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第三章 冬の休暇、別荘合宿
十五
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――リュエルとレルヒが引き上げた後のダイニング。
「お楽しみのようですね、アルシャ」
「リュエルは純心なんだ。想像しているようなことはないよ」
とても綺麗で、尊く感じて。あの澄んだ天上の色に捉えられると、諸々の欲望も浄化されるようだ。大切に、大切にしたい。そう思ってしまうから、忍耐も理性もいつもフル稼働。
「いつか焼きついてバカになったらどうしよう」
「その頃には、リュエルもどんな君でも受け入れられるくらいバカになっていますよ。ねえ、オルキ?」
「……かもな」
渋い顔だ。カイトのサディスティックな一面を知っても、嫌いになど到底なれなかったオルキデである。
その日の夜、枕投げ大会の話を聞いたオルキデの「楽しそうだな」という一言で、それは再び開催されることになった。
「、兄うえ゙ッ」
「わるいな、レルヒ」
容赦なく投げられた枕が無情にもレルヒの顔面に直撃する。
「よそ見なんて余裕だね」
「っ」
おれはアルシャが投げた枕を寸でのところで受け止めた。
「今日こそ勝つ!」
「正々堂々やりましょう。俺もハンデなしで」
「ヤだね。そしたら敵わねえっつの!」
オルキデは打倒ラルジュに燃えている。ちなみにラルジュは左手使用禁止というハンデ付きだ。それでも二人はいい勝負だった。
「加勢しますよ、アルシャ」
「カイト。心強いね」
「っあっちはいいのかよ!?」
「真剣勝負を邪魔するほど無粋ではありませんので」
カイトは薄く笑み、こちらにブンと枕を投げつけた。何か恨みでもあるのだろうか。飛んできた枕からやたらと気迫を感じる。頬がヒクリと動いた。
「さぁ、休む暇などありませんよ」
怒濤の枕攻撃に、ベッドの上を右へ左へ飛び回る。いつかレルヒが兄カイトは運動もできると話していたが、本当だった。
「っ、おれ、なんっか、したかよ!?」
「恨みなどありませんよ。レルヒに美しい髪を切らせる決断をさせた君」
「、」
駄々漏れである。
「カイトにやられて倒れる姿なんて、見たくないな」
アルシャも負けじと投げてきた。視界の端でうごめくレルヒ。
「、リュエルっ! 兄上、お二人でなん゙ッ…」
ていっ、と。投げられたカイトの枕が再びレルヒの顔に直撃した。
「弟大好き人間なんっ、じゃっ、ないのか!?」
あれ、聞いていた話と違うぞ。おれが叫べば、カイトは笑みを深める。
「ええ、そうですよ。これが私の可愛がり方です」
「兄うっ゙……」
復活できないレルヒ。
「あの子を泣かせていいのは私だけ」
軽薄そうな菫色の瞳がつと細められる。
身体が硬くなったその時、アルシャの投げた枕がおれの頭に直撃した。
「っ」
「君はサディストがお好みなのかな」
「は、」
「ちなみに、サディストには君のような子はとても魅力的に映ります」
おれは頭を押さえてポカンとしてしまう。サディストを否定するどころか話に続いたカイトが眼鏡をカチリと上げた。
何からつっこめば良いのやら。
その内にアルシャが膝で歩いてやって来た。先ほどのカイトのように、うっすらとした微笑を浮かべておれを見下ろす。
「僕もそれらしいことはできるよ。今度戯れにやってみるかい?」
最後はぬっと顔を寄せ、くっと口角を上げたアルシャ。甘くいい声で囁くので顔が熱い。見慣れない鬼畜っぽい表情に心臓がドキドキした。――じゃなくて。
「おれはそんな趣味ねえから」
「そうなのかい? まんざらでもなさそうだけど」
これは新鮮なアルシャの表情にドキッとしただけで、決して、そんな趣向があるからではないと信じたい。
「君なら、調教すれば痛みにも快楽を覚えるようになりそうですね」
いつの間にかアルシャの後ろから顔を覗かせたカイトが冷静に言う。
「っだから、おれにそんな趣味はねえっつの!」
なんて恐ろしいことを真顔で言うんだ。おれは後退りして二人から離れ、撃沈しているレルヒのもとへ退避した。ちなみに、オルキデはラルジュに勝てなかった。うっかり使ってしまったという左手にやられたらしい。
「いい運動だった」
「人は面白い遊びを思いつくものですね」
「ちっくしょーラルジュのやつ。なにが『うっかり』だよ痛ぇよ枕」
ぶつぶつ呟きながら退散する年長組。アルシャはこれからカイトと風呂へ行くらしい。
「ではリュエル、おやすみなさい」
「おやすみ、リュエル」
「おやすみ」
すっかりいつも通りな二人を送り出し、静寂に満ちた部屋で小さく息を吐き出した。
「お楽しみのようですね、アルシャ」
「リュエルは純心なんだ。想像しているようなことはないよ」
とても綺麗で、尊く感じて。あの澄んだ天上の色に捉えられると、諸々の欲望も浄化されるようだ。大切に、大切にしたい。そう思ってしまうから、忍耐も理性もいつもフル稼働。
「いつか焼きついてバカになったらどうしよう」
「その頃には、リュエルもどんな君でも受け入れられるくらいバカになっていますよ。ねえ、オルキ?」
「……かもな」
渋い顔だ。カイトのサディスティックな一面を知っても、嫌いになど到底なれなかったオルキデである。
その日の夜、枕投げ大会の話を聞いたオルキデの「楽しそうだな」という一言で、それは再び開催されることになった。
「、兄うえ゙ッ」
「わるいな、レルヒ」
容赦なく投げられた枕が無情にもレルヒの顔面に直撃する。
「よそ見なんて余裕だね」
「っ」
おれはアルシャが投げた枕を寸でのところで受け止めた。
「今日こそ勝つ!」
「正々堂々やりましょう。俺もハンデなしで」
「ヤだね。そしたら敵わねえっつの!」
オルキデは打倒ラルジュに燃えている。ちなみにラルジュは左手使用禁止というハンデ付きだ。それでも二人はいい勝負だった。
「加勢しますよ、アルシャ」
「カイト。心強いね」
「っあっちはいいのかよ!?」
「真剣勝負を邪魔するほど無粋ではありませんので」
カイトは薄く笑み、こちらにブンと枕を投げつけた。何か恨みでもあるのだろうか。飛んできた枕からやたらと気迫を感じる。頬がヒクリと動いた。
「さぁ、休む暇などありませんよ」
怒濤の枕攻撃に、ベッドの上を右へ左へ飛び回る。いつかレルヒが兄カイトは運動もできると話していたが、本当だった。
「っ、おれ、なんっか、したかよ!?」
「恨みなどありませんよ。レルヒに美しい髪を切らせる決断をさせた君」
「、」
駄々漏れである。
「カイトにやられて倒れる姿なんて、見たくないな」
アルシャも負けじと投げてきた。視界の端でうごめくレルヒ。
「、リュエルっ! 兄上、お二人でなん゙ッ…」
ていっ、と。投げられたカイトの枕が再びレルヒの顔に直撃した。
「弟大好き人間なんっ、じゃっ、ないのか!?」
あれ、聞いていた話と違うぞ。おれが叫べば、カイトは笑みを深める。
「ええ、そうですよ。これが私の可愛がり方です」
「兄うっ゙……」
復活できないレルヒ。
「あの子を泣かせていいのは私だけ」
軽薄そうな菫色の瞳がつと細められる。
身体が硬くなったその時、アルシャの投げた枕がおれの頭に直撃した。
「っ」
「君はサディストがお好みなのかな」
「は、」
「ちなみに、サディストには君のような子はとても魅力的に映ります」
おれは頭を押さえてポカンとしてしまう。サディストを否定するどころか話に続いたカイトが眼鏡をカチリと上げた。
何からつっこめば良いのやら。
その内にアルシャが膝で歩いてやって来た。先ほどのカイトのように、うっすらとした微笑を浮かべておれを見下ろす。
「僕もそれらしいことはできるよ。今度戯れにやってみるかい?」
最後はぬっと顔を寄せ、くっと口角を上げたアルシャ。甘くいい声で囁くので顔が熱い。見慣れない鬼畜っぽい表情に心臓がドキドキした。――じゃなくて。
「おれはそんな趣味ねえから」
「そうなのかい? まんざらでもなさそうだけど」
これは新鮮なアルシャの表情にドキッとしただけで、決して、そんな趣向があるからではないと信じたい。
「君なら、調教すれば痛みにも快楽を覚えるようになりそうですね」
いつの間にかアルシャの後ろから顔を覗かせたカイトが冷静に言う。
「っだから、おれにそんな趣味はねえっつの!」
なんて恐ろしいことを真顔で言うんだ。おれは後退りして二人から離れ、撃沈しているレルヒのもとへ退避した。ちなみに、オルキデはラルジュに勝てなかった。うっかり使ってしまったという左手にやられたらしい。
「いい運動だった」
「人は面白い遊びを思いつくものですね」
「ちっくしょーラルジュのやつ。なにが『うっかり』だよ痛ぇよ枕」
ぶつぶつ呟きながら退散する年長組。アルシャはこれからカイトと風呂へ行くらしい。
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「おやすみ、リュエル」
「おやすみ」
すっかりいつも通りな二人を送り出し、静寂に満ちた部屋で小さく息を吐き出した。
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