マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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魔法国珍道中

第14話 心傷者の追跡

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ガサガサと草木をかき分け進む事もうすでに20分ほど。


倫太郎は道もシスターと少女二人も完全に見失っていた。


救援隊の足止めを食らってしまった10分のロスもある為、30分も前に林の中へ消えていった人を当てもなく探すのは無理難題でしかなかった。


ちなみに救援隊は、倫太郎として誠に不本意ながら難なく返り討ちにしている。


「参ったなちくしょー……」


倫太郎はこれでもかと言わんばかりに気落ちしていた。


自分が魔物にしか見えないこと。不可抗力とはいえ護衛や救援隊の人たちを討ってしまったこと。そして、女性を傷つけてしまったこと。


どれもが倫太郎の意思ではどうしようも出来ないものばかりなのであるが、それでも罪悪感という重しは無遠慮に倫太郎の心にのしかかる。


「くそ。でも諦めたらそこで試合終了だ」


愛読書にしていた漫画のセリフで自分を奮い立たせる倫太郎。


単なる言い聞かせだとしても、この世界に未だ溶け込めず、むしろ世界そのものに疎外され続けているという現実を緩和するためには、少しでも自分を肯定する術が必要なのである。


孤立無援。その言葉しか当てはまらない中で言えば、まだ完全に心が折れていない倫太郎のメンタリティーは非常にタフネスと言えるかもしれない。


それでも。気を抜けば襲い掛かってくるネガティブシンキングから逃げるかのように、林の中をただひたすらシスターと少女を探索し続ける。


「はぁはぁ」


息も上がり始める。


「はぁはぁ……どこだー……はぁはぁ……どこにいるんだー……はぁはぁ」


念のため確認しておくが、倫太郎は傷を負わせた責任を感じて二人を追いかけている。見る人が見ればそう見えるかもしれないが、決して興奮したストーカーではない。


そもそもの話。二人を見つけれたところでどうするかは倫太郎の中で決まってはいない。


ラビ太という姿である以上、今回のように言葉も交わせず、意思の疎通も出来ずに敵意を向けられることはおそらく避けられない。


姿が違うというのはそれだけで大きな隔たりを生むのである。


『偏見は凶器』


そんな言葉が脳裏に浮かぶぐらい、ダメージ無効のスキルがあろうとも人から拒絶されれば心が傷付く。


この世界に来て初めて受けたダメージが心の傷になるとは、なんとも皮肉な話である。


《スキルを自動検知――――スキル〈メンタルヘルス〉〈カウンセリング〉〈瞑想〉の適性を確認。インストールしますか?〉
「……いや、しないよ?」


〈アーカイブ〉が反応するほどに傷心していた様子の倫太郎。まさかスキルに労わられるとは思わずに妙に気恥しくなる。


「どうせなら人を見つけるのに役立つスキルとかがほしいわ」
《スキルを自動検知――――スキル〈探索者シーカー〉〈追跡者ストーカーの適性を確認。インストールしますか?》


「いやあるんかい!てか、ストーカーとか人聞き悪いな!」


あくまで機能でしかないスキル検知に他意はないのだが、それでもツッコまずにはいられなかった倫太郎。


ストーカー疑惑を振り払うように、迷うことなくスキル〈探索者シーカー〉を選択する。


「では早速。スキルONっと」


探索者シーカー〉は手動発動のスキルなので流れのままに発動を試みる。


しかし。それは安易な選択であるとすぐに気付かされる。


「ん?…………!!!いいいいいいいいいいいいでええええええええええええ」


のたうち回る倫太郎。翻訳すると「痛い」と叫んでいる。


それもそのはず。文字通り探知系のスキルである〈探索者シーカー〉は生命エネルギーを発しているあらゆるものが探知の対象となる。


効果範囲はランクやレベルによって変動するが、本来は条件設定をしてピンポイントでスキルを使用するのが定番である。


その条件設定をしなかった場合、効果範囲内にあるすべての生命エネルギーを捕捉するということになるのだが、ランクがSSSとなってしまった倫太郎の効果範囲はおおよそ80000㎢。面積にして北海道くらいの広さまで効果が及ぶ。


その広域すぎる効果範囲で条件設定をしなければどうなるか。


尋常じゃない捕捉情報が一気に頭に流れ込んで来て、頭が割れるどころか粉砕する勢いの痛みが襲って来ているのが今の状況である。


反射的にスキルをOFFにはしたが、情報の暴力にやられてしばし四つん這いで回復を待つ倫太郎。


「酷い目にあった……」


何が起きたのか分からなかった倫太郎は、スキルの概要を確認してランクSSSその原因に驚く。


確かに敵を倒してレベルが上がる「獲得経験値」がステータスの世界では当たり前なのだが、この世界にはそれとは別に「貯蓄経験値」というものがある。


「貯蓄経験値」は、主に限界値を超えるダメージを受けてそれを耐え抜いた時のみ発生する受動ボーナスである。


しかし、この「貯蓄経験値」を知る者は限りなく少ない。


なぜなら、付与されている経験値が気付かないくらい微々たるものだからである。


「獲得経験値」を100とした場合、「貯蓄経験値」はせいぜい10以下。もちろん塵も積もれば山となるかもしれないが、限界値を超えるダメージとはイコール致命傷なのでそんな稼ぎ方が出来る者などこの世界にはいないのである。


倫太郎イレギュラーを除いて。


〈アーカイブ〉を使ってその事実を知った倫太郎は、捉え方によってはSMプレイのような経験値の稼ぎ方をしていたことに複雑な想いを募らせていた。


「……取り合えず、今はこっちが先だな」


気持ちを無理矢理に転換しつつ、再度〈探索者シーカー〉を発動する。


同じ轍を踏まぬよう範囲を「森林一帯」に、対象を「女性と子ども」という条件に設定した。


「おぉ~。ちゃんと使えば便利そうだな。ふむ。あっちか」


衛星からナビに情報が送られるように、二人がいる位置のビジョンが頭の中に逆三角形矢印で印されて浮かび上がる。


距離にしてはそこまで離れてはいない。倫太郎はそこへ向かい始める。


唯一の懸念はシスターの移動速度の方が倫太郎より圧倒的に早いという事であるが、幸い今は印に動きはなくその場所に留まっている様子。


草木をまたもかき分けながら少しずつ距離を縮めていく。


「あれ?」


示された位置までおおよそ50mの所まで来たところで倫太郎はふと違和感に気付く。


矢印の一つが突如として点滅し始めていたのだ。


詳細は不明だが嫌な予感しかしないその状況に、倫太郎は慎重さも忘れて出来る限り速度を上げて目的地に向かう。


「もうちょい――――――――――着いたっ!!」


体中が葉っぱやら枝まみれになりながら茂みを突き抜けると、そこには木にもたれかかりぐったりとするシスターとその体を懸命に揺する少女がいた。


「!?」


茂みから飛び出してきたピンクのウサギを見て体を跳ねて驚きを露にする少女に対し、シスターは青ざめた表情で呼吸を乱している。


見て明らかな衰弱。矢印の点滅はこれを意味していた。


「これは……ひょっとしなくてもひょっとして……」


シスターの衰弱の原因はミラージュで受けたダメージが明白であり、それを瞬時に悟った倫太郎に何十キロもの重しのような罪悪感がズシンッとのしかかる。


揺さぶられる平常心。現代ではここで119番通報をする状況であるが当然ここに救急など在りはしない。助けを呼ぶにも周りには誰もいない。


自分が取るべき行動に戸惑いを隠せない倫太郎であるが、ただ傍観する訳にはいかないと散らかる思考のまま二人に歩み寄ろうと一歩前へ出る。


「うえ!?」


身体を制止させる倫太郎。そこには、少女が倫太郎とシスターの間に立って体を目いっぱい広げている。


その小さな通せんぼはシスターを守ろうとする姿であった。


「えっと……」


想定出来ていた事とはいえ、少女にまで敵認定されてしまっている事に倫太郎はそこそこのメンタルダメージを受
けた。


でも倫太郎は気付く。


目いっぱい体を広げるその少女の体は小さく震えていることに。


目の前には見たこともない魔物(みたいな生き物)。後ろには自分を守ろうとして傷付き倒れる人がいる。怖さで泣き喚いたって仕方がないそんな状況で、一人の年端もいかない小さな女の子は怖さと戦いながら涙など見せずに、弱弱しくも健気に勇敢にそこに立っている。


『ダメ……です……ダメです……!』


清風のように耳を吹き抜けていくような綺麗な声で少女が訴えかける。


体を震わす少女にそこまでのことをさせてしまっている事に会心の追撃をメンタルに受ける倫太郎。


すでにそれだけで膝をつきそうになる。


しかし。悠長にそんなことをしている場合ではないと倫太郎は気持ちを立て直す。見ればシスターも一刻の猶予もないように息が絶え絶えになってきている。


この場にいる全ての者の為に、倫太郎はどうすべきかを考える。


「……よし」


そして。そこから導き出された一手は突拍子もないものであった。
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