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第9話:ライバル(同業者)と屈折した嗜好
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『Eternal Lovers』には、絶対的な掟がある。
それは「No.1は常に一人」ということだ。
現在、その座にいるのは私(セナ)だが、足元をすくおうとするハイエナは常にいる。
ある日のデート中。
場所は水族館。薄暗い照明が、カップルの親密度を高める定番スポット。
当然、私は「ON」モード。
完璧なメイクと、清楚なワンピースで武装済みだ。
智也くんも、いつもより少しマシな服(私が前回のアドバイスで「襟付きのシャツがいい」と言ったから)を着ている。
「わあ、クラゲきれい……! 智也くん、見て見て!」
水槽を指差してはしゃぐ。
接触レベル2。肩が触れ合う距離。
智也くんはデレデレだ。「うん、きれいだね……セナちゃんの目のほうが」とか歯の浮くような台詞を小声で吐いている。成長したな、カモよ。
「あら、奇遇ねぇ~?」
背後から、ねっとりとした声がかかった。
振り返ると、そこには露出度の高いドレスを着た女が立っていた。
胸元が大きく開いたトップス。太ももまでスリットの入ったスカート。
香水の匂いがキツい。
アイリだ。
今のランキングNo.2。
私を敵視している同業者。
隣には、脂ぎった中年男性(客)がいるが、そっちは放置して私たちに近づいてくる。
「セナじゃない。今日もお仕事? 偉いわねぇ」
目が笑っていない。
これは宣戦布告だ。
客の前でキャスト同士が絡むのはご法度だが、アイリはルール無用で仕掛けてくるタイプだ。
「アイリさん。……偶然ですね」
私は笑顔を崩さずに応対する。
智也くんがオロオロしている。
「へぇ、この子が今の太客? ……なんか、地味ねぇ」
アイリが智也を上から下まで舐めるように見る。
値踏みする目。
「金なさそう」と判断したのが丸わかりだ。
「でも、若いっていいわよねぇ。……ねえ、君」
アイリが智也の腕に絡みついた。
豊満な胸を押し付ける。
ハニートラップだ。
中年客が「おいおい」と苦笑しているが、アイリは無視。
「セナより、私のほうが楽しいよ? サービスも……もっと濃いこと、してあげる♡」
耳元で囁く。
営業妨害だ。事務所に通報案件だ。
でも、男ならこの誘惑に勝てるやつは少ない。
No.1の清楚系より、No.2のエロ系に流れる客は一定数いる。
智也くんが顔を真っ赤にして固まっている。
腕を引こうとするが、アイリの力(と胸の圧)が強くて抜けない。
「……アイリさん、困ります」
私が介入しようとした時だった。
「け、結構ですっ!!」
智也が叫んだ。
水族館中に響く声で。
アイリがキョトンとする。
「は? なんで? 私のほうがイイ女でしょ?」
「た、確かに綺麗かもしれないけど……!」
智也が私の方を見て、キリッと言った。
「僕は、セナちゃんがいいんです! ……だ、だって、セナちゃんは……ご飯食べる時、一口がデカくて、口の端にタレつけたりして……すごく生命力がある感じがして、可愛いから!!」
…………は?
時が止まった。
アイリも、中年客も、通りすがりの魚も、全員が固まった。
おい。
待て。
今、なんて言った?
「一口がデカい」? 「タレつけてる」?
それ、完全に「セナ(ON)」じゃなくて「雫(OFF)」の話じゃねーか!!
アイリが呆気にとられた顔で私を見る。
「……あんた、そんなキャラだったっけ?」
「ち、違います! これは彼独自のフィルターというか……!」
私は必死で否定する。
冷や汗が止まらない。
No.1のイメージ崩壊の危機だ。
「とにかく! 僕はセナちゃん一筋なんで! 離してください!」
智也がアイリを振り払い、私の手を掴んだ。
「行こう、セナちゃん!」
強引に引っ張られて、その場を離れる。
背後でアイリが「はぁ!? 意味わかんない!」と叫んでいるのが聞こえた。
水槽のトンネルを抜け、人気のないベンチへ。
智也はまだハァハァと息を切らしていた。
「……あんた、バカなの?」
私は小声で怒鳴った。
「あんなこと言ったら、私の営業妨害になるでしょ! 『セナは大食いキャラ』なんて噂広まったらどうすんの!」
「ご、ごめん……とっさに思いつかなくて」
智也がシュンとする。
「でも、嘘じゃないし……。僕、月島さんがカップ麺食べてる時の顔、本当に好きなんだよ。……生きてるって感じで」
……またそれか。
こいつの性癖、歪んでるんじゃないか?
完璧なアイドル・セナより、生活感丸出しの貧乏学生・雫の方が「萌える」ってこと?
理解不能だ。
私の苦労(メイク時間二時間)を否定された気分だ。
でも。
「セナより私を選んだ」という事実だけは、妙に胸に刺さった。
アイリの胸(Fカップ)より、私の食いっぷり(貧乏性)が勝ったのだ。
なんだそれ。
全然嬉しくない勝因だけど……負けるよりはマシか。
「……ふん。変態」
私はそっぽを向いた。
耳が少し熱い気がする。
照明のせいだ。絶対そうだ。
「これからは気をつけてよ。……私のブランドイメージ守ってよね」
「うん、善処します」
智也がニヘラと笑う。
こいつと一緒にいると、調子が狂う。
計算が合わない。
私の損益分岐点は、どこへ行ってしまったんだろう。
まあいい。
とりあえず今日のデート代は確保した。
帰ったら、半額シールのおにぎりを、口いっぱいに頬張ってやる。
それが、私の(そして彼の好きな)スタイルらしいから。
(つづく)
それは「No.1は常に一人」ということだ。
現在、その座にいるのは私(セナ)だが、足元をすくおうとするハイエナは常にいる。
ある日のデート中。
場所は水族館。薄暗い照明が、カップルの親密度を高める定番スポット。
当然、私は「ON」モード。
完璧なメイクと、清楚なワンピースで武装済みだ。
智也くんも、いつもより少しマシな服(私が前回のアドバイスで「襟付きのシャツがいい」と言ったから)を着ている。
「わあ、クラゲきれい……! 智也くん、見て見て!」
水槽を指差してはしゃぐ。
接触レベル2。肩が触れ合う距離。
智也くんはデレデレだ。「うん、きれいだね……セナちゃんの目のほうが」とか歯の浮くような台詞を小声で吐いている。成長したな、カモよ。
「あら、奇遇ねぇ~?」
背後から、ねっとりとした声がかかった。
振り返ると、そこには露出度の高いドレスを着た女が立っていた。
胸元が大きく開いたトップス。太ももまでスリットの入ったスカート。
香水の匂いがキツい。
アイリだ。
今のランキングNo.2。
私を敵視している同業者。
隣には、脂ぎった中年男性(客)がいるが、そっちは放置して私たちに近づいてくる。
「セナじゃない。今日もお仕事? 偉いわねぇ」
目が笑っていない。
これは宣戦布告だ。
客の前でキャスト同士が絡むのはご法度だが、アイリはルール無用で仕掛けてくるタイプだ。
「アイリさん。……偶然ですね」
私は笑顔を崩さずに応対する。
智也くんがオロオロしている。
「へぇ、この子が今の太客? ……なんか、地味ねぇ」
アイリが智也を上から下まで舐めるように見る。
値踏みする目。
「金なさそう」と判断したのが丸わかりだ。
「でも、若いっていいわよねぇ。……ねえ、君」
アイリが智也の腕に絡みついた。
豊満な胸を押し付ける。
ハニートラップだ。
中年客が「おいおい」と苦笑しているが、アイリは無視。
「セナより、私のほうが楽しいよ? サービスも……もっと濃いこと、してあげる♡」
耳元で囁く。
営業妨害だ。事務所に通報案件だ。
でも、男ならこの誘惑に勝てるやつは少ない。
No.1の清楚系より、No.2のエロ系に流れる客は一定数いる。
智也くんが顔を真っ赤にして固まっている。
腕を引こうとするが、アイリの力(と胸の圧)が強くて抜けない。
「……アイリさん、困ります」
私が介入しようとした時だった。
「け、結構ですっ!!」
智也が叫んだ。
水族館中に響く声で。
アイリがキョトンとする。
「は? なんで? 私のほうがイイ女でしょ?」
「た、確かに綺麗かもしれないけど……!」
智也が私の方を見て、キリッと言った。
「僕は、セナちゃんがいいんです! ……だ、だって、セナちゃんは……ご飯食べる時、一口がデカくて、口の端にタレつけたりして……すごく生命力がある感じがして、可愛いから!!」
…………は?
時が止まった。
アイリも、中年客も、通りすがりの魚も、全員が固まった。
おい。
待て。
今、なんて言った?
「一口がデカい」? 「タレつけてる」?
それ、完全に「セナ(ON)」じゃなくて「雫(OFF)」の話じゃねーか!!
アイリが呆気にとられた顔で私を見る。
「……あんた、そんなキャラだったっけ?」
「ち、違います! これは彼独自のフィルターというか……!」
私は必死で否定する。
冷や汗が止まらない。
No.1のイメージ崩壊の危機だ。
「とにかく! 僕はセナちゃん一筋なんで! 離してください!」
智也がアイリを振り払い、私の手を掴んだ。
「行こう、セナちゃん!」
強引に引っ張られて、その場を離れる。
背後でアイリが「はぁ!? 意味わかんない!」と叫んでいるのが聞こえた。
水槽のトンネルを抜け、人気のないベンチへ。
智也はまだハァハァと息を切らしていた。
「……あんた、バカなの?」
私は小声で怒鳴った。
「あんなこと言ったら、私の営業妨害になるでしょ! 『セナは大食いキャラ』なんて噂広まったらどうすんの!」
「ご、ごめん……とっさに思いつかなくて」
智也がシュンとする。
「でも、嘘じゃないし……。僕、月島さんがカップ麺食べてる時の顔、本当に好きなんだよ。……生きてるって感じで」
……またそれか。
こいつの性癖、歪んでるんじゃないか?
完璧なアイドル・セナより、生活感丸出しの貧乏学生・雫の方が「萌える」ってこと?
理解不能だ。
私の苦労(メイク時間二時間)を否定された気分だ。
でも。
「セナより私を選んだ」という事実だけは、妙に胸に刺さった。
アイリの胸(Fカップ)より、私の食いっぷり(貧乏性)が勝ったのだ。
なんだそれ。
全然嬉しくない勝因だけど……負けるよりはマシか。
「……ふん。変態」
私はそっぽを向いた。
耳が少し熱い気がする。
照明のせいだ。絶対そうだ。
「これからは気をつけてよ。……私のブランドイメージ守ってよね」
「うん、善処します」
智也がニヘラと笑う。
こいつと一緒にいると、調子が狂う。
計算が合わない。
私の損益分岐点は、どこへ行ってしまったんだろう。
まあいい。
とりあえず今日のデート代は確保した。
帰ったら、半額シールのおにぎりを、口いっぱいに頬張ってやる。
それが、私の(そして彼の好きな)スタイルらしいから。
(つづく)
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