【告白短編集】~どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている~

月下花音

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第3話:深夜のLINEで、君の名前を呼んだ

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午前2時。

私の部屋の明かりは、スマホの液晶画面だけ。

深夜のアルバイト明けで、疲れた体のまま、ベッドに横たわっていた。

スマホを開く。

『陽人』

その名前を見つめる。

メッセージアプリを開くと、昨日の会話が残っていた。

「今日も疲れたね」

「明日も頑張ろう」

「おやすみ」

短い会話。

でも、その一言一言が、仕事でささくれた心を優しく覆っていた。

指が動く。

『好きです』

打つ。

《馬鹿みたい。送ったら終わり》

削除する。

『好きです』

もう一度打つ。

もう一度削除する。

《怖い。でも...》

その時だった。

焦った指が、うっかり通話ボタンに触れてしまった。

画面に『陽人に発信中』という文字。

「え、嘘、やだ、なんで!」

慌てて終了ボタンを押す。

心臓が、ありえないくらい速く脈打つ。

その直後、スマホが震えた。

『電話どうしたの?』

《終わった。気持ち悪いと思われた》

『ごめん、間違えちゃった』

既読。

返信が、ない。

頭の中でピコン、ピコン、と通知音の幻聴がループする。

『そっか』

『でも、実は俺も君の名前呼んでみたかったんだよ』

『だからさ、美優と名前で呼ばせてくれませんか?』

胸が、ぎゅっと締め付けられた。

『俺も、君の名前呼びたい』

返信ができない。

指が、震えて動かない。

スマホが震える。

着信。

『陽人』

応答ボタンをスライドさせる。

「……もしもし」

「美優ですか?」

彼の声。少し緊張している。

「……はい」

「良かった。本当だ」

「え?」

「いや、こっちがさっきから、美優さんの声を聞きたくて。朝からずっと考えてたんです」

その言葉に、涙が溢れた。

「美優。好きです」

シンプルな言葉。

でも、その重さに、全身が揺れた。

「え、あ、その……」

言葉が出ない。

「時間をかけてもいいので。返事は、いつでいいです。ただ、僕は……君のことが好きです」

「あ、あ……」

声が震える。

「私も……陽人さんのことが好きです」

やっと言えた。

電話の向こうで、彼が息を呑む気配がした。

「本当ですか?」

「はい」

通話は続いた。

朝日が差し込むまで。

二人は、何度も互いの名前を呼んだ。

『陽人』

『美優』

その繰り返し。

呼んだ名前の数だけ、私はこれからこの温かい響きを選んでいくのかもしれない。
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