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第4章 起源を知る龍と終焉を望む龍

第82話:ツバサ様女子力向上委員会

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「では、これより第1回ツバサ様のおっぱいとたわむれようの会──」

 始めさせていただきます、とクロコは一礼する。

 これにやんややんやと騒ぎ立てるのは、ミロとトモエの2人。既にツバサの部屋にあるベッドの上に陣取り、キャッキャッとはしゃいでいた。

 マリナも一緒だが彼女はさすがに苦笑いだ。

「おい……趣旨しゅしが変わってないか?」
 ツバサが青筋を浮かべていると、クロコは片手で口元を隠す。

「おっと失礼、本音が駄々漏れでございました」
「よーし、マリナ以外は出て行け」

 まだ宵の口、マリナも寝るような時間ではない。

 だというのに、女性陣は読書モードに入ったフミカを除いて全員がツバサの部屋に集まっていた。無論、集めたのはクロコである。

「俺に女子力を教え込むとかどうとかふざけたことを宣っていたくせに……いざ始めるとなったら、こいつらまで呼び込むとはどういう了見だ?」

 ツバサは努めて冷静に問い質す。

 正直、はらわたは煮えくり返っているのだが──。

「無論、皆様にも学んでほしいことだからでございます」
 クロコも表情を変えずに答えてくる。

「ツバサ様の地母神と讃えるに相応しい豊満なる女体……そのバインバインな乳房が日常生活にもたらす弊害へいがいやら恩恵。それを不肖クロコ、高二から自前のHカップな乳と共に過ごしてきた実体験を元に伝授させていただきます」

「……うん、そんなこと言ってたな」
 クロコの言葉なので聞き流したが内容に間違いはない。

「だからと言って、ミロたちを呼ぶ必要はないだろ?」

 ベッドの上、ミロ、トモエ、マリナが座り込んでいる。
 お菓子や飲み物を持参して観客ギャラリー気取りだ。

「いいえ、お嬢様たちにも知っておいていただきたいことです」
 クロコは「これからのために」と力説する。

「お嬢様方は毎日、あの美味しいミルク・・・・・・・を飲んでおられますれば、いずれは母上であるツバサ様のように立派なボディに成長なされるはず……そうなった時のため、謂わば事前レクチャーとお考えください」

「ああ、うん、まあ……なら、いい」

 ツバサは湯気が立つほど赤面した顔を右手で覆い隠した。
 受け答えも満足にできないほど恥ずかしい。

 ハトホルミルクは──まだミロとトモエにしかバレていない。

『直飲みでも直搾りでも好きにしていいから……内緒にしてくれ!』
 ツバサたってのお願いで秘密は守られている。

 おかげでミロやトモエと2人っきり(もしくは3人きり)の時は、必要以上に母親を意識させられたり、母性本能が天元突破するようなことをさせられる羽目になったのだが、それについては触れずにおきたい。

 つまびらかにすると、ツバサの男心が崩壊しかねない。

 まるで母性本能が猛毒のように男の自我を蝕んでいくのだ。

 なので女子力向上とやらも、正直あまり好意的には受け取れなかった。

「女子力向上とか言ってた気もするから、俺はてっきり化粧の仕方でも教えられるのかと思ってたんだが……」

「お化粧についても考えなくはありませんでした」

 ですが──クロコはどこからともなく鏡を取り出した。

 それをツバサに突きつけてくる。

 手鏡にしては大きい鏡面きょうめんに映るのは、鏡像きょうぞうならぬ女神の胸像きょうぞうだ。

「御覧の通り、ツバサ様を初めとして神族化した我々は現実よりも遙かに美化されており、お化粧をせずともパーフェクトな美貌を誇っております。この美しさの前には化粧など児戯じぎ……いえ、無駄な上塗りに過ぎません」

 言われてみれば──現実の自分よりも綺麗になっている。

 鏡に映るのは、母親譲りの女性的な容貌だ。

 若い頃の母さんに瓜二つ、もしくは美羽いもうとが生きていればこんな美女になったかも知れない……その上、神となって磨きがかかった女神の美貌。

 美しい黒髪、細い首──鏡に収まりきらない大きな胸。

 コンプレックスだった女顔が殊更ことさらに女性化され、地母神化を経て母親らしさまで備えつつある。もはや男らしさの欠片かけらもない。

 鏡を見つめていたツバサは──泣き出してしまった。

 表情を崩さぬまま、ボロボロと大粒の涙をこぼす。

「ツ、ツバサ様!? どうされました、私なにか粗相でも……ッ!?」
 予想外の反応にクロコも困惑する。

「いや、なんか無性に情けなくなってつい……」

 もう男には戻れないのかなぁ……と、鏡に映る女神を見つめて感傷的になってしまった。思えば、こんなに鏡を凝視したのも初めてだ。

 女になった自分を無意識に避けていたらしい。

「あー、クロコさんいけないんだー。ツバサさん泣かしたー」
「いーけないんだ、いけないんだ、お母さんに言ってやろー」
 
「……そのお母さんが泣かされてるんですけど」
 ミロとトモエが冷やかす横で、マリナが反応に困っている。

「ひっく、ぐす……だ、誰がお母さんだ」
 泣きながらでも定番の台詞を忘れないツバサだった。

「ツバサ様、誠に申し訳ありません。気遣いが不足しておりました……」
 まさか泣かれるとは思わなかったのだろう。

 クロコはいつもの慇懃無礼いんぎんぶれいなスタイルをかなぐり捨てて、ペコペコと何度も頭を下げてくる。意外と相手のことを考えているらしい。

 平常運転の悪ふざけは、相手の「この辺りまでならツッコミで許されるだろう」というラインを推し量っているようだ。

 そもそも真面目にやれよ、というツッコミが前提だが──。

 ツバサが泣き止むまでの間、暇も持て余す娘トリオ。

 すると、トモエがベッドから降りて床に寝そべったかと思えば、頭からベッドの下に突っ込んでゴソゴソと何かを探そうとしていた。

「トモちゃん、何してるの?」

「んー? エロ本探してる」

 トモエ知ってる、と得意げに語る筋肉娘。

「男の人、ベッドの下にエロ本隠してる。ツバサお兄さんもまだ男だと言い張ってるから、きっとこの辺におっぱい丸見えの本が……」

「ないない、それはないよトモちゃん」
 見当違いも甚だしい、とミロは手をパタパタはためかせる。

「ツバサさんにエロ本なんて必要ないってば。ムラムラしたら自分の身体を鏡に映すなり、自分で自分をまさぐるなりすればいいんだしさ。そうでなくとも毎晩のように伴侶であるアタシがくんずほぐれつ慰めて…………」

 発情した顔で自分の肩を抱いて腰をクネクネさせてアピールするミロの横、呆れるマリナもそっちのけでトモエはベッドの下を漁った。

「あった! いっぱいあるぞ、ミロ!」

「…………なん……だと……?」
 ミロが見たこともない男前な表情で愕然としていた。

 トモエの報告に驚いたのはミロだけではない。

 それを隠していた当人であるツバサも、泣くのをやめて血相を変えた。

 急いで振り向いても時既に遅し。

 トモエは次から次へとエロ本を引っ張り出しては、ベッドの上に放り投げる。
 積み上げられる本の山に娘たちは騒然となった。

「ほら、あった! やっぱりツバサお兄さんはお母さんでも男の子だな!」
「トモエやめて! 見せびらかすのやめて!?」

 発見者のトモエは得意げに、エロ本を両手に持って見せてくる。

 男と認められたのは嬉しいのに……この敗北感は何?

「あの……センセイも男の人だから、仕方ないと思います。その、ウチのお父さんも、ワタシに内緒でこういうの集めてましたし……」

「マリナやめて! そんな包容力のある瞳でお母さんおれを見ないで!?」

 妙に耳年増で理解力があるのがつらい。

 マリナはエロ本の表紙を直視せず、チラチラと盗み見しながら「大丈夫、ワタシはわかってますから」みたいな微妙な笑みを浮かべていた。

 そして、ミロは──笑顔のまま怒っていた。

「そっかぁ……ツバサさん、アタシがこんなに愛してあげてんのに、全然満足してなかったんだねぇ……よーくわかった、明日からエロ本でやってるシチュエーション、ひとつ残らず再現してあげるからね~♪」

 勿論――体験するシチュエーションは女の子側のものだ。

「ひぃぃぃっ!? ま、待ってミロ! そ、それだけは勘弁して!」

 これ以上、ミロに女として愛されたら──壊れる。

 ツバサの男性的な精神が完膚無きまでに磨り潰されかねない。

 ツバサがミロに縋りついて許しを請うている間、クロコはエロ本を順序よく手に取っては顔色ひとつ変えずに流し読みしていた。

「ふむ、画集、同人誌、漫画、エロラノベ、例外なく胸が大きい……あまり特殊な性癖はなく、むしろオーソドックスな恋愛物や和姦……強いて言えばおっぱいへの執着ぐらいなもの……さすがツバサ様、エロスにおいても健全ですね」

 さすツバ、とクロコはグッドサインを送る。

「そこの駄メイドッ! 冷静に人の性癖を分析してんじゃない!」

 クロコは怒鳴るツバサに聞き返す。

「何故ベッドの下という古典的な隠し場所に、このようなものを? ミロ様ではございませんが、ツバサ様には不要でしょうに」

「そ、そりゃまあ……そうなんだけど……」

 先ほどのミロの言葉が、まさに正鵠せいこくを射ているのだ。

 いやらしい気分になれば自分の女体で間に合う。それこそ毎晩のようにミロに気絶するまで快感地獄に堕とされている。

 エロ本に頼るほど、性的な意味では不自由していないのだ。

 ツバサは蒸気機関みたいに湯気を頭から出して、絵の具を塗りたくったように真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。

「そ、それは…………男の子らしい……ことが、したいと思って……」

 ああぁ……感慨深いため息が全員から漏れる。
 この一言で女性陣は納得してくれた。

「では、これはツバサ様の(男性としての)精神安定剤ということで」
「そだね、武士の情けで見逃してあげようか」

 得心したクロコとミロは、エロ本をベッドの下に戻していく。

「いいよもう戻さなくて! バレた時点で台無しだよ!」

 お母さんに勝手に部屋を掃除された挙げ句、エロ本だけまとめて机の上に置かれた気分だ。それも置き手紙を添えて恥ずかしさ2倍のやつ。

「では……ダイン様にでもお貸しいたしましょうか?」
 クロコが名案のように呟いた、その時だ。

 ツバサの部屋の扉が蹴破られ──フミカが入ってきた。

 踊り子めいた神族としてのコスチュームではなく、文学少女らしい普段着姿だというのに桁違いの迫力だ。まったく感情を排した顔にも凄味がある。

 いつにない気迫を発するフミカ。口を真一文字に結んだままジロリと室内の面子を押し黙らせるように睨み、ゆっくり室内を横断する。

 娘たちやクロコはおろか、ツバサさえもたじろぐ威圧感があった。

 フミカは、無言でツバサのエロ本をチェックしていく。

 速読そくどくを使うまでもないものばかりだが、凄まじい速さでページを捲っていくと、20冊以上はあるそれらを2つの束に振り分けていった。

「──これはダイちゃんに貸してもOKッス」

 それだけ言い残すと「お邪魔したッス」と片手で挨拶をして、何事もなかったかのように部屋から出て行く。蹴破った扉も元通りにしてだ。

 しばらくの間、誰も動けないし声も出せない。

 ツバサが恐る恐る、クロコの選別した本を調べてみる。

『眼鏡っ娘純情──真面目な制服の下にたわわボディ』
『文学系少女の痴態──わたし、本当はこんなにいやらしいんです』
『今、褐色肌のナイスバディ美少女が要チェック!』

 わかりやすいなー、と遠い目でフミカの消えた扉を見送った。

「……これ、後でダイン様のお部屋に仕込んでおきましょう」
「……ああ、頼む。フミカの背中を押してやってくれ」

 ツバサとクロコはコソコソと示し合わせた。

   ~~~~~~~~~~~~

「では、そろそろ真面目にレクチャーを始めましょうか」

 クロコはツバサを立たせると、ベッドのミロたちに向けて一礼し、次にツバサに向かって深々と頭を下げた。一応、礼儀は弁えているのだ。

「……で、女性の身体のレクチャーって何をするんだよ」

 ミロはともかく、マリナやトモエもいる。
 いかがわしさを臭わせたら、すぐにでも解散させるつもりだ。

「まずは他でもありません──美しい姿勢です」

「姿勢? そんなもの指摘されるまでもないが……」

 ツバサは現実リアルでインチキ仙人(師匠)に武術を叩き込まれてきた。

 武術において体幹たいかん──即ち、姿勢は重視すべきものだ。

 特に力の流れを操る合気や爆発的な攻撃力を得る発勁はっけいでは、決しておろそかにできるものではない。これらの技術は姿勢が悪いと意味を成さなくなる。

「あれか、胸が重いから前屈みになって姿勢が悪くなるとかか? 俺に限ってそういうことはないし、ちゃんと気をつけているが……」

「それもあるかも知れません」

 クロコは同意を示しながら、ツバサの背中に手を添えると姿見の前へ立つように促した。ツバサは横を向いたまま鏡の前に立たされる。

「では、お嬢様方──ツバサ様のお胸に注目してください」

 言われたミロたちはマジマジとツバサの胸を見つめる。

 6つの瞳が一気に集中した途端、ツバサは「おっぱいを見られている」と意識してしまい、また頬が赤く染まりそうになる。

 女の子からの視線とはいえ、膨らんだ胸に注目を浴びることが恥ずかしい。ついでに言えば娘のように可愛がっているミロたちの視線で、身体が母親だと意識してしまい、乳房が張るような感覚にさいなまれるのだ。

 などと羞恥しゅうちに戸惑っていると──。

「はい、ツバサ様。無意識のうちに猫背になっておりますよ」
「えっ! なっ……ッ!?」

 姿見に映るツバサは──ほんの少し前に傾いでいた。

 そんなバカな、と動揺するツバサの背後にいるクロコ。
 姿見鏡に映るその顔は、かつてないくらいドヤ顔で勝ち誇っていた。

「大きな乳房とは──それだけで否応にも存在感を発揮します」

 ツバサの姿勢を直しながらクロコは粛々しゅくしゅくと語る。

「男性女性問わず衆目の視線にさらされる乳房は、どれだけ所有者が無神経を装おうとも意識せざるを得ないのです。そして、人間は多くの視線にさらされるのを好みません……結果、無意識に隠してしまいたくなるのです」

 だから、自然と猫背になってしまうのか──。

「これは……さすがに、俺も気付かなかったな……」

「無理もありません」
 クロコは同情を表すかのように首を左右に振った。

「こればっかりは生まれ付いての女性……それもブクブクと風船のように膨れ上がる乳房に思い悩んだ思春期を送った巨乳女子にしかわからないものです」

 クロコは訥々とつとつと語る。

「私のように『おっぱいに貴賤きせんなし! そこにあるだけでエロい!』と割り切れる少女だったならともかく……内気なのにムクムクとおっぱいばかり成長してしまった子たちは、それはもう大変でした……大きくなる胸を恥ずかしがり、わざと小さいブラで押し潰したり、必要以上に猫背になって背骨を痛めたり、重すぎてブラ紐が肩に食い込んであざになってしまったりと……」

「巨乳ってやっぱり大変なんだなぁ……」

 男の頃はおっぱい星人として、目の保養をしていたツバサには耳の痛い話だが、今ではそれ以上の苦しみを味わっているので許してもらいたい。

「ツバサ様は女性としてはまだ4ヵ月の新米ですからね」

 巨乳にしかわからない苦労も若葉マークだ。

 クロコの手によって猫背を矯正され、背筋を正される。

 猫背になった姿勢がどのようなものかを教え込まれ、そうならないためにも正しい姿勢はこうだと胸を持ち上げられた。

「ん? ツバサ様、これは……失礼いたします」

 ツバサの胸を後ろから持ち上げていたクロコは何に気付いたのか、断るよりも早くこちらの上着を剥ぎ取ろうとした。勿論、抵抗する。

「おい、ちょっと待て! なんで脱がす? こら、やめ……ッ!?」
「問題ありません、この場には女性しかおりません」

「おまえの視線はエロ親父にカウントするレベルだっての!」

 抗議も空しく、ツバサは上着を剥がれてしまう。

 ブラだけにされたツバサは、いくら女性しかいなかろうと恥ずかしさから両手で胸を隠そうとする。しかし、クロコはその手さえも除ける。

 ブラジャーに包まれた乳房を観察すると──。

「やはり……ツバサ様、ブラのサイズが合ってませんね」
「ッッッ!?」

 こちらの世界に飛ばされてからというもの、特にハトホルミルクを得られるようになってからはブラジャーがきつくなった気はしていた。

 ここ最近、それが顕著けんちょに思える。

 なにせ──ブラのカップから乳房の肉があふれるのだ。

 ツバサは慌てて否定する。

「こ、これで合ってるって! 今でもJカップなんて日本人離れしたふざけたデカさなんだぞ!? また大きくなってるはずが……あ、こらっ!?」

 必死の弁解も聞き入れず、クロコはテキパキと動き出す。

 ツバサのブラを無理やり外してフリーの状態にすると、こちらが嫌がるのも無視してメジャーを取り出し、アンダー、トップ、胸囲を計測していく。

「Jカップでありません──これはLカップ・・・・です」

 JとLの間にあるKをひとつ飛ばしていた。

「えっ…………えるぅぅぅーッ!?」

 裏返った悲鳴を上げるなど何年ぶりか、ツバサは自分の声に驚いた。
 女性の声になっているから違和感も激しい。

「ツバサ様、現実逃避してはいけません。自分の胸に直視してください」
「……も、もう無理……直視できない、したくない……」

 ツバサはガチ泣きするとミロたちがいても構わずベッドのシーツを剥ぎ取り、それを引っ被って閉じこもってしまった。

 かつてハルカに衣装を作ってもらった際、「Jカップですね」と言われた時以上の衝撃に、男心が粉々に打ち砕かれてしまった。

 女子力向上──まさかバストまで向上しているとは。

   ~~~~~~~~~~~~

 その後、クロコによる「胸の大きな女性はこんな苦労や恥ずかしいことがあるので注意しましょう」的なレクチャーは続いた。

 本人がHカップの持ち主なので説得力も大きい。
 なので、ツバサもいつものように逆らいにくいところがあった。

 まるで女の子だらけのパジャマパーティーみたいな騒ぎに、今でも気持ちだけは男のツバサは、付き合いきれなくて疲れてくる。

 途中、少しでもダインを話題にすると乱入してきたフミカは、そのままミロたちに加わり、読書しながらクロコのレクチャーに耳を傾けて「あー、それすっごくわかるッス」と、共感してはウンウン頷いていた。

 そして、ツバサは「女の子って大変だな」と痛感させられる。

 夜も更けたので、そろそろお開きにしよう。

 ツバサが(恥ずかしさも手伝って)そう提言すると、クロコも同意してくれたのだが、その矢先になって突然、彼女は「ハッ!」と表情を変えた。

 やおら立ち上がってあらぬ方向を振り返る。

 ここから東南の方角、それも遠くを意識しているように見えた。

「どうしたんだ、クロコ……?」

 心配すると、クロコは落ち着いた声で答える。

「いえ、大したことではないのですが……以前、幽冥街からツバサ様たちに助けを求めるため、メイド人形を派遣したことを覚えておいでですよね?」

 ──それは記憶に新しい。

 海で遊んでいたら、いきなり半壊のメイド人形が現れたのだ。

 あの時、クロコが派遣したのは操り人形マリオネットは3体。

 内1体はツバサたちの許へ辿り着き、もう1体は後に猫族の村近くで倒れていたのを発見して回収。最後の1体は行方不明になっていた。



「その1体の反応が今……微弱ながらも一瞬、ありました」



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