マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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霊峰珍道中

第9話 支配主特権

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空気が灼ける。


そんな表現が出来てしまうほど辺りの温度がぐんぐんと上昇していく。


その元凶は言うまでもなくバリオス。


しかし。これはバリオスの特殊能力というわけではない。


そこにいるだけ。ただそれだけで辺り一帯の熱量を変えてしまうほどの極致的な体温なのである。


〈ダメージ無効〉があっても、感覚や体感が無くなっている訳ではない倫太郎はその異常な熱さを直に感じている。


二度目の対峙からでもヒシヒシと伝わる絶対的強者の風格。


今の倫太郎の心情を一言で現すなら、『帰りてぇ』状態である。


〈ダメージ無効〉があろうと怖いもんは怖い。


姿形は人外でもメンタルは人並みであるから、倫太郎の感じている恐怖は真っ当な反応なのである。


そして。戦いの火蓋は突如として切られる。


「へ?」


一瞬にして倫太郎の頭上が陰る。もうそこにはバリオスの振り下ろした爪撃が迫る。


それを見事に躱す―――事は出来ず思いっきり吹き飛ばされる倫太郎。


勢いよく水平に滞空していき、そのまま地面に打ち付けられゴロゴロと転がっていく。


強烈な打ち身を食らった倫太郎であるが、脳が揺れただけで致命傷には至らず。


不死身ぶりは健在なものの、体が分断していてもおかしくないバリオスの爪撃は一振りで地形をも抉る。


圧倒的な畏怖。


改めて倫太郎は思う。ダメージが無効になろうと怖いものは怖い。


生き物として当然の感情である。


「もうすでに心が折れそうだぜ……」


そう呟く倫太郎であるが、状況は悪い事ばかりでもない。


見ればバリオスの腹部から血が滴り落ちている。


四つに裂かれた傷口。それは見事に〈カウンターミラージュ〉がその効果を発揮した証拠であった。


タイトマルロとは訳が違う桁違いのその一撃は、跳ね返りも桁違いの威力。


バリオスは自身の強さによって思いもよらないダメージを負った。


(怖いけど、このまま自滅してくれれば最高なんだけど……)


そう願う倫太郎であるが、バリオスは怒り狂って襲っては来ない。


直後、前触れもなくバリオスの体が燃え上がる。


(お!?お!?お!?)


突然の業火にあたふたする倫太郎。


そうしている間にみるみるとバリオスの腹部の傷は塞がっていく。


これはバリオスが持つスキル〈燃焼活性〉の力。


体内にある魔力を熱エネルギーに変換することでバフ効果を得るものであるが、バリオスは自然治癒力をバフすることでたちまち傷を癒したのである。


ほぼ完治に至り、鋭い眼光を眼前の着ぐるみに向けるバリオス。


姿こそ獣であるが、本能と感情に飲まれて我を失うような短絡さはバリオスには無い。


むしろ、こと戦闘においては自分の純然たる力によって慢心なく叩き潰すのが信条である。


そして。今の一連の攻防でバリオスは理解と受容をする。


目の前のふざけた生物は、敵として厄介極まりない存在であると。


(あれ?回復した……?なんで?)
《スキル〈燃焼活性〉の効果を確認。対象のステータス閲覧が可能です。閲覧しますか?》


アーカイブからのアシスト。しない理由がないので閲覧に「はい」をする倫太郎。


ステータスが頭の中で表示される。 


【バリオス/ランクSSS(Lv.99)】
種別 霊獣
支配主特権〈ムスペルヘイム〉
スキル〈炎熱魔法〉〈威圧〉〈獄炎纏〉〈燃焼活性〉〈魔力感知〉〈千里嗅覚〉


ステータスという基準がよく分からない倫太郎であるが、これはこの世界の者が見れば誰でも絶句するほどのものである。


泣く子も黙るどころか、鳴くドラゴンでさえ黙るSSSというランク値。


そんな相手に一撃入れただけでも武勇伝ものであるのだが、そのことがバリオスに文字通り火を点けた。


《〈獄炎纏〉》


瞬く間に青き炎に包まれるバリオス。


息をすれば喉も肺も焼き爛れるであろう灼熱の大気が空間を満たす。


その圧倒的なプレッシャーが倫太郎に嫌な予感をよぎらせる。


《ヘル・ボルカニック》


バリオスの熱量がぐんぐんと上がる。そして異変はやってくる。


バリオスを中心に、黒色の岩がまるで打つ前の刀のように紅く照り出す。


ボコボコと大きな気泡が出始めると、そこから黒砂糖が溶け出すかのように岩が液状化していく。


真っ赤に流動するそれは見間違うことなきマグマ。


バリオスから波状するそれは留まることなく範囲を広げていく。


「嘘だろ!?」


後ずさる倫太郎。それでもマグマの範囲はどんどんと広がっていく。


忘れてはいけないのが、倫太郎のいる黒凱は本来"溶岩地帯"であるということ。


普段は結晶化して黒色の岩石となっているが、ある条件でそれはマグマという本来の姿に戻る。


その条件とは、バリオスの熱と魔力を帯びること。


それだけで生物を根絶する死の領域へとコンバートする。


それが、バリオスら支配主のみが持つ支配主特権というフィールドスキルの力である。


フィールドスキルは文字通りある一定領域に効果を及ぼすスキルで、これはスキル保有者の性質や対象となる領域によって効果の発現は様々に変わる。


バリオスの支配者特権〈ムスペルヘイム〉はを溶岩化させる。


マグマなんてテレビのネイチャー系番組でしか見たことがない倫太郎にとっては、それが眼前から迫り来る光景はもちろん未知との遭遇である。


そうこうしている内に、みるみる溶岩の海と化す一帯。


倫太郎はくるりと体を反転させると、そこから全力で『逃げ』を発動した。


「こんなん反則だろぉぉぉ!!」


叫ぶ脱兎。それはもう決死である。


実のところ、〈ダメージ無効〉の前では溶岩程度じゃ倫太郎を仕留めることはできない。


しかし。倫太郎には一つの懸念があった。


それは、"これはどこまで溶岩になっているのか?"ということ。範囲ではなく深度に気がかる。


赤く滾るマグマでは当然底は見えない。浅いのか深いのか見当はつかない。


敵前でどうでもいいポイントに思えるが、倫太郎にとっては実は死活問題。


何を隠そう倫太郎は、根っからのカナヅチなのである。


水中では前に進むのはおろか浮上することも出来やしない。


体育教師もスイミングスクール講師も匙を投げたその沈みっぷりは、人知れず『錨(いかり)』とまで呼ばれるほどであった。


つまり。もしマグマがラビ太の体を沈めるほど深ければ倫太郎には為す術がないのが悲しい現実。


死ななくとも活動は完全に無効化させるのだから、今の倫太郎には逃げる他選択肢がないのである。


『〈ヘル・ボマ〉』


頭上から打ち込まれる火球。逃げる着ぐるみを容赦なくバリオスが狙う。


『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』


まさかの10連攻撃。轟轟と唸る火球が爆撃のように着弾していく。


『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉』
『〈ヘル・ボマ〉—――—―


「いや撃ち過ぎじゃない!?」


そんなシンプルなツッコミが出るほどに乱射される火球攻撃。


本来、これほどの高出力の魔法スキルであれば消費する魔力量も比例して然るべきである。


SSSランクともなればその魔力値は他と天と地ほどの差があるが、当然無尽蔵というわけではない。


が、バリオスはその手を緩めない。


一見、我を忘れてただ発狂しているように見えなくもないが実のところそうではない。


バリオスの〈ムスペルヘイム〉にはフィールド作用の他にもう一つの効果がある。それは熱エネルギーをスキル者の魔力へと変換するというもの。


熱エネルギー量が高ければ高いほど膨大に魔力へと変換されるのだが、ここで言う熱エネルギーとは当然マグマである。


マグマの基本温度は6000℃。溶岩化する前の黒凱の気温が70℃。単純計算で85倍。


この灼熱空間内においてバリオスは魔力が枯渇することはない。つまりは限定的無尽蔵なのである。


「のわーーー!!」


そんな攻撃を回避できるわけもなく射出される火球の半分以上を被弾する倫太郎。


それで死なないのだからある種この着ぐるみの方が化け物じみてはいるが、被弾する度に体が投げ出される形になる為、おのずと足止めを食らう。


マグマは徐々に速度を上げて迫り来る。


「なんかカウンターも効いてないっぽいし、打つ手なくね!?」


〈ミラージュ〉は火球が被弾する毎に発動している。しかし、〈ムスペルヘイム〉の効果により〈燃焼活性〉のスキルも底上げされている為に、ダメージ量よりも回復量の方が上回ってしまっている。


打つ手がない。


「やるっきゃないか!?」


自信なく自問自答する倫太郎。


ここで倫太郎は破れかぶれのスキルを使う道を選ぶのだった。
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