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第3話 刀

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「やはりどこかの貴族の持ち物か……」

回復魔法ヒールで修復して、新品同然になった刀身に視線を走らせる。
汚れたり欠けたりしていた刀身には、今ははっきりと家名が見えている。
それに鍔には家紋の浮き彫りがあった。
書体の芸術性と家紋の立派さから見て、貴族のもので間違いないだろう。

(この家紋……どこかで……)

貴族の家紋などほとんど知らないが、なぜかその家紋には見覚えがあった。
それも、冒険者になってから何度も。

しばらく首をひねったが、貴族に知り合いはいないし、思い出すのは後回しでいいだろう。

鞘を探し出して、一緒に見つけた剣帯で刀を腰に装備した。
他人の遺失物とはいえ、立派な装備につい冒険者心をくすぐられて胸が高鳴る。

先程まで所属していた冒険者パーティー「暁」での報酬の取り分は非常に少なかった。
リーダーであるスヴェンが半分、古参二人が残りを分け合い、俺は余りだ。
例えば成功報酬が金貨十枚であった場合、スヴェンが金貨五枚、古参二人が金貨二枚、俺は金貨一枚だけ。

報酬の取り分は少ないが、仕事内容は多かった。
傷の回復はもちろん、荷物持ちから素材の回収まで多岐にわたる。

(ダンジョンの探索依頼の時は、特に大変だったなぁ……)

貴重な鉱石でも発見しようものなら、その鉱石でいっぱいになった重たい背負い袋を担ぎ、敵の攻撃だけでなく、味方の魔法や剣も避けながら、味方の回復に走り回らないといけなかったのだ。
背負い袋がない分、今回のゴブリンロード討伐任務は楽だったといえる。

俺は刀を抜いた。
美しい刃紋に思わず頬が緩む。

(持ち主が見つかるまでの間だけど、今はこの刀が相棒ってことだな)

折れた跡も残っていない刀身を見つめて呟く。

「……そういや、『暁』のメンバーはこのヒールの使い方は知らなかったな……」

言い出す機会がまったくなかったのだ。
『回復』ができると告げると、「じゃあ、これからは俺達のポーションの代わりだ」とリーダーのスヴェンに言われ、反論を一切許されなかった。
初パーティーだったし、役割分担の必要性も承知していたが、それでもなんとか説明しようとしたものの、口先でフォルネウスにかなうはずもない。
結局、ポーションの代用品兼雑用係りの地位に問答無用で押し込められたのだ。

そんな苦い思い出も今では過去のものだ。

「とりあえず武器があれば安心かな?」

木剣で訓練はしていたし、回避にはけっこう自信がある。
ゴブリンの残党くらいなんとかなるだろう。
刀を丁寧に鞘に戻した。

立ち去ろうとして、ゴブリンロードの死骸の向こうに吊り橋があるのを思い出した。
激戦の最中、ゴブリンロードが吊り橋を渡って逃走しようとしたので、橋杭のロープを切って落としたのだ。

財宝などが期待できないゴブリン相手で、しかも容易には直せそうにない断崖絶壁に作られた吊り橋。
スヴェン達は見向きもしなかったが、俺ならば簡単に橋を『回復』できる。

「普通に考えれば、地上に続く抜け道だろうけど……」

――だが、何かが引っ掛かる。
とりあえず吊り橋のあるダンジョンの奥に向かって歩き出した瞬間、剣帯と鞘の擦過音で気づいた。

(そうか、違和感の正体は……)

先程拾ったのは、ゴブリンロードが持つには相応しくない名刀。
冒険者から強奪したにしてはいくらなんでも高価すぎるのだ。

「貴族、か――。一応確認してみるか」
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