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霊峰珍道中
第4話 探訪
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サイクロプス・マウンテンを成り行きで殲滅してから早1週間。
まるで気力を削がれ続けたかのようにフラフラと覚束ない足取りで、おとぼけフェイスのウサギは未知の土地を彷徨っていた。
「くそ……」
ここは自然の絶界とも言われるSSSランクの地。【エルラの霊峰】。
辺りに平然と自生する木々は酸素ではなく世界でも極めて稀な魔素を生成する霊樹であり、それによって高密度の魔素に包まれたこの霊峰では並みの生物じゃ呼吸をすることさえ困難となる。
唯一、魔素を生命源とする魔族であってもこの土地ではまともに生きてはいけない。なぜなら、絶界とも言われる極限の地に適応している住人達がいるから。
戦闘に秀でた魔族でさえも赤子扱いされるのがこの場所である。
余談ではあるが、本来なら大規模な討伐隊レベルでないと対処が出来ないサイクロプス・マウンテンは、この霊峰においては最も最弱の部類とされる。
「も、もう……ダメだ……」
力なく崩れ、その場に四つん這いとなって弱音を溢す倫太郎。
魔族でもなければモンスターでもない、元はただのイベントの着ぐるみはもうすでに限界間近だった。
「あぁ……癒されたいっ!!!」
魂を震わすかの如く力いっぱいそう叫ぶ。
そう。倫太郎は限界だった。体力ではなく我慢の方の。
体はスキルのおかげで至って優良健康体を保持している。
右も左も分からない果てしない大自然の中で、すでに倫太郎はここまでで二足歩行する猪の群れと空飛ぶ巨大ムカデに襲撃を受けているが、それでも至って健康体だ。
二足歩行する猪【ボア・ジャイアント】は分かりやすく例えるならミノタウルスの猪版。それが群れとなってピンク色のウサギを狩りに来る。結果は〈カウンターブレイク〉で返り討ち。
空飛ぶ巨大ムカデこと【エアル・ピード】は全長で15メートルの硬質なムカデで、それがまるで一旦木綿のようにゆらゆらと体を動かしながら浮遊して獲物を狙う。獲物をその体で締め上げて骨から内蔵まで内部を粉砕させるか、そのまま窒息させるのが特長。例外なくラビ太がボンレスハムになるくらい締め上げられるが、結果は〈カウンターブレイク〉で返り討ち。
向かうもの敵なし、というより向かってくるものに敵なしの状態。
そんな最凶の防衛システムの力を遺憾なく発揮しているものの、身の保全が確保されればされるほど気持ちの方は調和がズレて来る。
ラビ太の体になった為餓死の恐れはないものの、自分が全く歓迎されていない土地で安眠など出来る訳もなく、それも相まって体よりも気持ちの方が変則にズレていく。
現代日本ではそれを"ストレス"と呼ぶのだが、まさに倫太郎はその真っ只中であった。
それゆえに。とにかく倫太郎は癒しを極限に求めていた。自分にとって一番の子どもを。
穢れを知らない、純真で無垢な子どもを眺めたりする事が出来るだけで倫太郎は多幸感で満たされる。触れ合う事など出来てしまえばたちまち昇天してしまう。
そう。お気付きの通り、ウサギの着ぐるみの男は変態なのである。
常人であれば、この【エルラの霊峰】に足を踏み入れてしまえば思考の余地は生死の事以外ない。
単純な生きるか死ぬかではなく、圧倒的な死を前に「生きたい」という本能が思考の全てを埋め尽くす。
そこに雑念など一切合切入り込む余地がない極地。それが【エルラの霊峰】。
しかし、奇跡的にもそう簡単に死なない術を身に付けた倫太郎は霊峰の概念を無視して、ただただ雑念にまみれていた。
さっきから体がフラフラしているのも、言ってみればただのフラストレーションである。
「女神様!なんでこんな場所に俺を送ったんでしょうか!」
枝木に覆われ、天窓くらいの隙間から覗かせる空を見上げて倫太郎は切に訴える。
人のせい、神様のせいにしたい訳ではない。曲がりなりにも脱出を試みようここまで魔物に襲われながらも進んで来た。
しかし、それは無駄な足掻きだというのを証明したに過ぎなかったのもまた事実。
〈アーカイブ〉ですでに調べた【エルラの霊峰】の総面積は北海道の1.5倍。
徒歩でどうにかするには絶望とも言える広大さであった。
唯一望みがあるとすればそれはスキルの力。それも空間系スキルがあれば事態を解決する事が出来ると言っても過言ではない。
無論、倫太郎もそれには目を付けて〈アーカイブ〉のスキル一覧で〈転送〉や〈転移〉といったスキルは確認済みではある。
しかし、その目論見は目的を達するに至らない。
なぜなら、空間系のスキルを自在に使うには〈演算処理〉と〈座標構築〉の2つのスキルが必須だからである。
それを露知らず、倫太郎はいの一番に〈転移〉のスキルを獲得したが当然使えない。
ここまでの無差別カウンターのお陰で一気にランクを2つ上げた倫太郎ではあったが、スキル保有数はランク一つで1しか増えず、結果として必要な必須スキルの一つが取れない現状であった。
「……ランクを上げるしかないのか?いやいやいやいや無ー理無理無理」
ランクを一つ上げるのが確実で明瞭な解決口である。しかし、倫太郎はそれに全く乗り気ではない。
スキルが何かで封じられでもしない限り最凶システムは無敵である。
しかしながら、それは倫太郎の後押しになる理由にはならない。
なぜなら、最凶システムが発動するには漏れなくモンスターからの攻撃を浴びなければいけないという条件があるからである。
倫太郎は思った。ゴリラに殺人糞を投げられ、猪に何度も牙を突き立てられ、巨大ムカデに全身を締め付けられるのは、ダメージがあろうとなかろうとキモイし怖いしうざったいと。こんなの軽くトラウマになるわ、と。
それによって倫太郎は戦闘嫌いになっていた。
つまり。ここまでの事を整理すると、どうしようもなく手詰まりという事なのである。
「大自然なんて、大嫌いだ……」
惜しみもない愚痴を溢しながらも、一応は歩を進める倫太郎。
不慣れな地であるのは変わらないとは言え、道無き道でも自然と歩きやすいポイントを見つけて行けるようにはなっていた。
1週間ひたすら歩き続けた本人にとっては望まぬ成果である。
だからであろうか。倫太郎は心底願っていた。「こんな変わり映えのない時間なんて真っ平ご免」と。
しかし。倫太郎は知らない。この【エルラの霊峰】で変わり映えを望むとはどういう事なのかを。
それは決して願うべきものではなかったと、程なくして倫太郎は思い知らされることになる。
まるで気力を削がれ続けたかのようにフラフラと覚束ない足取りで、おとぼけフェイスのウサギは未知の土地を彷徨っていた。
「くそ……」
ここは自然の絶界とも言われるSSSランクの地。【エルラの霊峰】。
辺りに平然と自生する木々は酸素ではなく世界でも極めて稀な魔素を生成する霊樹であり、それによって高密度の魔素に包まれたこの霊峰では並みの生物じゃ呼吸をすることさえ困難となる。
唯一、魔素を生命源とする魔族であってもこの土地ではまともに生きてはいけない。なぜなら、絶界とも言われる極限の地に適応している住人達がいるから。
戦闘に秀でた魔族でさえも赤子扱いされるのがこの場所である。
余談ではあるが、本来なら大規模な討伐隊レベルでないと対処が出来ないサイクロプス・マウンテンは、この霊峰においては最も最弱の部類とされる。
「も、もう……ダメだ……」
力なく崩れ、その場に四つん這いとなって弱音を溢す倫太郎。
魔族でもなければモンスターでもない、元はただのイベントの着ぐるみはもうすでに限界間近だった。
「あぁ……癒されたいっ!!!」
魂を震わすかの如く力いっぱいそう叫ぶ。
そう。倫太郎は限界だった。体力ではなく我慢の方の。
体はスキルのおかげで至って優良健康体を保持している。
右も左も分からない果てしない大自然の中で、すでに倫太郎はここまでで二足歩行する猪の群れと空飛ぶ巨大ムカデに襲撃を受けているが、それでも至って健康体だ。
二足歩行する猪【ボア・ジャイアント】は分かりやすく例えるならミノタウルスの猪版。それが群れとなってピンク色のウサギを狩りに来る。結果は〈カウンターブレイク〉で返り討ち。
空飛ぶ巨大ムカデこと【エアル・ピード】は全長で15メートルの硬質なムカデで、それがまるで一旦木綿のようにゆらゆらと体を動かしながら浮遊して獲物を狙う。獲物をその体で締め上げて骨から内蔵まで内部を粉砕させるか、そのまま窒息させるのが特長。例外なくラビ太がボンレスハムになるくらい締め上げられるが、結果は〈カウンターブレイク〉で返り討ち。
向かうもの敵なし、というより向かってくるものに敵なしの状態。
そんな最凶の防衛システムの力を遺憾なく発揮しているものの、身の保全が確保されればされるほど気持ちの方は調和がズレて来る。
ラビ太の体になった為餓死の恐れはないものの、自分が全く歓迎されていない土地で安眠など出来る訳もなく、それも相まって体よりも気持ちの方が変則にズレていく。
現代日本ではそれを"ストレス"と呼ぶのだが、まさに倫太郎はその真っ只中であった。
それゆえに。とにかく倫太郎は癒しを極限に求めていた。自分にとって一番の子どもを。
穢れを知らない、純真で無垢な子どもを眺めたりする事が出来るだけで倫太郎は多幸感で満たされる。触れ合う事など出来てしまえばたちまち昇天してしまう。
そう。お気付きの通り、ウサギの着ぐるみの男は変態なのである。
常人であれば、この【エルラの霊峰】に足を踏み入れてしまえば思考の余地は生死の事以外ない。
単純な生きるか死ぬかではなく、圧倒的な死を前に「生きたい」という本能が思考の全てを埋め尽くす。
そこに雑念など一切合切入り込む余地がない極地。それが【エルラの霊峰】。
しかし、奇跡的にもそう簡単に死なない術を身に付けた倫太郎は霊峰の概念を無視して、ただただ雑念にまみれていた。
さっきから体がフラフラしているのも、言ってみればただのフラストレーションである。
「女神様!なんでこんな場所に俺を送ったんでしょうか!」
枝木に覆われ、天窓くらいの隙間から覗かせる空を見上げて倫太郎は切に訴える。
人のせい、神様のせいにしたい訳ではない。曲がりなりにも脱出を試みようここまで魔物に襲われながらも進んで来た。
しかし、それは無駄な足掻きだというのを証明したに過ぎなかったのもまた事実。
〈アーカイブ〉ですでに調べた【エルラの霊峰】の総面積は北海道の1.5倍。
徒歩でどうにかするには絶望とも言える広大さであった。
唯一望みがあるとすればそれはスキルの力。それも空間系スキルがあれば事態を解決する事が出来ると言っても過言ではない。
無論、倫太郎もそれには目を付けて〈アーカイブ〉のスキル一覧で〈転送〉や〈転移〉といったスキルは確認済みではある。
しかし、その目論見は目的を達するに至らない。
なぜなら、空間系のスキルを自在に使うには〈演算処理〉と〈座標構築〉の2つのスキルが必須だからである。
それを露知らず、倫太郎はいの一番に〈転移〉のスキルを獲得したが当然使えない。
ここまでの無差別カウンターのお陰で一気にランクを2つ上げた倫太郎ではあったが、スキル保有数はランク一つで1しか増えず、結果として必要な必須スキルの一つが取れない現状であった。
「……ランクを上げるしかないのか?いやいやいやいや無ー理無理無理」
ランクを一つ上げるのが確実で明瞭な解決口である。しかし、倫太郎はそれに全く乗り気ではない。
スキルが何かで封じられでもしない限り最凶システムは無敵である。
しかしながら、それは倫太郎の後押しになる理由にはならない。
なぜなら、最凶システムが発動するには漏れなくモンスターからの攻撃を浴びなければいけないという条件があるからである。
倫太郎は思った。ゴリラに殺人糞を投げられ、猪に何度も牙を突き立てられ、巨大ムカデに全身を締め付けられるのは、ダメージがあろうとなかろうとキモイし怖いしうざったいと。こんなの軽くトラウマになるわ、と。
それによって倫太郎は戦闘嫌いになっていた。
つまり。ここまでの事を整理すると、どうしようもなく手詰まりという事なのである。
「大自然なんて、大嫌いだ……」
惜しみもない愚痴を溢しながらも、一応は歩を進める倫太郎。
不慣れな地であるのは変わらないとは言え、道無き道でも自然と歩きやすいポイントを見つけて行けるようにはなっていた。
1週間ひたすら歩き続けた本人にとっては望まぬ成果である。
だからであろうか。倫太郎は心底願っていた。「こんな変わり映えのない時間なんて真っ平ご免」と。
しかし。倫太郎は知らない。この【エルラの霊峰】で変わり映えを望むとはどういう事なのかを。
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