「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

文字の大きさ
5 / 18

第5話

しおりを挟む
 その異変は、唐突に訪れた。
 月曜日の昼休み。
 学食の喧騒の中で、僕は一ノ瀬こころと向かい合ってランチを食べてた。
 メニューはカツカレー(僕)と、サラダうどん(一ノ瀬さん)。

「……あんた、またカツカレー? カロリーの化け物ね」

「男は黙ってカツカレーです。勝利への渇望です」

「何に勝つつもりよ」

 そんな他愛もない会話。
 周りから見れば、美男美女(自称)のカップルランチ。
 でも、僕の脳内は相変わらず平常運転。

(あー、一ノ瀬さんがうどんをすする唇、セクシーだなあ)
(あのうどんになりたい。そして彼女の食道を通って……)

「ブッ!」

 一ノ瀬さんがうどんを吹き出しそうになる。
 睨まれる。
 ごめんなさい。

 その時。

「……うどんになりたい?」

 隣の席に座ってた男子学生が、不思議そうな顔で呟いた。

「え?」

 固まる。
 今、彼は何と言った?

「なんか今、頭の中に『うどんになりたい』って声が聞こえたんだけど……」

 男子学生が友人に話しかけてる。
 友人も首を傾げる。

「俺も聞こえた。『食道を通って』とか。……誰だ? 腹話術か?」

 サーッと血の気が引いていく。
 聞こえてる。
 一ノ瀬さんだけじゃない。
 赤の他人にも、僕の妄想が漏れてる!?

(嘘だろ……!?)
(範囲が拡大した? それとも出力が上がった?)
(やばい、やばい! このままだと僕の性癖が全校生徒にバレる!)

「……柏木くん!」

 一ノ瀬さんが鋭い声で呼ぶ。
 彼女も気づいたらしい。
 顔色が悪い。

「逃げるわよ」

「えっ」

「ここにいたら、あんたが社会的に死ぬわ。……早く!」

 僕の手を掴んで、立ち上がる。
 トレーを片付ける暇もない。
 僕たちは学食を飛び出して、全力で走った。

     

 たどり着いたのは、誰もいない旧校舎の屋上。
 息を切らせて、フェンスにもたれかかる。

「はあ、はあ……」

「……どうなってるのよ」

 一ノ瀬さんが汗を拭いながら言う。

「あんたの妄想、拡散してるじゃない。Wi-Fiルーターか何か?」

「知りませんよ! 僕だって被害者です!」

「被害者は周りの人たちよ! あんな変態妄想聞かされて!」

 ごもっとも。
 頭を抱える。
 もう終わり。
 明日から大学に行けない。
 「うどんになりたい男」として伝説になってしまう。

「……もう、死のうかな」

 本気でそう思う。
 太宰治も言ってた。「恥の多い生涯を送って来ました」と。
 僕の生涯は恥しかない。

「バカなこと言わないで」

 一ノ瀬さんが、僕の頬を両手で挟む。
 ムギュッ。
 強制的に顔を上げさせられる。

「死ぬなら、この呪いを解いてからにして」

「……一ノ瀬さん」

「それに」

 少し視線を逸らして、頬を染める。

「……あんたの妄想、私だけのものじゃなかったの?」

 え?

「他の人に聞かれるの……なんか、嫌なんだけど」

 ドクン。
 心臓が跳ねる。
 それって、独占欲?
 嫉妬?

(一ノ瀬さん……)

「……聞こえてるわよ」

 ため息をついて、そして少しだけ笑う。

「あんたが私を好きなのはわかったから。……責任、取りなさいよ」

「責任?」

「私のこと、一生楽しませる覚悟があるなら……守ってあげる」

 顔が近づいてくる。
 逆光の中で、その瞳だけが強く輝いてる。

「他の人には聞かせない。あんたの変態妄想は、私が全部受け止めてあげるから」

 それは、実質的なプロポーズ(と僕は解釈した)。
 あるいは、終身刑の宣告か。
 どちらにせよ、僕に拒否権はない。

「……はい。お願いします」

 彼女の手を握り返す。
 その瞬間、頭の中のノイズがふっと消えた気がした。

 呪いはまだ解けてない。
 でも、この「共犯関係」がある限り、僕は生きていける。
 そう確信した瞬間。

(第5話 完)

第5話完 次話へ続く
次回、呪いの原因判明!? 古本屋の老婆が語る衝撃の真実。そして二人は「真実の愛」を証明するために、ある試練に挑むことに……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...