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翼が生えた王子、辺境伯領へ
16.二人でお茶を
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「ミシュー、お茶をご一緒してもよろしいですか?」
午後のお茶を飲もうとしていたら、エドマンドが自室にやってきた。僕がもちろん!と答えると、にっこり笑う。
辺境伯一家との対面を終えほっとした僕とは反対に、エドマンドは忙しい。
北の辺境伯領は広大で貿易の要でもある。近年、他国との関係は良好だが、有事に備えての軍備も怠ることはできない。嫡子であるエドマンドの担う仕事は多岐に渡った。僕に会う為に王都にいる間、それらは城に残された人々が必死で片付けていたらしい。
食事は必ず一緒にとっているが、公務で城を空けることも多い。思ったよりも一緒に居られる時間が少なくて、お茶の時間を共に過ごせるだけでも嬉しかった。
「忙しいのに、気に掛けてくれてありがとう」
「ミシューの顔を見たら元気が出ますから」
エドマンドは言葉の一つ一つが優しい。ペテルが淹れた紅茶から甘い香りがするせいか、エドマンドの言葉を聞いたからか、いつもよりお茶が甘く感じられる。優雅にカップを持つ姿に見惚れていると、一口飲んだエドマンドが目を細めた。
「このお茶はとても華やかですね。甘い香りがします」
「うん。茶葉に乾燥させた果実が入っているんだ。南国から王宮に収められたもので、僕が好きなお茶なんだ」
「とても美味しいです」
「よかった! そういえば、リリアナ様にもと思って持ってきたんだけど……」
「ああ、喜びますよ! 母はお茶が好きなので」
(でも、狼はお茶を飲んでも大丈夫なんだろうか?)
晩餐の時に会ってから、辺境伯と夫人は公務があると言って城を留守にしていた。いつ戻るのかは聞いていない。
「大丈夫です」
「え?」
「母のことを考えてくださっていたのでしょう? 心配そうな顔をしておいででした。母はもうじき元に戻りますから」
「元に……戻る?」
「はい。あの姿は満月の時のものなので」
(満月の時のものって……)
「狼の姿なのは、満月を含めて一週間ほどなんです。その他は人の姿のままです」
「え……えええええ―――!!!」
衝撃のあまり、ぼくは部屋に響き渡るほどの大声を上げてしまった。
「じゃ、じゃあ、たまたま狼の姿の時に僕たちが来てしまったってこと?」
「ええ。ちょうど変化したばかりだったんです。一週間対面が遅れるよりは、実際に母の姿を見てもらった方がいいだろうと、父と話しました」
驚かせてしまって申し訳なかったとエドマンドは謝ってくれた。しかし、事前に言われたところで心構えができたとも思えない。
ペテルが気を利かせて新しいお茶を淹れてくれた。ゆっくりと口に含むと少し心が落ち着く。エドマンドは父母の馴れ初めを語った。
辺境伯家の直系たちは皆、己に流れる魔女の血の責を負う。そのため婚約者選びも慎重だ。婚姻を結ぶ相手には家格よりもむしろ、変化に耐えうる心の強さが望まれた。
辺境伯夫妻の婚約が決まったのは互いが十六の時。リリアナ様は他国との交易に強い傘下貴族の令嬢だった。
顔合わせの時に、辺境伯はリリアナ様に一目で心を奪われた。その想いが強すぎたのか、たまたま時期が合ってしまったからなのか。二日後はちょうど満月で、夫人の姿は白銀の狼に変わった。
午後のお茶を飲もうとしていたら、エドマンドが自室にやってきた。僕がもちろん!と答えると、にっこり笑う。
辺境伯一家との対面を終えほっとした僕とは反対に、エドマンドは忙しい。
北の辺境伯領は広大で貿易の要でもある。近年、他国との関係は良好だが、有事に備えての軍備も怠ることはできない。嫡子であるエドマンドの担う仕事は多岐に渡った。僕に会う為に王都にいる間、それらは城に残された人々が必死で片付けていたらしい。
食事は必ず一緒にとっているが、公務で城を空けることも多い。思ったよりも一緒に居られる時間が少なくて、お茶の時間を共に過ごせるだけでも嬉しかった。
「忙しいのに、気に掛けてくれてありがとう」
「ミシューの顔を見たら元気が出ますから」
エドマンドは言葉の一つ一つが優しい。ペテルが淹れた紅茶から甘い香りがするせいか、エドマンドの言葉を聞いたからか、いつもよりお茶が甘く感じられる。優雅にカップを持つ姿に見惚れていると、一口飲んだエドマンドが目を細めた。
「このお茶はとても華やかですね。甘い香りがします」
「うん。茶葉に乾燥させた果実が入っているんだ。南国から王宮に収められたもので、僕が好きなお茶なんだ」
「とても美味しいです」
「よかった! そういえば、リリアナ様にもと思って持ってきたんだけど……」
「ああ、喜びますよ! 母はお茶が好きなので」
(でも、狼はお茶を飲んでも大丈夫なんだろうか?)
晩餐の時に会ってから、辺境伯と夫人は公務があると言って城を留守にしていた。いつ戻るのかは聞いていない。
「大丈夫です」
「え?」
「母のことを考えてくださっていたのでしょう? 心配そうな顔をしておいででした。母はもうじき元に戻りますから」
「元に……戻る?」
「はい。あの姿は満月の時のものなので」
(満月の時のものって……)
「狼の姿なのは、満月を含めて一週間ほどなんです。その他は人の姿のままです」
「え……えええええ―――!!!」
衝撃のあまり、ぼくは部屋に響き渡るほどの大声を上げてしまった。
「じゃ、じゃあ、たまたま狼の姿の時に僕たちが来てしまったってこと?」
「ええ。ちょうど変化したばかりだったんです。一週間対面が遅れるよりは、実際に母の姿を見てもらった方がいいだろうと、父と話しました」
驚かせてしまって申し訳なかったとエドマンドは謝ってくれた。しかし、事前に言われたところで心構えができたとも思えない。
ペテルが気を利かせて新しいお茶を淹れてくれた。ゆっくりと口に含むと少し心が落ち着く。エドマンドは父母の馴れ初めを語った。
辺境伯家の直系たちは皆、己に流れる魔女の血の責を負う。そのため婚約者選びも慎重だ。婚姻を結ぶ相手には家格よりもむしろ、変化に耐えうる心の強さが望まれた。
辺境伯夫妻の婚約が決まったのは互いが十六の時。リリアナ様は他国との交易に強い傘下貴族の令嬢だった。
顔合わせの時に、辺境伯はリリアナ様に一目で心を奪われた。その想いが強すぎたのか、たまたま時期が合ってしまったからなのか。二日後はちょうど満月で、夫人の姿は白銀の狼に変わった。
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