マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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霊峰珍道中

第8話 強行ミッション

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見渡す限りの黒い大地。そこを、ミスマッチ要素満載のピンクのウサギがトボトボと歩いている。

倫太郎が今いる場所はエルラの領域の一つである"黒凱"。

黒曜石のような岩石で形成さているここは溶岩地帯となっていて、あちらこちらでプスプスと黒煙を立ち込めさせている。

黒凱の只今の気温は70℃。地面は熱々の鉄板状態である。

言うまでもなく人が活動できる環境ではない。

さらに、黒曜石のような岩石はどれも刃物のように鋭利になっており、まともに歩けば足裏からスッパリと両断されるほど切れ味抜群である。

そんな、ある種の地獄のような場所になぜ倫太郎がいるのかと言うと、話は少し前に遡る。



ー少し前ー
「さて。出来る限り転送で飛ばしたがそう猶予もない。奴が舞い戻る前に策を練る」
「策?えっと、具体的に何をするつもりで?」
「罠を張る」
「罠?」
「万全ならまだしも、こっちのダメージが抜けていない状態で真っ向から挑むのは分が悪い。その劣勢を埋める為の罠じゃ」
「ふうむ。なるほど」
「お主。罠を卑怯などとは思っておらんか?」
「え?いや!全然!滅相も!」
「本来なら支配主同士で拮抗する間柄だが、今回は侵入者への措置を講じるためにほんの一瞬付け入る隙を与えたのだ。のせいでのぉ」
「(ブルッ)奇襲みたいなマネする敵が悪いね!もう100%悪いね!!だから罠とか全然OK!むしろ一番いい手段じゃないでしょうか!!!やったりましょうよ!!!」
「そうか。分かってくれるか」
「そりゃもちろん!!」
「ではしっかりと働いてもらおうかの。この策の鍵は有無もなく主じゃからな」
「へ……?」




そのまま転移で強制派遣をさせられたのが事の顛末である。

見知らぬ地プラス敵地。

もうそれだけで心細さはK点を超えているが、逃げる事も隠れる事も出来ない現状で倫太郎にはもう腹を括る以外の選択肢が無かった。

「ん?あれは……」

進行方向の少し離れた先に、何かが動くが見えた。

よーく見るとそれは魔物である。

姿はまるでアルマジロ、というよりまんまアルマジロ。しかし、色は鉄のようなねずみ色をしていて、象と遜色ないアルマジロとは言えないサイズ感である。

当然そのまま何も起こらないはずがない。

互いに目と目が合う。

黒凱に生息する巨大アルマジロことタイトマルロは、その身をくるりと丸めてキレイな球体となる。

そこからの高速回転。

唸りを上げて地面を抉り、その回転エネルギーをそのまま推進力に変換し、勢いよく倫太郎目掛けて突っ込んでくる。

そのスピードはまるでF1カー並み。

ラビ太ボディの機動力では、そのF1カーばりのスピードを出すタイトマルロの突進を避けられずあれよあれよの間に追突を許す。

「ぼふっ!?」

呻く倫太郎。当然受け止めきれる訳もなくそのまま突き飛ばされる。

しかし、目に見えて異変を来したのはタイトマルロの方。

倫太郎に追突したと同時にズドンッと鈍い音が鳴り響き、タイトマルロの硬質な体表が大きく陥没し崩落する。

よろめき混乱するタイトマルロ。

ダメージを負いつつも、再度丸まって臨戦態勢を取る。

魔物にも学習をするタイプは存在するが、タイトマルロは完全な野生型。本能のままに敵に向かう。

そして、二撃目を倫太郎に放ったところでタイトマルロは絶命した。

激しい追突のせいで頭がクラクラしている倫太郎であるが、体はしっかりと優良体をキープしている。

今タイトマルロを混乱の波に追いやったのは、倫太郎が新たにである。

黒凱に来る前に倫太郎はスキルの整理をさせられ……もとい、していた。

期待を込めて取得した〈転移〉が現状で使いものにならないという事で、〈転移〉と〈演算処理〉の二つをきっぱりとアンインストールし、戦いに備えて代わりとなるスキルを取得していた。

タイトマルロにダメージを負わせたのは〈カウンターミラージュ〉というスキル。

性懲りもなく受け身系のスキルである。

受けた分のダメージを倍加して攻撃に変える〈カウンターブレイク〉とは違い、このスキルは受けたダメージを同時に丸々相手にも与えるというもの。

俗に言う"痛み分け"という奴である。

つまり。威力が強ければ強いほど、手数が多ければ多いほど効果が高まる。

しかし。お気付きの通り、このスキルも基本は捨てである。

防御力や耐性値に開きがあれば条件が全く同じという訳でもなく、発動条件として必ず攻撃を受けないといけないので、下手をしなくても強者相手では無駄死に率が絶望的に高い。

他にも制約があるので使い勝手も悪い。

特にネックとして挙げられるのが、発動には相手を視認していないとダメというのがある。

つまり。奇襲や集団戦闘などには効果を発揮しにくい"タイマン型"なのである。

率先してこのスキルを取得しようとする者は、かなりイレギュラーの存在として扱わるのが現実なのである。

しかし。奇しくも、カウンター系のスキルは〈ダメージ無効〉との相性が引くほど良い為、自衛目的を優先していた倫太郎はこのスキルを迷わず選んだのだった。

速攻カウンターの〈ミラージュ〉。
一撃必殺の〈ブレイク〉。

世界でも類を見ないカウンター戦法がここに誕生した。

「これで何体目だよ……」

嫌気がダダ漏れる倫太郎。

それもそのはず。今の襲撃で返り討った魔物の数は二桁を越えていた。

数メートル進めば魔物に出会い、また数メートル進めば魔物と出会う。

まるで倫太郎に吸い寄せられるかのように、ひっきりなしに魔物とエンカウントする。

ただでさえ、世界に同じ姿が無いピンクの二足歩行ウサギが歩いていれば否が応でも目立つ。それが侵入者であれば襲われない理由が無い。

ある程度は予想と覚悟をしていた倫太郎であったが、その予想と覚悟が揺らぐほどの高エンカウント率に打ちのめされていた。

もちろん、必殺のカウンター戦法の甲斐あって危険という危険には陥っていない。

ただただ単純に、アウェーの夥しい洗礼にまたもや心細くなっているのであった。

『敵方の眷属相手に危なげなくか。上々かの』

姿のないミストラの声だけが倫太郎へ届く。

スキル〈念話〉である。

「危なげなくないよ?すげぇ怖いけど?」
『戦地で恐怖があることは尚いい事だ』
「あれ?どうしてだろう?噛み合わない」
『小手調べはここまでじゃ。本命に心血を注げよ』
「本命って言ったって、全然出会さないぞ?いや、出来れば出会したくないんだけどさ」

キョロキョロと辺りを見渡しながら、のそのそ敵地を歩く倫太郎。

慣れない魔物からの襲撃と一人ぼっちの寂しさが、倫太郎の気持ちと連動して足取りを重くする。

倫太郎が「自分は一体なにをしているのだろうか」と問答をし始めていたその時だった。

パキンッ!!

何かが割れるような音が倫太郎にもしっかりと聞こえた。

「ん!?」

感知系のスキルを持っていない倫太郎でも、空気が一変したのを直に感じる。

直後。倫太郎の前方の空間に裂け目が生じ、そこから赤銅色した獣の前足なるものが乱暴に飛び出す。

次第に裂け目は無理矢理広げられるように拡大していき、そこから這い出るように一匹の見覚えある獣が姿を現す。

「!!!」

空気が一変すると言うには生易しい、大気が張り詰める存在感。

黒凱の支配主・バリオスは、ドスの効いた低い唸り声を出しながら倫太郎の前に立ち塞がる。

「何も無い所から出て来たけど!?」
『〈次元転送ディメンション・ゲート〉で次元の狭間に追いやっていたが、奴の力を考えたらそろそろ這い出て来る頃合いじゃな』
「なんで目の前!?」
『そりゃわしの匂いがついてるんじゃろ』
「え?匂い?」
『わしの匂いがつくように何発もお主に手数食らわしたのだからな。狙い通りじゃ』
「なにそれ!?初耳!?」
『この為にお主をそこに送ってるんじゃからな』

倫太郎の視界が歪む。

作戦の大まかな内容は黒凱に送られる前にミストラから伝えられてはいたものの、いつ・どこで・どのタイミングというのは何も聞かされていなかった。

思いもしないタイミングで眼前に敵が現れるとは微塵も思っていなかった倫太郎は、情報と気持ちの整理で頭がグラつきそうになった。

しかし。視界が歪んだ理由は実はそれじゃない。

基本環境が灼熱の大地である黒凱であるが、その気温や地熱をも上回る高熱が辺りの視界を歪めせていた。

その高熱の元凶はもちろんバリオス。

すでに臨戦態勢である。

ミストラアイツの匂いを辿って出てきたら、まさか居るのはあの邪魔虫とはな〕
「いやー……参っちゃいますよねー」
〔丁度いい。この場で制裁してやろう〕
「参っちゃうなーーーー!!」





倫太郎が叫んでいたその頃。白麓では―――

邂逅は狙い通り。

あとは手筈通りいけるかどうか……じゃな。

仕込みもいくつかしたが、わしの力と倫太郎あ奴の力の掛け合わせがどこまでバリオスに通用するか……これはわしにも分からん。

吉と出るか、凶と出るか。

最悪、相打ちでも構わんな。

うむ。良い出目であることを願おう。
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