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おまけのお話(※ラブコメ成分強めです※)
愛し子の勘違い
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「ハクさん…… 私、子供がデキたかもしれません」
頰をポッと染め、ちょっと照れ臭そうに身を捩り、両頬に手を添えながら桜子が言った。
「…… え」
ハクが絶句し、椅子に座ったまま硬直している。
彼には思い当たる事が何も無かったので、どう反応していいのかわからない。他の者に桜子を会わせてもいなければ、ここへ来るきっかけになった出来事からもかなりの時が経過しているので実はあの時…… という可能性も確実にあり得ない。となるとだ、どちらかが寝ている間に何かしてしまったか?あるいはされたか。だがそんな事が起こり得るのか?全くそんな行為をした記憶が無いので、まさか夢遊病にでもなったのか——とまで、ハクは額に手を当てて悩み出した。
「待って下さい、何か…… えっと、兆候でもあるんですか?ほら、吐き気がするとか、月のものが止まったとか。…… あ、すみません人には話し難い質問ですね」
「いいんですよ、ハクさんは体調をとても気にしてくれているだけだってちゃんと分かっていますから」
恥ずかしそうではあるものの、桜子は柔らかく微笑んだ。
「吐き気だとかはまだ無いです」
「じゃあ、止まった…… とか?」
「まだ時期じゃ無いので、わかりません」と言って、桜子がゆるゆると首を横振る。
そうなってくると、益々桜子が何故そう思ったのか見当が付かず、ハクは珍しく頭を抱えて唸り出した。
「えっと、その…… 子供って気持ちいい事をしたら、デキるんですよね?」
「まぁ、はい」
知識として何となく知っている程度でしかなく、ハクは淡白に答えた。
「その、あの…… この間の散歩の時、私すごくふわぁってなって、頭の中真っ白になるくらいで、ハクさんの体温とか匂いとかとっても心地よくって…… あぁ気持ちいいなって思ったから、きっとデキちゃったんじゃ無いかと思うんです」
と言い、桜子が「きゃっ」とこぼしつつ、ベッドに突っ伏して話を締めくくる。
完全に勘違いだった。
半端で、そして極端に少ない情報の中からきっとそうだと思っただけみたいだった事で、ハクが安堵の息を吐く。それと同時に、桜子の何と愛らしい事かと顔がにやけてしまい、彼は咄嗟に口元を手で隠した。
それは違う、勘違いだと話してしまうのがもったいないと思う程、可愛くって仕方が無い。過去の記憶が無いからなのか、元々そういった知識があまり無いのかは確認のしようがないが、今この瞬間この子が愛くるしい事だけは不動のものだった。
(ど、どうしよう…… 可愛くって可愛くって可愛くって——あぁもう!)
胸が高鳴り過ぎて死にそうだ。息が苦しいし、呼吸をするのも忘れてしまう。
「ハクさんは、気持ちよかったですか?」
小首を傾げながら訊かれ、ハクは顔面を両手で覆って自らの膝に突っ伏した。
「…… えぇ、まぁ」と、短くしか答えられない。
こんなに純粋な子に『違う、そうじゃない』とはやっぱり言えそうに無い、言うのが勿体ない。いっそ勘違いさせたまま、子供の話でも一緒にしてしまった方が楽しいのではとまで思えてくる。
「私、明るい家庭が欲しいです。ハクさんは…… 優しいパパさんになりそうですよね」
そう言って、「うふふ」だなんて笑うもんだから、もうハクは気が遠くなりそうだ。まさか君の方からし始めるとは!と叫びたい気分にもなった。
いっそ今この瞬間で殺してくれ、こんな気分のまま死ねるなら本望だ。
——とまで考えてしまう。
今まで、幸せな人生を送ってきたとは言い難い道のりだったが、彼女となら人並みの幸せを享受する事が出来そうだ。そう思った瞬間、ハクは泣きたくなるくらい幸せな気分になったのだった。
【終わり】
頰をポッと染め、ちょっと照れ臭そうに身を捩り、両頬に手を添えながら桜子が言った。
「…… え」
ハクが絶句し、椅子に座ったまま硬直している。
彼には思い当たる事が何も無かったので、どう反応していいのかわからない。他の者に桜子を会わせてもいなければ、ここへ来るきっかけになった出来事からもかなりの時が経過しているので実はあの時…… という可能性も確実にあり得ない。となるとだ、どちらかが寝ている間に何かしてしまったか?あるいはされたか。だがそんな事が起こり得るのか?全くそんな行為をした記憶が無いので、まさか夢遊病にでもなったのか——とまで、ハクは額に手を当てて悩み出した。
「待って下さい、何か…… えっと、兆候でもあるんですか?ほら、吐き気がするとか、月のものが止まったとか。…… あ、すみません人には話し難い質問ですね」
「いいんですよ、ハクさんは体調をとても気にしてくれているだけだってちゃんと分かっていますから」
恥ずかしそうではあるものの、桜子は柔らかく微笑んだ。
「吐き気だとかはまだ無いです」
「じゃあ、止まった…… とか?」
「まだ時期じゃ無いので、わかりません」と言って、桜子がゆるゆると首を横振る。
そうなってくると、益々桜子が何故そう思ったのか見当が付かず、ハクは珍しく頭を抱えて唸り出した。
「えっと、その…… 子供って気持ちいい事をしたら、デキるんですよね?」
「まぁ、はい」
知識として何となく知っている程度でしかなく、ハクは淡白に答えた。
「その、あの…… この間の散歩の時、私すごくふわぁってなって、頭の中真っ白になるくらいで、ハクさんの体温とか匂いとかとっても心地よくって…… あぁ気持ちいいなって思ったから、きっとデキちゃったんじゃ無いかと思うんです」
と言い、桜子が「きゃっ」とこぼしつつ、ベッドに突っ伏して話を締めくくる。
完全に勘違いだった。
半端で、そして極端に少ない情報の中からきっとそうだと思っただけみたいだった事で、ハクが安堵の息を吐く。それと同時に、桜子の何と愛らしい事かと顔がにやけてしまい、彼は咄嗟に口元を手で隠した。
それは違う、勘違いだと話してしまうのがもったいないと思う程、可愛くって仕方が無い。過去の記憶が無いからなのか、元々そういった知識があまり無いのかは確認のしようがないが、今この瞬間この子が愛くるしい事だけは不動のものだった。
(ど、どうしよう…… 可愛くって可愛くって可愛くって——あぁもう!)
胸が高鳴り過ぎて死にそうだ。息が苦しいし、呼吸をするのも忘れてしまう。
「ハクさんは、気持ちよかったですか?」
小首を傾げながら訊かれ、ハクは顔面を両手で覆って自らの膝に突っ伏した。
「…… えぇ、まぁ」と、短くしか答えられない。
こんなに純粋な子に『違う、そうじゃない』とはやっぱり言えそうに無い、言うのが勿体ない。いっそ勘違いさせたまま、子供の話でも一緒にしてしまった方が楽しいのではとまで思えてくる。
「私、明るい家庭が欲しいです。ハクさんは…… 優しいパパさんになりそうですよね」
そう言って、「うふふ」だなんて笑うもんだから、もうハクは気が遠くなりそうだ。まさか君の方からし始めるとは!と叫びたい気分にもなった。
いっそ今この瞬間で殺してくれ、こんな気分のまま死ねるなら本望だ。
——とまで考えてしまう。
今まで、幸せな人生を送ってきたとは言い難い道のりだったが、彼女となら人並みの幸せを享受する事が出来そうだ。そう思った瞬間、ハクは泣きたくなるくらい幸せな気分になったのだった。
【終わり】
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