卒業式で「悪役令嬢の役目は終了です」と告げたら

月下花音

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第5話 Guest: 転校生(追加キャスト)

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 ここ最近、視聴率(=祖父の満足度)が低迷しているらしい。
 原因は明白。「マンネリ化」だ。
 私の悪役ムーブと、それをものともしない湊の善行パターンが定着しすぎて、刺激が足りないとのこと。
 クソジジイ、贅沢言うなよ。毎日アドリブに対応してるこっちの身にもなれ。

 そこで起爆剤として投入されたのが、新キャラだ。

「えー、今日からこのクラスに仲間入りする、転校生の白鳥(しらとり)アリスさんです」
 担任(のエキストラ)が紹介する。

「白鳥アリスです! 特技はダンスと、人を笑顔にすることですっ☆ みんな、仲良くしてね!」

 教壇に立つ、ツインテールの美少女。
 完璧な角度の首傾げ。キラキラした瞳(カラコン入り)。
 スカート丈は校則ギリギリ。ピンクのカーディガンがあざとい。
 クラスの男子(エキストラ含む)が鼻の下を伸ばしている。あちこちから「かわええ……」という吐息が漏れる。

 ……あいつ、私の事務所の後輩の「ミナミ」だ。
 普段はジャージ姿でスルメを齧りながら、「あー、パチンコ勝ちてえ」とか言ってる地味な子だが、役に入るとこの通り。
 憑依型の天才だ。
 今回の役どころは「湊に一目惚れして猛アタックし、私(麗華)をライバル視するポジティブ女子」。
 要するに、私への当て馬であり、三角関係を煽るスパイスだ。

 休み時間。
 アリス(ミナミ)は早速、湊の席に特攻を仕掛ける。
「ねえねえ篠崎くん! 私に校内案内してくれない?」
 ボディタッチ多め。
 上腕二頭筋あたりをさりげなく触る高等テクニック。
 湊がタジタジになっている。
「え、あ、うん。いいけど……」
 ウブな反応だ。男子高校生ならイチコロだろう。

 そして、アリスは私の席にやってくる。
 カメラ位置を意識した、完璧な立ち位置。
「あら、あなたが噂の姫宮さん? なんかー、お高い感じ?」
 バチバチ火花を散らす演出。
 私の前に立ち塞がり、見下ろすような視線。

「……品のない方が増えましたこと」
 私は扇子(小道具)で口元を隠して応戦する。
「ここは神聖な学び舎ですのよ。色香を振りまく場所ではありませんわ」
「えー? 堅苦しーい! だからモテないんですよーだ!」
 アリスがあっかんべーをする。
 教室の空気が凍りつく(という演技をみんながする)。

 放課後。
 私はトイレの個室で休憩していた。
 ふう、と息をつく。
 アリスのテンションに合わせるのは疲れる。
 洗面所から、ジャージャーと水を流す音と、話し声が聞こえた。

「あー、疲れた。表情筋死ぬわマジで」
 ミナミの低い地声だ。
「お疲れミナミ。さっきの煽り、キレがあってよかったよ」
 私は個室から出て、鏡の前で手を洗っているミナミに声をかける。

「あ、花子先輩! お疲れ様っす!」
 ミナミが濡れた手を制服(衣装)で拭きながら、ペコペコと頭を下げる。
 さっきのキラキラオーラは皆無だ。
 目つきが死んだ魚に戻っている。

「どう? 篠崎くんは」
 ハンカチを貸してやりながら聞く。
「いやー、チョロいっすね。上目遣い一発で顔真っ赤になっちゃって。……なんか、罪悪感ハンパないっす」
 ミナミが苦笑する。
「あんな純粋な反応、久しぶりに見ましたよ。業界人って目が汚れてるじゃないですか」
「だよねー。心痛むよね」
「先輩、よく半年もこんな仕事耐えてますね。尊敬しますわ」

 ミナミが鏡を覗き込み、前髪を直す。
「でも先輩、大丈夫すか?」
「何が?」
「なんか湊くん、さっき私が腕組んだ時も、チラチラ先輩の方見てましたよ」
「……は?」
「私がアプローチかければかけるほど、先輩のこと気にしてるっていうか……。『姫宮、怒ってないかな』みたいな顔してました」

 ミナミがニヤリと笑う。意地悪な笑みだ。
「あれ、脈アリなんじゃないすか? 嫉妬させ作戦、バリバリ効いてますよ」

「バカ言え」
 私は即座に否定した。
「あの目は『また姫宮がアリスをいじめるんじゃないか』っていう警戒心だ。監視されてるんだよ」
「えー? そうかなー。女の勘だと、もっと別の感情に見え……」

 カツカツカツ。
 廊下から足音が聞こえる。
 私たちは瞬時に「スイッチ」を入れる。
 姿勢を正し、表情を作る。

 ドアが開き、女子生徒(エキストラ)が入ってくる。

「ふん、所詮は成金の娘ね。育ちが知れますわ」
 私は鏡に向かって髪を整えながら、冷たく言い放つ。
「なんですって!? 先輩こそ、性格ブスはモテませんよーだ! 湊くんは私のものなんだから!」
 アリス(ミナミ)が舌を出し、プイと顔を背ける。

 エキストラの子がビビって、用も足さずに逃げていくのを確認して、私たちは同時に息を吐いた。

「……ふぅ。今の切り替え、大丈夫でした?」
「うん、完璧。……午後もその調子で頼むよ」
「了解っす! 湊くん、グワングワンに振り回してやりますよ!」

 ミナミがガッツポーズをして出て行く。
 その後ろ姿を見送りながら、私は鏡の中の自分を見た。
 少し顔色が悪い。

 脈アリ?
 まさか。
 これは全部、緻密に計算されたシナリオだ。
 湊の反応も、私の行動も、全部台本通り。
 そこに「本物」なんて混じるはずがない。
 ……そう、言い聞かせないと、あいつの視線に耐えられそうになかった。

(つづく)
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