「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

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第3話

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 翌日。
 大学の講義室は、静寂に包まれてる。
 老教授の眠気を誘う声だけが、BGMのように流れてる。

 だが、僕――柏木優也の脳内は、戦場。

(考えるな。考えるな。無になれ。僕は石だ。道端の石ころだ)

 必死の自己暗示。
 なぜなら、僕の斜め前、距離にして約3メートル地点に、一ノ瀬こころが座ってるから。
 彼女の背中は、いつもより強張ってるように見える。
 時折、ビクッと肩が震えるのは、僕の雑念が漏れてるせいだろうか。

 昨日の実験で判明した「同期範囲」は半径5メートル。
 この席配置は、完全に射程圏内。
 僕が少しでもエッチなことや、彼女への好意を考えれば、即座に彼女の脳内にブロードキャストされる。

 拷問か。
 これは何のプレイだ。

(よし、真面目に授業を聞こう。ハイデガーの存在論について……)

 必死に黒板の文字を追う。
 でも、人間の脳って不思議なもので、「考えるな」と言われるほど、そのことを考えてしまう。
 「ピンクの象を想像しないでください」と言われたら、ピンクの象しか浮かばなくなるように。

 僕の視線が、無意識に一ノ瀬さんのうなじに吸い寄せられる。
 白い。
 滑らか。
 後れ毛が一本、首筋にかかってるのが、なんとも艶めかしい。

(……あ、やばい)

 思考の防波堤が決壊する音。

(あー、あのうなじに噛みつきたい)
(吸血鬼になって、あの白い肌に赤い痕を残したい)
(「痛い……優也、やめて」って涙目で言われたい)

 ドガッ!!

 突然、教室に爆音が響く。
 一ノ瀬さんが、机を蹴り飛ばして立ち上がった。
 椅子が派手に倒れる。

「ひっ……!」

 顔を真っ赤にして、口元を押さえてる。
 教室中の視線が彼女に集まる。
 教授がチョークを止めて振り返る。

「い、一ノ瀬くん? どうしたのかね?」

「す、すみません……! 虫が……!」

 苦し紛れの嘘をついて、そのまま教室を飛び出していく。
 走り去る際、僕の方を睨みつけた目は、殺意と羞恥で潤んでた。

(……ごめんなさい)

 心の中で土下座。
 でも、同時に思ってしまう。
 あんなに取り乱す「氷の女神」、可愛すぎるだろ、と。

     
 放課後。
 僕は校舎裏に呼び出された。
 もちろん、一ノ瀬さんに。

「……死刑」

 腕組みをして、仁王立ち。
 夕日が逆光になって、神々しいまでの迫力。

「弁解の余地もありません」

「あんたねえ! 授業中に何考えてんのよ! 『噛みつきたい』って何!? 吸血鬼!?」

「いや、あれは比喩表現というか、文学的アプローチで……」

「どこが文学よ! ただの変態よ!」

 一ノ瀬さんが詰め寄ってくる。
 近い。
 いい匂い。

(うわ、怒ってる顔も美人だなあ)
(この至近距離で見下されるの、ゾクゾクする)
(もっと罵ってほしいかも)

「ッ……!」

 言葉を詰まらせて、後ずさる。
 顔がボンッと音を立てて赤くなる。

「き、聞こえてるって言ってるでしょ……!」

「あ、すみません。つい」

「『つい』じゃないわよ! ……なんなのよ、あんた」

 へなへなとその場にしゃがみ込む。
 両手で顔を覆う。

「なんで……そんなに、私のことばっかり考えてるのよ」

 その声は、怒りよりも、困惑の色が強い。

「気持ち悪いとか、思わないんですか?」

 恐る恐る聞いてみる。

「……気持ち悪いわよ。変態だし、むっつりだし」

 一ノ瀬さんが指の隙間から僕を見る。

「でも……嘘がないのは、わかるから」

 え?

「あんたの妄想、全部……私への『好き』で埋め尽くされてるから。……嫌な気は、しない」

 最後の言葉は、蚊の鳴くような声。
 でも、僕の耳には(そして脳には)、ハッキリと届いた。

(……え、それって)
(脈ありってこと?)
(今すぐ抱きしめてもいいってこと?)

「調子に乗るな!」

 一ノ瀬さんが立ち上がって、僕の脛を蹴る。
 本日2回目。

「いい? これは呪いなの。不可抗力なの。勘違いしないでよね!」

 ツンデレの教科書のようなセリフ。
 でも、その耳はやっぱり赤い。

「……とりあえず、この呪いが解けるまでは、私のそばにいなさい」

「え?」

「離れてると、いつ変なこと考えてるかわからないから。……監視するのよ」

 監視。
 それはつまり、ずっと一緒にいるってこと?

(やったー! 一ノ瀬さんと公認ストーカー関係になれる!)

「言い方!」

 叫ぶ。
 夕暮れの校舎裏に、僕たちの奇妙な「共鳴生活」の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。

(第3話 完)

第3話完 次話へ続く
次回、まさかの書店デート!? 「監視」という名目で、休日に二人で出かけることに。でも、そこには思わぬハプニングが……!
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