?』だなんて言えるハズが無い。自分のスペックを総動員しても平面世界の男共に勝てない事は重々承知している。むしろ勝てる奴なんかいるのか?もし居てもソレは、芸能人レベルの奴等かその予備軍くらいなもんだろ。
それでも好きだって感情は、よっぽどな事態が起きない限り、そう簡単に掻き消す事なんか出来るワケがない。
『メカクレキャラが好きだ』と言われて、これ幸いと前髪を伸ばしてみた。
『乙女系男子って可愛いよね』と聞きつけて、家事が出来る様に挑戦してみたりもした。
『シックスパックが最高よ!』と熱く語られ、及ばずながらも筋トレを毎日続けている。
『俺様キャラが好きぃぃ!』と叫ばれた時は流石に諦めたが、まぁ…… 来世くらいでは頑張ろう。
綾瀬の理想に一歩くらいは近づけてはいないだろうか?
と、たまに考える事も正直あるが、神絵師達が燃える心から生み出したハイスペックなイケメン達のポスターを彼女の部屋で見る度にそんな甘い考えは粉々に砕かれ、一度も『綾瀬が好きだ!』だなんて、本人どころか誰にも言えていない。ちょくちょく本心をこぼしてしまう事はあるが、テンプレ的鈍感娘を素で体現している綾瀬は察してくれすらしていないのが現状だ。
俺の恋心を取り囲む現実を振り返り、段々とテンションが下がってきた。描く手も止まり、可愛さ余って憎さ百倍に近い感情で綾瀬の仕事する姿を長い前髪の隙間から見ていると、タターンッ!と爽快な音でエンターキーを叩き、「よっしゃぁぁぁ!」と綾瀬が雄叫びに近い声をあげた。
椅子に座ったまま背筋をぐぐっと伸ばす。それなりに大きな胸のラインが見事に丸見えとなり、当然俺の視線が胸元へ釘付けに。ありがとう、ありがとう。この段差が見られただけでもう今夜は色々捗る事間違い無しだ。
「切りのいいところまで書けたし、珈琲でも飲む?」
座っている椅子をくるっと回し、綾瀬が俺の方へ体を向ける。背筋をピンッと伸ばし、太腿も綺麗にくっつけていてホントもうこの愛らしい生き物は一体何者なんだと叫びたくなった。俺からの指摘が相当こたえたのだろうが、畜生マジで何なのコイツ、可愛いが過ぎるだろ。
「飲む」
首肯しながら二つ返事をして、こっそりデッサン画は閉じて、ちゃんと原稿のデータを開く。不意に覗かれたりでもしたらマズイからな。
「——ふぅ」
温かな珈琲の入るカップを両手で持ち、綾瀬が安堵の息を吐いた。俺の隣で体育座りをし、膝の上にカップを乗せている。そして顔を少し傾げながらこちらにちらりと視線を投げかけ、「そっちの進行度はどうだい?」と訊いてきた。
えっと、鼻血が出そうかな。
両手でカップを持っているおかげで胸がいい具合に寄せられて、着潰しているTシャツが大きめなせいか襟ぐりの隙間から谷間が『こんにちは』と覗いているじゃないか。
誘ってんのか?あ?
頭ん中では軽くキレ気味になりながらも、何とか淹れてもらった珈琲を一口飲んで、気持ちを落ち着けた。
「…… ヤバイかな」
色々な意味で。ちょっとアレが勃ちそうなせいで、軽く前のめりになって誤魔化す。男はこういう時、興奮度合いが表面化してしまい本当に不便だ。
「マジか。ストーリーの事なら相談にのれると思うけど」
「あぁ、や。当面のネタは決まってるから話の方は問題無いんだ。だけど肝心の絵の方が思う様に描けなくてなぁ。頭ん中の構図を、そのまま思う通りに表現出来ない」
「構図、か。普段はどうしてるの?」
「ネットで似たようなのを探したり、ポーズ集の本やデッサン人形を買ったりだな。あとは自分で写真を撮るとか、担当さんに頼むとか」
「担当さん…… に、頼む、の?」
「あぁ、時短になるし」
俺の代わりにいい感じの構図の写真やイラストを探してもらったり出来るのはかなりありがたい。部屋に引き篭もっていて主にネットくらいでしか資料探しをしてこなかった俺と違って、探す手段を数多く持っている人の収集力の高さには本当に驚かされた。おかげで描いてみたい構図で描けるシーンが増え、表現の幅が広がってめちゃくちゃ助かっている。それ以外の事でも色々と相談に乗ってくれるし、担当さんの存在はそれなりのものとなっているが、どうやったって綾瀬程では無いんだよな。まぁ、同等に思われても、俺なんかからでは迷惑でしかないだろうが。
「しっかし、美味いなコレ」
淹れてくれた珈琲の味が好みだったので、さらりと褒めてみる。『些細な事だろうがこういう発見を相手にちゃんと伝えると人間関係がより円滑になる』と、最近担当さんから聞いたからだ。それを聞いた時点では、今度話に織り込むかくらいの感覚でいたんだが、丁度良い機会なので実際にやって反応を確認してみた。
「…… そりゃ、スティックの袋を開けてお湯で溶かしただけっすからね。誰だって上手く淹れられるよ」
ははは、とお互いに乾いた笑いをこぼし、また一口珈琲を飲む。
どうやら褒め所を間違ったみたいだ。だが服も化粧も髪型も褒められない以上、これならばと思ったんだが…… 珈琲の用意をしてくれている所も見ておくべきだったと今更後悔を念を抱いた。
「じゃあさ、今度俺が珈琲を淹れてやろうか?この間行った人気店で買った美味い豆もあるし、コーヒーミルとかも持ってるから、一から淹れてやれるぞ?」
乙女系男子が好きだと聞かされた時期に取った杵柄で家事はそれなりにこなせる。珈琲や紅茶なども淹れられる様に練習もした。夫になるのは永遠に無理でも、せめて家政夫としてでもこの部屋に住まわせてくんねぇかなぁと一人考えていると、そんな俺の横で綾瀬はちょっと驚いた顔になっていた。
「に、人気のお店?そんなお店なんて、よく知ってるね」
互いにどちらも引き篭り体質なので驚くのも無理は無い。綾瀬と付き合えないせいでデートなんかもした事がないから、今までは探そうともしなかったしな。運良く漫画家という職を得ていなければ、一生知る事も無かったかもしれない。
「あぁ、担当さんとの打ち合わせもあったから、向こうの紹介で。デートコースの参考にしたかったから、資料集めのついでにな」
「た、担当さんと…… へぇ。デートを…… はぁ」
歯切れの悪い反応をし、綾瀬がまた一口珈琲を飲み込む。
そして、会話がプツンと途切れた。
ただ虚空をじっと見詰めているが、彼女は一体何を考えているんだろうか。
そう不思議に思っていると、今度は急にこちらに顔を向け、綾瀬が引き絞っていた口元を大きく開いた。
「あ、あのね。あんまし担当さんを頼り過ぎるのは、お、お、大人として良くないんじゃないかな!」
語気強めに、でもちょっと吃りながら綾瀬が言った。
「今はほら!ご時世的にあまり変なお願い事をするとセクハラ扱いされるかもだし、担当さんにまでモデルになってもらうのはマズイんじゃない?だって、君の作品ってTLモノなわけですし!」
「…… 」
ん?
絵のモデルを、担当さんに?
どうしてそんな発言が出て来るんだ?そんな事までは流石に頼んでないぞ。担当さんと綾瀬とは違うタイプのスタイルなので微塵も参考にならんし、今後先も絶対に頼まない。そもそも、担当さんに卑猥なシーンのモデルを頼むとか、んなのエロ漫画定番のネタでしかないじゃねぇか。…… まぁ、そういうのも好きだけどな、好きだけどもさ。
もしかして構図とかの資料集めを手伝ってもらう事があるって話を、“構図を手に入れる為にポーズをとってもらっている”と受け取ったのか?いや、綾瀬みたいな言葉のプロがそんな思い違いするか?でも…… 写真を撮るとも言ったしな、きっとポーズをとった担当さんの写真を撮っているのだと勘違いしたんだろう。言い方があやふやだったのがまずかったか。
失敗した、このままでは変な誤解を持たれてしまう上に、俺は完全に綾瀬の中で変態セクハラ野郎じゃないか。
恋愛対象として見て貰えていないだけでなく、変なレッテルまで貼られてはたまったもんじゃない。誤解は即座に解消するに限ると思い、俺が口を開き、「ごかぃ——」と言った辺りで、綾瀬がサイドテーブルの上にカップをガンッと叩きつける様にして置いた。
「わ、わ、私がヒロインのモデルなんだよね⁉︎撮るなら、わた、私を撮る方が資料としては正しいんじゃない、ないな、い、かなぁ!」
や、吃り過ぎっすよ、お姉さん。
そのせいでもう意味がよくわからんが、きっと『担当さんにセクハラをするくらいなら、幼馴染の私にしておけよこの変態。逮捕や裁判沙汰になったら迷惑なんだシネこのカス』ってのが真意って所だろう。
「訴えられたら大変だよ⁉︎な、なら私が最適じゃないかな!少なくとも、警察に駆け込んだりはしないし」
顔を真っ赤にし、熱弁しながら顔を近づけてくる。んな不用意に近づくな、キスすっぞこの野郎。
でもまぁ、やはり予想通りの理由だった。そうだよな、幼馴染が犯罪者…… しかも性犯罪は嫌だよな、わかるよ。でも俺は綾瀬が相手なら強姦されるのだって大歓迎だ。あ、こちらが歓迎している時点で綾瀬は犯罪者にはならんのか。
「それにほら!モデルするって約束だったし。壁ドンのシチュ体験のお礼に!」
おかしいな、勝手にモデルにしてもいいってだけだったはずだが?
しかもあれはスランプから脱するまでの期間限定の話で、もう問題は解消したので契約期間は即座に終了だとお前自身が言っていたと思うんだが。まぁそれでも勝手に描くのはやめねぇけども。
綾瀬の中で何がどうなってそういう流れになったのかわからないが、見事な勘違いに、幼馴染を犯罪者にはさせまいという優しさが加算されて色々暴走気味の様だ。だが、どうせ異性として綾瀬から好かれてはいないのだ、この誤解はこちらにとって好都合なのでは?
でもどうする?変態セクハラ野郎という誤解は流石に解いておきたいんだが。
そう思った時、俺の中で既に堕天済みの天使と悪魔が現れた。そして、頭の上で同時にこう囁く。
『こんな機会はもう二度と無いぞ?やって欲しいと思っていたポーズを全部、やらせたらいいじゃん』——と。
「それもそうだな」
即座に頷き、普段から持ち歩いているデジカメを鞄の中からゴソゴソと取り出す。だが綾瀬はそんな俺の行動に気が付かぬまま、「本当は嫌なんだよ?モデルなんてガラじゃないし。だ、だけど幼馴染が描けないって困ってるなら、同じ様なジャンルの仕事をする身としては、まぁ手伝うのも致し方ない流れというか…… 」と、まだ言い訳じみた言葉を続けている。
『グダグダともう煩い。まずはさっさと全部脱いで、M字に脚でも広げろよ』
なーんて言いたい事は流石に言えるはずがなく、でもカメラはしっかり片手に持って、「んじゃ早速始めっぞ」と声を掛けた。
「ンンンンッ?も、もう⁉︎」
「当然だろう?困っているのは、今なんだから」
「…… そっか、そうだよね。でも、えっと…… 」
赤い顔のまま視線を逸らし、両太腿の間に手を挟んでモジモジと綾瀬が体を揺らす。照れながらも人前で自慰を嗜んでいるみたいに見えるからその動作マジで止めてくれ。
「もう…… 担当さんには、モデル頼まない?」
最初から一度も頼んではいないが、笑顔で「もちろん」と答えておく。堂々と写真を撮る機会を逃す訳にはいかない。隠し撮りじゃない、しかも希望のポーズで撮れるのはきっとこれが最初で最後だ。
「脱いだりは…… 無理、だよ?」
「譲歩する」
本音では譲歩なんぞしたくはないが、まぁ妥協できる点だ。服のシワの入り具合や影なんかも大事だからな。
「こ、今回っきりだからね⁉︎」
「…… 」
「黙るなぁ!」
「あぁ、うん。でもその分あらゆる構図で撮るけど、いいのか?」
「そんな時間あるの?」
「正直無い。けどまぁ資料が無いと、どうしたって筆が遅くなるし。構図の参考があればあとは描くだけだから、工程自体はかなりスムーズに進むかな」
「わかるぅ。資料集めってかなり時間取られるもんね。でも手抜きなんかしたらまとまりのない薄っぺらい作品になっちゃうし」
「だろ?ってな訳だから、まずはそうだな、ソファーに深く腰掛けて、脚をちょっと開いて見せて」
「はぁぁぁぁぁ?」
目を見開き、大きな声で綾瀬が叫んだ。
「なんで驚いてんだ?俺の描いてるのは、TLモノだぞ?つまりは、エロシーンが売りだ」
「立った姿とか、何か飲んでるとか、書いてるとか、そんな感じのじゃないの?」
声が震え、焦り気味に訊いてくるが、んな構図はもうごまんと描いてきたので何も見ずに描けるわボケ。俺がどんだけ長い期間お前の普段の様子を描き続けてきたと思ってんだ。あ、そういやコイツ気が付いてないんだったな。
「今までに、リアルで見る機会の無かった構図じゃないと参考にならんだろ」
「あ、そうか…… 」と呟き、何故かちょっと安堵した様な顔で、「こ、コレは仕事の延長みたいなもので、決して他意のある行為ではなく、エロくもないっ」などと綾瀬が小声で自分に言い聞かせている。発言と言葉が不一致なのは何故なんだ。
にしても、やっぱ可愛いなぁ…… 躊躇して、迷って、安堵しつつも戸惑う姿がもう堪らない。既に動画の録画ボタンを押しておいて大正解だった。
急に黙ると、綾瀬が口をへの字にしながらもソファーに深く腰掛ける。そして両太腿をゆっくり開き、やり場の無い手を胸の上に置いて、「こ、これでいい?」と訊いてきた。さっきより腕のせいで胸の膨らみが強調されていて、かなりエロイ。天然でコレをやっていると思うと余計に唆る。
「早くしてぇぇ…… っ」
ここでその一言とか、神かよ。
早く写真を撮れ、もう脚を閉じたいと言いたいのだとはわかるんだが、ポーズのせいで違う意味にしか聞こえない。泣きそうな声で言われたので尚更だった。
ごくりと唾を飲み込み、一度頷いてから真正面に立つ。動画を録画しながらでも写真撮影が可能な機種なので、右側からや左側、アオリやフカンでなど、俺はありとあらゆる角度から撮影をしていった。
「よし。背後からが撮れないのが残念だが、まぁそこは諦めて、んじゃ次のポーズな」
「まだ撮るの⁉︎」
「当たり前だろう?資料なんだから。色々な構図で撮るって最初に言ったろう?」
「うっ…… 」
「お次はそこの床で四つん這いになって」
「へ?よ、よ…… 」
「ほら早くやれって」
俺が高圧的な態度を取ると、「う、うん」と答えながら綾瀬がソファーから降りて床に座った。俺様キャラが好きだった時期があるせいか、命令口調には弱いのかもしれない。威圧的発言は得意ではないが、こういった場合にはありがたい仕様だ。
「こ、こう?かな」
躊躇しながらも四つん這いになってはくれたが、全然エロさが足りない。まるでヨガのワンシーンか、組体操でも見ているみたいな気分だ。
「違うだろ。もっとこう——」と言いながら、肩を掴んで上半身を床につけさせる。お尻だけを上に突き上げているみたいなポーズになり、やっと蠱惑的な雰囲気になった。突然の体勢の変更で綾瀬が驚き、「ふぎゃ!」と尻尾を踏まれた猫みたいな声をあげているが、それは聞かなかった事にする。
「完璧だな!コレだよ、コレがなかなか無くって参ってたんだよ!他の作家さんのをまんま真似するワケにもいかんしな!にしても、やっぱいいな。咥えてる時とかでも使えるし、バックからのシーンでも流用できるし、最高だよ!」
つい考えている事をそのまま全部興奮気味にぶちまけてしまった。
俺の髪型がメカクレじゃ無かったら、変態顔までも全て晒している所だったろうが、そこまでは見られずに済んでありがたい。本音としては俺のモノを咥えてもらってそのままその顔を撮影したり、ぬるぬるの陰部にモノが挿入されているシーンを上から見た構図も撮りたいんだが、そんな要求は殺されるだろうからそこは妄想だけで我慢だ。
「動くなよ?もし動いても、このシーンに相応しいであろう範囲のみで、だ!」
モジモジとお尻を振ったり、両脚を擦り合わせたりなんかなら大歓迎なのでそう指定する。運よくそんなシーンを撮影出来たらもう、俺は一生お前の奴隷になってもいい。ってか、気持ちはもう既にお前の奴隷に就任済だがな。その場合は性奴隷がいい、綾瀬が相手だったら種馬並みにだって働けると断言しよう。
「いいな、その恥ずかしくって堪らないって顔も最高だよ!」
連写しながら上から下からと多数撮影する。口元をわなわなと震わせ、なんとも言えぬ表情が可愛くって鼻血モノだ。
「んじゃそのままの体勢でいろよ」と声を掛けて綾瀬の背後に回る。すると綾瀬に、「そっち側からは見るなぁぁ!」と言われた。
「いや、資料だし。むしろこっち側からが重要だろ?エロシーンの構図にするなら」
「ふぐぐぐぅぅっ」
文句を言いたいが、俺の発言に納得しか出来ず、言えない感じがまた——以下略。
それにしてもこれは……
眼・福!
その一言に尽きる。
生まれて良かった…… 。いや、俺の近くに生まれてきてくれてありがとう!と、言うべきだな。
突き上がったお尻を間近で見られた事に感謝しつつ、写真を撮る・撮る・撮る。
履いているショーツのラインがうっすらと出ていて妙にエロイ。股下にはズボンが少し食い込み、見ているだけでドキドキしてくる。あぁ…… このケツの谷間にモノを挟んで擦り付けたら数秒でイケる自信があっぞ!
コレが漫画やゲームだったのならば確実にこのままの流れでヤル所だが、俺が『理性が服を着て歩いている様な男(自称)』で良かったな。現実の男にこれ以上興味を失われては困るので、素数を数えて気持ちを宥める。きっとこの瞬間の為に学校は、俺達に素数を教えてくれたんだ。
「ま、まだなのぉ?」
ソレは早くハメてくれって事か⁉︎
って違う違う!撮影を終えろって話だよな。落ち着け、コレは資料だ資料。仕事の延長っ!
「おっし!次いこうか」
「えぇぇぇぇぇ!」
——その後も、床に寝そべって膝を立てたポーズやシーツを体に巻いた姿など、他にも多数の構図を撮らせてもらった。本心としてはもっともっと色々なポーズで撮影をしたかったのだが、「…… 書きたい。この恥ずかしい気持ちは、もう書かないと治らない!」と喚かれて、仕方無くこの桃源郷に居たような時間は終了となってしまった。
「んじゃ、俺は帰るな」
このまま此処に居ても綾瀬の前ではヌケないので、早々に鞄の中に荷物を詰めて、帰る用意をする。綾瀬の部屋のトイレでこっそりと、というのも悪くはないが、音でバレては元も子もないのでそれはすぐに諦めた。そもそも原稿の締め切り前なのだから、本当に早く帰らないとマズイしな。
「うむ…… 。そっちも早くお仕事一段落するといいね」
「いざとなったらお前にアシスタントでも頼むわ」
「私が画伯と知っての狼藉か?」
そうだった、コイツめちゃくちゃ絵が下手くそなんだったな。だから小説に走ったんだが、そっちではちゃんと食っていけるくらいには才能があったんだから本当に良かったよ。自分の中に眠る情熱を表現出来る手法を持っているってのは、人生に潤いを与えるからな。
「ベタ塗りくらいなら出来るだろ?原稿は、全部デジタルだし」
「まぁ、そのくらいは、多分。でも背景とかモブとかは絶対に無理だからね?」
「わかってるって。んじゃ、そっちも原稿頑張れよー。新刊、楽しみにしてっから」
「もう読まないでよ!」
床の上にペタンと座り、俺を見上げながら綾瀬が怒り気味に言う。でも恥ずかしさがピークなのか眦に涙が溜まったままになっていて、今にも流れ落ちそうだ。頬も赤いままだし、呼吸が苦しいのか息も上がっていて…… つまりは、とても色っぽい。
「あー…… 。善処する」
視線を逸らし、持っていた鞄を前に抱えると、俺は「んじゃ、またな」と声を掛けて綾瀬の部屋を後にした。
◇
玄関を出て、綾瀬の住むマンションの階段を上に登って行く。
鞄の中から鍵を漁ると俺は、綾瀬の部屋の真上に位置する自分の部屋のドアのロックを解除した。室内はもう薄暗い。思ったよりも長い時間、彼女の部屋で過ごしてしまった様だ。
「…… ふぅ。ただいまぁ」
短い廊下を歩き、綾瀬の部屋と全く同じ間取りである室内に入ると、電気を点けてカーテンを閉めた。気分がいいので綺麗な夕日を見るのもオツなのだが、今はもっと別の事をしたい衝動が抑えられないのでまた今度にしよう。
俺が実家を出てこの部屋に引っ越して来たのは、処女作を世に出せた自分へのご褒美としてだった。彼女の部屋の真上に住んでいる事を綾瀬にはまだ話していない。
「話せるはずが、無いよなぁ」
引越し祝いだって言って、蕎麦持って此処に来たがるに決まってる。
だけど無理だ、呼べない。
こんな部屋には、絶対に。
真っ白い壁一面には、綾瀬を隠し撮りした写真やスケッチ、学校で自由に購入出来た集合写真の、彼女の部分だけを綺麗に切り取ってコラージュした物などがびっしりと貼ってある。やっと実家を出られた解放感で一枚だけ貼っていたものが、気付けば日に日に増えていって、今では立派なストーカーの部屋っぽくなってしまった。綾瀬の部屋もコレとどっこいだが、あっちは創作物のポスターなので何万倍もマシだと言えよう。
鞄から出したデジカメをサイドテーブルの上に置き、さっき撮った動画を確認用の小さな画面で再生して、綾瀬とおそろいのソファーに腰掛ける。もちろん配置は同じ場所だ。
Tシャツから透けて見えるブラのライン、穿いているズボンの股下の食い込み、お尻を突き上げたせいでチラリと見える背中。肉眼で見るのが当然一番ではあるが、画面越しにというのも悪くない。まるでエロ動画を観ている様な気分になってきた。
ズボンの中ではもう完勃ちしたモノが快楽を求めてヒクヒクと動いている。そんな状態を緩和すべく、チャックを下ろしてボクサーパンツを少しずらした。
よく我慢したな、我が息子よ。
興奮気味に撮影出来る余裕があったのは最初の2ポーズまでで、他はもう意図して冷静にならないと綾瀬の前で勃起してしまう寸前だった。我ながらなかなかに立派な子なのでそんな事態になったら確実にバレる。気付かれた、綾瀬に見られたとなっては、絶対にそのまま興奮がピークに達して理性が吹っ飛び、そのまま押し倒していただろう。
そうはならずに済んだご褒美を自分に与える。ゆっくりと擦る様な必要は無い。もう蜜の様な液体が先っぽから溢れ出してきて、興奮度を俺に知らしめている。
「綾瀬…… あや…… な、奈々美ぃ」
彼女の名を呼び、快楽に浸る。
綾瀬の動画や、周囲から感じられる写真の彼女の視線が、俺のいやらしく勃起したモノに集中しているみたいでぞくりと背筋が震えた。ヤバイもう保たない。いつもの比じゃないくらいに感じてしまう。彼女の肩に触れた手でモノを擦っているからかもしれない。
お互いに仕事があって忙しく、会うの自体がそもそも久しぶりだった。声を聞くのだってだ。それなのに壁ドンをせがまれ、魅惑的なポーズを多数見せて貰えるだなんて、今日はなんて素晴らしい一日だったんだ!俺はもう今日で死ぬのかもしれない。その花向けに神が与えたもうた最高な最後の一日だったのだった——と、オチがついても納得出来るくらいに。
「ンンッ!」
はあはあはあ…… 。
ティッシュで精液を受け止める余裕も無く、ビュルビュルと鈴口から白濁としたモノを吐き出していく。少し遠くに飛び散り、画面に映る綾瀬の顔に水滴みたいについてしまった。
「まるで綾瀬に顔射したみたいだな、あはは」
真っ赤に頬を染めて照れている表情だったせいで、余計にそう見える。あぁ、コレならいいシーンが描けそうだな。多少は性欲も散らせたし、そろそろ真面目に仕事でもするか。
「片付け…… が先か。まいったなぁ、臭い残らんといいけど」
どうせ叶わぬ恋だ。
暴走せぬように妄想し、その妄想を全て絵にぶつけ、募る感情を発散して、俺は意地でも綾瀬の隣に居続ける権利を死守するんだ。
職業は漫画家。電子書籍版から数字を伸ばし、最近やっと本を出せたような新参者だ。
今までは好き勝手にしか描いていなかったので毎月締め切りに追われる生活は未だに慣れないが、それでも好きな事をやって食っていける幸運に何とかしがみついて日々を生きている。
「ふっふっふぅーん!私って天才かもぉぉぉ!」
ソファーの上で体育座りをし、膝にのせたタブレットでせっせと漫画を描いているフリをしていると、この部屋の主である綾瀬奈々美がハイテンションになりながら奇声に近い声をあげた。防音のしっかりしている部屋で良かったな。そうでなければ今頃違う意味での壁ドンを隣接している部屋からされている所だ。
カタカタと鳴り続けているキーボードを叩く音はほとんど途切れる事がない。さっきまでは『スランプだ』と嘆いていたはずだが、どうやら無事に脱する事が出来た様だ。
良かった、役に立てて。
その事をとても嬉しく思うし、困った時に俺を頼ってくれたという事実で顔が自然とニヤける。ついうっかり、ここ一年近く隠し通してきた俺の職業がバレてしまったのは大失敗だったが、幼馴染である綾瀬に隠し続けるのも心苦しかったので、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。
「あぁ、そうかもな」
一応返事はしたが、筆が乗っている彼女の耳には届いていないだろう。
綾瀬の真剣な瞳にはパソコンの画面しか映っていない。俺はそんな彼女をじっくりねっとりと細部まで観察し、タブレットの中に入れてあるイラストソフトを使って、せっせとデッザンを描きまくっている。
人生の中でこの時間が一番楽しい。
綾瀬は机に向かって座っているだけなのでずっと同じ構図ばかりだが、他の構図を描きたい時はもう妄想で充分補えるから何も問題は無い。ってか、そんなのいつもの事なので慣れている。今の自分はめちゃくちゃ真剣な顔で作業をし続けている自覚はあるが、頭ん中はスンゲェ楽しくってテンションが上がりっぱなしだ。だって好きな女性の絵を、本人を目の前にして好き放題に描けるのだ、これ以上の幸せがこの世にあるだろうか?
——いや、無い!
大きめの白い無地Tシャツにジーンズという、俺を安心させてやまない微塵もモテる気の無いコーディネート。楽だからと適当に結っただけの腰まで伸びるさらさらとした長い黒髪。自宅で仕事をする関係で外にはほとんど出ないせいで色白のままでいる肌には化粧もしておらず、職業柄猫背で、座り続けているせいなのか下半身が比較的ぽっちゃりとしている綾瀬の姿が、俺のツボ過ぎて描く手が止まらない。
裏を返せば、んな格好で俺に会うということは『お前なんぞ私の恋愛対象として眼中に無い』と言われているも同義なのだが、そんな事実からは意識を背けつつ、ひたすら描く描く描く。
コレは画力向上の為に必要な行為だ。
延いては作品をより良くする事につながり、もっといい絵を描く事が出来れば、俺に関わる皆が幸せになれるのだから。
そんなふうに自分に言い訳をしつつ、とにかく描く。ついポロッと締め切り前であると話してしまうくらいにガチで切羽詰まっているのだがウチに帰る気になんかなれるはずが無く、もういっそここに住まわせて欲しいくらいだ。…… 非常におこがましいが、出来れば綾瀬の夫という立ち位置で。
だが、そんな事は無理だって事を俺は知っている。
自分の中で長年燻っていた感情の正体が“恋心”ってやつだと気が付けた中学時代に、既に十分思い知ったからだ。
綾瀬は中学の頃には既に、ボーイズラブが大好きな少女だった。
推しカプが何だと、雑誌や本を片手に俺に対して熱弁する姿はあの当時からもう、すごく、とても、かなり可愛かったが、『自分自身の恋愛には興味が無い』と、俺に何度も突き付けてきているみたいでいつもモヤモヤとした気持ちになっていた。口を開けば二次元キャラクターの話しかせず、完成度の高い者達に囲まれているせいで目が過剰に肥えた綾瀬に、『画面の向こうの奴なんかよりも、俺なんてどう?付き合ってみる気ない?』だなんて言えるハズが無い。自分のスペックを総動員しても平面世界の男共に勝てない事は重々承知している。むしろ勝てる奴なんかいるのか?もし居てもソレは、芸能人レベルの奴等かその予備軍くらいなもんだろ。
それでも好きだって感情は、よっぽどな事態が起きない限り、そう簡単に掻き消す事なんか出来るワケがない。
『メカクレキャラが好きだ』と言われて、これ幸いと前髪を伸ばしてみた。
『乙女系男子って可愛いよね』と聞きつけて、家事が出来る様に挑戦してみたりもした。
『シックスパックが最高よ!』と熱く語られ、及ばずながらも筋トレを毎日続けている。
『俺様キャラが好きぃぃ!』と叫ばれた時は流石に諦めたが、まぁ…… 来世くらいでは頑張ろう。
綾瀬の理想に一歩くらいは近づけてはいないだろうか?
と、たまに考える事も正直あるが、神絵師達が燃える心から生み出したハイスペックなイケメン達のポスターを彼女の部屋で見る度にそんな甘い考えは粉々に砕かれ、一度も『綾瀬が好きだ!』だなんて、本人どころか誰にも言えていない。ちょくちょく本心をこぼしてしまう事はあるが、テンプレ的鈍感娘を素で体現している綾瀬は察してくれすらしていないのが現状だ。
俺の恋心を取り囲む現実を振り返り、段々とテンションが下がってきた。描く手も止まり、可愛さ余って憎さ百倍に近い感情で綾瀬の仕事する姿を長い前髪の隙間から見ていると、タターンッ!と爽快な音でエンターキーを叩き、「よっしゃぁぁぁ!」と綾瀬が雄叫びに近い声をあげた。
椅子に座ったまま背筋をぐぐっと伸ばす。それなりに大きな胸のラインが見事に丸見えとなり、当然俺の視線が胸元へ釘付けに。ありがとう、ありがとう。この段差が見られただけでもう今夜は色々捗る事間違い無しだ。
「切りのいいところまで書けたし、珈琲でも飲む?」
座っている椅子をくるっと回し、綾瀬が俺の方へ体を向ける。背筋をピンッと伸ばし、太腿も綺麗にくっつけていてホントもうこの愛らしい生き物は一体何者なんだと叫びたくなった。俺からの指摘が相当こたえたのだろうが、畜生マジで何なのコイツ、可愛いが過ぎるだろ。
「飲む」
首肯しながら二つ返事をして、こっそりデッサン画は閉じて、ちゃんと原稿のデータを開く。不意に覗かれたりでもしたらマズイからな。
「——ふぅ」
温かな珈琲の入るカップを両手で持ち、綾瀬が安堵の息を吐いた。俺の隣で体育座りをし、膝の上にカップを乗せている。そして顔を少し傾げながらこちらにちらりと視線を投げかけ、「そっちの進行度はどうだい?」と訊いてきた。
えっと、鼻血が出そうかな。
両手でカップを持っているおかげで胸がいい具合に寄せられて、着潰しているTシャツが大きめなせいか襟ぐりの隙間から谷間が『こんにちは』と覗いているじゃないか。
誘ってんのか?あ?
頭ん中では軽くキレ気味になりながらも、何とか淹れてもらった珈琲を一口飲んで、気持ちを落ち着けた。
「…… ヤバイかな」
色々な意味で。ちょっとアレが勃ちそうなせいで、軽く前のめりになって誤魔化す。男はこういう時、興奮度合いが表面化してしまい本当に不便だ。
「マジか。ストーリーの事なら相談にのれると思うけど」
「あぁ、や。当面のネタは決まってるから話の方は問題無いんだ。だけど肝心の絵の方が思う様に描けなくてなぁ。頭ん中の構図を、そのまま思う通りに表現出来ない」
「構図、か。普段はどうしてるの?」
「ネットで似たようなのを探したり、ポーズ集の本やデッサン人形を買ったりだな。あとは自分で写真を撮るとか、担当さんに頼むとか」
「担当さん…… に、頼む、の?」
「あぁ、時短になるし」
俺の代わりにいい感じの構図の写真やイラストを探してもらったり出来るのはかなりありがたい。部屋に引き篭もっていて主にネットくらいでしか資料探しをしてこなかった俺と違って、探す手段を数多く持っている人の収集力の高さには本当に驚かされた。おかげで描いてみたい構図で描けるシーンが増え、表現の幅が広がってめちゃくちゃ助かっている。それ以外の事でも色々と相談に乗ってくれるし、担当さんの存在はそれなりのものとなっているが、どうやったって綾瀬程では無いんだよな。まぁ、同等に思われても、俺なんかからでは迷惑でしかないだろうが。
「しっかし、美味いなコレ」
淹れてくれた珈琲の味が好みだったので、さらりと褒めてみる。『些細な事だろうがこういう発見を相手にちゃんと伝えると人間関係がより円滑になる』と、最近担当さんから聞いたからだ。それを聞いた時点では、今度話に織り込むかくらいの感覚でいたんだが、丁度良い機会なので実際にやって反応を確認してみた。
「…… そりゃ、スティックの袋を開けてお湯で溶かしただけっすからね。誰だって上手く淹れられるよ」
ははは、とお互いに乾いた笑いをこぼし、また一口珈琲を飲む。
どうやら褒め所を間違ったみたいだ。だが服も化粧も髪型も褒められない以上、これならばと思ったんだが…… 珈琲の用意をしてくれている所も見ておくべきだったと今更後悔を念を抱いた。
「じゃあさ、今度俺が珈琲を淹れてやろうか?この間行った人気店で買った美味い豆もあるし、コーヒーミルとかも持ってるから、一から淹れてやれるぞ?」
乙女系男子が好きだと聞かされた時期に取った杵柄で家事はそれなりにこなせる。珈琲や紅茶なども淹れられる様に練習もした。夫になるのは永遠に無理でも、せめて家政夫としてでもこの部屋に住まわせてくんねぇかなぁと一人考えていると、そんな俺の横で綾瀬はちょっと驚いた顔になっていた。
「に、人気のお店?そんなお店なんて、よく知ってるね」
互いにどちらも引き篭り体質なので驚くのも無理は無い。綾瀬と付き合えないせいでデートなんかもした事がないから、今までは探そうともしなかったしな。運良く漫画家という職を得ていなければ、一生知る事も無かったかもしれない。
「あぁ、担当さんとの打ち合わせもあったから、向こうの紹介で。デートコースの参考にしたかったから、資料集めのついでにな」
「た、担当さんと…… へぇ。デートを…… はぁ」
歯切れの悪い反応をし、綾瀬がまた一口珈琲を飲み込む。
そして、会話がプツンと途切れた。
ただ虚空をじっと見詰めているが、彼女は一体何を考えているんだろうか。
そう不思議に思っていると、今度は急にこちらに顔を向け、綾瀬が引き絞っていた口元を大きく開いた。
「あ、あのね。あんまし担当さんを頼り過ぎるのは、お、お、大人として良くないんじゃないかな!」
語気強めに、でもちょっと吃りながら綾瀬が言った。
「今はほら!ご時世的にあまり変なお願い事をするとセクハラ扱いされるかもだし、担当さんにまでモデルになってもらうのはマズイんじゃない?だって、君の作品ってTLモノなわけですし!」
「…… 」
ん?
絵のモデルを、担当さんに?
どうしてそんな発言が出て来るんだ?そんな事までは流石に頼んでないぞ。担当さんと綾瀬とは違うタイプのスタイルなので微塵も参考にならんし、今後先も絶対に頼まない。そもそも、担当さんに卑猥なシーンのモデルを頼むとか、んなのエロ漫画定番のネタでしかないじゃねぇか。…… まぁ、そういうのも好きだけどな、好きだけどもさ。
もしかして構図とかの資料集めを手伝ってもらう事があるって話を、“構図を手に入れる為にポーズをとってもらっている”と受け取ったのか?いや、綾瀬みたいな言葉のプロがそんな思い違いするか?でも…… 写真を撮るとも言ったしな、きっとポーズをとった担当さんの写真を撮っているのだと勘違いしたんだろう。言い方があやふやだったのがまずかったか。
失敗した、このままでは変な誤解を持たれてしまう上に、俺は完全に綾瀬の中で変態セクハラ野郎じゃないか。
恋愛対象として見て貰えていないだけでなく、変なレッテルまで貼られてはたまったもんじゃない。誤解は即座に解消するに限ると思い、俺が口を開き、「ごかぃ——」と言った辺りで、綾瀬がサイドテーブルの上にカップをガンッと叩きつける様にして置いた。
「わ、わ、私がヒロインのモデルなんだよね⁉︎撮るなら、わた、私を撮る方が資料としては正しいんじゃない、ないな、い、かなぁ!」
や、吃り過ぎっすよ、お姉さん。
そのせいでもう意味がよくわからんが、きっと『担当さんにセクハラをするくらいなら、幼馴染の私にしておけよこの変態。逮捕や裁判沙汰になったら迷惑なんだシネこのカス』ってのが真意って所だろう。
「訴えられたら大変だよ⁉︎な、なら私が最適じゃないかな!少なくとも、警察に駆け込んだりはしないし」
顔を真っ赤にし、熱弁しながら顔を近づけてくる。んな不用意に近づくな、キスすっぞこの野郎。
でもまぁ、やはり予想通りの理由だった。そうだよな、幼馴染が犯罪者…… しかも性犯罪は嫌だよな、わかるよ。でも俺は綾瀬が相手なら強姦されるのだって大歓迎だ。あ、こちらが歓迎している時点で綾瀬は犯罪者にはならんのか。
「それにほら!モデルするって約束だったし。壁ドンのシチュ体験のお礼に!」
おかしいな、勝手にモデルにしてもいいってだけだったはずだが?
しかもあれはスランプから脱するまでの期間限定の話で、もう問題は解消したので契約期間は即座に終了だとお前自身が言っていたと思うんだが。まぁそれでも勝手に描くのはやめねぇけども。
綾瀬の中で何がどうなってそういう流れになったのかわからないが、見事な勘違いに、幼馴染を犯罪者にはさせまいという優しさが加算されて色々暴走気味の様だ。だが、どうせ異性として綾瀬から好かれてはいないのだ、この誤解はこちらにとって好都合なのでは?
でもどうする?変態セクハラ野郎という誤解は流石に解いておきたいんだが。
そう思った時、俺の中で既に堕天済みの天使と悪魔が現れた。そして、頭の上で同時にこう囁く。
『こんな機会はもう二度と無いぞ?やって欲しいと思っていたポーズを全部、やらせたらいいじゃん』——と。
「それもそうだな」
即座に頷き、普段から持ち歩いているデジカメを鞄の中からゴソゴソと取り出す。だが綾瀬はそんな俺の行動に気が付かぬまま、「本当は嫌なんだよ?モデルなんてガラじゃないし。だ、だけど幼馴染が描けないって困ってるなら、同じ様なジャンルの仕事をする身としては、まぁ手伝うのも致し方ない流れというか…… 」と、まだ言い訳じみた言葉を続けている。
『グダグダともう煩い。まずはさっさと全部脱いで、M字に脚でも広げろよ』
なーんて言いたい事は流石に言えるはずがなく、でもカメラはしっかり片手に持って、「んじゃ早速始めっぞ」と声を掛けた。
「ンンンンッ?も、もう⁉︎」
「当然だろう?困っているのは、今なんだから」
「…… そっか、そうだよね。でも、えっと…… 」
赤い顔のまま視線を逸らし、両太腿の間に手を挟んでモジモジと綾瀬が体を揺らす。照れながらも人前で自慰を嗜んでいるみたいに見えるからその動作マジで止めてくれ。
「もう…… 担当さんには、モデル頼まない?」
最初から一度も頼んではいないが、笑顔で「もちろん」と答えておく。堂々と写真を撮る機会を逃す訳にはいかない。隠し撮りじゃない、しかも希望のポーズで撮れるのはきっとこれが最初で最後だ。
「脱いだりは…… 無理、だよ?」
「譲歩する」
本音では譲歩なんぞしたくはないが、まぁ妥協できる点だ。服のシワの入り具合や影なんかも大事だからな。
「こ、今回っきりだからね⁉︎」
「…… 」
「黙るなぁ!」
「あぁ、うん。でもその分あらゆる構図で撮るけど、いいのか?」
「そんな時間あるの?」
「正直無い。けどまぁ資料が無いと、どうしたって筆が遅くなるし。構図の参考があればあとは描くだけだから、工程自体はかなりスムーズに進むかな」
「わかるぅ。資料集めってかなり時間取られるもんね。でも手抜きなんかしたらまとまりのない薄っぺらい作品になっちゃうし」
「だろ?ってな訳だから、まずはそうだな、ソファーに深く腰掛けて、脚をちょっと開いて見せて」
「はぁぁぁぁぁ?」
目を見開き、大きな声で綾瀬が叫んだ。
「なんで驚いてんだ?俺の描いてるのは、TLモノだぞ?つまりは、エロシーンが売りだ」
「立った姿とか、何か飲んでるとか、書いてるとか、そんな感じのじゃないの?」
声が震え、焦り気味に訊いてくるが、んな構図はもうごまんと描いてきたので何も見ずに描けるわボケ。俺がどんだけ長い期間お前の普段の様子を描き続けてきたと思ってんだ。あ、そういやコイツ気が付いてないんだったな。
「今までに、リアルで見る機会の無かった構図じゃないと参考にならんだろ」
「あ、そうか…… 」と呟き、何故かちょっと安堵した様な顔で、「こ、コレは仕事の延長みたいなもので、決して他意のある行為ではなく、エロくもないっ」などと綾瀬が小声で自分に言い聞かせている。発言と言葉が不一致なのは何故なんだ。
にしても、やっぱ可愛いなぁ…… 躊躇して、迷って、安堵しつつも戸惑う姿がもう堪らない。既に動画の録画ボタンを押しておいて大正解だった。
急に黙ると、綾瀬が口をへの字にしながらもソファーに深く腰掛ける。そして両太腿をゆっくり開き、やり場の無い手を胸の上に置いて、「こ、これでいい?」と訊いてきた。さっきより腕のせいで胸の膨らみが強調されていて、かなりエロイ。天然でコレをやっていると思うと余計に唆る。
「早くしてぇぇ…… っ」
ここでその一言とか、神かよ。
早く写真を撮れ、もう脚を閉じたいと言いたいのだとはわかるんだが、ポーズのせいで違う意味にしか聞こえない。泣きそうな声で言われたので尚更だった。
ごくりと唾を飲み込み、一度頷いてから真正面に立つ。動画を録画しながらでも写真撮影が可能な機種なので、右側からや左側、アオリやフカンでなど、俺はありとあらゆる角度から撮影をしていった。
「よし。背後からが撮れないのが残念だが、まぁそこは諦めて、んじゃ次のポーズな」
「まだ撮るの⁉︎」
「当たり前だろう?資料なんだから。色々な構図で撮るって最初に言ったろう?」
「うっ…… 」
「お次はそこの床で四つん這いになって」
「へ?よ、よ…… 」
「ほら早くやれって」
俺が高圧的な態度を取ると、「う、うん」と答えながら綾瀬がソファーから降りて床に座った。俺様キャラが好きだった時期があるせいか、命令口調には弱いのかもしれない。威圧的発言は得意ではないが、こういった場合にはありがたい仕様だ。
「こ、こう?かな」
躊躇しながらも四つん這いになってはくれたが、全然エロさが足りない。まるでヨガのワンシーンか、組体操でも見ているみたいな気分だ。
「違うだろ。もっとこう——」と言いながら、肩を掴んで上半身を床につけさせる。お尻だけを上に突き上げているみたいなポーズになり、やっと蠱惑的な雰囲気になった。突然の体勢の変更で綾瀬が驚き、「ふぎゃ!」と尻尾を踏まれた猫みたいな声をあげているが、それは聞かなかった事にする。
「完璧だな!コレだよ、コレがなかなか無くって参ってたんだよ!他の作家さんのをまんま真似するワケにもいかんしな!にしても、やっぱいいな。咥えてる時とかでも使えるし、バックからのシーンでも流用できるし、最高だよ!」
つい考えている事をそのまま全部興奮気味にぶちまけてしまった。
俺の髪型がメカクレじゃ無かったら、変態顔までも全て晒している所だったろうが、そこまでは見られずに済んでありがたい。本音としては俺のモノを咥えてもらってそのままその顔を撮影したり、ぬるぬるの陰部にモノが挿入されているシーンを上から見た構図も撮りたいんだが、そんな要求は殺されるだろうからそこは妄想だけで我慢だ。
「動くなよ?もし動いても、このシーンに相応しいであろう範囲のみで、だ!」
モジモジとお尻を振ったり、両脚を擦り合わせたりなんかなら大歓迎なのでそう指定する。運よくそんなシーンを撮影出来たらもう、俺は一生お前の奴隷になってもいい。ってか、気持ちはもう既にお前の奴隷に就任済だがな。その場合は性奴隷がいい、綾瀬が相手だったら種馬並みにだって働けると断言しよう。
「いいな、その恥ずかしくって堪らないって顔も最高だよ!」
連写しながら上から下からと多数撮影する。口元をわなわなと震わせ、なんとも言えぬ表情が可愛くって鼻血モノだ。
「んじゃそのままの体勢でいろよ」と声を掛けて綾瀬の背後に回る。すると綾瀬に、「そっち側からは見るなぁぁ!」と言われた。
「いや、資料だし。むしろこっち側からが重要だろ?エロシーンの構図にするなら」
「ふぐぐぐぅぅっ」
文句を言いたいが、俺の発言に納得しか出来ず、言えない感じがまた——以下略。
それにしてもこれは……
眼・福!
その一言に尽きる。
生まれて良かった…… 。いや、俺の近くに生まれてきてくれてありがとう!と、言うべきだな。
突き上がったお尻を間近で見られた事に感謝しつつ、写真を撮る・撮る・撮る。
履いているショーツのラインがうっすらと出ていて妙にエロイ。股下にはズボンが少し食い込み、見ているだけでドキドキしてくる。あぁ…… このケツの谷間にモノを挟んで擦り付けたら数秒でイケる自信があっぞ!
コレが漫画やゲームだったのならば確実にこのままの流れでヤル所だが、俺が『理性が服を着て歩いている様な男(自称)』で良かったな。現実の男にこれ以上興味を失われては困るので、素数を数えて気持ちを宥める。きっとこの瞬間の為に学校は、俺達に素数を教えてくれたんだ。
「ま、まだなのぉ?」
ソレは早くハメてくれって事か⁉︎
って違う違う!撮影を終えろって話だよな。落ち着け、コレは資料だ資料。仕事の延長っ!
「おっし!次いこうか」
「えぇぇぇぇぇ!」
——その後も、床に寝そべって膝を立てたポーズやシーツを体に巻いた姿など、他にも多数の構図を撮らせてもらった。本心としてはもっともっと色々なポーズで撮影をしたかったのだが、「…… 書きたい。この恥ずかしい気持ちは、もう書かないと治らない!」と喚かれて、仕方無くこの桃源郷に居たような時間は終了となってしまった。
「んじゃ、俺は帰るな」
このまま此処に居ても綾瀬の前ではヌケないので、早々に鞄の中に荷物を詰めて、帰る用意をする。綾瀬の部屋のトイレでこっそりと、というのも悪くはないが、音でバレては元も子もないのでそれはすぐに諦めた。そもそも原稿の締め切り前なのだから、本当に早く帰らないとマズイしな。
「うむ…… 。そっちも早くお仕事一段落するといいね」
「いざとなったらお前にアシスタントでも頼むわ」
「私が画伯と知っての狼藉か?」
そうだった、コイツめちゃくちゃ絵が下手くそなんだったな。だから小説に走ったんだが、そっちではちゃんと食っていけるくらいには才能があったんだから本当に良かったよ。自分の中に眠る情熱を表現出来る手法を持っているってのは、人生に潤いを与えるからな。
「ベタ塗りくらいなら出来るだろ?原稿は、全部デジタルだし」
「まぁ、そのくらいは、多分。でも背景とかモブとかは絶対に無理だからね?」
「わかってるって。んじゃ、そっちも原稿頑張れよー。新刊、楽しみにしてっから」
「もう読まないでよ!」
床の上にペタンと座り、俺を見上げながら綾瀬が怒り気味に言う。でも恥ずかしさがピークなのか眦に涙が溜まったままになっていて、今にも流れ落ちそうだ。頬も赤いままだし、呼吸が苦しいのか息も上がっていて…… つまりは、とても色っぽい。
「あー…… 。善処する」
視線を逸らし、持っていた鞄を前に抱えると、俺は「んじゃ、またな」と声を掛けて綾瀬の部屋を後にした。
◇
玄関を出て、綾瀬の住むマンションの階段を上に登って行く。
鞄の中から鍵を漁ると俺は、綾瀬の部屋の真上に位置する自分の部屋のドアのロックを解除した。室内はもう薄暗い。思ったよりも長い時間、彼女の部屋で過ごしてしまった様だ。
「…… ふぅ。ただいまぁ」
短い廊下を歩き、綾瀬の部屋と全く同じ間取りである室内に入ると、電気を点けてカーテンを閉めた。気分がいいので綺麗な夕日を見るのもオツなのだが、今はもっと別の事をしたい衝動が抑えられないのでまた今度にしよう。
俺が実家を出てこの部屋に引っ越して来たのは、処女作を世に出せた自分へのご褒美としてだった。彼女の部屋の真上に住んでいる事を綾瀬にはまだ話していない。
「話せるはずが、無いよなぁ」
引越し祝いだって言って、蕎麦持って此処に来たがるに決まってる。
だけど無理だ、呼べない。
こんな部屋には、絶対に。
真っ白い壁一面には、綾瀬を隠し撮りした写真やスケッチ、学校で自由に購入出来た集合写真の、彼女の部分だけを綺麗に切り取ってコラージュした物などがびっしりと貼ってある。やっと実家を出られた解放感で一枚だけ貼っていたものが、気付けば日に日に増えていって、今では立派なストーカーの部屋っぽくなってしまった。綾瀬の部屋もコレとどっこいだが、あっちは創作物のポスターなので何万倍もマシだと言えよう。
鞄から出したデジカメをサイドテーブルの上に置き、さっき撮った動画を確認用の小さな画面で再生して、綾瀬とおそろいのソファーに腰掛ける。もちろん配置は同じ場所だ。
Tシャツから透けて見えるブラのライン、穿いているズボンの股下の食い込み、お尻を突き上げたせいでチラリと見える背中。肉眼で見るのが当然一番ではあるが、画面越しにというのも悪くない。まるでエロ動画を観ている様な気分になってきた。
ズボンの中ではもう完勃ちしたモノが快楽を求めてヒクヒクと動いている。そんな状態を緩和すべく、チャックを下ろしてボクサーパンツを少しずらした。
よく我慢したな、我が息子よ。
興奮気味に撮影出来る余裕があったのは最初の2ポーズまでで、他はもう意図して冷静にならないと綾瀬の前で勃起してしまう寸前だった。我ながらなかなかに立派な子なのでそんな事態になったら確実にバレる。気付かれた、綾瀬に見られたとなっては、絶対にそのまま興奮がピークに達して理性が吹っ飛び、そのまま押し倒していただろう。
そうはならずに済んだご褒美を自分に与える。ゆっくりと擦る様な必要は無い。もう蜜の様な液体が先っぽから溢れ出してきて、興奮度を俺に知らしめている。
「綾瀬…… あや…… な、奈々美ぃ」
彼女の名を呼び、快楽に浸る。
綾瀬の動画や、周囲から感じられる写真の彼女の視線が、俺のいやらしく勃起したモノに集中しているみたいでぞくりと背筋が震えた。ヤバイもう保たない。いつもの比じゃないくらいに感じてしまう。彼女の肩に触れた手でモノを擦っているからかもしれない。
お互いに仕事があって忙しく、会うの自体がそもそも久しぶりだった。声を聞くのだってだ。それなのに壁ドンをせがまれ、魅惑的なポーズを多数見せて貰えるだなんて、今日はなんて素晴らしい一日だったんだ!俺はもう今日で死ぬのかもしれない。その花向けに神が与えたもうた最高な最後の一日だったのだった——と、オチがついても納得出来るくらいに。
「ンンッ!」
はあはあはあ…… 。
ティッシュで精液を受け止める余裕も無く、ビュルビュルと鈴口から白濁としたモノを吐き出していく。少し遠くに飛び散り、画面に映る綾瀬の顔に水滴みたいについてしまった。
「まるで綾瀬に顔射したみたいだな、あはは」
真っ赤に頬を染めて照れている表情だったせいで、余計にそう見える。あぁ、コレならいいシーンが描けそうだな。多少は性欲も散らせたし、そろそろ真面目に仕事でもするか。
「片付け…… が先か。まいったなぁ、臭い残らんといいけど」
どうせ叶わぬ恋だ。
暴走せぬように妄想し、その妄想を全て絵にぶつけ、募る感情を発散して、俺は意地でも綾瀬の隣に居続ける権利を死守するんだ。
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