マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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霊峰珍道中

第6話 兎突猛進!

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猪突猛進ならぬ兎突猛進。

〈カウンターブレイク〉の威力をそのまま推進力にして、高みで見下ろす凶獣に突撃をかます。

しかし。この攻撃には悪条件が重なる。

まず一つにこの攻撃が勢い任せであるという事。そして二つ目に、その勢い任せの攻撃をコントロールする戦闘経験が倫太郎に無い事。

この条件が見事にはまってしまい、本来であれば一撃必殺とも言える体当たりは、虚しくも敵からラビ太2体分も離れて綺麗に空振ってしまう。

空振った勢いで川切り石のように地面を跳ねて転がり込んでいく倫太郎。最後はシャチホコのような体勢になって地面とお見合いをした。

「……こんなに顔面を土につけた事ないぞ。人生で」

酷い有様の体を元に戻して、改めて化物と対峙する倫太郎。

相手も奇怪なウサギの奇襲に警戒をしてか、すでに臨戦態勢を取っていた。

『なんだキサマは……?』
「なんだ貴様はってか?そうです。私が幼女の味方です」
『そうか。なら死ね』

手短な死刑宣告と同時にあの炎球が放たれる。

「あれ!?待っ」

避ける余地すら与えられず着弾。再び爆炎が上がる。

白蛇こっちもトドメだ』

ラビ太を焼却し、次にクレーター内で横たわる幼女に照準を絞って大口を開ける敵。

それに待ったをかけようと、灼熱の炎の中から体がフランベ状態のウサギが飛び出して来る。

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!」

兎突猛進リトライ。今度は炎属性付き。

しかし。たったの数分で戦い慣れるわけもなく、初撃よりラビ太1.5体分差は修正したものの、攻撃自体は相手の前足を少し掠る程度で終わってしまう。

『眷属風情が邪魔をするな!!』

苛立つように怒号を上げて、再び真っ青な炎を体に纏って炎の化身と化す敵方。

そこからさらに、体から溢れるその炎から無数の炎球が生み出す。クレーターを作ったものより半分ほど小さいサイズであるが、何十と生成されていくそれはいかにも危険な香りを漂わせている。

『〈ヘル・ショット〉』

号令と共に飛来する数十の炎球。

それをドッヂボールの要領で身をくねらせながら避ける倫太郎であったが、四方八方から来るそれ全てに対応出来ずまたまた着弾を許してしまう。

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!!

一発食らったのを皮切りに、雪崩れ込むように全弾被弾していく。

壮絶な炎球ハラスメント。

常人のみならず霊峰の猛者でさえ骨すら残らない凶撃が、たった一体のウサギの着ぐるみにそれが降り注がれている。

もう一度言う。である。

しかし。ハラスメントを受け続けているそのウサギは、炎が継ぎ足しされていく爆炎の中でもその姿を健在している。

それだけ〈ダメージ無効〉のスキルは有能であった。

『なんなんだキサマは!』
「だから幼女の味方だって!あっつい!!」

すでに〈カウンターブレイク〉が発動できるほどのダメージ致死量を得ている。

しかし。ここまで2度失敗し、基本攻撃が突進しかないゆえに相手が油断していない今の状況ではもうまともに当たる気配を感じられない倫太郎。

死にはしないのに防戦一方になるという不思議な構図が倫太郎を悩ませる。

「くそ……!何も出来ないんじゃん俺!!」
「いんや。見事な時間稼ぎだぞ」

どこからともなく聞こえてきた女の子の声。さらに倫太郎は敵の背後に小さな人影があるのに気付く。

そこには、クレーターで横たわっていたはずの幼女がすっぽんぽんで掌をかざして立っていた。

「なんでそんな所に!?いや、てか格好!!」
「隙ありじゃ」
『しまっ……!』
「〈次元転送ディメンション・ゲート〉」

幼女の言葉を皮切りに敵の足下に現れる巨大な魔法陣。

次の瞬間、その炎に包まれた体躯が一瞬にして消え去ってしまった。

「え!?消えた!?」
「消えたというのは少し形容が違うかの」
「うおっ!?」

突如として消えた敵と、いつの間にか背後に立って自分を見上げている幼女に倫太郎は驚きを連鎖させる。

幼女はすっぽんぽんのまま、まるで恥じらいも見せずにラビ太の顔をジーッと見つめる。

すっぽんぽんの幼女をまじまじと見るのはさすがにヤバイと目を逸らそうとする倫太郎であったが、逃がすまいと幼女の切れ長の目は執拗にラビ太の顔を見続ける。

「お、俺の顔に何か付いてます?」
「目と鼻と口と髭が付いてるな」
「そりゃね?」
「ジーーーーーーーーーー」
「うっ!そんなに見つめないで!色々マズイ!」
「ふむ。よーく見ても記憶にない種族だの。お主は一体何者だ?」
「え?何者?俺?」

返答に詰まる倫太郎。

何者と問われれば『柳 倫太郎 27歳 男性 』というプロフィールの定型文はある。

しかし。倫太郎は思った。

「今の俺はどういう存在?」と。

自身が『柳 倫太郎』であることに変わりはないが、その外見が『柳 倫太郎』とは言い難くなった事実が幼女の問いによって押し寄せてくる。

「えーっと……?うーん」

今や着ぐるみ素材そのままの体が己の体となっている以上、『柳 倫太郎』と言うよりかはむしろ『ラビ太』と言う方が違和感はない。

しかし。倫太郎は思った。

「そもそもラビ太はどういうカテゴリーだ?」と。

人でもなければ魔物でもない。第三者の見ようによって大きく変わるであろうが、自我のある着ぐるみの存在が倫太郎自身の認識もあやふやにさせていたのだった。

「まぁ、何者であるかの問いは今はよいか。他に聞きたいこともあるしの」
「へ?」

パチン。
と、幼女が指を鳴らしたと同時に足下から魔法陣が浮かび上がる。

倫太郎がそれに気付く間もなく、一瞬にして場所が移り変わった。

「え?あれ?」

一瞬の出来事に呆けた声を出す倫太郎だったが、すぐに違和感に気付く。

まず妙に目線が高い。
次に体がふわりとする。
そして身動きが取れない。

おずおずと視線を傾けた倫太郎の目には、簀巻きのように蔦でぐるぐる巻きにされた己の胴体が映る。

「What’s this……?」

状況が分からな過ぎて言葉すら錯綜する倫太郎。

本当に訳も分からず簀巻きのまま宙ぶらりんに吊るされている。

「さて」

声の方に目を向けると、さっきの幼女が腕を組んで倫太郎を見上げていた。

「あの……?」
「〈風の大鎌ウインド・サイズ〉」

目線が合うや否や、倫太郎めがけ岩壁をも刈り取る風の鎌が放たれる。

「ぬぉい!?」

しっかりと直撃。風なので形は見えないが、巨大な刃物に斬りつけられた感覚がハッキリと倫太郎の体に伝わる。

「ふぅむ。なるほど」

幼女は指で顎をさすりながら、衝撃でプランプランと揺れるウサギの着ぐるみを凝視している。

そして。

「次はこれかの。〈大地の鉄槌アース・バベル〉」

幼女がそう唱えると、倫太郎の真下の地面が活気良く隆起。
そこから巨大な岩石の円柱が倫太郎めがけ突出する。

「ぬごっ!?」

もちろん直撃。大きさにしてロケット大ほどの質量のそれが、ビリヤードのように簀巻きウサギを突き上げる。

その威力は凄まじく、それは新幹線に轢かれたような衝撃レベル。

生き物であればこの一撃で物言わぬグロイ肉塊と化すのだが、ラビ太の体は当然原型を保っている。

「手加減はしておらぬのだがなぁ」

なぜか感慨深そうに、攻撃を加えるその対象に目を向ける幼女。

再び視線が合うと、幼女は少し口元が綻ぶ。

嫌な予感が止まらない。

「これならどうだ?」

幼女が胸の前で合掌すると、その間から膨らむように風の球体が出現する。

「〈暴風の破壊神テンペスト・シヴァ

ソフトボール大になった風の球体を、軽く下手投げでふわりと倫太郎のもとへ放る。

まるで攻撃性が無い様に見えるが、侮ることなかれ。

風の球体は倫太郎の体にピトッと触れた瞬間に爆裂する。

それは山一つをも軽く消し飛ばす風の爆撃。直撃をもろに食らえばドラゴンですらまともに体が残らない高威力の魔法が、それがたった1体の着ぐるみに惜しみなく使われる。

しかし。〈ダメージ無効〉の力は絶大で、そんな一撃でも尚ウサギの着ぐるみの原型をまるまんま残す。

蔦が吹き飛び、そのまま上空高くまで舞い上がった倫太郎は、物理法則に逆らわず落下して見事地面に顔ダイブを決める。

「……何でこんな目に」
「五体満足でしかも生きとるとは。これはたまげた」

悪びれる様子もなく一人感心する幼女。

地面に顔型を作った倫太郎はゆっくりと面を上げると、幼女は不敵に口角を上げて倫太郎を見据える。

「よし。合格!」

謎の合格宣言を告げる幼女。

そこに倫太郎は思った事を口にする。

「とりあえず、服着てくれ……」
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