【告白短編集】~どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている~

月下花音

文字の大きさ
4 / 48

第4話:公園のベンチで、君の缶コーヒーを分けた

しおりを挟む
グループ課題が終わり、友人が一人去った後。

僕と沙季だけが公園に取り残された。

気まずい沈黙の中、僕は何か言おうと口を開いた。

「……あのさ、ちょっと休憩してかない?」

沙季は少しだけ驚いた顔で頷いた。

自動販売機に向かった。

沙季が以前「甘いコーヒーが好き」と言っていたことを思い出した。

だから、一番甘そうなカフェオレを一本買う。

ガコン。

重たい音が響いた。

公園のベンチに並んで座る。

沙季がプルタブを開けるのを見守った。

ぷしゅ、という音。

甘い香りが広がる。

「あ、甘っ」

沙季が一口飲んで、驚いたように目を見開いた。

「え、もしかして苦手だった?」

しまった。聞き間違えてたのか…?

「ううん、違う。好きだよ、こういうの。でもいつも私が飲んでるやつより、もっと甘いから、びっくりしちゃった」

そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。

その笑顔に全身の力が抜ける。

「陽人くん、いつもブラックだよね? 無理してない?」

「……バレてた?」

「うん。変な顔して飲んでたから」

くすくすと笑う沙季につられて、僕も苦笑いを浮かべた。

「沙季が甘いの好きって言ってたの、思い出して」

言ってから、はっとする。

これじゃあ、まるでずっと君のことを考えてました、と告白しているようなものじゃないか。

顔にじわじわと熱が集まってくる。

沙季は、一瞬きょとんとした顔で僕を見つめ、それから、ゆっくりと視線を落とした。

缶を両手で包み込むように持ち、その温もりを確かめているように見える。

沈黙。

長い沈黙。

夕陽が彼女の頰をオレンジ色に染めていた。

「……そっか」

やがて聞こえてきたのは、消え入りそうな、でも、どこか嬉しそうな声だった。

「……じゃあ、半分こ、だね。この甘さ」

そう言って顔を上げた彼女の瞳は、夕陽のせいだけじゃない熱を帯びて、潤んでいるように見えた。

彼女は缶を僕に差し出した。

間接キス。

その言葉が脳裏をよぎるより早く、彼女の飲んだ場所に自分の唇を当てた。

温かい。

彼女のぬくもりが、この缶を通じて伝わってくる。

一口飲んだ後、缶を返す。

彼女が受け取った時、指先が触れ合った。

その瞬間、彼女の顔がさらに赤くなった。

「陽人くん」

「え?」

「ずっと、私も君のことを……」

彼女の言葉は最後まで聞こえず。

ただ、彼女の手が僕の手を握り返してくれた。

温かかった。

温かくて、確かだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

心のすきまに【社会人恋愛短編集】

山田森湖
恋愛
仕事に追われる毎日、でも心のすきまに、あの人の存在が忍び込む――。 偶然の出会い、初めての感情、すれ違いのもどかしさ。 大人の社会人恋愛を描いた短編集です。

処理中です...