たたない不良⇄たたせる乙女

嵯峨野広秋

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あそびにはにんげんがでるとか

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 抜くときは、片手で。
 それが絶対的なルールである。

「んっ、んっ、どう……? アニキ、うまく抜けてる?」
「ああ。いいと思う……ぜ?」
「よかった。もうそろそろ、んっ、イキそうなんだけど……っ」

 べつにおかしな会話ではない。
 なのに、美玖みくは、いや、世良せらの体は反応してしまう。
 息づかいを荒くして、そんなセリフを口にされると――

「あっ! イクっ! ほら、イッちゃうっ、ア、アニキーーーッ!」

 気づかれないようにズボンに手をそえてポジションをととのえる美玖。
 もうこの感覚にもなれてきた。
 たないようにコントロールすることこそできないが、事前に勃ちを察知できたり、モノをしずめるスピードは少しだけ早くなりつつある。

(それにしても……この子、わざとやってない?)

 まるで意図的に下ネタにもっていってるような――そう美玖は思わざるをえなかった。
 そして、時折自分の下半身に向けられる、好奇心旺盛な瞳。

(もう、ほんとにこの妹ってば……)

 美玖はため息をついた。
 と同時に、ガラガラガラとくずれる音。
 黒一色のテーブルに散らばる木片もくへん

「あーあ。自滅しちったい」

 テーブルに頬杖をつく女子。

「もっかいやろ? な、アニキ?」
「いいけど……ほんとに好きなんだな、ジェンガ」

 妹は「にひ!」という擬音がぴったりの人なつっこい笑顔を浮かべて言う。

「だってぇ~うれしいんだよぉ~。ここ何日かさー、アニキってずーっと自分の部屋に閉じこもってたじゃんか」
「……」
「きいてる?」
「えっ⁉ あ、あー、きいてるさ。もちろん」

 美玖は視線を自分の股間から、自分の妹に向け直す。

(よし。大きくなるのはピークアウトした。あとは深呼吸深呼吸……。とはいえ、すでにこの子には、大きくなってるところも、その先の現象まで、しっかり見られてるんだけどね)

 テーブルの上にジェンガを積み直している妹ごしに、掛け時計がみえる。
 時刻は午後八時。
 新名あらな美玖は今、世良家のリビングルームにいる。
 昨日までは、帰宅後は自室に直行、夕食のときに家族と同じテーブルについて、そのあとはまた引っ込むという生活をしていた。
 ヘタに家族としゃべれば、ボロが出ると思ったからだ。
 が、美玖は本来、社交的でおしゃべりも好きな性格。
 今日からは、なんとなく、リビングですごしてみることにした。
 シミュレーションはカンペキ。

(基本、「ああ」とか「おう」で会話はみじかくすませよう。わからないことはスルーで。やばくなったら部屋に退散。あ、あとは男っぽい口調でいかないと)

 出だしは順調だった。先にリビングのソファでくつろいでいた大学生のお姉さん(ピンクのキャミソールとグレーのショートパンツ姿)のとなりに座っても、一ミリも怪しまれることはなかったし、あとからやってきて一人がけのソファにぽふっと座った下の妹ちゃん(黄色いクマさんのパーカー[耳つき]に、ふりふりの白いミニスカート姿)にも、なんとも思われなかった。
 そこに「腹ごなしジェンガしよーぜー!」と三姉妹の真ん中の妹がやってきたのだ。

(上と下はともかく、この子が鬼門きもんとみた……)

 もし私からボロがでるなら、きっかけはきっとこの子だ。美玖はそう読む。
 テーブルの向こうにいる彼女を、そっと観察した。
 名前は、世良七歌ななか。中学二年。髪はショート。この髪型だから活発なのか、活発だからこの髪型にしたのか、とにもかくにも見た目どおりの明るいキャラクターだ。
 服装も自由奔放、というかユルい。
 白Tの下にうすいピンクのスポーツブラが透けていて、赤いショートパンツは洗濯でサイズがちぢんだのか布面積が小さく下から白の下着がチラッチラしている。

「セットおっけー。じゃ、いくぜっアニキ!」

 ジェンガは二回戦めに突入した。

「ところでさー、そろそろ私の誕生日なのは、もちろん知ってるよな?」

 ああ、と生返事ぎみに答える美玖。

「べつにプレゼントねだってるんじゃなくてさ」
「おう」
「ほんとほんと」
「ああ」
「去年みたいにチューとかでいいんだけど」
「ああ………………えーっ!!!」

 一本目のパーツを抜きとった七歌が、きょとんとした顔で兄をみる。

「どうしたんだよ。アニキらしくねぇ声だして」
「え……あ、いやいや、その……おまえがそんなとこから抜くからだよ。ちょうど、おれもそこを狙ってたもんでな」
「? ヘンなアニキ」

 話をそらすため、美玖は誕生日トークを広げることにした。
 その流れで意外なことを知った。

「エイプリルフールだもんな。アニキの誕生日は」

 口では「おう」と返事しつつ、頭の中では「へぇ」だった。
 自分と一日しかちがわないじゃない――と、4月2日生まれの美玖は思った。

(え。待って。それって確か……)

 美玖の記憶が確かなら、その日はたぶん、早生まれだ。
 ふつう1月から3月までだと思われがちだが、じつはその日もそう。
 早生まれというのは、その名のとおり、早く生まれてひとつ上の学年に入っちゃう生徒のこと。

(あれ? ってことは、世良先輩と私って同い年?)

 そういうことになる。
 じゃあ先輩じゃないじゃん、と美玖は自分の顔を指さした。
 もともと、あまりあの人に敬語もつかわなかったけど、これでついにタメ口でいっていい大義名分を得た。
 名前も「永次えいじ」って呼び捨てにしたりして。
 うれしい。

「どしたんアニキ。ニヤニヤしちゃって」
「ニヤニヤ? わた……、おれが?」
「うん」

 美玖はほっぺに片手をあてた。

(うっ……私、知らず知らず笑顔になってた? あいつと同い年ってわかったぐらいで?)

 じつは美玖が〈うれしい〉のは、タメ口などという小さなことのせいではない。
 今はまだ、彼女はこの気持ちの正体には気づけないだろう。

「はーやーく」
「はいはい」

 スッ、と美玖は二つめのパーツを抜いた。
 余談だがジェンガというゲームは〈18段〉からはじまる。
 なので序盤は、抜くのに手こずるという局面はない。
 ふふん、と余裕の表情でパーツをてっぺんに置こうとする。
 そのとき――

 ぴんぽーん

 インターホンが鳴った。
 世良の母親がモニターの前に立って誰が来たのかを確認する。


「どちらさまでしょうか?」
「おれ……じゃなくて、あー、私は同じマンションのアラナっす~」


 ジェンガが爆発した。
 そう見えるほど、盛大に木片パーツが四方八方にぶっ飛んだ。

(…………ううう)

 テーブルにおなかをつけてうつ伏せの美玖。

「ア、アニキっ!」
「どうしたの? 永次」
「おにーちゃん。死んじゃった?」

 なんとかテーブルから起き上がり、上下真っ黒のジャージの乱れを直す美玖。

(イヤな予感しかせん‼)

 やばい。やばすぎ。
 なんであいつが〈私の姿〉で世良さんのおうちにくるのっ⁉

(フル回転! どうしたらいいか……)

 まず〈居留守〉という選択肢がある。
 ダメ。
 あいつの性格からいって素直にあきらめる可能性は低いし、どうしてそんな真似をするのかと母親に問いただされたらうまく答えられない。
 じゃあ……もう、覚悟をきめるしかない!

「お母さん!」
「えっ?」
「おれが出るから! おれにまかせて!」

 と、一目散に玄関へ。
 瞬間、きらーん、と光る六つの目を背後に感じた。
 くる。彼女たちは確実にくる。
 できればそれまでに用件を――なんて、甘い考え?

「よう」
「……どうしたのっ!」顔を近づけて小声でささやくアセる美玖とは反対に、
 世良は頭のうしろに両手を回して「堂々としてろよ。かえって怪しまれるぜ」と、泰然たいぜんとしていた。

 まず、美玖は安心した。
 それは世良の服装に、だ。
 だらしない部屋着やパジャマとかじゃなくてよかった。ちゃんと外出用だ。フリルつきの白いブラウスに、そでが余りぎみのオーバーサイズの芥子からし色のカーディガンを羽織っていて、下は無難なデニム。

「なにしにきたわけ」
「ツンツンしてんなー。情緒不安定か? 生理だったら、今月のはもう終わってるぞ」
「なんでアンタ……いやアンタじゃないか……とにかく、そっちの体の生理が私にかんけい――――」

 ばっ、と美玖は両手で口をおさえる。
 やばすぎ。
 出会って数秒で「生理」とか口にしてたら、どんな関係なのかと思われちゃう。

「えーっと、セイリング。そう。ヨットはセイリングが大事だよな」
「はぁ⁉」

 美玖はハンドサインで耳のうしろに手をあて、次に自分の後方を指さした。
〈聞き耳をたてられているぞ〉という意味である。

「いいじゃん。やましい話じゃねーし」
「よくない! そもそも私たちは、お互いの家を行き来するアレじゃないでしょ」
「そう、それだ。あのなエイジ」と、世良はなめらかに美玖に対して自分の名前を呼んだ。「用事があんだよ。おまえの家にあるモノをとりにきたんだ。部屋に通してくれ。なっ?」

 部屋か……。
 そっちのほうが、盗み聞きされるリスクは減りそう。

「すぐすませてよ」
「へいへい」

 ガニ股でブーツを脱ぎ捨て、じつに数日ぶりに、世良は自分の家に帰ってきた。
 鼻から、すう、となつかしいにおいを吸い込む。

姉貴あねきとチビの妹と、それとナナに一目あっておきてぇが、このナリじゃな……)

 がちゃ、とドアのしまる音。
 美玖は迷ったが、カギはかけないことにした。カギをかければ誤解されるのはほぼ確実だから。
 よいせ、と部屋のクッションにあぐらですわる世良。

「ちょっと」
「あ?」
「なんですわって落ちついてるのよ。早く用事をすませてってば」と、大柄な体の美玖が両手を腰にあてて言った。
「まーまー」

 世良はすわったまま、横のベッドに向かって手をのばした。

(ベッドの……マットレスの下? お父さんの世代だと、そこにエッチな本をかくしたりしてたらしいけど……)

「これだ」
「それって――」

 おどろいた。その本のタイトルに。思わず大声で音読してしまった。

「『獣医さんになる本』~~~~?」
「しっ。声がデカいだろ」

 その本に加えて、その系統の大学にいく過去問とか参考書が数冊。

「永次、獣医めざしてんの?」
「だから声、声」ちらちらと世良はドアのほうをみる。「きょうだいにはナイショにしてるんだよ、たのむぜ美玖」
「そんなに成績よかったっけ?」
「よくねーよ」
「じゃムリじゃん」

 むぅ、と世良の片っぽの眉があがった。
 心なしか、ぐっと距離をつめたような話し方をしてきてる。そういえば「永次」とも言っていたか。

(はは……野郎にビビられまくってる不良のおれを、下級生の女が呼び捨てかよ)

 まっ、いいさ――と世良はふかく考えない。
 むしろ好感がもてた。こっちのほうがずっといいぜ、と。

 本を抱き込むようにして、世良は立ち上がった。

「用事はこれだけだ。邪魔したな」
「あら~、もうお帰りになるのかしら?」

 小悪魔系のお姉さんボイス。
 三姉妹の長女だ。
 リラックスした部屋着から真っ赤なワンピースに着替えている。胸元がざっくりきまくったデザインの。

(どうも大人しいと思ったら、服を着替えていたのね)

 美玖は思った。
 こここそが正念場だ。
 ここから無事に〈新名あらな美玖〉を家から出してあげることが、最上のミッション。

「もっとゆっくりしていけばいいのに」

 にい、と世良のくちびるが斜めにあがる。

(姉貴よ。つもる話はあるが、また今度だ)

「あなた、永次のご学友の方? それともステディ? ガールフレンド?」
「私、急ぎますので。おほほ」

 肩に手をかけて世良が彼女をどかせようとした刹那せつな――――
 どん、と世良(体は美玖)の下腹部が、弱い力で押された。

「おねぇちゃんを、おもてなしするの」

 ちっちゃい両手のパーをこっちに向ける少女。三女だ。耳つきのクマさんのフードをかぶっている。戦闘態勢ということだろうか、と美玖は推察した。

「そうだ! アニキの部屋にあがったオンナを、ただで返すわけにはいかねーーーっ!」

 さっきまでと同じ格好で腕を組む黒髪ショートの七歌。
 ぴりっと緊張感が走った。
 美玖(中身は世良)と三姉妹が一メートルほどの間合いで向かい合っている構図。

(ちょっと……)

 彼女たちの視線が、顔、胸、腰、脚など〈自分の体〉のさまざまな部分をっているのがわかる。

(いや、品定しなさだめてる品定めてる! めっちゃ品定めてるからっっっ!)

 私を。新名美玖というオンナを。三姉妹の目で。
 お姉さんは――

(ふうん)

 という、まあ、大人の余裕を感じる表情で、

 下の妹ちゃんは――

(へぇー)

 という、興味や好奇心があらわれた顔なのだが、
 問題は三姉妹の真ん中の次女。

(がるる……)

 出てるから!
「がるる」が顔に出とる! みなぎっとる!
 バリバリ〈私〉に対して敵意むきだし。
 やばすぎ。
 どうにかしてよ、永次!

「おもてなしって……そいつは一体、どういうことをしてくれるのかしらん?」あごを上げ気味にした顔の角度で、世良は挑発的に言った。
「おいしい紅茶をいれてあげる」

 優雅な身のこなしで背中を向けて、長女は行ってしまった。
 世良も美玖も、同時に肩すかしをくらった形。
 三女は、

「どーぞ」

 とクマがえがかれたピンバッヂをさし出してくる。

「ありがとな。おまえは将来、いいオンナになるぜ」
「えへへ」

 妹の頭をやさしくなでる世良を目にしながらも、なお七歌は「がるる」だった。
 そして、こらえきれないといった感じで、こんなセリフが飛び出したのだ。

「一戦、たのもう!」
「あん?」
「私とジェンガで勝負だ!」

 どうしてそういう展開になるの、と美玖はついていけない。
 やはり鬼門だ。次女はデンジャラス。

「いいぜ」

 あなたも受けちゃうの?
 まじで?
 急いでるからとか適当にウソついて出ていく手だってあるじゃない。

「……ただの〈あそび〉だよな?」
「もちろんです」
「お嬢ちゃんの名前は?」と世良は知っていてあえて七歌の名をたずねた。
「世良七歌。私、お嬢ちゃんなんかじゃないし。大人の女だし」
「ははっ、わるかったわるかった。私は新名美玖だ。以後よろしくな」

 ふん、と小さく鼻をならす七歌。
 そしてリビングへもどって、ジェンガを取りに行った。
 以下、そばに小さな妹がいるため、音なしの口パクである。

(やる? ふつう)
(これも一種のケンカだ。買わないのは、男がすたる)
(私たちのこと、バレたらどうするの)
(そんときは、そんときさ)

 部屋の真ん中のガラスいたのローテーブルの上に、18段の木片もくへんがセットされた。
 世良の対面に七歌が座り、世良の右側に美玖、さらにその右側に下の妹がちょこんと正座している。

「じゃ、こっちが先攻な」

 わずかながら、ジェンガは後攻が有利といわれている。そのため、先攻はあえて世良がとった。

「抜くときは片手で……っと」

 やすやすとパーツを抜く。

「……」

 一言もしゃべらず真剣に、かつ慎重に抜いてゆく七歌。

「やるな」
「そっちこそ」

 わぁ、すっごーい、と紅茶をトレイにのせて部屋に入ってきた姉が、おどろきの声をあげた。

「やだおっきぃーい」

 と、ちょっとエッチなひびきをもたせて色っぽく感嘆する。美玖は思わず、反応してしまうところだった。
 たしかに大きい。
 テーブルにそそりたつ木製の塔。
 ジェンガの対決がはじまって数十分。
 その段の数は、いつしか30段をこえていた。
 ちなみに、ジェンガの対戦における世界記録は〈40段〉だそうである。

(静かにやってるからボロが出ることはなさそうだけど……緊張感えぐっ)

 観戦しているだけで、美玖は息がつまりそうだった。

「やっぱ、あそびじゃつまんねーな」
「えっ」
「なにかけようぜ」

 順番は、世良が抜く番である。
 客観的にみて、勝負はもう終盤だった。どこを抜いても、崩れ落ちそうに見える。

「いや……それって」

 あなたのほうが不利ですよ、という言葉を彼女は飲み込んだ。
 ジェンガマスターの七歌の見立てでは、もうどこを取っても終わる。
 つまり、これは自分にとっては有利な提案だ。

「いいよ。なにを賭ける?」
「こいつ」と、世良は美玖と肩を組んだ。「世良永次」
「なっ!!!???」
「いいよな?」

 かーーーん、と世良は指でパーツをはじいた。
 びゅーーーんと、それが七歌の顔の横を高速で抜ける。

「ちょ、ちょっとタイム。きいてない。そんなの……ダメっ!!!」
「おいおい。たしかにおまえは『いいよ』って言ってたぜ」
「それは賭けてもいいよってことで……」
「そうか。じゃあ、なかったことでいいさ、お嬢ちゃん」

 世良は不敵な表情で言った。
 当然、彼は妹をいじめて楽しんでいるわけではない。

(ナナのヤツはほんと昔から変わらねーな。好戦的で威勢がよくて―――)

 あくまで遊んでいるだけだ。
 遊びも全力、それが世良のスタンスである。

「『お嬢ちゃん』いうなっ‼ いいよ、いいじゃん、賭けるよアニキを」
「よし」

 七歌の指はふるえていた。
 そして頭の中にフラッシュする、兄との思い出の数々。

(アニキは……私の理想の男なんだ。小さいころからずっといっしょだったし、これからだって)

 かつん、とふるえる指で押されたパーツがテーブルの上に落ちた。

(アニキ。私は認めないんだからな! アニキに彼女なんて……っ!)

 願いをこめてジェンガをみつめる七歌。
 が、無情にも、

「あ……」

 それは崩れてしまった。対戦記録、33段。

「またおまえの負けだな、ナナ」
「えっ?」
 おっと、と世良は口をおさえた。

(この人いま私のこと『ナナ』って。その呼び方、アニキしか知らないのに)

 七歌の顔が下に向いた。
 二人で目線を交わす世良と美玖。

「あ、えーと、ははっ、名勝負だったなー。いいもんみたぜ」美玖が世良の演技をして言う。「じゃ、もういい時間だし解散だ。ほらほら」と、まず姉と下の妹を部屋から追い出した。
「あー……」ぽりぽりと後ろ頭をかく世良。「まいったな。ちっと、やりすぎたか?」
「いいから、あとのことはおれにまかせて」

 肩ごしに心配そうな表情をみせる世良の背中を押し、外に出してドアをしめる。

「なあ……、アニキ」視線を下にしたまま、七歌が言った。
「ん?」
「負けたよ。完敗だ。さすがアニキがえらんだ人だ」

 ばっ、といきおいよく顔をあげた。
 その表情は「にひ」と音が出そうな、満面の笑み。
 ただ両目は、うるんでいる。

「自分の妹をどう呼んでるかって話をするぐらい、親密な関係なんだな……。いつかはこんな日がくるって、わかってたよ。だから私も、前を向く」
「ナナ」学習能力にすぐれる美玖は、さっき世良が彼女をこう呼んでいたのを抜け目なく学習している。「それでこそおれの妹だ!」

 アニキ~~~~と世良のたくましい体に抱きつく妹。
 ちょうどその瞬間、世良はエレベーターに乗っていた。

(待ってろよ。元の姿にもどったら、またおれが遊んでやっからな)

・・・

 深夜のホテルの廃墟。
 たくさんの不良が、いびつな円をえがくようにして集まっている。
 その中心にいる男が、口をひらいた。

「もう遊びは終わりだ」

 180センチをこえる長身の男はつづけて言う。

「明日、新名美玖をやる」
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