マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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霊峰珍道中

第5話 フラグなんて容易に立ててはいけない

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羽毛ほどの軽い気持ちでフラグを立ててはいけない。


後日、倫太郎はそう思っていた。







それは、何の前触れもなかった。


突然の地響きと爆裂音。それは地面も大気も揺さぶり倫太郎を転倒させる。


3.5等身のラビ太のフォルムではやはり頭のバランスが良くなく、受け身を取るのも至難の業である。


倫太郎は抵抗虚しく顔面ダイブを地面に決めた。


どうにかして体を起こそうとするが、揺れは治まるどころか段々と激しさを増していって体を支えることさえままならない。


惨めに顔面が地面についたまま揺れが治まるのを待つ倫太郎。しかし。すぐに異変に気付く。


辺りが異様に焦げ臭い。地面に顔面がついて鼻もくっついてはいるが明らかに焦げ臭い。


そして熱い。背面の至る所に熱さがぶつかってくる。


居ても立ってもいられずに勢いをつけて体をローリングさせて仰向けになると、さっきまでうんざりとするほど緑々としてたその場所が見るも豪快に燃え盛っていた。


どこからどう見ても火の海である。


「何事!?」


深緑から火の海へ。緑から赤へ。ガラリと変わった目の前の景色と状況にただただ狼狽する倫太郎。


時同じくして、あちらこちらから魔物らしき者達の叫び声が聞こえ始めている。


土地勘も異世界勘もない倫太郎にとっては、この事象が日常茶飯事なのか否なのかの判断が付かない訳ではあるが、嫌が応にも聞こえて来る魔物らの阿鼻叫喚がこの状況が異常事態だというのを叩き付けてくる。


ボトンッ!!
「うおわ!?」


上から火に包まれた何かの塊が落ちて来る。よく見るとそれは魔物であった。


もうすでに火の手が回って完全に丸焦げになっているために姿形は何か確認は出来なかった。


「うわぁ……マジか~……」


丸焦げながらも尚燃える亡骸を見て委縮する倫太郎。一刻も早く何か手を打たなければいけない状況であるが、増し増しになっていく火の手によって進路も退路も阻まれている。


〈ダメージ無効〉がある為、このまま火に焼かれて死に至るということはないが悠長に事を構えている暇もない。


この状況で一番倫太郎を苦しめるのは火ではなくむしろ煙の方。いわゆる一酸化炭素中毒の方である。


一酸化炭素中毒でも〈ダメージ無効〉の力で死なないが、このまま吸い続ければ気絶するくらいまでには至る。体感で倫太郎もそれは理解しており、こんな所で気絶などしてしまったら自分がどうなるのか想像が出来ない恐怖を覚えていた。


ここで倫太郎は意を決する。


「ぬおぉ!破れかぶれだ!」


着ぐるみ姿には似つかわしくない、しっかりと腕と腿を使った全力疾走を繰り出す。


火が遮って来ようが、木が障害物になろうがお構いなく猛ダッシュ。活路を見出した……訳では決してない。むしろ無策なダッシュ。


倫太郎が火急の場で決断したのは火の手がない所まで走り切るという事。ただそれだけ。


しかし、この広大な土地で行く手を阻む火の手が果たしてどこまで広がっているのかは皆目見当つくはずがない。ゆえに賭け。


自分が倒れるよりも先にセーフティーゾーンまで脱するという無謀と言ってよい賭けなのである。


倫太郎が倒れるのが先か、ただただ賭けに負けるのか。


結果は、意外にもどちらでもなかった。


ドドドドドドドッ
「へ?」
ズガゴンッッッ!!!


まるで災害のように木という木が吹き飛んで来たかと思うと、それに合わせて巨大な勢いのままに倫太郎と衝突する。


慣性の法則に逆らうことなくその何かと一緒に倫太郎は吹き飛ばされ、数百メートル先でその勢いが失われた。


「!。!!。!!!」


未だ得体の知れぬ何かに問答無用で下敷きにされた倫太郎は片手だけを出してもがく。


上に乗っているそれは想像以上に質量があり、ラビ太の体でさえ余裕で埋め尽くしてしまっている。


手をブンブンと振り回してみたり、下敷きにされているそれをバンバンと叩いてタップしてみたりと、とにかく倫太郎はもがきにもがいてどうにかそこから這い出した。


「なんだこの生き地獄は……」


げっそりとした口調で四つん這いになる倫太郎。ラビ太姿のそれも小慣れたものである。


その状態のまま、自分を下敷きにしていた得体の知れない何かに目を向ける。そこには見上げる程デカい白い壁が反り立っていた。


「?」


その白い壁は左右どちらにも伸びており、倫太郎は自然とその先を目で追う。


首が丁度90度に差し掛かったところで倫太郎の視線は止まる。その視線の先には白い壁と同色の生物の頭部があった。


倫太郎は高速首振り扇風機かのように左右を何往復も確認して、目の前のドでかい白い壁が壁じゃない事を自分の記憶と照合する。


「蛇!?!?」


それは自身の常識とは断然にかけ離れたサイズの蛇。


全長はおそらく三桁越えであり、頭部だけでも大型トラックほどの大きさがある。


さらに、白い体表に見えていた体はよく見ると鱗に覆われており、その1枚1枚が白というよりむしろ銀。光に照らされるとより一層眩しく映る白銀であった。


超大型の白銀の蛇。そんな規格外の存在が今倫太郎の目の前に横たわっている。


傷というより、ところどころ破損と言うのに近い状態で白銀の蛇の鱗が砕けていた。見るからに只事でないのは一目瞭然。


倫太郎はここぞとばかりに困惑した。


『□□ □□□□ □□□』


スピーカーで拡張されたかのような重低音ボイスが突然響く。


倫太郎は蛇の頭部に目を向けるが発信元はどうやらそこではない。


ビリビリと空気が震えて来るのはむしろ上。そのまま頭上を見上げると、そこには真っ青と言えるほどの青々しい炎に全身が包まれた獣が1体浮遊している。


羽も翼もなく四足で空中に浮いているその獣は、姿形は狼のようで額に歪な一角が生えている。体の大きさで言えば白銀の蛇と大差なく、大きさだけではない禍禍しさが倫太郎の脳裏に化物の二文字を浮かび上がらせる。


そんな規格外の脅威が唐突に空から倫太郎と白銀の蛇を見下ろしていた。


「次から次へとなんやねん……」
『□□□□。□□□□□』
「え?」


それはハッキリとした"声"だった。さっきと同じ腹の奥から響いてくる重低音。それが間違いなく獣の姿をしたそれから聞こえて来る。


しかし。声と認識出来ても言葉が分からない。この世界に来て初めて『言葉』に触れた倫太郎は当然この世界の言語など知る由もない。ましてやその相手が自分の理解の範疇を越える化物と来てる。


"まさかのタイミング"。それが倫太郎の内心である。


一方の声の主は倫太郎の反応など意にも介さず、言葉であろうそれを発している。

思いがけないタイミングの連続に心中穏やかでない倫太郎であったが。ひとまずその『言葉』を理解するべく、「この世界の言葉を理解するスキル」を〈アーカイブ〉に要望する。


《スキル〈言語万通〉を獲得しました》


即座にスキル発動。倫太郎は耳を澄ます。


『まだ眷属がいたのか』

(聞こえた……!!)

『なら死ね』

(うおい!?)


日常会話のように聞こえる言葉に一瞬高揚しつつも、吐き捨てられた物騒な言葉に倫太郎はビクッと体を跳ねさせる。


口をバカッと開いて何かを繰り出そうとする化物。


それを見てボア素材となった肌が一気に粟立つの感じたその時、倫太郎の背後から白い塊が顔の横を通り過ぎる。


まるでしなやかな鞭のように伸びたそれは、燃え盛る相手を物ともせず胴体から首を狙って締め上げていき、そのまま勢いと重力に任せて地面に思いっ切り叩き付けた。


舞い上がる粉塵と共に体を襲う熱風。まるでロウリュだが、常人であればその熱気だけで全身火傷で死に至ってもおかしくはない。


体を起こした白銀の蛇はすでに満身創痍ながら、舞い上がり視界を遮るその粉塵の中を鋭い目つきで見据えている。


倫太郎も固唾を飲み込もうとしたその瞬間だった。


『〈ヘル・ボマ〉』


粉塵が霧散したと同時に一直線に倫太郎らに向かって飛んで来る真っ青な巨大球体。


それは化物が放った炎の球であった。


着弾し大爆発を起こす炎球。特撮など子どものお遊戯と言わんばかりの爆量はいとも簡単に倫太郎も白銀の蛇すら飲み込む。


「み、耳キーンってする……」


爆心地でむくりと体を起こす焦げたウサギ。周りは焼け野原どころか軽くクレーターを形成していた。


耳鳴りで顔をフルフルと揺らす倫太郎。平衡感覚がままならない中で、よろけた体を支えようと片手を伸ばした先に何かむにっと柔らかいものに触れる。


見るとそこには、傷だらけですっぽんぽんの幼女が息も絶え絶えに横たわっていた。


「な!?」


脳が一気に活性と混乱を生じる倫太郎。そこにあの声が響き渡る。


『細胞の一片まで消え失せてないばかりか、まさかまだ息があるとはなァ』


声の方を振り向く倫太郎。そこには真っ青な炎とは真逆の、赤銅色した毛をなびかせる一角の獣がクレーターの縁に立っていた。


『しぶとい。腹立たしくしぶとい。だがしかし。銀蛇の姿を保てないのならソイツももう終わりだ』
「……蛇?……この子が?」
『まとめてここを火葬場にしてやろう』
「おいこの野郎
『あ”?』


ブチッ!
カチン!


「幼女になにしとんじゃあぁぁぁぁぁ!!!」


感情剥き出しでキレて吠えた焦げたウサギ。


狼とウサギというヒエアルキーなど完全に無視して、〈カウンターブレイク〉怒りの鉄拳制裁で無謀な戦いに身を投じようとしていた。
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