14 / 90
13.胸の奥の痛み
しおりを挟む碧の瞳と確かに目が合った。でも、俺はその瞳からすぐに目を逸らした。気がつかなかった振りをして、傍らのレトに話しかける。
「レト、王宮に帰ろう」
「ユウ様?」
「今日はもう十分だよ。──エリク!」
俺は、辺りに聞こえるように声を張り上げた。騎士たちと話していたエリクは、すぐに走って戻ってくる。
「お待たせして申し訳ありません、ユウ様」
「ごめん、エリク。まだ時間かかる? ちょっとびっくりして……。もう王宮に戻りたいんだ」
「承知しました。後は団の者たちが片付けますので問題ありません」
エリクが驚かせたことを詫びてくれる。俺は素直に頷いて、歩き出した。
第一騎士団の騎士たちが、集まった人々に解散するよう大声で告げていた。揉めあう声が響いている。
「ユウ!」
もう一度、名を呼ばれたような気がした。それでも、俺はもう振り向かなかった。
「エリク、今日は本当にありがとう。出かける時は、また頼んでもいい?」
「いつでもお申しつけください。すぐに参ります」
王宮に送り届けてもらった礼を言えば、穏やかな笑顔が返ってきた。眩しいような切ないような気持ちがよみがえる。
昼を少し回ったところだったけれど、少しも食欲はわかない。レトに、午後の勉強は休んで眠りたいと言えば、すぐに了承された。
「もちろんですよ。外でお疲れになったでしょう。食堂で簡単に食べられるものを作ってもらいます」
「ありがとう、レト。頼みがあるんだ」
「何です?」
「ゆっくり寝たいから、食事は部屋のテーブルに置いといてくれる? 後はもう全部、明日にする!」
笑顔で言えば、レトは眉を下げて微笑んだ。
今日購入したものを片付けておきますね、と言われてほっとする。寝室の扉を閉めた途端、力が抜けた。
「……ッ」
ベッドまでなんとか歩いて行って、体を投げ出す。市場で見たジードの姿が、頭から離れない。
……何だよ。好きな人、いたんだ。教えてくれればいいのに。許嫁って、すごいな。聞いたことねーよ。さすが貴族。
いつも魔獣倒す話ばっかりしてたけど、プレゼント選んだりもするんだな。ちゃんと女の人を守って、本当に騎士!って感じだった。こっちの女の人って俺より強そうって思ってたけど、あんなに華奢な人もいるんだな。
『ユウは細いからな。もっと食べないと……』
──……ああ、そうか。
やけに心配してくれると思ったけど、そういうことだったんだ。
あれは、俺だけを心配してたわけじゃない。俺とあの人、あんまり変わらない体型だったもんな。
「あーあ。俺って、ほんと……。ダメだ……」
相手が言わないからって、気がつかないことばっかりだ。
ジードがずっと親切にしてくれてたから勘違いしてた。こっちの人は皆、俺よりデカいし異世界人を大事にしてくれる。すっかり甘えて、自分が守られるのが当たり前になってた。
ジードは、騎士だ。魔獣に襲われたやつがいたら助けるし、気にかけもする。俺が特別なわけじゃない。それに、やっぱり騎士はお姫様を守るのが似合ってる。
『……第三騎士団が辺境に行く前に、共に過ごす時間を取ったのでしょう』
エリクの言葉が、耳の奥に響く。あんなに忙しそうなのに、許嫁とは休みを取ってまで会ってるんだもんな。二人とも、すごく楽しそうだった。
「ジードに頼ってばかりじゃだめだ……」
そう呟いた途端、ずきん、と胸の奥が痛んだ。
──何なんだよ、これ。……何でこんなに、ずきずきするんだよ。
目が覚めた時には、夜になっていた。
思ったよりもずっと、ぐっすり眠っていたみたいだ。起き上がるとぐーっと腹が鳴った。何があっても、腹は減る。寝室の隣の部屋に行くと、テーブルの上に皿が置いてあった。パンに肉をこんがり焼いたものとピクルスみたいな野菜が入っている。お茶も添えられていた。そして、コップには小さな花。家で母親が時々飾っていたのを思い出す。
『花って、いいものよ。元気をくれるの。──ああ、自分は元気がなかったんだなって、逆に教えてくれるのよ』
家で聞いた時は、ふーん、って思っただけだったけど。
パンにがぶりとかぶりつけば、目の端で白い花が揺れる。見ていると段々、心の痛みが解れていく気がした。
異世界に来て、母親の言葉を噛み締めるなんて思わなかった。
76
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あの日、北京の街角で
ゆまは なお
BL
5年前、一度だけ体を交わした彼が、通訳として出張に同行するーーー。
元留学生×駐在員。年下攻め。再会もの。
北京に留学していた上野孝弘は駐在員の高橋祐樹と街中で出会い、突然のアクシデントにより、その場で通訳を頼まれる。その後も友人としてつき合いが続くうちに、孝弘は祐樹に惹かれていくが、半年間の研修で来ていた祐樹の帰国予定が近づいてくる。
孝弘の告白は断られ、祐樹は逃げるように連絡を絶ってしまう。
その5年後、祐樹は中国出張に同行するコーディネーターとして孝弘と再会する。
3週間の出張に同行すると聞き、気持ちが波立つ祐樹に、大人になった孝弘が迫ってきて……?
2016年に発表した作品の改訂版。他サイトにも掲載しています。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました
藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。
=================
高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。
ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。
そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。
冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで……
優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる