魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

文字の大きさ
39 / 71

第21話 本当のこと(1)

しおりを挟む
 ワイバーンは空を駆け王都を遠く離れ、南の山岳地帯へと入っていった。そしてある山の洞窟へと進入する。奥まで縫うように入り込み停止した。

 グレアムはサギトを抱えてワイバーンから飛び降りた。
 サギトを地面に降ろし、ワイバーンの尾に刺さる矢を引き抜く。手をかざしその傷を修復する。ワイバーンは礼を言うように一声上げると、また闇へと溶けて消えた。

 サギトは洞窟内を見渡す。調理具や寝具、道具箱など置かれ、人の生活の跡があった。
 グレアムが説明をした。

「以前、この近くでムジャヒールと戦闘があってさ。その時この洞窟を野営地にしていたんだ。ここなら誰にも邪魔されず俺を殺せるだろ。ここで俺の首を切って、ムジャヒールに持って行け。国境はすぐそこだ」

 こともなげにおかしなことを言うグレアムに、サギトは背を向けて声を荒げた。

「だから、何を言ってるんだお前は!」

 突然、背中を抱きすくめられた。サギトのまなこが見開かれる。

「それでお前が幸せになれるなら、命なんて惜しくない。この十年、辛かったよな。お前の苦しみの全て、俺に責任がある。もうお前は幸せになってくれ」

「な……なにを……言って……」

 グレアムが耳元に囁いた。

「愛してる。ガキの頃からずっと。お前を幸せにしたかった。でももう俺は、死ぬことでしかお前を幸せにできないよな。だから死ぬよ」

 サギトの身体がかっと熱を帯びた。

(今何と言った?愛?)

(愛されていた?俺が?ずっと?そしてお前は今、俺に殺されようとしている?俺を幸せにするために?)

「ま、待ってくれ、理解が追いつかない!」

 サギトは叫んで、グレアムに振り向いた。グレアムはあくまで真剣な顔で言った。

「殺せ」

「ふざけるな、やめてくれ!」

  グレアムはサギトを見つめると、何かに気づいた様子で顔をしかめた。

「……悪い、そうだな。何言ってんだろうな俺、お前の手を汚させようなんて」

 言って、サギトから身を離した。そして剣を抜きはなつ。白銀に翻るその鋭い刃を、自らの首にすっとあてがった。

「てめえでやれって話だよな」

 そう、自嘲気味に言い、剣を持った右手に力を込める。

 その動きに一切の迷いはなかった。
 サギトの全身に鳥肌が立った。

「やめろ!!」

 サギトの絶叫が洞窟中に反響した。
 同時に、魔術の波動が放出される。
 グレアムの手が凍りついたように固まっていた。

「ぐっ……これはっ……」

 グレアムは狼狽し、サギトは睨みつけながら握った手を宙にかざした。そして一本づつ指を開いていく。
 サギトの指に連動して、グレアムが剣を握る手の指も、開かれていった。
 五指が伸ばされたグレアムの手の平から、剣が落ちる。大きな音を立てて、剣は洞窟の床に転がった。
 その瞬間、グレアムの手は自由を取り戻す。グレアムは奇妙な物体でも見るように自らの手を握って開いて確認した。

「他者操作術、すげえな、まるで抵抗できなかった……」

 その首筋にくっきりと刻まれた赤い直線から、数本の血が滴り落ちていた。
 サギトは怒鳴った。

自刎じふんなんて、馬鹿かお前は!お前は負い目を感じることは何もない!俺があの男の嘘に騙されたんだ!お前が俺を殺そうとしたのだと勝手に思い込んで、勝手に恨んで、勝手にお前に復讐しようとした!」

 グレアムはうろたえる。

「だって実際、全部俺のせいじゃないか。俺を憎んでるだろ?俺はサギトに幸せになって欲しいから……」

「おまっ、お前が死んで俺が幸せになれるわけないだろ!」

 サギトは眉間にしわを寄せながら、グレアムの傷ついた首に手をかざす。その手から治癒の光が放たれて傷が消えていく。

「う、あ、ありがとう……」

 戸惑う様子で首元をさするグレアムに、サギトは大きくため息をつく。死なれなくて良かった、としみじみ思った。

 サギトは胸を締め付けられながら、本当のことを告げる。自分でも気づいていなかった、たった今気づいた本当の真実を。

「俺はお前を憎む以上に……ただ……寂しかった……!この十年、グレアムがいなくて寂しくて、寂しくて、寂しすぎて、どうかしてしまっていたんだ。寂しさで狂ってしまっていたんだ!」

「サギ……ト」

「グレアムが自分で言ったじゃないか、俺はお前を殺せなかった。殺せるわけがないんだ。だって俺には……」

 サギトはそこで言葉を切る。目の奥が熱くなって言葉が詰まった。消え入りそうな声がこぼれ落ちる。

「だって俺には、グレアムしかいないんだ……。お前さえいれば俺は幸せだったんだ……」

 言ってから、苦笑がこみ上げた。ずいぶん恥ずかしいことを言ってしまった気がした。うつむいたまま、顔を上げられなくなった。

 抱きしめられた。

 大きい身体に包み込まれ、鼻腔に拡がるグレアムの匂い。
 暖かい、と思った。
 そう、人肌は暖かいのだ。
 サギトがずっと失っていた温度だ。

 グレアムの、強靭なはずの身体は震えていた。グレアムは泣いていた。抱いたサギトの額に頬をよせ、苦しげに言う。

「こんな俺を許してくれるのか?俺があの男にサギトのことを教えたせいで、ひどい目に合わせた。サギトの人生を壊してしまった」

 サギトはグレアムの腕の中で目を細める。

「でも俺のことを思ってのことだったんだろう。俺を士官学校に入れたくて、教えたんだろう」

 グレアムはサギトの両肩をつかんで見据えた。真剣な顔をして、

「そうだけどでも、そのせいでサギトをひどい目に合わせたじゃないか!」

 サギトは笑いながら首を振った。

「グレアムが何を言ってるのか分からない。俺のために教えたんだったら、構わない。そうと知って俺はとても嬉しかった。ずっとお前を誤解していた。愚かだな俺は、お前が俺を殺そうとするわけないのに」

 グレアムは震える手でサギトの顔を両手で挟み、じっと見つめた。まるでそれが、幻でないことを確かめるかのように。

「ひどい目にあったんだろう?辛い目にあったんだろう?どうか全てを、術で俺に見せてくれ。俺の罪を」

「やめてくれ。そんなもの俺は、お前に見せたいとは思わない。それにグレアムがいないことが……一番辛かったから」

 そう言ってサギトは、はにかむように笑った。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

さよならの向こう側

よんど
BL
【お知らせ】 今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。 BOOTH https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395 ''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...