5 / 15
第5話 Guest: 転校生(追加キャスト)
しおりを挟む
ここ最近、視聴率(=祖父の満足度)が低迷しているらしい。
原因は明白。「マンネリ化」だ。
私の悪役ムーブと、それをものともしない湊の善行パターンが定着しすぎて、刺激が足りないとのこと。
クソジジイ、贅沢言うなよ。毎日アドリブに対応してるこっちの身にもなれ。
そこで起爆剤として投入されたのが、新キャラだ。
「えー、今日からこのクラスに仲間入りする、転校生の白鳥(しらとり)アリスさんです」
担任(のエキストラ)が紹介する。
「白鳥アリスです! 特技はダンスと、人を笑顔にすることですっ☆ みんな、仲良くしてね!」
教壇に立つ、ツインテールの美少女。
完璧な角度の首傾げ。キラキラした瞳(カラコン入り)。
スカート丈は校則ギリギリ。ピンクのカーディガンがあざとい。
クラスの男子(エキストラ含む)が鼻の下を伸ばしている。あちこちから「かわええ……」という吐息が漏れる。
……あいつ、私の事務所の後輩の「ミナミ」だ。
普段はジャージ姿でスルメを齧りながら、「あー、パチンコ勝ちてえ」とか言ってる地味な子だが、役に入るとこの通り。
憑依型の天才だ。
今回の役どころは「湊に一目惚れして猛アタックし、私(麗華)をライバル視するポジティブ女子」。
要するに、私への当て馬であり、三角関係を煽るスパイスだ。
休み時間。
アリス(ミナミ)は早速、湊の席に特攻を仕掛ける。
「ねえねえ篠崎くん! 私に校内案内してくれない?」
ボディタッチ多め。
上腕二頭筋あたりをさりげなく触る高等テクニック。
湊がタジタジになっている。
「え、あ、うん。いいけど……」
ウブな反応だ。男子高校生ならイチコロだろう。
そして、アリスは私の席にやってくる。
カメラ位置を意識した、完璧な立ち位置。
「あら、あなたが噂の姫宮さん? なんかー、お高い感じ?」
バチバチ火花を散らす演出。
私の前に立ち塞がり、見下ろすような視線。
「……品のない方が増えましたこと」
私は扇子(小道具)で口元を隠して応戦する。
「ここは神聖な学び舎ですのよ。色香を振りまく場所ではありませんわ」
「えー? 堅苦しーい! だからモテないんですよーだ!」
アリスがあっかんべーをする。
教室の空気が凍りつく(という演技をみんながする)。
放課後。
私はトイレの個室で休憩していた。
ふう、と息をつく。
アリスのテンションに合わせるのは疲れる。
洗面所から、ジャージャーと水を流す音と、話し声が聞こえた。
「あー、疲れた。表情筋死ぬわマジで」
ミナミの低い地声だ。
「お疲れミナミ。さっきの煽り、キレがあってよかったよ」
私は個室から出て、鏡の前で手を洗っているミナミに声をかける。
「あ、花子先輩! お疲れ様っす!」
ミナミが濡れた手を制服(衣装)で拭きながら、ペコペコと頭を下げる。
さっきのキラキラオーラは皆無だ。
目つきが死んだ魚に戻っている。
「どう? 篠崎くんは」
ハンカチを貸してやりながら聞く。
「いやー、チョロいっすね。上目遣い一発で顔真っ赤になっちゃって。……なんか、罪悪感ハンパないっす」
ミナミが苦笑する。
「あんな純粋な反応、久しぶりに見ましたよ。業界人って目が汚れてるじゃないですか」
「だよねー。心痛むよね」
「先輩、よく半年もこんな仕事耐えてますね。尊敬しますわ」
ミナミが鏡を覗き込み、前髪を直す。
「でも先輩、大丈夫すか?」
「何が?」
「なんか湊くん、さっき私が腕組んだ時も、チラチラ先輩の方見てましたよ」
「……は?」
「私がアプローチかければかけるほど、先輩のこと気にしてるっていうか……。『姫宮、怒ってないかな』みたいな顔してました」
ミナミがニヤリと笑う。意地悪な笑みだ。
「あれ、脈アリなんじゃないすか? 嫉妬させ作戦、バリバリ効いてますよ」
「バカ言え」
私は即座に否定した。
「あの目は『また姫宮がアリスをいじめるんじゃないか』っていう警戒心だ。監視されてるんだよ」
「えー? そうかなー。女の勘だと、もっと別の感情に見え……」
カツカツカツ。
廊下から足音が聞こえる。
私たちは瞬時に「スイッチ」を入れる。
姿勢を正し、表情を作る。
ドアが開き、女子生徒(エキストラ)が入ってくる。
「ふん、所詮は成金の娘ね。育ちが知れますわ」
私は鏡に向かって髪を整えながら、冷たく言い放つ。
「なんですって!? 先輩こそ、性格ブスはモテませんよーだ! 湊くんは私のものなんだから!」
アリス(ミナミ)が舌を出し、プイと顔を背ける。
エキストラの子がビビって、用も足さずに逃げていくのを確認して、私たちは同時に息を吐いた。
「……ふぅ。今の切り替え、大丈夫でした?」
「うん、完璧。……午後もその調子で頼むよ」
「了解っす! 湊くん、グワングワンに振り回してやりますよ!」
ミナミがガッツポーズをして出て行く。
その後ろ姿を見送りながら、私は鏡の中の自分を見た。
少し顔色が悪い。
脈アリ?
まさか。
これは全部、緻密に計算されたシナリオだ。
湊の反応も、私の行動も、全部台本通り。
そこに「本物」なんて混じるはずがない。
……そう、言い聞かせないと、あいつの視線に耐えられそうになかった。
(つづく)
原因は明白。「マンネリ化」だ。
私の悪役ムーブと、それをものともしない湊の善行パターンが定着しすぎて、刺激が足りないとのこと。
クソジジイ、贅沢言うなよ。毎日アドリブに対応してるこっちの身にもなれ。
そこで起爆剤として投入されたのが、新キャラだ。
「えー、今日からこのクラスに仲間入りする、転校生の白鳥(しらとり)アリスさんです」
担任(のエキストラ)が紹介する。
「白鳥アリスです! 特技はダンスと、人を笑顔にすることですっ☆ みんな、仲良くしてね!」
教壇に立つ、ツインテールの美少女。
完璧な角度の首傾げ。キラキラした瞳(カラコン入り)。
スカート丈は校則ギリギリ。ピンクのカーディガンがあざとい。
クラスの男子(エキストラ含む)が鼻の下を伸ばしている。あちこちから「かわええ……」という吐息が漏れる。
……あいつ、私の事務所の後輩の「ミナミ」だ。
普段はジャージ姿でスルメを齧りながら、「あー、パチンコ勝ちてえ」とか言ってる地味な子だが、役に入るとこの通り。
憑依型の天才だ。
今回の役どころは「湊に一目惚れして猛アタックし、私(麗華)をライバル視するポジティブ女子」。
要するに、私への当て馬であり、三角関係を煽るスパイスだ。
休み時間。
アリス(ミナミ)は早速、湊の席に特攻を仕掛ける。
「ねえねえ篠崎くん! 私に校内案内してくれない?」
ボディタッチ多め。
上腕二頭筋あたりをさりげなく触る高等テクニック。
湊がタジタジになっている。
「え、あ、うん。いいけど……」
ウブな反応だ。男子高校生ならイチコロだろう。
そして、アリスは私の席にやってくる。
カメラ位置を意識した、完璧な立ち位置。
「あら、あなたが噂の姫宮さん? なんかー、お高い感じ?」
バチバチ火花を散らす演出。
私の前に立ち塞がり、見下ろすような視線。
「……品のない方が増えましたこと」
私は扇子(小道具)で口元を隠して応戦する。
「ここは神聖な学び舎ですのよ。色香を振りまく場所ではありませんわ」
「えー? 堅苦しーい! だからモテないんですよーだ!」
アリスがあっかんべーをする。
教室の空気が凍りつく(という演技をみんながする)。
放課後。
私はトイレの個室で休憩していた。
ふう、と息をつく。
アリスのテンションに合わせるのは疲れる。
洗面所から、ジャージャーと水を流す音と、話し声が聞こえた。
「あー、疲れた。表情筋死ぬわマジで」
ミナミの低い地声だ。
「お疲れミナミ。さっきの煽り、キレがあってよかったよ」
私は個室から出て、鏡の前で手を洗っているミナミに声をかける。
「あ、花子先輩! お疲れ様っす!」
ミナミが濡れた手を制服(衣装)で拭きながら、ペコペコと頭を下げる。
さっきのキラキラオーラは皆無だ。
目つきが死んだ魚に戻っている。
「どう? 篠崎くんは」
ハンカチを貸してやりながら聞く。
「いやー、チョロいっすね。上目遣い一発で顔真っ赤になっちゃって。……なんか、罪悪感ハンパないっす」
ミナミが苦笑する。
「あんな純粋な反応、久しぶりに見ましたよ。業界人って目が汚れてるじゃないですか」
「だよねー。心痛むよね」
「先輩、よく半年もこんな仕事耐えてますね。尊敬しますわ」
ミナミが鏡を覗き込み、前髪を直す。
「でも先輩、大丈夫すか?」
「何が?」
「なんか湊くん、さっき私が腕組んだ時も、チラチラ先輩の方見てましたよ」
「……は?」
「私がアプローチかければかけるほど、先輩のこと気にしてるっていうか……。『姫宮、怒ってないかな』みたいな顔してました」
ミナミがニヤリと笑う。意地悪な笑みだ。
「あれ、脈アリなんじゃないすか? 嫉妬させ作戦、バリバリ効いてますよ」
「バカ言え」
私は即座に否定した。
「あの目は『また姫宮がアリスをいじめるんじゃないか』っていう警戒心だ。監視されてるんだよ」
「えー? そうかなー。女の勘だと、もっと別の感情に見え……」
カツカツカツ。
廊下から足音が聞こえる。
私たちは瞬時に「スイッチ」を入れる。
姿勢を正し、表情を作る。
ドアが開き、女子生徒(エキストラ)が入ってくる。
「ふん、所詮は成金の娘ね。育ちが知れますわ」
私は鏡に向かって髪を整えながら、冷たく言い放つ。
「なんですって!? 先輩こそ、性格ブスはモテませんよーだ! 湊くんは私のものなんだから!」
アリス(ミナミ)が舌を出し、プイと顔を背ける。
エキストラの子がビビって、用も足さずに逃げていくのを確認して、私たちは同時に息を吐いた。
「……ふぅ。今の切り替え、大丈夫でした?」
「うん、完璧。……午後もその調子で頼むよ」
「了解っす! 湊くん、グワングワンに振り回してやりますよ!」
ミナミがガッツポーズをして出て行く。
その後ろ姿を見送りながら、私は鏡の中の自分を見た。
少し顔色が悪い。
脈アリ?
まさか。
これは全部、緻密に計算されたシナリオだ。
湊の反応も、私の行動も、全部台本通り。
そこに「本物」なんて混じるはずがない。
……そう、言い聞かせないと、あいつの視線に耐えられそうになかった。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる