愛玩少女

月咲やまな

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おまけのお話(※ラブコメ成分強めです※)

前準備(ハク談)

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 好きな人が出来た。
 一目惚れからの初恋ってやつだと断言出来る。世の中にあんな美しい人が居ただなんて、屋敷に帰宅した今でも信じられない。僕の義母もとても美しい人だったが、比じゃない愛らしさだ。あまりに僕のツボをつき、素晴らし過ぎてどう賛辞を贈ればいいのかもわからない。
 箒を持って庭を掃除していただけなのに、天使みたいに高貴な空気感を漂わせるとは、むしろ悪魔の様だ。銀糸の様な髪色は僕とおそろいで、淡く赤みを帯びた瞳の色まで同じとは、もう鏡に映る自分の姿にまで狂喜乱舞したくなる程嬉しくって堪らない。うなじなどの白い肌はきっとプニュプニュとしていて、傷一つ無く、花の様に甘い香りがするに違いない。赤い唇は果実の様に瑞々しく、彼女の小柄な体は、体力に自信の無い僕でも抱き上げられそうで好感度がより一層高くなった。

「…… 桜子、あぁ…… 綺麗な名前だ。乾いた心に吹きこむ春風みたいだ。儚げな桜の様に美しい君にぴったりだし…… はぁ」

 最速でメイド達に調べさせた彼女の身辺調査を読みながら、うっとりと呟く。名を呼ぶだけで、まるで美しい音楽でも聴いているかの様な気分にさせるとは、何と罪な女性なのだろうか。

 欲しい欲しい欲しい——彼女の全てが欲しい。

 胸の奥から湧き上がる衝動が激しく、制御出来ない。今までずっと無欲で生きてきた反動なのだろうか。
 僕しか入れない部屋に閉じ込めて、食事を与え、桜子の何もかもを支配したい。体も記憶も心をも書き換え、僕の事しか考えられない存在にしてしまいたい。あぁ…… そうする事が出来るならどんなに幸せな事だろうか。その為だったら悪魔にだって魂を差し出そう。誰にも邪魔はさせない、彼女の全てを奪えるなら、桜子に関わる何もかもを消してやる。
 それにしても——

「…… あまり幸せな暮らしをしている訳では、なさそうだな」

 ページを捲り、詳細を確認する。誕生日、血液型、生い立ちや、あの家の養子である事などが書かれている文章を読んで思った感想だ。
 ならばもう僕がもらっていいな。あのままあんな場所に居ても、家政婦扱いをされて終わりだろう。家人どもが彼女をどこかへ輿入れさせたがっているみたいなので、急がねばならない点だけは、要注意だな。

「早速、桜子を迎え入れる準備をしよう」

 彼女の居る生活を想像するだけで呼吸が苦しくなるくらいに、喜びが全身を支配する。
 まずは専用の部屋の用意か。これが一番時間がかかりそうだな。普通の部屋ではダメだ、万が一にでも逃げたいと思われた時に簡単に出られてしまう様では意味が無い。そうだ、無垢で美しい彼女に似合う部屋がいい。調度品は全て白で揃えよう。服も髪飾りも、何もかも全て真っ白に。
 あぁそうだ、脱出道具になりそうな物は排除せねば。靴もコートといった類もいらないな、一生外には出さないのだし。

「常に僕も彼女を見ていたいが、監視カメラは無粋で嫌だな。あ、部屋の中にもう一部屋作るか…… うんいいな。こちら側からだけ透過する壁で周囲を囲えば、ほぼ直で観察できるし。よし、屋敷奥にある四部屋の壁を全て壊して、出来上がる大きな空間の中心に真四角な部屋を作ろう。天井は天窓を作って空を見られる様にしてあげれば、退屈させないで済みそうだ。僕の私室は彼女専用の部屋と同じ空間に移せば、体調の変化にも気が付いてあげられるな…… あはは!いいな、まるで鳥籠だ。小鳥の様に愛らしい桜子にぴったりじゃないか」

 我ながら素晴らしいアイデアだ。今まで様々なパターンの拉致監禁ものを視聴し、本を読み漁った甲斐があった。
 女性は綺麗好きが多いと聞くし、ちゃんと一級の調度品で水場も用意してあげよう。衛生面にも気を使ってあげてこその愛情だからな。汚らしい部屋への監禁はあの子には似合わない。どろっどろの甘い愛に全身を沈め、身も心も僕だけのモノになってもらわなければ。彼女とは共依存関係になりたいからね、僕だけの一方通行だなんて不公平だ。

 可愛い可愛い可愛い、愛してる——どうすれば一日でも早く手に入るかと考えているだけで、昼間感じた桜子への愛がどんどん膨らむ一方だ。幸い実行に移すだけの財力はある。もしその過程で何かあっても、隠蔽出来るだけの権力も…… あぁ、興奮し過ぎて笑ってしまいそうだ。

「そうだ、料理くらい出来るようになっておかないとな。メイドの料理をそのまま出すとか、それは無いだろ。服は…… 流石に作るのは難易度が高そうだし時間がかかるから、せめて最高級品の中から色々選んであげよう。閉じ込めて、歩けなくなってしまうくらいに脚の筋力が落ちてくれたら、僕が室内を運んであげたりもしたいなぁ」
 だがしかし、義母の与えてくれた愛ゆえに学校へも行けず、この屋敷内でのみ育ってきた僕では残念ながら男性的要素が薄い。中性的だと言えば聞こえはいいが、いくら桜子が小柄な女性だろうと、抱き上げ続けてあげるには体力も筋肉も足りなさそうだ。

「よし、部屋の用意をさせている間に料理を覚えて…… そして、筋トレだな」

 自分の細い腕を見ながら、決意を固める。指折り数えてその日が来る事を待つ日々の始まりだ。
「待っていね、僕の小鳥。一日でも早く迎えに行ってあげるからね」
 部屋の中でボソッとこぼした独り言だったのだが、自分でも驚くほど甘ったるい声が出てしまった。


【終わり】
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